第233話 王家との婚約って実は…。

「オ…オリヴァー…にいさま…」


目頭がどんどん熱くなっていき、兄様の顔がぼんやりと霞んでくる。するとオリヴァー兄様は私の手を両手で包み込み、強い口調で言い放った。


「大丈夫だよエレノア!たとえ殿下方が君の婚約者に加わったって、筆頭婚約者の座は渡さないから!!」


「……へ…?」


兄様の言葉に、再び間の抜けた声が口から零れ、ついでに目からもポロリと涙が零れ落ちた。


「そうなんだよね…。この万年番狂いがよくぞ、エレノアを公妃にするのを承諾したなーって思ったけど、ただ『婚約者に加わる』事を認めただけなんだって。有り得なくない?一応僕達王族なんだけど?」


物凄く不満顔のフィンレーに対し、オリヴァーはフン、と鼻を鳴らした。


「フィンレー殿下。僕がエレノアを手放すなどということ自体、この世界が滅んだとしても有り得ませんよ。寧ろ婚約者として認めただけでも、感謝して頂きたいものですね!」


鼻息荒く、そう宣言するオリヴァー兄様の顔は、フィンレー殿下以上に渋面で、「心の底から不満です」って、全身で物語っていた。


「うっわ…。不敬の極み!誰かこの万年番狂い、捕縛してくんないかな?」


「それよりもお前達。そろそろ私に話をさせてくれないかな?」


「「…………」」


静かに圧を放って二人を黙らせた陛下は、まだ状況を理解出来ずにオロオロしている私に対し、目元を優しく緩ませた。


「実はね、前々から君の婚約者に我々の息子達を加えるよう、王家から打診はしていたんだ。普通、高位貴族の娘は、婚約者や恋人を、通常の女性達よりも多く持つ。それは不逞な輩や悪意から守る意味もあるんだよ」


そういえば父様、以前「本当ならもう何人か、エレノアには婚約者か恋人をつけたいんだけど」って言っていたけど、それはそういう意味があったからなのか。


「エレノア嬢。君の存在価値は、多分君が思っているよりも大きい。だから王家が囲う事により、君を守ろうという思惑もあったんだ。…まあ、本当の事を言えば、最初は公妃に…と思ったんだよ。だがそれをすると、ボスワース辺境伯の反乱なんて目じゃないぐらいの騒動が起こる事は目に見えていたからね」


そう言って苦笑する国王陛下。…はい、それに関しては私も思い切り同意します。


まず、オリヴァー兄様が発狂するだろうし、勿論クライヴ兄様もセドリックも激怒するだろう。何より、父様方がマジ切れする。グラント父様なんて、使い魔ポチにブレスを吐かせかねない。…うん、間違いなくアルバ王国が焦土と化す。


そう心の中で納得していたエレノアは知らない。王家が『公妃』を諦める最後の決め手となったのが、「兄様方と離されるぐらいなら、廃嫡して平民になる!」と啖呵を切った、自分の発言にあるという事を。


「あ…でもそうすると、殿下方のどなたかと婚約…という事になるのですか?」


「いや。全員とだけど?」


――え!?それって、不味くないですかね?!一人二人ならともかく、全員って…。それってもう、強制的に『公妃』まっしぐら案件なのでは…?


「ふふ…。安心しなさい。そこら辺はちゃんと考えているからね」


え?一体何を考えていらっしゃるのでしょうか?それになんか国王陛下のその笑顔、黒く感じてしまうんですけど。


「…それに、君が公妃にならないよう。婚約者を限定したりなんかしたら、この馬鹿どもが『廃嫡してくれ!』と喚いてウザいからな…」


あっ、国王陛下!めっちゃ笑顔なのに、背後から暗黒オーラが噴き上がっております!ああっ!王弟殿下方の背後からも!!アシュル殿下方、思いっきり目を逸らしていますけど、貴方がた、本当にそんな事言っちゃったんですか!?

…ん?あれ?ディーさんの顔色がめっちゃ悪いけど、言い出しっぺはひょっとして貴方だったりします?

(後に、リアムが最初に言い出し、それを馬鹿正直にディーさんがデーヴィス王弟殿下に言ってしまったという事が判明した)


「エレノア、僕も最初はオリヴァー達同様、君を殿下方の婚約者にするのは大反対していたんだよ。君を奪われてしまうのも勿論だけど、何より陛下方が僕と親戚になるなんて、悪夢以外のなにものでもないし!」


「おい…」「ちょっと待て、コラ!」と、王家側のあちこちから声が上がり、ワイアット宰相様が「あの婿オリヴァーにしてこの義父ありだな…。不敬極まる」と呟くのを丸無視し、父様は話を続ける。


「でも君が『公妃』にならず、王家に取られる心配が無いのなら、それもありかな?って思うようになってね。そうこうしているうちに、ボスワース辺境伯の一件が起こった。…オリヴァー達には悪いけど、僕にとっての最優先事項は、エレノアの身の安全なんだよ」


先程の冷静さが一転、いつもの父様が、困った様な顔をしてこちらを見ている。その姿は、今にも主人に怒られそうになってオドオドしているワンコの様だった。

でも兄様方もセドリックも、父様の気持ちは理解しているのか、その事に対して抗議の声は上がらなかった。


…というより寧ろ、兄様方やセドリックも、父様と同じ事を考えたからこそ、殿下方を私の婚約者にする事を決めたのかもしれない。


気持ちや力技だけでは、どうしても解決出来ない事がある。…その事実が、今回の一件で嫌でも分かってしまったから…。


「勿論、エレノアの気持ちが一番大切だから、この婚約を強要させる気は僕達にも陛下方にも全く無いんだ。…でも、いつ何時、同様の事が起こるか分からない今、オリヴァーの決断を、僕もメルもグラントも支持する」


「そーそー!王家がエレノア独占するっていうんならキレてたけどよ!そういう話なら、俺らもやぶさかでないよな!それに、良い女エレノアに野郎共が群がるのは世の常ってヤツだし!まぁ、言っちまえば砂糖にたかるアリだな!」


グラント父様!砂糖にたかるアリって…。あっ!陛下や王弟殿下方の殺意がグラント父様に!!いや、別にアシュル殿下方の事を言った訳ではないと思いますよ?!


「その通りだね。そもそも、愛する女性にどれだけ多くの夫がいたとしても、自分の魅力で妻の寵愛を勝ち取れば良いだけの話だし。…まぁねぇ…。その自信が無いって言うのなら、ごねるのも仕方がないだろうけど」


途端、オリヴァー兄様とクライヴ兄様、そしてなんとセドリックまでもが、揃って暗黒オーラを噴き上げた。しかもよく見てみれば、全員額に青筋浮かんでますよ!


「…父上…。口に大怪我すれば良かったものを…!」


「はっはっは、どうしたオリヴァー?私は別に、お前達の事だとは、一言も言ってはいないんだけどねぇ?」


「オリヴァー兄上…。パトリック様にお願いして、父上の傷を逆行させて頂く事は可能でしょうか?」


「ふむ、セドリック。私に対してそのような口を利く様になるとは…。お前も成長したものだな」


「メル父さん…。息子弄って成長具合確かめんなよ…」


おおぅ…オリヴァー兄様!久々に実の父に対する殺意がスパークしておりますよ!しかもセドリックまで!

そしてメル父様。息子に殺意向けられて面白がるって、貴方Mなんですか!?享楽主義も大概にして下さい!!義娘はクライヴ兄様のツッコミに全面賛成です!!




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オリヴァー兄様、安定の万年番狂いでした。

そして、父様方も安定の父様方ですv

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