第340話 お米、ゲットだぜ!
そうだ。色々あって忘れていたけど私、山間部の珍味で稲の苗ゲットを目論んでいたんだよね。
だからイーサンにお願いして、まずはアリアさんのお食事に、昨夜私が食した『リゾット風キノコスープ』を出して貰うようにお願いしたんだった。……アリアさん。どうやら予想以上に食いついてくれたようだ。
私とアリアさんを見て、なんとなく何かを察したイーサンの機転により、私達はゾロゾロとサロンへと舞い戻った。
しかも、私が転生者だと知っている王都邸の召使い達や、数人の近衛の人達以外は人払いをしている。……流石はイーサン。出来る家令は違う。
あ、勿論、お茶とデザートもしっかり移動です。
まだ半分も食べていなかったし、食べ物残すのダメ絶対!
そうして食べかけのロールケーキの横に、何故かもう一個増えていたロールケーキも急いで頂いた後、私はうまうまモードから交渉モードへと頭を切り替えた。
「……アリア様。実はこの度、我が領地にて『宝』を発見いたしました」
「た……『宝』……」
ゴクリ……と、アリアさんの喉が鳴る。ふふふ……食いつきましたね。
とは言ってもその『宝』って、私達元・日本人にとっての宝なんだけど。
「はい。数日前に視察で偶然発見いたしました山の美味で御座います。わらび、ぜんまい、こごみ、しいたけ、しめじ、舞茸、えのき……等々」
「ま、まあっ!」
「勿論、これらは全て、『この国』と『かの国』とでは似て非なるものでしょう。が、『かの国』で採れる、あらゆる山の幸とキノコ類が揃っております。これを使えば、天ぷら、各種キノコをふんだんに使用した山菜鍋、お浸しに煮物……。和食のレパートリーが更に広がります!」
「す、素晴らしいわねっ!」
うんうん、反応は上々。アルバ王国って、食材は豊富なんだけど、キノコはマッシュルームに似たものが数種類しかなかったから、ちょっと物足りなかったんだよね。
無類のキノコ好き民族。日本人の一員なら、絶対食いついてくれると思っていました。
それにしてもアリアさんの食いつきは想像以上だな。
そういえばアリアさん。お祖父ちゃんお祖母ちゃんに育てられたって言っていたから、きっと洋食よりも和食が中心だったんだろうな。
「更に!」
「さ、更に……!?」
再びゴクリ……と、アリアさんの喉が鳴った。身体もやや前のめりになっている。……これなら……いける!
「我らにとってのキングオブキノコ!……そう、『松茸』までもが豊富に手に入る事が判明したのです!!」
「――ッ!!や、やはり……っ!!」
「この松茸に、王家秘蔵の調味料。醤油や白出汁、白米を加える事により、松茸の土瓶蒸し、網焼き、松茸ご飯などがいつでもどこでも楽しめる事が可能です!更に今なら、(前世の)世界三大珍味、黒トリュフもお付け致します!」
「まあぁぁぁっ!!」
……うん。自分でやっててなんだけど、これってどこの通販番組なんですか?って感じだよね。
当然というか、アリアさん以外のこの場の全員、ぽかんと呆気に取られたような顔して私達のやり取りを見ていますよ。
あ、一緒に珍味を発見したクライヴ兄様だけは、感心したような呆れたような顔をしているわ。
分かっています。今の私が淑女としてアウトだという事は。でもね兄様。これは私の譲れぬ戦いなのです!
「……お、お袋……?」
「……は、ははうえ……?」
息子二人の当惑した様子に、アリアさんはハッと我に返ると、コホンと一つ咳ばらいをした。
「……エレノアちゃん。何が……望みなのかしら?」
流石はアリアさん。話が早い。
「お米の苗をいただきた……」
「却下」
くぅっ!秒で却下を喰らった!……で、でもここまでは想定内。駆け引きの基本はまず、とんでもなく高い所からスタートするんだって、親戚のおばちゃんが言っていたもんね。
彼女の二つ名はズバリ、『値引きのマサコ』。マサコおばちゃん、どうか私に力を貸して下さい!!
「それじゃあ、モミ付きのお米を一袋……」
「それも却下!モミ付きじゃあ発芽しちゃうでしょう。あげるのなら白米よ」
ちっ!バレたか。
「じ、じゃあ白米を安定供給……」
「残念ながら、安定供給する程作っていないの。エレノアちゃんが王宮に来て食べる分ぐらいならあるんだけどね」
アリアさん、それじゃあ駄目なんです!
私の望みは、毎朝とは言わなくても、おにぎりで朝食を頂く事なんですから。
ってか、私が食べる分しかないっての、それ流石に嘘ですよね!?
「まあ、30kgくらいなら融通してあげられるけど……」
「120kgでは!?」
「それじゃあ結局、一年分になっちゃうでしょ!?……そうね。じゃあ60kgはどう?」
「せめて、80kg!」
「う~ん……65kg!」
「じゃあ、70kg!こ、これ以上は譲歩しません!トリュフ付けるのも無しにしますし、松茸も本数制限しちゃいますからね!?」
「くっ……!や、やるわねエレノアちゃん!」
何だかよく分からない、白熱した攻防を周囲の皆が固唾を飲んで見守る中、アリアさんは「ふぅ……」と息を吐いた。
それを見て、「勝てる!」と私は拳を固く握りしめた。
よく分からないなりに、そんな私の姿を見たオリヴァー兄様とセドリックが「よしっ!」とばかりに頷く。
「分かったわ。それじゃあこの件は改めて、アシュル達が来てから話し合いましょう」
「えっ!?ア、アシュル様……ですか!?」
勝利を確信していた私は、アリアさんの口から出てきた人物の名を聞き、ザァッと顔色を変えた。
「ええ、そうなの。実はお米の管理もアシュルの管轄なのよ。だから最終決定はあの子との話し合いで決める事にしましょう?」
ニッコリ笑顔のアリアさん。その聖母の微笑とは真逆の、悪魔の尻尾が揺れているのが見える。
……アシュル様が交渉に加わっちゃったら……。
私は脳内でその時の状況をシミュレートする。
あの甘いマスクでニッコリ微笑まれ、視覚の暴力を先制攻撃として喰らった挙句、エロエロイケボイスで言いくるめられ、一粒のお米の譲渡も無しで山菜やキノコ類を掻っ攫われるってオチが見える。
――……くっ!なんて事だ!!何か……何か、起死回生の一手は……!?こ、こんな事なら、松茸を早々に出すんじゃなかった!
その時、ポンと私の肩にクライヴ兄様の手が置かれた。
「エレノア、ここまでだ」
「ク……クライヴ兄様……!?」
「お前はよくやった。藪をつついて蛇を出すより、ここらで引いておけ」
「……うう……。は、はい……」
私はリングに投げ入れられた白タオル……もとい、クライヴ兄様の言葉を泣く泣く受け入れた。
結果、私は王家に山菜やキノコの安定供給する見返りとして、年間65kgのお米を手に入れたのだった。
ああ……。好きな時に好きなだけお米を食べるという野望が……。マサコおばちゃん、ごめん。私、負けちゃったよ。
「何だかよくわからねーけど、お袋!勝ったな!!」
「一体何だったのか、本当によく分からないけど、流石は母上!」
ディーさんとリアムの賛辞に加え、周囲からも惜しみない拍手が送られ、アリアさんは満足そうに微笑んでいる。
対照的に、ガックリと肩を落とした私の頭を、やっぱりいまいち事情が分かっていないオリヴァー兄様が、慰めるように優しく撫でてくれた。セドリックも傍に来て無言で手を握り、優しく頷いてくれる。
……うん、そうだよね。なんだかんだでお米、65kgゲット出来たんだし、ある意味負けて勝つってやつだよね。うん、自分頑張った!
そんな私にアリアさんは、武士の情けとばかりに、醤油とお味噌を1Kg、おまけに付けてくれる事を約束してくれたのだった。
======================
なんだかんだで、しっかりお米ゲットしたエレノアです。
そして本日、ノートにも書きましたが、『顔面偏差値』の2巻が発売です!
もしご興味などありましたら、是非手に取ってみてやって下さいませ(^O^)/
今回はセドリックとフィンレー殿下の初登場ですよv
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます