第231話 処罰の行方と提案
「まず、この騒動の切っ掛けを作った、グロリス伯爵家は取り潰しが決まった。そして彼らの企みに加担した者達の生家も、同様に取り潰される。前グロリス伯爵であるバートン・グロリス及び、現当主であるアーネスト・グロリスは、ユリアナ領の最北端にある鉱山にて、生涯に渡る強制労働が課せられる事となった。当然、彼らに殉じた者達も同様に強制労働が課せられる。そして、彼らに近しい親族は全て、平民へと落とされる」
アイザックは淡々と、自分の身内であるグロリス伯爵家の取り潰しと罰則について述べていく。その口調にも表情にも、一切の揺らぎは見られなかった。
後で聞いた話によれば、バートンがその決定に猛抗議を行った際、「僕の大切な家族を傷付けておいて、よくもまぁ…。いいでしょう。では、炙り殺されるか強制労働か…。好きな方を選ばせて差し上げましょうか…」と、アイザックに冷たい表情で言い放たれ、真っ青になって震えあがっていたそうだ。
更に、バートンに付いた親族達に対しても、同様な態度でバッサリ切り捨てたとの事である。
「…本当は、問答無用で消し炭にしてやろうとしたんだけど、ワイアット宰相に止められちゃってね…」と、後に酒の席で愚痴るアイザックの姿があったそうな。
「さて。彼らの企みに加担した者の中に、ノウマン公爵家のご令嬢である、レイラ・ノウマンが加わっていた。…彼女は計画の実行役では無かったが、ノウマン公爵家の別荘がブランシュ・ボスワースとケイレブ・ミラーの逃走の隠れ蓑に使われる切っ掛けを作った。よって、彼女は公爵家から廃嫡された後、この国で最も規律の厳しいパドゥーラ修道院にて、生涯幽閉の身となる」
――レイラ・ノウマン公爵令嬢。
エレノアの脳裏に、豪奢な金色の髪をした、いかにも高位貴族といった美しい容姿の少女の姿が浮かんだ。
話によれば、彼女はずっと執着していたクライヴ兄様を手に入れようと、お爺様達の仲間になったのだそうだ。しかも一切の反省も見られなかった為、今現在は政治犯の入る牢獄に収監されているとの事だった。
というか、クライヴ兄様の話によれば、私が連れ去られたあの館こそが、そのノウマン公爵家の別荘で、『何かあった時の隠れ家の一つ』とする為、ケイレブがレイラ嬢を誘惑し、あの別荘に連れて行かせたのだそうだ。
そういえば、以前フィン様が「空間移動は、一度でも行った事がある所でないと繋げられない」って言っていたっけ。
…それにしても、流石は高位貴族の肉食女子。クライヴ兄様を自分のものにする為にお爺様の策に乗ったっていうのに、好みの美形だからって、ほいほい遊ぶなよ!本命がいるくせによくやるわ。
『でも、仮にも四大公爵家のご令嬢が、廃嫡されて修道院行きなんて…』
いくら罪を犯したとはいえ女性を投獄するなど、余程の事が無い限り行われないのが普通だ。
…だが彼女は下手をすれば、内乱が引き起こされるかもしれなかった重大事件に関わってしまったのだ。本来であるなら『国家反逆者』の烙印を押され、処刑されたとしても不思議では無い。
…そう。国家反逆罪は、例えそれが子供であろうが女性であろうが、処刑対象となってしまう程の重罪だ。
四大公爵家のご令嬢だけあって、かなり高飛車で尊大な女性だったし、私からクライヴ兄様を横取りしようと画策した人だけど、強制労働とか、ましてや死罪とかにならなくて良かったと、心から思う。
『修道院で己の罪と向き合って、今後の人生を、少しでも心穏やかに過ごせればいいのだけど…』
心の中で、そう呟いたエレノアは知らない。
パドゥーラ修道院とは、以前リアムを暴行したイライア・ペレス伯爵令嬢も送られた、重罪を犯した女性が送られる、修道院と言う名の監獄である。
アルバ王国の最南端にある、周囲を海に囲まれた絶壁の孤島に建てられたその修道院には、周囲に王国最高峰の防御結界が施され、いかなる者の侵入も、脱獄も不可能としている。
それでも脱走を試みた者達は全て、王家直轄の調教師達により、密かに放たれた魔獣によって命を落とす事となるのだ。
彼女達は必要最低限の衣食住を保証され、普通に暮らす分には何ら不自由の無い生活を送れる。…が、羽根を切られた鳥のごとくに行動は制限され、親しい者達と生涯会う事無く、一生を鳥籠で過ごす事となるのだ。
最も心から反省をし、悔い改めた者は、王家による厳重な審査を経て修道院を訪れる男性達に妻わされ、世俗に戻る事もある。だが、それはあくまで稀なケースである。
なにせ彼女らは、今迄何不自由なく周囲から愛し守られ、望めばなんでも叶えられる生活を送ってきたのだ。そんな彼女らが、我が身を振り返って反省する確率など、限りなく無いに等しいに違いない。
「ノウマン公爵家は、レイラ・ノウマンの犯した罪により、侯爵へと降格される。また、現当主であるリオ・ノウマンは、嫡男であるカミール・ノウマンが王立学院を卒業した後、彼に爵位を譲り、隠居する事が決まった」
四大公爵家の一柱を辞し、侯爵家への降格。そして自身が表舞台から身を引く。…多分だがそれが、レイラの命を救う為にノウマン公爵が下した決断なのだろう。
「そして今回、最も重い罪を犯した、ブランシュ・ボスワース。…彼は突如として覚醒した『魔眼』に支配され、腹心の部下だった男に操られ、国家の中枢を担う者達や王族に対し、牙を剥いた。…そして彼らを苦しめる為に、私の娘である、エレノア・バッシュ公爵令嬢を人質に取り、ユリアナ領へと逃走を図った」
…実際の所は、ブランシュ・ボスワースが、エレノアへ抱いた愛情と執着心ゆえに、己の『魔眼』に精神を蝕まれ、暴走し、自滅の道へとひた走った…というのが真実である。
だが、その真実をそのまま世間に知らせる事は出来ない。
そうすれば必ず、ユリアナ領への猜疑心と、謂れのない差別を生み出してしまうだろう。しかもそれだけではなく、エレノアへの謂れなき中傷をも生み出す事になりかねないのだ。それ故、王家とその側近達は、ケイレブの虚実の証言を利用し、真実を脚色する事を決めたのである。
「既に鬼籍に入っている事から、ボスワース家の辺境伯としての地位剥奪及び、『ブランシュ・ボスワース』という存在の抹消が決まった。そして、今回の騒動の主犯であるケイレブ・ミラー。…彼は近日、処刑される。ただし、公開ではなく、秘密裏にこの王宮内で刑は執行される予定だ」
「処刑…」
エレノアが、ポツリと呟く。
分かっていた事だが、実際にそれを言葉にされると、心が重くなってしまう。…だが、国家反逆とも言える重大事件を犯したのだ。寧ろ公開処刑にされなかった事が奇跡とも言える。
「ご苦労だった、アイザック。…さて、以上の事は、招集した臣下一同と貴族達に周知させる。…ブランシュ・ボスワースが暴走した真実は、そのまま流布させる訳にはいかない。その為、多少の脚色を加えさせた。だが、それをより強固な『真実』として周知徹底させる為に、エレノア嬢に協力して頂く必要がある」
「私…ですか?」
アイゼイアは軽く頷くと、一呼吸置いた後、ゆっくりと口を開いた。
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アイザック父様、ブチ切れておりました(まあ、当然ですね)
そして国王陛下あの提案とは…?
ちなみに、パドゥーラ修道院とは、現実にある有名な修道院の名前です。
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