第346話 親友の名に恥じぬよう
「……マテオ。それはひょっとして、俺と兄上がエレノアの正式な婚約者になった事に対しての
「えっ!?い、いえっ!ちがっ!そ、そうではなくて……!!」
リアムの氷点下の眼差しを向けられ、青くなったり赤くなったりしているマテオを、私は目を丸くしながら見つめていた。
あ、さっきの言葉って、やっぱり嫌味だったんだ。……って、ええっ!?あ、あのリアム命のマテオが!?私に嫌味を言うのならばともかく……。ど、どうしちゃったの、一体!?
――その時、私の脳裏に天啓のように何かが閃いた。マテオ……貴方、ひょっとして……!
「マテオ……私、分かったよ!」
「え!?」
「貴方、リアムを愛し過ぎた果てに、ツンデレのツンが炸裂しちゃったんだね!?」
「……はぁっ!?」
「え?つんでれ……の、つん?」
先程まで言い合っていたマテオとリアムが私の発言を受け、「何言ってんだ?こいつ」という顔をしながら、私の方へと顔を向けた。特にマテオがクライヴ兄様ばりに胡乱な眼差しを向けてくる。
「私とリアムが正式に婚約者になっちゃったから、私に対してよりも、リアムに恨み節が炸裂しちゃったんだよね?」
「……え?」
目を丸くするマテオに対し、私は微笑みを浮かべながら、コクリと頷いた。いいんだよ、マテオ。私には貴方の気持ち、分かっているから。
「だから無意識に、大好きだったリアムに対し、辛辣な言葉をぶつけてしまった……。そうなんでしょう?」
ひたむきに抱き続けた愛が報われない時……愛は憎しみへと形を変える……。まさしく昼メロ『奥様愛の劇場』の王道ストーリーだ。
「ごめんねマテオ。そんな貴方に対して、なんて言っていいのか分からないけど……。でもね、こうなったからには私、頑張るから!ずっとリアムを好きだったマテオに認めてもらえるような、立派な婚約者になるから!」
今迄報われない想いをひたむきにリアムへと捧げてきた親友に向かい、私はそう力強く言い切ったのだった。
エレノアが斜め明後日方向の自説を展開しているのを間近で見ながら、マテオは思い切り混乱していた。
――……こいつの言葉と思考が理解出来ない……。
マテオは曇りなき眼をキラキラさせているエレノアに頭痛を覚えつつも、この微妙な空気と王族への
「……ッ……あ、当たり前だ!それぐらいの覚悟を持たずしてなんとする!?いいか!これからも私はリアム殿下とお前の傍で、未熟者のお前を監視してやるからな!?私の親友を名乗っていたかったら、精々私を越えられるように励むがいい!!」
「うん、分かった!有難うマテオ!」
堂々と、上から目線の出歯亀宣言をされたにもかかわらず、その発言に力一杯頷くエレノアを見て、マテオが思わず「大丈夫か、こいつ……?」と、心の中で呟きながら汗を流した。
うん。こいつ、本当に心配だ。やはり私が傍で見守っていてやらなくては……!
そしてそんな二人を見ながら、リアムとディランも汗を流していた。
「……えーっと。つまりはマテオの嫉妬が俺に向かったって事か?」
「どうやらそのようだな。遂にこいつも自覚したかと焦ったぜ……。ところで『つんでれ』って何だ?」
「さあ?……というかディラン兄上!エレノア、俺達の婚約者として頑張るって言ったよな!?」
「――ッ!ああ、そういや言ってた!エルがそんな事を言ってくれるなんて……!マテオ、お前の嫉妬、グッジョブだぜ!!」
リアムとディランは頬を染めながら、一転して感謝の眼差しをマテオへと向けた。
「……クライヴ兄上。なんか殿下方が幸せそうで、思い切り複雑ですけど、マテオとエレノアって、男と女という性別を乗り越えた素晴らしい友情を育んでいますね!」
「……ソウダナ」
言葉の通り、複雑そうに感動しているセドリックに対し、エレノアのオカンポジであるクライヴは一人、「違う……。多分これ、全然違ってる」と心の中で呟いていた。
なんか凄く良い流れっぽいけど、これ絶対エレノアの斜め明後日な思考が、たまたまいい仕事をしただけに違いない。そう、たとえば王宮でのアシュルとの会話のような。
ちなみに横にいるヒューバードをチラリと見てみれば、思い切り生温かい笑顔を浮かべながら、エレノアと
「……まあ、ここで「それ違うだろ」なんて騒ぎ立てるのも無粋だからな……」
幸い、マテオもまだ辛うじて無自覚状態だったし、あの
なんて事を考えていたら、突然聖女アリアの震えるような声が上がった。
「エ、エレノアちゃん!?バスケットの……苺が!」
「えっ!?」
見れば、先程までにこやかに微笑んでいた筈のアリアが、怯えた様子でサイドテーブルに置かれていたバスケットを指さしているではないか。
エレノアを含んだ全員が、一斉にバスケットに注目する。
すると何故か、先程まで山盛りになっていた筈の苺が滅茶苦茶減っていた。しかもその苺の一つが不気味に蠢き、シャクシャクと咀嚼するような小さな音が聞こえてくるではないか。
「ま、まさか……!?」
何かを察したように、エレノアがバスケットに手を突っ込むと、アリアの悲鳴が上がった。
「――ッ!?エレノアちゃん!ダメよ!危険だわ!!」
アリアの静止を無視し、エレノアは動いている苺をそっと摘まむと、徐に裏返した。
……果たしてそこには、一心不乱に苺に齧り付いている、果物廃のダンジョン妖精ワーズの姿が……。
「やっぱり、あんたかーい!!ってか、一体いつの間にこの中にいたのよ!?」
『うむ!果物を探していたら、美味そうな苺があったのでな。だが、そのまま齧っていたら、お前達にすぐ見付かって、取り上げられてしまう。だから、下の方から食べていたのだ!』
見付かっても、苺を齧るのを止めずにドヤ顔をキメるワーズに対し、エレノアの眉間にビキリと青筋が立った。
「あんた、姑息すぎ!!ってか、盗み食いしてたのに、何でそんな偉そうに胸を張ってんの!?」
そんなエレノアとワーズのやり取りを見ていたアリアの身体がブルブルと震え出す。
一人と一匹がそれに気が付き、「アリアさん?」『何だ?どうした女よ』と首を傾げた次の瞬間、絹を裂くような悲鳴がアリアの口から迸った。
「きゃああぁっ!!いやーっ!やっぱり虫ー!!」
「聖女様!!」
「母上!!」
「お袋!?」
アリアの悲鳴に、唖然としていたその場の全員が、弾かれたように自分の獲物(刀&剣&暗器)を構える。
が、それと同時に、バーンとタイミングバッチリに扉が勢いよく開け放たれた。
「悲鳴が!エレノア!?エレノアは無事かっ!?」
「エレノアお嬢様!!」
だが、飛び込んで来たのは控えていた護衛騎士達……ではなく、エレノア廃ガチ勢の二人組であった。
その後方からは、「おい、悲鳴上げたの聖女様だろ!?」「お前らどんだけ!?」とでも言いたげな、胡乱な表情の騎士達が続けて入って来る。
「オリヴァー……」
「イーサン……」
そして、彼らを見たその場の男達も同じく、獲物を構えたままの状態で「こいつら、どんだけ……」と、心の中で呟いたのだった。
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ディーさん、リアム。ツンデレって貴方がたのお母さんの事ですvと一言。
そして果物廃妖精ワーズですが、フリーズドライじゃなかったら苺汁ブシャーで、齧った瞬間バレてましたね。
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