第475話 エレノア嬢。君は…

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「ふふ……そうだな。確かに妻は貴族ではない・・・・・・。だがそのことで、家門が面白いように踊ってくれたよ。半数近くが私の事を『女に狂った三大公爵家の恥さらし』と侮り、妻と息子達を『下賤の血の者』と蔑んだ」


え?公爵様。それって、笑顔で言うべきところなのですか?


ちょっと動揺しながら、オリヴァー兄様に視線を向けると、オリヴァー兄様は凪いだような静かな表情を浮かべながら、口を開いた。


「閣下は、試されたのですね。そして、ふるいにかける者達を炙り出した。……ひょっとして、ヴァンドーム公爵家が『男性血統至上主義』を掲げた真の理由は、その思想に乗っかり、アルバ王国に不穏の芽を撒こうとする帝国の思惑を防ごうとしたのではありませんか?」


「…………」


オリヴァー兄様の言葉を聞いた、公爵様の口角がゆっくりと上がる。


「ふ……。一を聞いて十を知る。君は本当に優秀だな。嫌味抜きで、アイザックは良い後継を得た」


目を細め、オリヴァー兄様を見つめるヴァンドーム公爵様の表情は、心底楽しそうだった。


「……そう。驕りと侮りは隙を生む。愛しい妻と息子達を得られた上に、長い年月をかけ、溜まった膿も出せるんだ。まさに一挙両得だとは思わないかい?」


「……もしや、ご子息様方の婚約についても……」


「ああ、その通り。長男のアーウィンも、末子のベネディクトも、こちら側・・・・ではない家門から選んだ。奴らは『卑しい血を薄める為に、正しく高貴な血統を入れようとした』からこそ、自分達の家が選ばれたと思っているだろう。……にしても、アーウィンの元婚約者は自滅するのが早かったな。まあ、あれは良い見せしめになった。大量の海の白を手切れ金代わりにくれてやるなど、安いものだ」


ああ。それって、例のオリヴァー兄様にすり寄ろうとした海の白レディーの事ですね。


そういえば私、長男さん(アーウィン様のことだけど)が婚約破棄された後、未だに婚約者を得られていないって聞いて同情していたんだっけ。


そう思いながら、アーウィン様の方をチラリと見て見ると、タイミングバッチリに視線が合ってしまい、滴る男の色気全開といった、極上の笑顔でニッコリと微笑まれてしまったのだ。


「――ッ!!」


予期せぬ顔面破壊力による目潰し攻撃に遭い、ボフンと顔から火が噴いてしまう。……すると、やはりタイミングバッチリに、オリヴァー兄様の背後から暗黒オーラが噴き上がった。


私は慌てて背筋をピンと張り、表情を引き締める。そして心の中で『兄様!不可抗力です!!』と抗議する。


しかし、そうか……。いくら女性が尊ばれるこの国であっても、三大公爵家の嫡男に、格下の貴族家の令嬢が婚約破棄を叩きつけるなんて凄いなーと思っていたんだけど、元々アーウィン様を侮っていたからこそ出来た暴挙だったんだな。


『それにしても……』


話の流れから推測するに、ベネディクト君がキーラ様と婚約したのは、ウェリントン侯爵家をわざと増長させる為だったのかな?


それだったら、ベネディクト君が筆頭婚約者らしくなかったのも、キーラ様の態度があんなだったのも頷ける。


なんて考えながら、無意識にベネディクト君の方を見ると、なんとアーウィン様の時と同じように、バッチリ視線が合ってしまう。


『ま、また……クルのか!?』と、咄嗟に目潰し攻撃笑顔に対し身構えていると、なんとベネディクト君は顔を赤らめ、恥ずかしそうに俯いてしまった。


「――ッ!?」


その攻撃(?)に、またしても顔から火が噴く。


や、やられた……!!まさかレモンミントなアオハル攻撃を食らってしまうとは……!なんたる不覚!!


「……エレノア?」


あっ!セドリックからドスの利いた声が!!


私は慌てて、再び背筋をピンと伸ばした。……って、な、なんかクリフォード様方が口に手を充て、肩を震わせているような気がするんですが!?


「……閣下。こちらの方こそ感服致しました。流石は三大公爵家のご当主様です。私には愛する者を悪し様にされ、冷静でいられる自信も覚悟もありません」


あっ!オリヴァー兄様の言葉を聞いた、ヴァンドーム公爵家御一行様が、物凄く生温かい表情を浮かべながら頷いていますよ。


うん、そうだよね。オリヴァー兄様だったら、私にそういう態度を取った家は、片っ端からぶっ潰していくよね。だって万年番狂いだもん。


ややっ!?見ればクライヴ兄様とセドリックも同じ顔をしている!……ということは皆様、心は一つという事ですね!?


そして、そんな皆さんの反応を見ていたオリヴァー兄様の笑顔が、なんだか黒い。……うん、ここは見て見ぬふりをしておくとしよう。


「そうそう、それともう一つ。ウェリントン侯爵家を含めた幾つもの家に、不穏な動きが見られてね。……それが最も顕著になったのは、例の『聖女様襲撃事件』からだ」


その言葉を聞いた瞬間、兄様方とセドリックから、張り詰めた『殺気』のようなものが噴き上がった。


『え……『聖女様襲撃事件』からって……!』


聖女様……アリアさんが狙われ、襲撃されたことになっているあの一件。……けれどそれは真実ではない。


本当は、私が『こぼれ種転生者』であると睨んだ帝国の第四皇子シリルが、私を帝国に連れ去る為に行われたものなのだ。


そういえば公爵様はさっき、あの魔物の襲撃には帝国が絡んでいるって仰っていた。


それに何故かキーラ様は、クラーケンの襲撃の後、私を見た瞬間酷く驚愕している様子だった。……ひょっとしてあれは、私が無事だった事に動揺したから……?


キーラ様や、彼女の専従執事であるヘイスティングが……いや、ウェリントン侯爵家が帝国と繋がっているとしたら、ヴァンドーム公爵領で起こる筈もない魔物による襲撃が起こった事も、キーラ様のあの態度も、全部辻褄が合う。


「……ヴァンドーム公爵閣下。一つ、お聞きしても宜しいでしょうか?」


オリヴァー兄様の問い掛けに、公爵様が鷹揚に頷く。


「いいだろう。話したまえ」


「有難う御座います。……では。そのような重要なお話を、何故我々に?いくらエレノアの事があったとしても、そのような国の根幹に関わる大事を、派閥の人間でも、ましてや利害も信頼関係もない我々に話す理由が、恥ずかしながら私には理解出来ません」


「……ふ……。確かに君の懸念は尤な事だ。だが信頼関係において、少なくとも我々の方は既に、君達の事を信頼に値する人物達だと理解している。そして利害の方もね。……エレノア嬢」


「はっ、はい?」


突然名を呼ばれた。しかも、『バッシュ公爵令嬢』ではなく、『エレノア嬢』と名前の方で。


……そして。


「君は、『転生者』なのだろう?」


更に続いたヴァンドーム公爵様の言葉に、私の頭の中は真っ白になった。



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新年早々、ヴァンドーム公爵家の裏事情が明らかに!そしてエレノアに本題を突き付けたアルロさんの意図やいかに!?

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