第230話 王家からの招集
あのエプロン騒動の後、エレノアの体力が回復し、皆でバッシュ公爵邸に帰ったタイミングを見計らったかのように、国王であるアイゼイアから、エレノアとオリヴァー達婚約者に対し、招集がかかったのである。
普段、ロイヤルファミリーは、割とフリーダムに自分の周囲に出没している。(王宮にいる間はだが)何気にそれに慣れてしまった為、急に改まってのお呼び出しに、エレノアは物凄く動揺した。
「オ、オリヴァー兄様、どうしましょう!私、何かしてしまったのでしょうか!?はっ!や、やはり王族に看病をさせてしまったのがいけなかったとか…。そ、それとも、フリフリエプロンに歓んでしまったからでしょうか!?」
「落ち着きなさいエレノア。そんな馬鹿な理由で王宮に招集される訳がないだろう?それに、もし
何気にフリフリエプロン事件(?)をディスりながら、エレノアを宥めるオリヴァーだが、その眉間にはくっきりと深い皺が寄っていた。
「オリヴァー兄様…?」
不安そうな顔を向けるエレノアに、オリヴァーは表情を和らげ、安心させるように唇に軽く口付ける。
「大丈夫だよ。多分だけど、今回の事件の関係者達の処遇が決まったから、その報告を兼ねて僕達を招集したんだろう。…尤も、それも建前かもしれないけど…」
そう言って、再び表情を険しくしたオリヴァーに戸惑い、エレノアはクライヴとセドリックの方へと目を向ける。だが何故か二人ともが無言のまま、オリヴァー同様険しい表情を浮かべるのみだった。
◇◇◇◇
「よくぞ参った。エレノア・バッシュ公爵令嬢。そして、オリヴァー・クロス伯爵令息、セドリック・クロス伯爵令息、そしてクライヴ・オルセン子爵令息。皆、大儀である」
「勿体なきお言葉。エレノア・バッシュ。国王陛下のお召しにより、只今参上いたしました」
そう言うと、エレノアはアイゼイア達に向け、最上位の相手に対して行うカーテシーを披露し、オリヴァー達も次々と、貴族の礼を取る。
…うん。本当なら、この場で代表して挨拶するのはオリヴァー兄様の方が様になるのだが、身分的には私が一番上なので、私が代表してのご挨拶です。
ううう…。し、しかしこの最上位へのカーテシー、最近筋トレしていないから、地味に膝と腰にクるわー。
通されたのは謁見の間ではなく、本来王族しか使用する事の出来ないサロンだった。
中央に置かれた豪奢な椅子に座すのは、この国の国王であるアイゼイア。そしてその左右に配置された椅子には、国王を支える王弟達が座っている。
更にその後方には、彼らの息子であるアシュル、ディラン、フィンレー、リアムが椅子には座らず、立ったままの状態で控えていた。彼等もいつもの気さくさは鳴りを潜め、厳格な王族としての顔を貼り付けている。
ちなみにこの場には聖女様はいらっしゃらない。マリア母様が体調を崩したとの事で、そちらの治療に向かわれたのだそうだ。
なんでも、お腹の子の魔力がかなり強いらしく、母様、珍しくつわりのような症状を発症しているみたいなのだ。いわゆる、魔力酔いみたいなものなんだって。
…で、あんまり関係ないんだけど…。
本日の私のドレスですが、いつもは頑なに自分達の色を身に着けさせようとするオリヴァー兄様達が何も口出ししなかった為、季節に合わせた淡い萌黄色のプリンセスラインのドレスを身に着けている。
髪型も服装に合わせ、サイドを花のコサージュとリボンで編み込み、他は背中に流している。そしてオリヴァー兄様とセドリックのみならず、クライヴ兄様もいつもの執事服ではなく、貴族の正装を身に着けているのだ。
「まずは全員着席せよ。話はそれからだ」
国王陛下の許しを得て、各々が侍従に勧められた席に着座する。当然と言うか、王族であるアシュル達はエレノア達よりも国王陛下に近い位置に座っている。
つまり構図としては、エレノアやオリヴァー達は、王族と対面するような格好で座っているのだ。
玉座の前で対面するよりは遥かにマシであろうが、この緊張感漂う雰囲気もあって、エレノアはついつい前世の三者面談を思い出し、胃がちょっぴり痛くなった。
『そ、それにしても…。眩しいっ!!』
エレノアは思わず心の中でそう呟き、目を細めた。
『パプアニューギニアの極楽鳥の頂点…もとい、選ばれしDNAの頂点達が勢揃いですよ!?顔面破壊力のキラキラしいオーラが、容赦なく目潰し攻撃を喰らわせてくるんですが!?』
幸い皆、厳格な表情と態度ゆえに、キラキラオーラが半減している。けれど出来れば、100m程距離を取りたい…!と、エレノアは切にそう思った。
「失礼致します」
顔面偏差値に耐え、目潰し攻撃と戦っていたエレノアは、声のした方向に顔を向ける。すると、宰相のギデオン・ワイアットと、宰相補佐官でありエレノアの実父である、アイザックが入室してくるのが見えた。
アイザックはチラリとエレノアと目を合わせた時、一瞬だけ眉根をへにょりと八の字にすると、小さく拳をグッと握り締めて見せた。その様はまるで「頑張って!負けないでね!?」と言っているようだ。
――有難う父様。私、頑張ります!
父の激励に、エレノアも膝の上に置いた手をグッと握り締め、小さく頷き返した。
だが今回は彼らだけではなく、続けて何故か、メルヴィルとグラントも入室して来たのだった。
グラントと目が合うと、親指を立て、実に良い笑顔を向けられた。…相変わらずブレない。
そしてメルヴィルにも笑顔でヒラヒラ手を振られ、思わず自分も手を振り返しそうになったエレノアは、隣に座るオリヴァーの咳払いに、慌てて上げかけた手を引っ込めた。
「…さて、これで全員揃ったな。ワイアット、人払いを」
「は…」
アイゼイアの一言に、宰相が侍従や護衛騎士達に視線を向けると、皆深々と一礼した後、音もなくその場から立ち去って行く。
彼等が完全に部屋から居なくなったのを確認すると、すかさずメルヴィルが宙でサッと手を払った。
「防御結界と防音結界、張り終えました」
「うむ。…さて、エレノア嬢?形式張った所作はここまでだ。少し肩の力を抜くといい」
そう言うと、アイゼイアが先程までの厳格な態度や表情を脱ぎ捨て、自分に対して見せている、いつもの穏やかな微笑を浮かべた。
それと同時に、王弟達やアシュル達の雰囲気や表情も、先程までと違い、いつもの穏やかなものへと変わっていく。
「ふぐっ!」
その途端、抑えられていた極楽鳥ビックウェーブが、ブワッと津波の様に押し寄せて来て、エレノアの口から思わず変な声が漏れてしまった。
「…陛下…。ここで雰囲気緩めてどうするんです!」
そんなロイヤルズの態度に、厳格そうな表情のまま眉根を寄せたワイアットに対し、アイゼイアはヒラヒラと手を振った。
「まあ、そう言うなワイアット。これから話す内容が堅苦しい分、態度だけでも緩めてやらねば、エレノア嬢が可哀想だろう?なぁ、エレノア嬢」
選ばれしDNAの頂点に微笑まれ、エレノアの脳天がパーンと噴火し、ついでにメンタルが崩壊した。
――いやーっ!!止めて!8人揃ってこっち向かって微笑まないでっ!!キラキラしい人外レベルの顔面偏差値がっ!美貌という名の凶器が私を襲う!!…め、目が…目がぁっ!!
や…
「…なんか寧ろ、今の方がエレノア嬢、キツそうなんですが…」
真っ赤になって、涙目でプルプル震えているエレノアを見ながら、ワイアットが汗を流す。
そしてそんなエレノアを見ながら「ああ…可愛い!」「癒される!」とばかりに、更に笑顔を深めるロイヤルズ。それに対し、「いーから、さっさとその笑顔、引っ込めろ!!」と、エレノアのメンタルを救わんとばかりに、ロイヤルズにガンを飛ばしまくる、不敬の極みなオリヴァー、クライヴ、セドリック…と、場は相変わらずのカオスな空間と化した。
そんなカオスをものともせず。…というより、せめて自分だけでも…と思ったのかどうか定かではないが、ワイアットが咳ばらいを一つ落とし、厳格な表情のまま、再び唇を開いた。
「さて、本日皆に集まってもらったのは他でもない。ブランシュ・ボスワースの犯した犯罪及び、それに加担した者達の取り調べが終了した。…そして、彼らへ下す罰も同時に決まった。その事を玉座の御前にて、貴族達全員に伝える前に、直接関わった
その言葉を聞いた途端、我に返ったエレノアは表情を強張らせ、握る手に力を込めた。
ワイアットは、そんなエレノアに少しだけ柔らかい視線を寄越した後、やや後方に控えていたアイザックへと視線を移す。
その視線に応える様に、軽く頭を下げたアイザックが唇を開いた。
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相変わらず、カオスな現場からお伝えします<(_ _)>
そしてエレノアですが、鼻血を噴かずに堪えている分、「成長したね」と褒めてやって頂けると幸いですv
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