第551話 【プロローグ】親世代の攻防と不安の芽②
※前回の更新で、『聖女』の認定についての箇所を大幅に訂正しました。
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彼女らはあろう事か、エレノアの悪評が彼女の真実だと思い込み、自分に都合の良い夢を見た。
特にヴァンドーム公爵家から睨まれ、新たな婚約者どころか恋人すらまともに作れなかったフルビア・ハイエッタ侯爵令嬢は、狙い目とばかりに、よりによってあの『万年番狂い』を己の獲物と定めたのだ。
その結果、彼女達はまだ僅かに残っていた婚約者や恋人達全てから三下り半を突き付けられたのだそうだ。
というか、この国では男性側から婚約破棄などは出来ないので、上手く彼女達の不興を買い、わざと三下り半を突き付けるように誘導されたらしい。
ようは、愚かで浅はかな行動のツケが、自分自身に返ってきたという事なのだろう。
だが一部の騎士達の間では、「なんという蛮勇!」「あの猪突猛進っぷりを、ほんの少しだけ見習いたい!」と、称賛されているとかなんとか。
「ったく……。そもそもあの万年番狂いでなくとも、そのような下種な思考を持つ者との縁組自体有り得ない……と、何故分からないのか」
舌打ちせんばかりのデーヴィスに対し、アルロが苦笑を漏らす。
「デーヴィス、分からないからこそ、そのような恐れ知らずな行動を起こせるのではないのか?というか、ハイエッタ侯爵はうちの家門の一つだから、彼等には大変申し訳ない事をしてしまった。……幸いというか残念というか、あの家は裏切り者達に与してはいなかったが……」
ハイエッタ侯爵家の娘であるフルビアは、元はアルロの嫡男であるアーウィンの婚約者であった。
ウェリントン侯爵家と懇意にしていた有力貴族であった為、監視の目的で結んだ婚約であったが、彼女は強欲で尊大な性格であるうえ、よりによって自分達……とりわけアーウィンが溺愛している末子のベネディクトを『大精霊の呪いを受けた忌み子』と罵しり嫌ったのだ。
それゆえアーウィンの怒りを買い、その強欲さを逆手にとってデビュタントで大恥をかくよう誘導された。勿論、その怒りを自分に向けさせ、婚約破棄をさせるまでがお約束である。
そんな経緯もあり、元々ヴァンドーム公爵家に睨まれていたわけだが、ここにきて公爵夫人が当の大精霊だったと発表されるのだ。
今迄「平民の血が入った混ざり者」扱いをし、密かに見下していた彼等や彼等に追従していた者達は、さぞかし肝が冷える事だろう。
「そういえば……。ハイエッタ侯爵家のご令嬢といえば、確かスワルチ王国の第二王子と婚約したと、うちの
フェリクスの言葉に、アイゼイアが「ふむ……」と顎に手を当てた。
「あの小国の王族とか……。さしずめ、この国の貴族の誰からも相手にされなくなったがゆえに、他国に手を伸ばしたというところかな?」
「あの国は以前より、我が国と友好を結びたがっておりましたからね。まあ、それでなくとも魔力量の高いアルバの女性を娶りたい者は多い。婚約は互いの利害が一致した結果でしょう。……ただ……」
思案顔になり、言葉を切ったフェリクスに、その場の視線が集中する。
「今回予定されている夜会に、その第二王子がハイエッタ侯爵令嬢のパートナーとして参加する予定だそうです」
「今回の夜会にか……。なんとも間が悪い事だ」
今回の夜会は、ヴァンドーム公爵領を守護する大精霊のお披露目もだが、裏切り者達の断罪の場にもする予定なのだ。友好国でもない国の王族が参加するとなると、いささか外聞が悪い。
「しかもその際、第二王子は自分の妹姫を連れてくるとの事です。……ですがその姫、どうやらスワルチ王国の教会から『聖女』認定を受けているとか……」
「……『聖女』……」
その言葉を聞いた全員が、渋面もしくは思案顔になる。
元来このアルバ王国は、世界でも類をみない程に顔面偏差値が高いとされている。
ゆえに、アルバ王国に訪れる他国の者達は、ごく一部の友好国以外は女性を連れて来ようとはしない。その理由はというと、連れてきた女性が十中八九、「母国には戻りません!ここに骨を埋めます!」と永住宣言してしまうからである。
希少な女性を取られると分かっていて、みすみすこの国に連れてこようという男はいない。
なのに今回、スワルチ王国の王子が希少な女性である妹姫を……しかも、国の宝とも言える『聖女』を、わざわざこの国に連れてくるというのだ。当然、そこになんらかの思惑があるだろう事は、馬鹿でも分かる。
「あわよくば、高位貴族や我が王家とその王女を縁続きにし、友好国になろうとしているのか?」
「ああ、多分そうだろう。しかし、入国をやんわり断ろうにも、我が国の貴族と縁続き……。しかも小国とはいえ、相手は王族だからな。それに、連れてくる相手が『聖女』では……。滅多な対応は出来ない」
『聖女』は女神様の使徒として、どの国でも崇拝の対象となる。ゆえに、その身分は王族と対等、もしくはそれよりも格上とされている。
それは大国であるアルバ王国であっても同様で、もしその王女がアシュル達を気に入り、自分の伴侶にと望んだとしたら、非常に厄介な事態になるだろう。
「ただまあ、『聖女』認定されているのに、あの帝国が手出ししていないところを見ると、それほど力がないのか、そもそも認定事態になんらかの意図があったのか……。……にしても……」
はぁ……。と、アイゼイアが憂い顔で溜息をついた。
「ハイエッタ侯爵家は、よくよく騒動を起こしてくれるな。いっそのこと、ウェリントンと同じ穴の狢であれば、後腐れなく潰せたというのに……」
どう考えても、
その場の全員が、アイゼイアに倣って溜息をついた。
「まあ、そういうわけですので、アルロ。ヴァンドーム公爵領での顛末にエレノア嬢が無関係……という前提がある以上、貴方の息子達は末っ子以外、全員エレノア嬢とは初対面……という体を取ってもらいます。なので求愛行動は控えるよう、くれぐれも厳重に言い含めておいてくださいね?」
「つまるところ、言いたいのはそこか!いやいや、むしろその王女に気の無い事を表明する為にも、私は息子達を止めないよ」
「おい!だったらうちの息子にも、ガンガンに攻めさせるからな!?」
「デーヴィス、張り合うんじゃない!!……フェリクス。引き続きその件を詳しく調べさせろ」
「承知しました。兄上」
「アイゼイア、私の方でもハイエッタ侯爵家とスワルチ王国について、綿密な調査をする事にするよ」
「ああ、頼む。……そういえばアルロ、お前のところで保護した転生者の故国だが、どうやら作物が原因不明の奇病にかかり、次々と枯れていっているらしい。あのままいけば、近い将来間違いなく滅ぶだろうとの事だ」
アイゼイアの言葉を受け、アルロがニヤリと口角を上げる。
「ああ、それはそうだろうな。なんせよりによって、女神様の愛し子を帝国に売ったんだ。滅ぶのは自業自得というものだ。……ところで、キーラ嬢の養子先の件だが……」
「ああ、それは今現在精査中だが、監視の意味も込め、ワイアット公爵家の家門から選ばれる可能性が高い」
「『影』を統括するワイアット家の家門か。ならば安心だな」
キーラの魔力スキルは『魔眼』に近い特性を持っている。多分だが、帝国の血が先祖返り的に濃く出てしまったのだろう。
フィンレー曰く、「あの赤子は、『キーラ・ウェリントン』としての意識や記憶がない、まっさらな状態だ」との事だが、成長するにつれ、いつその血が出るか分からない。そうなった時迅速に対応すべく、アルバ王国の暗部を統べるワイアット公爵家の家門が養い親となり、監視していくという事なのだろう。
「ああ、そうだな。……余談だが、その旨を通達したところ、今現在熾烈な争奪戦が繰り広げられているそうだ。まあ、奴らの気持ちも分からんでもない。なんせ、希少な魔力属性を持つ女児に加え、
「「「「ああ……」」」」
アイゼイアの言葉に、その場の全員が納得した。
確かに愛らしく魅力的な肢体(特に胸が)を持つ妻(予定)と、可愛い女児二人を同時に獲得出来るとあれば、どの家も血眼になるのは当然だろう。
「まあ、夜会まではまだ二ヵ月近くある。諸々の問題については、我々も臨機応変で対応するとしよう。……だが、例の第二王子と『聖女』の事もある。多分エレノア嬢には、きつい夜会デビューになるだろう」
「酷だと思うが……。彼女だったらどんな困難な時でも頑張ってしまうんだろうな」
――そう、彼女ならどんな時も精一杯頑張るだろう。……それも、斜め明後日方向に。
「……何故か、更に不安感が増してきたな」
「……それは言いっこなしですよ、兄上」
「まあ、オリヴァー・クロス伯爵令息がいれば、大抵なんとかなるんじゃないですか?」
「それだが、あの男だったら、笑顔で敵を葬り去った後、草木一本残さず燃やし尽くして証拠隠滅しそうな気がするんだが?」
アルロの言葉に、王家直系一同黙り込む。……確かにあの男ならやりそうだ。しかも今から散々こき使う予定だから、絶対鬱憤溜まるだろうし……。
「そういえば、あのキーラ嬢に操られた『影』の副総帥はどうなったんだ?」
不穏になった雰囲気を振り払うように話題を変えたアルロだったが、それに対し、アイゼイアが先程よりも深い溜息をついた。
「かなりの重症だったが、エレノア嬢の応急処置で一命は取り留めた。……王宮に戻された時、瀕死でモコモコのタンポポまみれになりながら、『姫騎士の愛に包まれている……なんたる至福』なんて呟いていたのを見た時は、真面目に息の根を止めてやろうと思った……」
「お、おう、そうか。まあ……その、なんだ。あの男も一応被害者だし、生きていて良かったよ」
「……それだがな。あの男、アリアの治療で完治した途端、アイザックの前で『姫騎士様の御身を危険に晒した不徳を、この命を持って償います!!』と、自決しようとしてな。慌ててアイザックが止めたんだ」
「へ、へぇ~……そうか。それは、まあ……。殊勝な心掛けだな」
「問題なのはその後だ!!『このような駄犬になんという寛大な……!!ではこれより、私めは姫騎士様の下僕となり、一生をかけて償っていきます!!』なんて言い放ったばかりか、嬉々として退職届を提出しやがったんだ!!今現在、ヒューバードが『それはただのご褒美だろうがー!!貴様なんぞ、いっぺん死ね!!』と言いながら、徹底的に奴をしごきまくっている。まあ、死んではいないと思うぞ?……多分な」
アルロは、血管がブチ切れそうなアイゼイアを冷や汗を流しながら見つめ、心の中で『……そうか。あの男、真実
「まあ取り敢えず、奴の事も近況報告もここまでにして、『
「ああ、そうだな。『招かれざる客』が多少気にかかるところだが……。今はこの国に巣食う裏切り者達を徹底的に洗い出し、断罪する事が先決だ」
――侯爵令嬢の婚約者である他国の王子。そして、『聖女』であるという王女。
全員が嫌な予感を覚えるも、それらは一旦頭の片隅に押しやる事に決めたのだった。
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色々と「あの人は今!?」的に近況報告盛り盛りです。
そして、新たな火種がアルバ王国にやってくる事が決定!つるむ相手が相手なだけに、誰もが嫌な予感満載な事でしょうね。
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