第570話 会いたかった!

「次にくるライトノベル大賞2024」の投票締め切られましたね!

投票してくださった方々、そして温かいお言葉をくださった方々、本当に有難う御座いました!!


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詳細は活動報告ににて。興味のある方は、是非どうぞ!!



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『……え~っと……?』


今現在、私はアシュル様の胸元にスッポリ抱き抱えられております。


先程まで、クライヴ兄様に頭部鷲掴みの刑に処せられていた私ですが、フッと頭の痛みがなくなったと思ったら、いい香りのする温かい胸元に抱き込まれておりました。


『なにごと!?ってか、誰!?』ってプチパニックを起こしていたら、「やっと仕事終わった……」って、甘やかなバリトンボイスが頭上から聞こえてきました。はい、アシュル様でした。


「アシュル!?お前、どこから出てきた!?」


あ、クライヴ兄様の焦り声。それに対してリアムが「この部屋、あちこちに隠し扉があるんだよ」と説明している。


へぇ……そうなんだ。……でもさ、なんでプライベートルームにあちこち隠し扉作らなくてはならないの?


「それはね、歴代の王家直系達が、公妃をいかに効率よく独占するかに心血を注いだ結果だよ。……ああ……。そんな事より、なんて癒されるんだ!!」


はぁ、そうなんですか。……ってか、私の顔も見ずに正確に私の疑問に答えるアシュル様は今、確実にオリヴァー兄様と同じ高みに昇った!というか王家直系あるある、凄いな!


私の身体をギュムギュム抱き締め、頭や頬にキスをしまくりながら、「あれ?なんか焦げ臭い……?」なんて言葉が聞こえてきたりもしますが、アシュル様は私を離す気はないもよう。


でも今のところ、さっきのディーさんのように唇への濃厚なキスはなし。どうやらそういうスキンシップよりも、全身で私という存在を堪能したいようだ。


実はアシュル様。この一ヵ月の間、ちょくちょく定期的に私の前に現れてはいたんだけど、笑顔で挨拶を交わす程度で、キスはおろか、こういったスキンシップもしてこなかったのだ。

たぶんそれって『求婚者』としての立場上、プライベートスペース以外でうっかりやらかさないように自制していたんだろう。


それに以前、クライヴ兄様が「アシュル曰く、『うっかり暴走しかねない連中を、有無を言わせず抑え込むには、自分自身を律するのが一番効果的だからね』……だそうだ」……って仰っていましたしね。

アシュル様、貴方本当に、王太子の鑑ですよ!!


まあ、時折「辛い……」と漏らしたり、「いいよね君達は。帰ったら癒しが手の届くところにいるんだから」と、クライヴ兄様やセドリックに愚痴をこぼしておられたみたいですが。


ちなみにクライヴ兄様やセドリック、リアム達は、そんなアシュル様を止めるでもなく、遠巻きにしながら、やや憐れみのこもった眼差しを向けているもよう。


私もこの一か月間頑張ったアシュル様を激励すべく、キュッとアシュル様の身体に抱き着く。そして胸元からアシュル様を見上げて、しっかりと目を合わせた(勿論、腹筋と鼻腔内毛細血管に力を込めてから)。


「アシュル様、本当にお疲れさまでした!」


そう言って微笑むと、アシュル様は透き通るようなアクアマリンブルーの瞳を大きく見開いた後、まるで百花が咲き誇ったような極上の笑顔を浮かべた(くっ!!)。


「エレノア……!」


「んんっ!」


その一瞬後、アシュル様の顔がドアップになり、ゼロ距離に……。つまり、口付けられました。流石は王太子殿下。まさかの早業!!そ……そして、ディーさん以上に濃厚かつスペシャルなテクが暴風雨のように私を襲う!!


……あ……あれ?……な、なんか……頭の中に綺麗なお花畑が見え……。


「ちょっと待て!!アシュル!!」


「兄貴!ストップ!!エルが召されかけてる!!」


クライヴ兄様とディーさんの慌てた声と共に、アシュル様からベリッと引き離された瞬間、脳内がクリアになってお花畑が消えた。え!?わ、私、召されかけていたんですか!?お、恐るべし王家直系!!


「アシュル兄上、しっかりしてください!なんの為に、オリヴァー・クロスとフィン兄上の前に兄上がきたんですか!?あの二人の盾となる為でしょう!?その兄上がエレノアを撃沈させかけるなんて、本末転倒もいいところです!!」


「う、うん。ごめんリアム。ついつい、理性が……」


撃沈って……。リアム、あんた言葉のチョイス間違っていませんか?


仁王立ちでアシュル様に怒っているリアム。そして、溺愛する末っ子に怒られ、モゴモゴしているアシュル様。

その非常に珍しく、かつ目に優しく癒される光景にほっこりしてしていると、ドアがノックされる音が聞こえてきた。


「殿下方、ご歓談(?)中失礼致します。オリヴァー・クロス伯爵令息がこちらにお見えになっております」


「「「「「!!」」」」」


『オリヴァー兄様!?』


途端、その場の空気がピリリと引き締まる。つ、遂にこの日が……!!


私を含め、この部屋にいる全ての人達が緊張の面持ちで扉を凝視している中、「失礼します」との懐かしい声と共に、オリヴァー兄様が入ってきた。


そうして、いの一番に私を目にしたオリヴァー兄様は、少しだけやつれてはいるものの、相変わらずの絶世の美貌に、アシュル様ばりの極上な笑顔を浮かべた。


「エレノア……!」


「――ッ!」


一か月間、一度も聞く事が出来なかったオリヴァー兄様の声。そしてその姿を目にした瞬間目頭が熱くなってしまう。


「……ッ!……オ、オリヴァー兄様!!」


私は考えるよりも先にオリヴァー兄様に駆け寄ると、その胸に飛び込んだ。


「……兄様!オリヴァー兄様!!会いたかった!!」


「エ、エレノア……?」


突然の私の行動に、驚いた様な声が聞こえてくる。が、私は湧き上がってくる気持ちのまま、オリヴァー兄様にしがみつくように抱き着いた。


思えばこの世界に『エレノア』として覚醒して以降、こんなに長い間オリヴァー兄様と離れていた時なんてなかった。


――私は……。自分が思っていた以上に寂しかったんだろう。


そんな私の思いが伝わったのだろう。戸惑っていたオリヴァー兄様の腕が、抱き潰さないギリギリの力で私の身体を抱き締める。


「エレノア……!ああ、僕のエレノア!!僕も君に会いたかったよ!!会いたくて会いたくて……気が狂いそうだった!!愛しいエレノア。僕に君の愛らしい顔を見せておくれ?」


「オリヴァー兄様……!」


感極まったオリヴァー兄様の声に顔を上げると、少し潤んだ黒曜石のような瞳が、私を優しく見つめていた。


「エレノア……」


兄様は涙の滲んだ私の目尻に唇を寄せた後、ゆっくりと唇を重ねた。


「ん……」


私という存在を確認するような……そして味わい尽くそうとするように、重なった口付けが深くなっていく。それを羞恥を上回る幸福感で受け止める。


「ああ。やっぱりエレノアにとって、オリヴァーの奴は特別なんだよな」


「オリヴァー兄上って、エレノアの方から迫られると、途端に落ち着くんですよね……」


「……少し……いや、かなり妬けるけど、大惨事にならなくて良かったかな」


「うん、流石はエル。これぞまさに、『攻撃は最大の防御』ってやつだな!」


「ディラン兄上、それちょっと違うんじゃ……。羨ましいけど、まぁ……。大暴走されてエレノアが鼻血出すよりマシだよな」


私達の背後で、クライヴ兄様、セドリック、アシュル様、ディーさん、リアムの順でなにか言っている。

要約すると、『感極まったオリヴァーの猛攻でエレノアが失血死しなくて良かった』って事ですか。


いや確かに私、オリヴァー兄様の本気の攻撃にめっぽう弱いですけど、そんな失血死を心配される程やわでは……。


「んんっ!?」


「エレノア?今は僕にだけ集中して……?」


うぉぉ……っ!!い、いきなりオ、オリヴァー兄様のテクが炸裂しだした!!い、いやっ!ちょっ……あ……!ま、まって!さ、流石にこれ以上は……!!


「おい!オリヴァー!」


オリヴァー兄様の暴走の気配を察し、クライヴ兄様が止めようと動き出したその時だった。身体になにかが巻き付いた気配を感じた。


『ん!?』


次の瞬間、私の身体はスッポーンとオリヴァー兄様の腕の中から引っこ抜かれた。はい、文字通り引っこ抜かれたんです!


「エレノア!!久し振り!会いたかったよ!!」


「フ、フィン様!?」


なにが起こったのかと呆気にとられ、ふよふよと宙に浮かんでいる私を嬉しそうに見上げていたのは、こちらもお久し振りのフィン様でした。


相変わらず、夜空に冴え渡る月光のような凛とした美貌が目に染みわたる。というか、こころなし表情も姿勢も凛々しくなったような気がする。


「フィン様……!お元気そうでなによりです!!」


やはり一ヵ月ぶりという事もあり、懐かしさと嬉しさが胸にこみあげてくる。フィン様もそんな私を見上げながら、嬉しそうに目を細めた。


ついでに「あんた、いきなり現れてなにしやがる!!さっさとエレノア返せ!!」と、暗黒オーラを噴き上げながら、クライヴ兄様に羽交い絞めにされているオリヴァー兄様の姿が目に入り、冷汗を流す。


『それにしても……』


長年引き籠り生活を続けていたフィン様が、騎士団に放り込まれてしごかれていると聞いた時は真面目に心配したんだけれども、流石は王家直系。立派に生き延びたご様子。ホッとしました。


そんな感じで、ふよふよと浮きながらホッコリしていると、フィン様は物凄く嬉しそうな表情を浮かべる。


「うん、エレノア!僕も最初は死ぬかもと思ったけど、コレの為に頑張ったんだ!!」


そう言いながら、フィン様はご自身が羽織っている魔導師団のローブに手をかけた。……んん?


「ほら見て!僕の腹筋、割れたんだよ!!」


バッと広げたローブの中身は……。見事なシックスパックをたたえた半裸だった。


「――ッ!!!?うっきゃぁぁぁぁーーっ!!!」


その誇らしげに晒された見事な腹筋……もとい、半裸をまともに目にしてしまい、悲鳴と共にボフンと顔から火が噴いた。と同時に、私の鼻腔内毛細血管はあえなく決壊したのだった。


「エレノア、腹筋好きでしょ?ほら、もっとよく見てよ!」


「うわぁあっ!!エレノアッ!!フィンレー殿下!!あんた、とっととソレ仕舞えっ!!」


「フィン―!!おま、お前と言う奴はっ!!いきなりなにやってんだー!!?というか、早くエレノアを下ろせっ!!」


宙に浮いたままの状態でグッタリしてしまった私を見て、オリヴァー兄様とアシュル様が大慌てしながら、フィン様を罵倒している。セドリックとリアムもオロオロしながら「エレノア!!しっかり!!」「傷は浅いぞ!!」と声をかけてくる。……ううん、駄目だよ……。がっつり致命傷だよ。


そんな中、武闘派のディーさんとクライヴ兄様はというと、「仕上がりはまだまだだが、確かに良い感じに割れたな!」「フィンレー殿下、ずっと自分だけ腹筋割れてないの気にしてましたから……。よっぽど嬉しかったんでしょうね」って、しみじみしている。


……いえ、嬉しかったのは分かります。分かるんだけれども、喜びの表現が圧倒的に間違っています。


そしてフィン様。済みません、一言よろしいでしょうか?


「お巡りさん……。変態です」



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感動の再会も吹っ飛ばす、フィン様の「ほ~らv」で御座いましたw

フィン様……ヴァンドーム公爵家と思考が似てきているような気が?

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