第479話 転生者としての知識

今月の15日、4巻発売です(^O^)

発売まで、いよいよあと二日となりました!皆様、宜しくお願い致します!



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……今現在、このサロンはヴァンドーム公爵様の想像を絶するカミングアウトに、空気が非常に微妙になってしまっております。


あ、でも公爵様、「今では本当に相思相愛だから!」と再三仰っておりました。


どうやら公爵様、ショックやら葛藤やらを色々と経た結果、最終的には息子達ですらドン引く程のオシドリ夫婦となったようです。


そりゃそうですよね。そうじゃなかったら、五人もお子さん作りませんって。


そういえばアーウィン様が、「母を見たら、きっと驚くよ」と含み笑いしながら仰っていたけど、一体どう驚くのだろうか。非常に気になります。





「さあどうぞ。エレノア嬢もお腹が空いているだろうと思って、色々と用意してみたよ」


――おおおっ!!


仕切り直しとして、私達はひとまずお茶をする事となった。


ヴァンドーム公爵様は老執事に命じ、お茶とお菓子だけではなく、食事系のサンドイッチやシーフードタルト等も山のように用意してくれた。あ、勿論お菓子のティースタンドも盛り盛り状態です。ブラボー!!


「さあ、遠慮せずに食べたまえ。そしてオルセン子爵令息」


「はい、なにか?」


「君もだよ。いつまでもそこに立っていないで座りなさい」


「あ……。いえ、私は……」


まさか自分が声をかけられるとは思っていなかったクライヴ兄様は、公爵様の言葉に珍しく戸惑いの表情を浮かべた。


「君がエレノア嬢の専従執事だという事は知っている。だがそれ以前に君は、エレノア嬢の婚約者だろう?我々も、そのつもりで君をここに招いたのだ。ホストである私が認めているのだから、君はなんら気兼ねする事などないんだよ」


「……有難う御座います。それでは失礼して……」


暫し考えた後、クライヴ兄様は公爵様の勧めに従い、私達が座っているソファーのすぐ横に腰かけた。


「エレノア。食うのはほどほどにしておけよ?オリヴァーとセドリックも、エレノアに際限なく食わそうとすんじゃねぇぞ!?」


その際、しっかり私達に釘を刺すのを忘れない兄様。流石は我らが長兄、オカン属性が今日も冴え渡っております。


「エレノア嬢。このシーフードタルトは、貝が特別ふんだんに使われている、我が家のシェフご自慢の得意料理なんだ。さ、どんどん遠慮なく食べてくれ」


極上の笑顔を浮かべながら、アーウィン様が勧めてくれた皿に盛られたタルトを見れば、オレンジ色をしたぷりっぷりな肉厚の貝が、ホワイトソースからこんにちはしている。しかも、まだホカホカと湯気が立っていて、凄く美味しそうだ。


そういえば私、てるノアになった時に「貝ウマー!」ってやっていたから、貝好きだって思われているんだろうな。ええ、実際大好物ですけど。


というより、海鮮は全部好きだ!タコだって、今目の前に丸茹でを出されたとしても、美味しく頂く自信がある!!


「あ、有難う御座います!頂きます!」


顔を赤くさせながら、差し出された皿に手を伸ばそうとすると、横から素早く、オリヴァー兄様が手を伸ばしてタルトを摘まんだ。


「うん、確かに美味しそうだね。さ、エレノア。食べさせてあげるから口を開けて?ほら、あーん♡」


――きゃーっ!!ににに、兄様ーーッ!!


オリヴァー兄様は蕩けそうな極上の笑顔を浮かべながら、ボフンと真っ赤になって、わたわたしている私の口元にタルトを持ってくる。


すると、ヴァンドーム公爵家御一行様の方から、息を呑むような音や、「おおっ!」「恥じらってるぞ!」「なんてこった!」……等といった声が上がる。


しかもその後、鋭い視線が次々とぶっ刺さってきて、その恥ずかしさといたたまれなさに、脳が沸騰して顔が茹でタコ状態になってしまう。

するとまたしても、息を呑むような音が聞こえた後、物凄い熱量がこもった視線が注がれるという……。なんなんですか、この負のスパイラルは!?


けれど、兄様は輝く笑顔を浮かべつつ、顔を真っ赤にした私の唇に「問答無用!」とばかりにタルトを突っ込む。


「んむっ!」


条件反射でサクッ、もぐもぐと口に含んだタルトはアーウィン様の仰った通り、貝の出汁がたっぷり効いたクリームが滅茶苦茶美味しい。まるで濃厚なクラムチャウダーを食べているような、極上の味わいだ。


「エレノア嬢。こちらの一口サイズのバゲットはいかがですか?貴女は海鮮がお好きだと、兄とベティから聞いていたので、先程私とディルクとで、張り切って獲って来たのですよ」


そう言って、クリフォード様がクールビューティーな微笑みを浮かべながら(そして何故か、その頬はほんのりと赤く染まっている)勧めてきたのは、これまたカニやエビを特製ソースに絡めたものを乗っけた、小さなバゲットだった。


……って、ええっ!?ディルク様はともかくクリフォード様って、どう見てもインドアな知性派っぽいのに、自分で海鮮獲っちゃうんですか!?さ、流石は海を統べる一族!そうは見えなくても、しっかり海の男なんですね!?


ってか、その表情といい行動力といい、見事なギャップ萌えです!有難う御座います!!


「有難う御座います。お二方のご尽力のおかげで、僕の最愛の婚約者に極上の海鮮を食べさせることが出来ます。ねえ、エレノア?」


そう言いながら、すかさずバゲットを手に取ると、ギャップ萌えに顔を真っ赤にしていた私の口に、ポイッと放り込むセドリック。それを見て、笑顔のまま青筋を立てるクリフォード様とディルク様。


そして、一連のやり取りを興味深そうに見学しているヴァンドーム公爵様とシーヴァー様。ジト目でこちらを……というより、オリヴァー兄様とセドリックを睨み付けているベネディクト君……と、静かなカオスが展開していく。


ちなみにクライヴ兄様はというと、ヴァンドーム公爵家御一行様への対応はオリヴァー兄様とセドリックに任せ、自分は次々と料理を胃袋に入れていた。


兄様、どうやらお腹が空いていたようだ。そうですね、腹が減っては戦は出来ぬですよね。分かります。


うう……でもいいなぁ。私もこの美味しい料理を、もっと心穏やかに堪能したいです!





そんなこんなで、オリヴァー兄様とセドリックに甲斐甲斐しく餌付けされ、心はともかく腹は満たされてきた頃、公爵様が紅茶のカップをソーサーに置いて足を組む。そして、穏やかだった表情を真剣なものへと一変させた。


そのピリッとした空気に、兄様達の表情にも緊張が走る。


「さて、エレノア嬢。実は、このような強引な手法でもって君を我が領内に招いたのには、訳があってね」


「訳……ですか?」


「ああ。正直言って、今現在八方塞がりな状態だ。ゆえに、君の『転生者』としての知識を借りたい」


「私の『転生者』としての知識を……?」


真剣な眼差しを向ける公爵様に、一体どういうことなのかと首を傾げる。


「……異変が起こったのは、一ヵ月程前の事だ。各地の漁場から、魚の大量死が報告され始めた」


「魚の……。それは、なにかの病気が発生したという事でしょうか?」


もしそうだとしたら、私に魚が罹る病気の知識は無いから、協力したくても出来ないけど。


「いや。『鑑定』持ちの部下が調査に当たったところ、魚の死因は病気ではなかった。しかも、その殆どに外傷が見られなかったんだ」


「閣下。ひょっとしてそれらの原因は、魔力干渉の類なのでは?」


オリヴァー兄様の言葉に対し、公爵様は静かに顔を横に振った。


「我々もそう思い、妻が精霊の力で調べたのだが、どこにも魔力干渉や魔力汚染の痕跡は見受けられず……。念の為に、妻と息子達で領海内の浄化を行った……が、一時改善はするものの、すぐに同じような魚の大量死が起こってしまうんだ」


公爵様と、アーウィン様方の表情が曇る。


うーん……。病気でもなく、魔力干渉や魔力汚染の痕跡もない。浄化は一時的に効果があるだけ……。確かにこれは八方塞がり状態だ。オリヴァー兄様の表情も険しくなっている。


「なので妻は、常に精霊の力をこの領海内全域に広げ、被害が拡大するのをなんとか防いでいる状態だ。魔物がこの海域に出没してしまったのも、妻の力が弱まり、聖域の結界が緩んでいたからだろう。……もし、セイレーン……先代様がご存命でいらしたのなら、きっと解決法が得られたのだろうが……」


話によれば、奥方様のお父上である大精霊セイレーンは、その名と力を奥方様に継承した後、奥方様のお母様……この方は人間だったそうなんだけど、その方の亡骸が眠る深海へと赴き、その傍らで永遠の眠りについたのだそうだ。


なんでも精霊には寿命が無い為、自分自身で『終末』の時期を決めるのだそうだ。

公爵様が言うには、多分だけど自分の愛する娘が伴侶と子を得た事で安心し、最愛の妻の元に逝く事にしたのだろう……との事だった。


まあ、そんなこんなで、奥方様のお力だけでは現状維持が精一杯で、王家や父様方(この場合、メル父様)も、公爵様が派閥内にいる裏切り者を追い詰めようとしている現状では、迂闊に動く事が出来なかったのだとか。


唯一、国内の自然災害や流行病等で飛び回っているアリアさんが、視察を兼ねてヴァンドーム公爵領に来た時、浄化に力を貸してくれたそうなんだけど、そもそも聖女の『力』の系統は、精霊と同じ『聖魔力』なので、やはり解決には至らなかったのだそうだ。


にしても、領内がそんな状況だったというのに、ヴァンドーム公爵家の誰もが、そういった悲壮感をおくびにも出していなかったのは、きっと領民達に不安感を与えない為と……。内外に弱みを見せない為だったのだろう。流石は『裏王家』と言われる、三大公爵家の一柱だ。


「まあそんなわけで、正直お手上げ状態だったのだが、エレノア嬢が『転生者』ではないかとの疑惑が浮上した時、ふと思ったのだよ。我々とは違う、異界の知識を持つ『転生者』であるのなら、ひょっとして我々の考えが及ばぬ視点から、解決策を探し得るのではないか……とね」


えっ!?いやいや!いくら『転生者』だからって、私自身は専門知識なんてない、ごく普通の一般人ですよ!?……まあ、雑学については、割と広く浅く持っていますけど……。


「だが我が家は、生憎そちら側に『帝国側』ではないかと疑われていたし、ましてや貴公らが、掌中の珠として溺愛するエレノア嬢の事を『転生者』であると認める訳がない。……ゆえに、申し訳ないが騙し討ちという形を取らせて頂いた」


あ、それが苔ノア誘拐に繋がったんですね。


「尤もまさか、苔一つで釣れるとは思ってもみなかったが……。数日観察していて納得したよ。あれはいいな。見ていて非常に癒される」


そう言った後、公爵様はクライヴ兄様の膝の上にある苔ノアにチラリと目をやる。

そしてその後、オリヴァー兄様の方へと目をやった。


「……やはり、譲ってもらうわけには……」


「いきません!諦めて下さい!!」


あっ!公爵様が舌打ちした!というか公爵様!このシリアスな流れで、シレっと苔ノアに話を持って行かないで下さい!


……にしても、自分で言うのもなんだけど、そんなに癒されるのだろうか、これ。……うん。確かに能天気そうな顔して笑っているな。


自分の顔だから正直複雑だけれど、疲れた心には効きそうではあるね。



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実際ここ数日の間、ヴァンドーム一家の心を大いに潤してくれていた苔ノアでした。

次回更新は、4巻発売日に合わせて15日となりますので、宜しくお願い致します!

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