第241話 なんか生えてきた
『
理由はというと、緘口令を敷かれたとはいうものの、やはり学院では例の一件がなんとなく広まっており、しかも私や兄様方が巻き込まれたという噂(真実)もまことしやかに囁かれていたからだ。
どうせ連休も近いし、様々な憶測が横行している今、学院に行っても気が滅入ってしまうだろう。ならばいっそのこと、そのまま休んでしまえばいい……と、オリヴァー兄様が決めたのである。
あ、勿論オリヴァー兄様とセドリックは学院に通っていますけどね。
後から聞いた話によれば、さる高名貴族の嫡男を筆頭に、私に求婚すべく、多くの貴族子弟達が学院を訪れていたのが最大の理由だったそうである。
「さる高名貴族の…?どなたですか?」
兄様方やセドリックに聞いたんだけど、名前を聞き出す事は出来なかった。う~ん……誰だろう?気になるなぁ。
そうして王宮に通う初日を迎えた。
私を心配した兄様方とセドリックは、「あちらで修行する前に、軽く練習しておこう」と提案し、同意した私は同じ『土』の魔力持ちであるセドリックと共に、バッシュ公爵家の誇る庭園で自主練習を行う事となったのだった。
ちなみに今現在、平日の朝6時過ぎ。
学院を休んでいる私と違い、セドリックはちゃんと学院に行くから朝練です。
ちなみにオリヴァー兄様は、既に学院に到着されています。
なんせオリヴァー兄様、生徒会長な上に首席卒業生だから、授業は無くてもやる事山積みらしく、少しでも早く私を王宮へ迎えに行く為には早朝から登校し、バリバリ仕事をこなさなくてはいけないんだそうだ。
な訳で。まだ空が白み始めた頃、寝ぼけ眼の私の元へ来るなり、オリヴァー兄様は濃厚な朝のご挨拶をぶちかました。
「……あれ?オリヴァー兄様……んっ!?んんー!!」
そして酸欠と羞恥で息も絶え絶えな私を残し、オリヴァー兄様は颯爽と学院へと旅立って行かれたのです。
……明日の朝は、クライヴ兄様にお願いして、部屋に待機していてもらおう。うん、そうしよう。
「エレノア……。相変わらず、魔素集めが苦手だね」
「ううう……。な、なんでかなぁ?」
汗を流しながら私を見ているセドリックの掌には、野球ボール程の金色の光の玉が出来ている。
対して私の掌には、一匹分のホタル程の光が点滅しているのみ……。何故に!?
「じ、じゃあ次は、まだ蕾の状態の花達の成長を促してあげようか?」
そう言ってセドリックは私を促すと、まさにこれから咲き誇りますよー……といった感じに蕾の状態な、芝桜(のような花)が群生している区画へと連れて行った。
あ、勿論クライヴ兄様もしっかり、私達の傍にいます。「少しサボるとすぐ退行するって……お前なぁ……」って溜息つきながらですが。兄様、めっちゃ失礼!
ところでこの芝桜もどき。ちょっと変わった特性があって、一つの株から全く違う色の花が咲くのである。
だからこの花、別名『虹花』とも呼ばれている。そして私は毎年、この花が満開になるのを楽しみにしているのだ。
「さあ、エレノア。この花達に『土』の魔力を注いで、花を咲かせてみよう」
そう言うと、セドリックは芝桜もどきに手をかざす。
するとキラキラした光の粒の様な魔力が降り注ぎ、ピンク・白・黄色・紫…と、次々と蕾が開花していく。その幻想的な光景に、私は思わず見入ってしまった。
『土』の魔力とは、その名の通り土を媒介とする鉱物・草花・岩山…といった自然物に対して作用する魔力だ。そして他の属性よりも『癒し』の力に特化している。
その性質を上手く利用し、枯れそうな植物を元気にしたり、こうして魔力を注いで成長を促したりする事が出来るのである。
『大地の魔力』とは、その『土』の魔力を更に特化させたもので、地中にある種を一瞬で大樹に成長させたりする事も可能なのだそうだ。
当然、荒れ地を一瞬で緑に満たす事も朝飯前に出来るとの事。いや本当、凄い力である。
逆に大樹を種に逆行させる事も出来るとのこと。
……そういえばダンジョンの時、そんな現象が起こったような……?
過去において……。時の聖女様は、自然を我が物顔で破壊していた人達を懲らしめる為にその力を使い、その地域の植物全てを『冬眠』させてしまった事もあったそうだ。
それゆえ、自然を自由自在に操る『大地の魔力』を持つ者は総じて『女神の化身』と称され、崇拝されると共に畏怖されていた……との事である。
そりゃそうだ。『大地の魔力』を持っている人を怒らせたら、緑の大地が一瞬で荒れ地になってしまうんだから。そりゃー恐ろしいわな。
「エレノア?ほら、手をかざして」
「う、うん」
私は深呼吸すると、セドリックに倣って花々に手をかざし、目を閉じて意識を集中させる。
……満開になあれ!
――ポン!
「ん?」
なんか、ポップな音が聞こえた……と思いながら目を開ける。
するとそこには、通称『ぺんぺん草』と呼ばれているナズナが一本、芝桜もどきの間からにょっきり生えていたのであった。
ちなみに、芝桜もどきに変化は無し。
「……エレノア……」
「……お前……。雑草生やしてどーすんだ?」
固唾を飲んで見守っていたセドリックとクライヴ兄様だが、生やしたぺんぺん草と、それを見つめながら佇む私に半目になってしまっている。
「あ、あれ~?おっかしいな?」
首を傾げながら、再び意識を集中させ、魔力を放出させる。…が、やはりポンポンポンと軽快な音と共に、ぺんぺん草が次々と生えていく。そして花には全く変化なし。
焦った私は、更に意識を集中させるが、最終的には芝桜の間に、無数のぺんぺん草を生やしまくっただけで終わった。
「お嬢様……。お嬢様にとっては、この草も立派に愛おしむべき『花』なのでしょう。……ですが私にとって、コレは『花』ではなく、ただの雑草です!そして庭師にとって雑草とは、根絶すべき天敵なのです!!」
よりにもよって、これから咲き誇る予定だった花々の間に、大量の雑草を生やしてしまった私に対し、庭師長のベンさんはブチ切れた。
そして怒りに満ち満ちた笑顔を浮かべながら、こんこんとお説教され、罰として自分の生やしたぺんぺん草の一掃を命じられてしまったのだった。
「ま、まぁ…。何も無いところから、新しい草…いや、花を生やしたって事は、やっぱりエレノアには『大地の魔力』があるんだよ!……多分」
「そ、そうだな。たとえ雑草と呼ばれている草でも、生やしただけでも大したもんだ!後は努力次第で、ちゃんとした花を咲かせる事が出来る……筈だ!」
朝食の席で、セドリックとクライヴ兄様が慰めてくれたけど、あんまり慰めになっていなかった気がする。
それにしても、何故にぺんぺん草?
……あ!ひょっとして王宮で『大地の魔力』の事聞いた時、「ぺんぺん草しか生やせない」って呟いちゃったからかな?
魔力を使うのって、イメージが大事らしいからな。……うん。多分そうだ。だとしたら、余計な事考えなければ良かったー!!一生の不覚!
せめて…。せめて、スミレとかだったら!!……あ、スミレも雑草だった。どっちみち、ベンさんに叱られてたわ。しかもサイズ的に芝桜もどきに紛れちゃうから、そっちの方が怒りが深かったかもしれない。…ぺんぺん草でセーフだった…かも?
「……クライヴ兄上。王宮での修業、大丈夫でしょうか?」
「……よく分からんが……不安だ」
――王宮での修業に、暗雲が立ち込めた瞬間であった。
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実は雑草でした!…ってお花、けっこうありますよね。
ちなみに私はぺんぺん草、けっこう好きです(^^)
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