第477話 精霊の祝福……?

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「……閣下。僭越ながら、ご子息様の身体的特徴について、私個人の見解を述べる事をお許し願えないでしょうか?」


ヴァンドーム公爵様が言葉を切った絶妙のタイミングで、オリヴァー兄様が慇懃に言葉を挟んだ。

本来ならば不敬に当たるんだけど(今更感が凄いが)、その事に眉を顰めることなく、公爵様は鷹揚に頷いた。


「いいだろう。話したまえ、クロス伯爵令息」


「有難う御座います。……ご子息のベネディクト様の『耳』……あれはもしや、『精霊の祝福』を授かっていらっしゃるのではないでしょうか?」


――『精霊の祝福』!?


『えっと、それって精霊や妖精とか、聖なる力を持った存在が、自分のお気に入りに対して『祝福』を授けるってアレかな?』


当然というか、この知識も精霊図鑑からです。


「このヴァンドーム公爵領は、代々海の大精霊の守護により、繁栄と平和を享受していると聞き及んでおります。なれば、この地を治める一族の血を継ぐご子息様に、祝福が授けられても不思議ではないかと……」


海の大精霊……って……。あっ!思い出した!ベネディクト君のあの耳の形!!あれって、前世のファンタジーものの定番キャラクター、『人魚』の特徴じゃないか!


そういえば精霊図鑑の中に、人魚がイラスト付きで記載されていたっけ。


んでもって確か……その人魚の頂点に君臨する大精霊は『セイレーン』って書いてあった気がする。


おおおっ!妖精ワーズ樹木精霊ドライアドとか、陸の精霊絡みはちょくちょくあるけど、まさかの海の精霊絡みですか!?


前世では人魚って、魔物として描かれていたりもするけど、やっぱり多くの伝記や物語では、海神の一族とか、海の守護精霊とされていたよね。


確か、かの有名な不朽の名作『人魚姫』も、海神の娘っていう設定だし!名前もズバリ、人魚姫だし!


ひ、ひょっとしたら……。リアル人魚姫ストーリーが展開されたとか!?ベネディクト君、人魚姫に気に入られてマーキングされましたか!?


ワクワクソワソワしだした私の後頭部に、クライヴ兄様の貫手がクリーンヒット!……ううう……い、痛い……!


「ふむ。確かにベネディクトは言い換えれば精霊の祝福を持っているとも言えるな」


オリヴァー兄様の見解を面白そうに聞いていた公爵様は、ベネディクト君の方へと目をやり、優しい表情を浮かべた。


「……が、不正解だ。この子のあの姿はね、遺伝だよ」


「「遺伝!?」」


サラッと物凄いネタバレをされ、流石のオリヴァー兄様も驚愕し、叫ぶように声を上げてしまう。ついでに私の声も、しっかり兄様とハモりました。ってか、遺伝って一体!?


「まさか……!それでは、過去に精霊の血がヴァンドーム公爵家に……!?」


成程!つまりは『先祖返り』ですね!?


「ああ、違うよ。そんな古いものじゃない」


「「は!?」」


ど、どういうことだってばよ!?


「この子には、母親・・の血が濃く出てしまっただけだ。なんせ私の妻は、この大海を代々守護してきた大精霊『セイレーン』の末裔だからね」


「「「「セイレーン!?」」」」


更なるネタバレ投下に、今度はバッシュ公爵勢全員の声が綺麗にハモってしまった。


え!?セ、セイレーン!?それって、あの人魚の頂点である海の大精霊の名前だよね!?


「まあ、ある意味海の祝福とも言えるな。なにせ耳の変化も、ベティが海の中で大きな力を使った時だけ顕現するから」


あっ、そうか!あの時ベネディクト君は、私を海底から助け出す為に力を使ったから……。


「……尤も、幼い頃は魔力操作が不安定で、ちょっとしたことでよく耳が変化してしまってね……。心無い者達には、『下賤の血を混ぜた事により、海の大精霊に呪いを受けた』などと、口さがなく言われたものだ」


そこでふと、ヴァンドーム公爵様は私とオリヴァー兄様に向け、心からの微笑みを浮かべた。


「……エレノア嬢。君はこの子のあの姿を見て、『綺麗』だと言ってくれたそうだね。そしてクロス伯爵令息。君も『呪い』ではなく『祝福』と断じてくれた。……礼を言う。信を置く家門達や領民達以外で、この子の出生の事実を知らずに、そのような事を言ってくれたのは君達が初めてだったよ」


見ればベネディクト君だけでなく、アーウィン様やクリフォード様、シーヴァー様とディルク様も、嬉しそうに私達を見て微笑んでいた。


「…………」


だが、私達は次々と明かされる衝撃的な事実に脳内フルパニック状態となってしまい、言葉を発する事も出来ず、ひたすら呆然としていた。


その衝撃がいかほどのものだったかと言えば、この私がヴァンドーム公爵家御一行様の百万ボルトの微笑を受け、呻いて倒れ伏していないってところでお分かり頂けると思う。


というか精霊と人間で子供を作るって、前世では鉄板のネタだったけど、まさか本当にそういった事が起こるんだなんて……!流石は異世界!!


しかも、リアル人魚姫の王子様役は、ヴァンドーム公爵様の方でしたか!!


「この事実を知っているのは、アイゼイアを含む、当代王家直系と聖女アリア様。そして、宰相のギデオン・ワイアットのみ。勿論彼らは私と『沈黙の誓約』を交わし、こちら側も対価として、聖女であるアリア様が『転移者』である事を知らされているのだよ」


おおおっ!錚々たる面々の名が!そして公爵様、国王陛下の事呼び捨てなんですね!?


あ、実はヴァンドーム公爵様がベネディクト君の『耳』について話そうとした直前に、ヴァンドーム公爵家御一行様と私や兄様達の周囲に『防音結界』が発動したので、私達以外に、この物凄いカミングアウトは聞こえていない。


……あれ?いつの間にか、ベンさんぐらいの老年の執事が、公爵様の後方に控えているんですが!?


「あ、苔泥棒!」って、クライヴ兄様が小さな声で呟いた。って、え!?このお爺ちゃんが、苔ノアを盗んだの!?


件のお爺ちゃん執事(家令?)は、まじまじと凝視する私の視線も、兄様達の殺気まがいの鋭い視線も華麗にスルーしつつ、何やら公爵様に耳打ちしている。……あっ、公爵様の表情が一瞬だけ鋭くなった。一体、何を話していたんだろう?


お爺ちゃん執事が後方に下がると、公爵様は何事もなかったかのように、穏やかな表情を浮かべた。


「済まない、話を戻そうか。……どうだね?これで我々を信用してもらえたかな?」


オリヴァー兄様は、暫しの間沈黙した後、ハーッと深い溜息をついた。


「……ええ。精霊は聖女様と同様、『聖魔力』を持つ光の眷属であり、邪悪な魔力を持つ者にとっての天敵です。その加護を得ているという事は、ヴァンドーム公爵家が『こちら側』であるなによりの証。信用せざるを得ません」


苦々し気な表情を浮かべる兄様の言葉に、公爵様が満足気に頷いた。


オリヴァー兄様、『してやられた』感半端ない悔しそうな表情をしている。……うん、そうだよね。聞かされた内容が内容だし、聞きたくなかったのに、ゴリ押しで無理矢理聞かされちゃったようなものだもんね。


「安心したまえ。エレノア嬢が『転生者』である事は、我がヴァンドーム公爵家の名と血に誓い、然るべき時まで必ず秘匿する。当然、『沈黙の誓約』も行う。まあ、その時は私の妻について、そちら側にも『沈黙の誓約』をしてもらうがね」


「承知しました。……ですが公爵閣下」


「うん?なんだね?」


「よく『性格が悪い』と言われませんか?」


オリヴァーにいさまー!!またシレッと不敬発言をー!!


「ははは、よく言われるよ。……だが君に言われると、なんだか無性に腹が立つな」


「それって、同族嫌悪ってヤツじゃないか?」


アーウィン様のお言葉に、公爵様とオリヴァー兄様がいい笑顔で青筋を立てた。ううむ、素晴らしいツッコミっぷりとシンクロ率ですね!



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苔ノア泥棒発見!Σ(゜Д゜)

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