第240話 もし、彼等でなかったら
「……とまぁ、こんな感じの話になっているんだよ」
ほぉ~!!と、メイデン母様やオネェ様方が、興奮顔でコクコクと頷く。
「なーる程ねぇ…それで姫騎士…。ってか、エレノアちゃん、あんた聖女にまでなっちゃう訳!?なんか凄くない!?」
「せ、聖女ではなく、聖女候補…です」
あの時、必死になってその場の皆を説得…と言う名の泣き落としをし、何とか『聖女』ではなく、『聖女候補』になったエレノアであった。
「同じよ同じ!まぁ~!私、聖女様の母になるのね!聖女の母だから、『聖母』…ってやつかしら!?やだぁ~!なんか
「お前に関して言えば、『聖母』じゃなくて『精母』…ヴぉっ!!」
ああっ!まだ封を開けていないボトルが、グラント父様の脳天にクリティカルヒット!!メイデン母様、今回は外しませんでしたね!!
「待って!そうすると、私達も『聖女様の姉』ってやつ!?」
「きゃ~♡すっごーい♡♡」
「流石はエレノアちゃんよねぇ!!」
「やっぱり、ただの女の子じゃなくて、『エレノア』という名の何かだったわね!」
「人外じゃなくて、聖女だったけどね!」
きゃいきゃいと、はしゃいでいるオネェ様方を尻目に、2本目のボトルを投げようとして、オリヴァー兄様に止められていたメイデン母様が、手にしたボトルの蓋を指で弾いて開けるや、ラッパ飲みした。うゎぉ!母様、ワイルド!
「で?メルヴィル。私らはどこまで餌バラまけばいいわけ?」
「エレノアが『姫騎士』の称号を授与するかも…までかな?そっちはあくまで『噂』としてバラまいてくれればいい。『姫騎士』に『大地の聖女』の二つ名があったという事実は、国王陛下が正式に発表した方が、インパクトが強いからね」
「了解!…で?その授与式は何時なの?」
「もうすぐ、王立学院の卒業式がある関係で、二ヵ月後だそうだよ。アシュル殿下達との婚約の儀も、称号の授与の時に同時に行うらしい。…ま、エレノアが無事、『大地の魔力』が使えるかどうか次第だけどね」
そう、もうすぐオリヴァー兄様の王立学院卒業式があるのだ。
その関係で私も、春休み的連休に突入するし、修行するのに丁度良いって事になりました。
それにしても、オリヴァー兄様卒業かぁ…。あ、勿論兄様、首席卒業ですけどね。
クライヴ兄様の卒業式には参加出来なかった分も含め、オリヴァー兄様の晴れ姿、ガッツリ最前席で鑑賞しますとも!
ステージに群がる、おひねりマダム達に負けてたまるか!
「ああ…。そもそも、エレノアちゃんが『大地の魔力』を使えないと、『姫騎士』作戦が上手くいかないもんね。じゃあ、集中特訓やむなしってやつだわね」
「そうなんだよ。まあ、派手な演出も考えているみたいだし、そもそも『大地の魔力』の使い手自体が、姫騎士以降、現れてないから、それっぽく見せられればどうとでもなるからって、聖女様も仰っていたから。…まぁ、何とかなるだろう!」
「…あんたも聖女様も、かなりアバウトね」
「こういう事は、ハッタリが大事なんだよ」
ハッタリ…で、聖女(候補)なんて出来るんでしょうかね?え?何事もやってみなくては分からない?ってかそもそも私、やりたくないんですが!?
……なんて、言っていられないんだけどね。
皆の為にも自分の為にも、何とか周囲の皆さんを納得させる形で、殿下方の婚約者(仮)にならなくてはならないのだから。
「で?お兄ちゃんは妥協とかした?」
「……一週間に一泊だけ。王宮に泊まる事を許可しました」
「おおっ!やったじゃない、お兄ちゃん!」
「男としての、度量の深さを見せたわね!」
「その代わり王宮に行く時は、いついかなる時にもクライヴが傍にいる事と、宿泊日は、僕とクライヴ、そしてセドリックも宿泊させる事を条件にしました」
「……さ、流石はお兄ちゃん…」
「全然深くない…。限りなく浅いわ…!」
「ねぇ、メルヴィル。あんたの息子、大丈夫?」
あっ、メイデン母様が半目になってる。…そういえば、王家側の方々も全員、あんな目していた気がするな。
「ああ、大丈夫、大丈夫!ちょっと今、拗ねちゃっているだけだから。もうちょっと落ち着いたら、少しは寛容になると思うよ?」
「……落ち着く時って、いつよ?」
「さあねぇ…。あと50年後くらいかな?」
「あのさぁ…。お兄ちゃん、その頃にはジジイじゃない。…つまり、枯れるまで無理って言いたいのね?」
「まあ、そんなとこだね」
「オリヴァー、お前、なんか言われてんぞ?」
「そうですか?僕には全く何も聞こえませんが?」
グラントの言葉に、オリヴァーは我関せずといった無表情で応える。
「まーお前もクライヴも…勿論俺らもだが、王家対策色々やって来たからなぁ。そんで結局こうなった事が悔しいのは分かるが、結局は自分で決めた事なんだ。そろそろ割り切れよ?」
「…………」
――君が、割り切れないだろう事は、分かっているよ。
脳裏に、アシュルの言葉が蘇ってくる。
『オリヴァー。君はただひたすらに、どんなエレノアであっても、彼女だけを見つめ、愛してきた。だからこそエレノアにとって、君は最も特別で大切な存在なんだろう。とても妬けるね』
――それでも、そんな君から、「エレノアが貴方がたを認めたら、彼女の傍に居てもいい」と言われた事が、とても嬉しかった。僕も弟達も、エレノアに少しでも愛して貰えるよう、頑張るつもりだ。
あの時、王宮から去る前に、アシュル殿下と二人だけでした会話。
グラントの言う通り、今でもエレノアには自分達だけの婚約者でいて欲しかったと悔しく思う事がある。
だがあの時、彼らがエレノアを守る為、共に命を懸けて戦ってくれなければ、エレノアを救う事は出来なかっただろう。
その点では、自分が天敵と定めたフィンレー殿下に対してでさえ、深い感謝の念を抱いている。
…というか、フィンレー殿下に関して言えば、「もうちょっと身体鍛えろ」と言ってやりたい所ではあるが。
それに……。
『もし彼らでなかったら、助けを求めたりはしなかったかもしれない』
エレノアと…婚約者である自分達の気持ちをちゃんと理解し、最後まで王家特権を使う事をしなかった彼らだったからこそ、自分は婚約者と認めたし、エレノアも婚約を了承したのだ。
勿論、物凄く悔しいし、癪だし、もしエレノアと仲良くしているのを目撃したら、必ず邪魔してやろうと思ってはいる。このまま『仮婚約』のままで、婚約自体流れてしまえとも願っている。というか、流す気満々だ。
諸々の思いを込め。「せいぜい頑張って下さい」と言ったら、なんとなく自分の気持ちを理解したのか、苦笑されていたが…。
「殿下方が、もっと嫌な連中であったなら良かったんですけどね…」
「オリヴァー兄様…」
――兄様も、ちゃんと殿下方の事を認めてらっしゃったんですね…!
なんて、オリヴァーの言葉にちょっと感動していたエレノアは知らなかった。
――そうすれば、心置きなく利用するだけ利用して、最終的にエレノアを連れて逃げてしまえただろうに…。
…などと、水も滴る憂い顔で溜息をつきつつ呟いた、オリヴァーの心の声を。
だが、エレノアを除くその場にいた全員は、正しくその心の声を理解した。
「ちょっ…。この子、恐っ!」
「エレノアちゃん、これからめっちゃ、大変になると思うけど、めげたりしちゃダメよ?」
「そうそう。たまには爆発してもいいのよ?」
「いつでも愚痴りに来なさい。大歓迎だから!」
「え?あ、はい!魔力修行、頑張ります!!」
――分かってねぇ…!!
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紫の薔薇の誰もが、「この男(オリヴァー)の相手がエレノアで良かった…」と理解した瞬間です。
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