第478話 それって逆ナン……?

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その後、兄様はヴァンドーム公爵家御一行様に、私が転生者として覚醒してからの話を語って聞かせた。


当然、その説明の中で、リアム達が私と婚約した事はしっかり端折っていたけど……多分というか、目の前の人達には絶対バレているよね。


で、説明している過程で分かった事なんだけど、ヴァンドーム公爵家は、帝国が密かに行ってきた『異世界召喚』の事を知っていた。


そして、例のリンチャウ国の人身売買についても、自分の派閥の中から関係者が出なかった事を逆に疑問視し、動きを慎重に調べていたのだそうだ。


ヴァンドーム公爵様曰く「真っ先にそういった悪事に手を染めそうな輩が潔白なんて、逆に黒幕に近いと自ら暴露しているようなものだ」だそうです。


で、公爵様方が最も怪しいと睨んだのが、キーラ様の生家であるウェリントン侯爵家で、だからこそキーラ様とベネディクト君を婚約させ、動向を見極めていたとのこと。


「ふむ……。それにしても、『こぼれ種』か……。帝国が低俗で下種な連中だという事は知っていたが、救いようのない愚か者でもあったようだな……」


でも『こぼれ種』の事は初耳だったようで、各国の『転生者』や『転移者』を『こぼれ種』として強奪したり、私の事も『こぼれ種転生者』として狙っているという事実を知るや、公爵様は笑顔のまま、背後から凄まじい暗黒オーラを噴きあげた。


そして気が付けば、アーウィン様方も一斉にどす黒いオーラを噴き上げている!す、凄い魔力量と迫力だ!真面目に怖い!!


でも、そうだよね。女性を殊の外大切にするアルバ王国の男性達にとって、女性を道具扱いする帝国のやり方や考え方って、まさに鬼門。許されざる大悪なのだろう。

ヴァンドーム公爵家が、家門の膿を徹底的に出そうと決意したのも、リンチャウ国の人身売買組織が露呈したのが切っ掛けだったそうだから。


「成程。帝国が何故ここにきて、あのような行動を取ったのか理解した。そして私達に対し、貴公らがあれ程までに頑なだった理由も……な」


『あのような行動……』


公爵様が仰っているのは、例の『聖女様襲撃事件』についてだろう。


ヴァンドーム公爵家と王家って、実は互いに情報共有しているみたいだけど、身内に裏切り者を抱えている(かもしれない)ヴァンドーム公爵家に、私が『転生者』だって伝える事は出来なかったんだね。


「そうですね。だからこそあのように分かり易く、ディラン殿下とフィンレー殿下が領内に滞在されていたのですね」


公爵様の言葉に追従した次男のクリフォード様が、片眼鏡モノクルの奥の目を眇める。


――は!?なんでフィン様までこっちにいるの!?


あ、兄様方やセドリックも驚いた顔をしている。……オリヴァー兄様は驚き顔というより、あからさまに渋面だけど。


ってか、クリフォード様の言い方だと、全く忍んでいないご様子。……ひょっとしてディーさん、牽制の意味も込めて、フィン様無理矢理連れ出して遊び惚けているんじゃないでしょうね!?


「エレノア嬢!僭越ながら、私も帝国の魔の手から貴女を御守り致します!!」


ベネディクト君が、物凄く真剣な声でそう宣言するが、オリヴァー兄様に速攻で「お申し出は心より感謝致しますが、生憎手は足りてます」とバッサリやられてむっすりしていた。……な、なんか『ザ!年下の男の子』って感じで凄く可愛い!


『うん、有難うベネディクト君!君の気持ちは有難く頂いておくよ!』


私はベネディクト君に力一杯頷くと、感謝の気持ちを込め、笑いかけた。


するとベネディクト君が顔を真っ赤にして俯いてしまう。……ええ、当然私の顔も真っ赤に茹りましたとも。


『ヒッ!』


途端、背後からブリザードのような凄まじい冷気が!!


ク、クライヴ兄様!違います!これはその……!感謝の気持ちがアオハル的攻撃となって、打ち返された結果と申しましょうか!


「あ、あのっ!ヴァンドーム公爵様。奥方様とは、どのようにお知り合いになられたのですか!?」


私はクライヴ兄様の怒りを逸らすのと同時に、「次はそちらだ!」とばかりに、『セイレーン』の末裔だという奥方様について尋ねてみた。


案の定、背後から吹き付けていた冷気が霧散する。そうですよね、兄様もやっぱり興味ありましたよね!?


「ふむ……。聞きたいのかね?」


「は、はい!」


そりゃあそうですよ!だって、リアル人魚姫ですよ!?


というか、奥方様ご病気だという事ですが、やはり普段は海の中で生活しているから、人前に出てこないんですかね?


オリヴァー兄様もセドリックも、「興味ありません」って顔して、雰囲気がなんとなくソワソワしているし。


「そうだな。君達には全て話そうか」


「ち、父上!?」


「えっ!?話しちゃうの!?」


あれ?なんかクリフォード様やディルク様が慌てている。アーウィン様とシーヴァー様は……な、なんか遠い目になっているんですが。


「こちらの手の内を全て晒してこそ信頼関係は得られる。それに、これがエレノア嬢への詫びになるのであれば、安いものだ」


「父上……」


え?あれ?こ、これって、まさかのシリアスな展開!?


あ、ベネディクト君が、父親や兄達の態度を不思議そうに見ている。どうやら彼だけは両親の馴れ初めを知らなかったらしい。


「……あれは私が成人したての頃……」


あ、唐突に始まった!

ふむふむ。成人したてって事は、十五歳くらいの時ですね。


「海で泳いでいたら、突然物凄い力で海底に引きずり込まれてね……。で、気が付いたら、『聖域』として海の精霊を奉っている海底神殿の中で何故か寝かされていて、傍に妻がいた。……互いに一糸纏わぬ姿で」


ふむふむ……って、え!?


「何が何だか分からず、動揺していた私に向かい、妻は一言『責任を取れ』と……」


……えーっと……。


「今まで生きてきた中で、あれ程の衝撃は無かったな。……いや、その後で妻がセイレーンの末裔と聞いた時の方が衝撃が大きかったか」


…………。


「で、その後。私の父に、妻からの求婚について説明したら、『我がヴァンドーム家の守護神様に手を出すとは何事かー!!死んで詫びろ!!』と追い掛け回された。必死に事の成り行きを説明したら、頭を抱えておられたが……」


そ、そりゃあそうですよ!だって公爵様ってば、その時十五歳の少年ですよね!?奥方様、なにやってんですか!?


「そして妻の父親……大精霊様だが、父と共に海底神殿に赴き、『人間の身にとって過ぎたる栄誉』と、祠に向かって伴侶になる事をお断りするや、その場に顕現され、『うちの娘のどこが不満だ!?』と激怒されてな。挙句、領内の海が大しけに……。あの時は散々だったな」


……えっと。これって、公爵様に惚れていた奥方様が、公爵様を逆ナン(?)した挙句、モンペの父親(大精霊様)が出てきて、結婚を強制された……って事で合ってますかね?


「……とまあ、なんだかんだと色々あったが、今は私と妻とは相思相愛だし、こうして子宝にも恵まれたからね。うん、この上もない幸せを頂いているよ」


あっ!公爵様!笑顔だけど、目に光がなくなっていますよ!?ご子息様方も、なんか笑顔が生温かい!ついでに兄様達も、なんと言っていいか分からないような顔になっている!た、確かにこれ、何を言ったらいいのか分からなくて困るよね。

ベネディクト君は……。あっ!両手で真っ赤になった顔を覆って俯いている!……強く生きてね!


「オリヴァー兄様。大精霊に見染められるって、栄誉な事なんですか?」ってこっそり聞いたら、「うん、まあ……。それだけ魂が清廉だという証明になるからね」との事でした。


でもだったら、なんでそのまま事実を公表しなかったんだろう?


「エレノア嬢。先程も説明したが、私は一応、『男性血統至上主義』を掲げる派閥の長だからね」


ああ、成程。不穏分子を監視する為には、あちら側・・・・を装う必要がありますもんね。


「その通り。それに『平民娘を溺愛するあまり、妻にして囲い込む愚かな大貴族の跡取り息子』とした方が領民ウケも良く、妻の事も隠せる」


ついでに、味方の中の不穏分子も炙り出せると……。公爵様、転んでもただでは起きませんね!でもさっきから、私の心の中を読んで会話してませんか!?


それにしても、『人魚姫』の物語、この世界では逆ナンだったか……。前世の人魚姫と違って、ガッツあるなー。


「因みにですが、奥方様が公爵様を見染められたのって、何時頃だったのでしょうか?」


「私が魔力制御に成功し、海底神殿に初めて詣でた頃だから……五歳ぐらいの時かな?」


「ご……っ!?」


そ、そんな幼い時から目を付けてたって、ひょっとしたら奥方様、ストー●ー……!?


「ちなみに、彼女の年齢は三びゃ……いや、まあその……。少々私より年上だった……な」


奥方様ーーっ!!


この世界、精霊女子も肉食系だった!!



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公爵閣下。実は涙なしでは語れぬ、不憫(?)な過去があったもよう|д゜)

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