第476話 興味と情熱
今月の15日、いよいよ4巻発売です(^O^)
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「――ッ!!」
突然、ヴァンドーム公爵様の口から言い放たれた爆弾発言に、私は顔色を無くした。
『なんとか取り繕わなきゃ!』そう思うのに、驚きが大き過ぎて、頭も心も上手く起動しない。
そんな私とは違い、兄様方やセドリックは警戒と殺気を込めた鋭い表情を浮かべながら、公爵様を睨みつけるように見据えている。
「……失礼ながら公爵閣下。エレノアが『転生者』だなどと、何故そのような荒唐無稽な戯言を、突然仰られたのでしょうか?」
オリヴァー兄様が、静かな口調で公爵様を逆に問いただす。……どうやら兄様、徹底的にシラを切り通すと決めたようだ。
だが、その声音には明らかに冷ややかな怒りと……僅かばかりの困惑が滲み出ていた。
そして、私の右隣に座っているセドリックや、背後に控えているクライヴ兄様からも、静かな……けれど、いつでも行動を移せるような、研ぎ澄まされた覇気が僅かに感じられた。
『それにしても……』
ヴァンドーム公爵様が、どんな思惑で私の事を『転生者』と断じたのか。また、何故今ここでその言葉を口にしたのか。その意図が分からない。
兄様達の態度は、確実にヴァンドーム公爵様やアーウィン様方に対する牽制だろう。
そして多分、密かに忍んで(いないけれども)いる、『影』達も、いざという時の為に臨戦態勢をとっているに違いない。
「戯言……か」
けれどそんな兄様達を前に、爆弾発言をぶちかました当の本人であるヴァンドーム公爵様はというと、穏やかな様子で寛ぐ姿勢を崩していない。それは彼の周囲に鎮座しているアーウィン様やベネディクト君達も同様だった。
「『ドラゴン殺し』の英雄、グラント・オルセン。天災級の魔力を誇る大魔導師、メルヴィル・クロス、このアルバ王国そのものと言っても良い、優れた才と力を誇る王家直系全て。エレノア嬢は、あの曲者揃い達を次々と骨抜きにしたのだよ」
「…………」
「そして獣人王国との闘いにおいては、か弱い者達の為にわが身を犠牲にしてでも戦おうとした。その勇気、実際に獣人の王女達を討ち取ったその才覚。……どうだね?これだけの事を成し遂げた女性が、普通のご令嬢であるなどと言う事の方が、寧ろ馬鹿馬鹿しいとは思わないかね?」
「……確かに仰る通り、エレノアはまさに、女神様の祝福を一身に受けた稀有なる子です。ですがだからといって、『転生者である』などとこじ付けるのは、いささか暴論ではないでしょうか?」
「おやおや?これらをこじ付けだと断ずるのかね?」
「ええ、その通りです。エレノアがこのような良い子に育ったのは、天性の愛らしさに加え、バッシュ公爵様や我々の愛情をたっぷり受けた結果です」
「天性の愛らしさについては、大いに同意するところだが……。君たちの教育の賜物と言う点には、大いに首を傾げたくなるのだが……?」
「首を傾げようが邪推をしようが、今ここにいるエレノアの素晴らしさが答えの全てです!」
ヴァンドーム公爵様とオリヴァー兄様の間に、再び黒く鋭い応酬が繰り広げられる。
緊迫した空気と鋭いやり取りに、私の喉は知らずコクリと上下する。が、先程までと違うのは、言い合いが貴族言葉による応酬ではなく直球であるところだろう。
ってかオリヴァー兄様!所々にサラッと、私に対するのろけを入れるの止めて下さい!
「まあ、私がエレノア嬢を『転生者』であると睨んだ理由は、今話した事実だけではない。エレノア嬢」
「はっ、はいっ!?」
「海の白の養殖技術と……ついでに、ジャレットに提携を持ち掛けている、あの画期的なペン。確か『万年筆』とか言ったか。あれらも君の発案だね?」
「!!」
「閣下!それは……!」
「クロス伯爵令息。あれら全てが君による発案……などといった戯言は止めたまえ」
「――ッ!」
咄嗟に言葉を発しようとしたオリヴァー兄様を、ヴァンドーム公爵様が冷徹な口調で制する。
「君は確かに天才肌だ。知力・謀略においては、将来君の右に出る者はいなくなるだろう程にはね。だが、『無』から『有』を生み出す発想力は、また別の才能だ。そしてそれらの発想力に欠かせないものこそ、『興味』と『情熱』。……失礼だが『万年筆』ならいざ知らず、宝石に対して、君が狂おしい程の興味と情熱を持っているとは、正直言って想像すら出来ない」
ズバリと言い切られ、流石のオリヴァー兄様もグッと口をつぐんでしまった。
それにしても、『興味』と『情熱』か……。
脳裏にパッと、宝石にまみれ、それらをうっとりとした表情を浮かべながら愛でるオリヴァー兄様の姿が浮かんだ。……うん、推せる!!
――じゃなくて!!現実逃避するな、私のバカ!!
「ま、万年筆は……父であるアイザックと兄達が、試行錯誤の末に生み出したものです!」
「エ、エレノア!?」
「おいっ!ちょっ、待てっ!!」
兄様方が慌てて制止しようとする声が聞こえてきたけど、私はそのまま言葉を続けた。
「う、海の白については、私が、もっと安価に手に入らないかなと、兄のオリヴァーに相談したことが切欠で……!だ、だから私の為に、兄が必死に養殖方法を考えて下さったんです!!」
私は、今まで生きてきた中で一番と言っても過言ではない程、貴族令嬢としての矜持をフル稼働させた。そして精一杯表情を引き締めながら、懸命に言い訳を述べる。
……が、そんな私をジッと見つめていたヴァンドーム公爵様が、面白そうに口角を吊り上げた。
「おや、そうだったのかい?君はそれ程までに海の白に興味があったのか」
「そっ、そうなんです!!海の白、素敵ですから!!」
「そうかそうか、それは嬉しい限りだ!……でも、変だなぁ……?」
「えっ!?」
「君は海の白よりも寧ろ、海鮮焼きの方に興味津々だったとベネディクトから聞いていたんだけど?しかも私の店では、海の白を一つも買わずに廃棄品で遊んでいたらしいじゃないか?」
――し、しまったー!!
「そ、そっ、それは……!た、単純に好みの品が見つからなかったのです!そ、それに、海鮮が焼かれているのを初めて見たので、め、珍しくて!!」
貴族令嬢の皮があっさり取れ、しどろもどろ状態になってしまった私に対し、公爵様は更なる追撃を放つ。
「それも変だなぁ?アーウィン曰く、『汚れないように頭から布をすっぽり被り、豪快に海鮮を頬張っている姿は、海鮮を食べ慣れている者のそれだった』だそうだが?ああ、そうそう!しかも『魚醤をアレンジして独自のソースまで作っていた』とも言っていたっけな!」
あああっ!!そ、そうだった!!空腹のあまり、我を忘れて海鮮貪ってたの忘れてた!!
しかも、公爵様のお言葉を聞いた途端、アーウィン様とベネディクト君が「ぶはっ!」と吹き出し、口元を抑えて全身を震わせた。……どうやらてるノアの姿を思い出し、ツボに入ってしまったようだ。
ってか、アーウィン様!なんだかんだいって、しっかり私の様子を観察していたんですか!?流石は三大公爵家直系!!選ばれしDNAだけある!くそぅ!!
「まあ、それらの事を総合して考えれば、君が海の白にはなんの興味も情熱も無い事が分かる。なのに、養殖方法を確立するに至った。つまり君は『考え出した』のではなく、『元々その方法を知っていた』んだ。……違うかね?」
「う……あ……、あのっ……!」
「……エレノア……」
なんとか言い訳をしようとしていた私の肩を、オリヴァー兄様がやんわりと抱いて首を振った。
その表情にはしっかり、『お願いだから、君はこれ以上口を開かないで』って書いてあった。というか、物凄く諦め顔になっているんですが!?
あっ!横を向けば、虚ろなセドリックの顔には『エレノアってば……』と書いてあるし、斜め後ろに目を向ければ、クライヴ兄様が『無』になっている!済みません、本当に済みませんでした!!
くっ……!あの時、皆が勧めてくれた海の白を全拒否していなければ……!!
「クロス伯爵令息。これでもまだエレノア嬢が『転生者』である事を否定するかね?」
「…………」
「そうか。私としては、ヴァンドーム公爵家の役割等、かなり手の内を晒したと思うのだが……。あれだけではまだ、貴公らにとって信用に足らぬか」
「……大変に失礼ですが、口先だけではなんとでも言えるかと……」
オリヴァー兄様の言葉に対し、当然の事だけれど、アーウィン様方の表情と雰囲気に鋭いものが混じる。そしてクライヴ兄様とセドリックからは、ビリビリとした痛いくらいの緊張感が伝わってくる。
だが、当のヴァンドーム公爵様だけは、表情にも態度にも、怒りや苛立ちといったものが一切なく、どこまでも穏やかなままだった。
「私としては、『誓約』もやぶさかではないのだが、それでも貴公らは満足せぬだろう。……そうだな。では、こちら側のとっておきの情報を明かそうか」
「いえ、結構です」
ここで速攻拒否ですか!オリヴァー兄様ってば、本当にブレませんね!?
「遠慮は不要だ」
「遠慮ではありません」
……なんかこのやり取り、押し売りと、それを撃退している家主との会話みたいだな。
「はっはっは、まあそう言うな。それじゃあまずは、我が末子のベネディクトの『耳』についてだが……」
『迷惑千万』といったオリヴァー兄様の表情が、その時僅かに変化した。
ってか、ベネディクト君の耳……って、もしかしてあの時の……!?
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まさかの海鮮による身バレでした!
そして次回、ヴァンドーム公爵様は何を(無理矢理)語るのでしょうか?
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