第552話 本日、(兄が)旅立ちます

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「エレノア、では行ってくるよ」


「はい、オリヴァー兄様」


ヴァンドーム公爵領からバッシュ公爵家に戻った翌日、早速とばかりに王家からの迎えの馬車がバッシュ公爵家へとやって来た。

理由は勿論、オリヴァー兄様を王宮にドナドナする為である。


「オリヴァー兄様。王宮でのつつがないお勤め、心よりお祈り申し上げます」


「うん、有難う。エレノアも元気で……!」


クライヴ兄様とセドリック、そしてバッシュ公爵家の使用人一同が勢揃いする中、オリヴァー兄様は私を優しく抱き締める。私もそんな兄様の身体に手を回し、精一杯の気持ちを込めて抱き締め返した。


「オリヴァー兄様。お会いできる日を、一日千秋の思いでお待ちしておりますね?」


「……………」


「……えっと……。オリヴァー兄様?……あの、そろそろご出発されないと……。もう二十分ほどお待たせしていますよね……?」


そう。実はこのやり取り、かれこれ十回目である。私達以外の、ここにいる全員のジト目が全方位からブッ刺さってきて、なにげに痛い。


けれども、そんな視線もなんのその。オリヴァー兄様は全く気にする事無く、感情の赴くまま、私をぎゅうぎゅう抱き締め続ける。


「――ッ……!!これから暫くの間、愛する君と離れ離れになるばかりでなく、会うことすら出来ないだなんて……!!僕の愛しいエレノア!ああ……もっとよく僕に君の愛らしい顔を見せておくれ!」


「…………」


身体に回していた手を離し、強引過ぎない絶妙な力加減で頬をそっと両手にあて、顔中に優しくキスを落とすオリヴァー兄様。


いつもだったら顔から火を噴き、心の中で『うきゃー!!』と絶叫していたものだが、こちらに帰って来てからずっと、「一分一秒でも離れたくない!!」と宣言したオリヴァー兄様に抱っこされ、なにをするにもどこに行くのも一緒。トイレ以外、ずーっと一緒。しまいにはオリヴァー兄様のベッドに強引に同衾させられ、一晩中抱き枕状態でキスされまくりながら、「愛している」と囁かれてしまえば、流石に私の今現在の心境は『無』である。頭の活火山も噴火し過ぎ、マグマも枯れ果て、死火山と成り果ててしまっている。

(しかも兄様……。文字通り、穴が空く程見つめられているというのに、これ以上「顔を見せてくれ」とはこれいかに?)。


そう。これからオリヴァー兄様は、長年王家とヴァンドーム公爵家が調べ続けていた、帝国に与する裏切り者達を芋づる式に捕縛するお手伝いをする為、ワイアット宰相様とアイザック父様の元に向かうのである。


ちなみにその出仕期間は約一ヵ月。


これ、ヴァンドーム公爵領でのオリヴァー兄様のやんちゃに対し、父様が下した罰なんだけど、それに加え、「なんという良いタイミング!これから激務になるの決定だし、キリキリ働かせよう!」と、大喜びしたワイアット宰相様預かりとして、存分にこき使われる事が決定されたのである。まさに哀れな子羊!(「哀れでも子羊でもないがな」とは、クライヴ兄様のお言葉です)


しかもその間、私との接触は全面的に禁止である。当然というかオリヴァー兄様は大反発した。


そんなオリヴァー兄様に対しアイザック父様は、「オリヴァー。そもそも王城への出仕自体、君へのお仕置きだったんだからね?……嫌なら筆頭婚約者を……いや、君なら僕がなにを言いたいのか……分かるよね?」……なんて穏やかに微笑を浮かべながら、オリヴァー兄様の抗議を一蹴した。


対するオリヴァー兄様はというと、一転して大人しくなった。うん、そりゃあ伝家の宝刀である『筆頭婚約者のすげ替え』を言われてしまえばそうだろう。


それにしても、いつものぽやぽやした父様らしからぬ、有無を言わせぬあの迫力。どうやら父様、ワイアット宰相様じゃないけど、折角の貴重な戦力を逃す気はないようだ。


「オリヴァー、もういい加減観念しろ!ほれ、迎えの連中のあのツラ見て見ろ。ブチ切れかけてんじゃねぇか!!」


先程から、呆れながらこちらを見ていたクライヴ兄様が言う通り、迎えに来ている従者や騎士様方の笑顔が黒い。しかも全員、もれなく青筋を立てているのが見える。


まあ、それもそうだよね。迎えに来たのに一向に出発する気配も見せず、延々目の前でバカップルよろしく(私の意志ではないけど)私とイチャイチャしていれば、誰だってキレるだろう。皆様、お目汚し大変申し訳ありません。

(因みに、何故騎士様方までいらっしゃっているのかというと、万が一オリヴァー兄様が逃亡した時の為だそうです)。


「……くっ!行きたくないっ!!」


「行きたくなくても行くしかないんだよ!しまいには公爵様が怒るぞ!?一ヵ月のお仕置きが二ヵ月になってもいいのか!?」


「そっ、それは……嫌だ!!」


「だったら、気合入れて頑張ってこい!!」


言い終わるなり、クライヴ兄様はオリヴァー兄様の首根っこを引っ掴んで私から引き剥がすと、馬車の中へと放り込んだ。


オリヴァー兄様が馬車に放り込まれたと同時に、すかさずドアに鍵代わりの防御結界が張られ、あれよという間に馬車が出発する。


「オリヴァー兄様ー!頑張ってくださーい!!」


「エレノアー!!……クライヴ!セドリック!抜け駆けは許さないからねー!!それと、リアム殿下への牽制も忘れないようにー!!」


「余計な事考えてねぇで、しっかり仕事しろー!!」


「そうですよオリヴァー兄上!心頭滅却ですよー!?」


窓から身を乗り出し、色々と叫んでいるオリヴァー兄様に、私とクライヴ兄様、そしてセドリックが口々に激励(?)しながら手を振る。


やがて、馬車の姿が見えなくなったと同時に、「……さて!」と、良い笑顔を浮かべながら、クライヴ兄様がクルリと振り返った。


「そんじゃあエレノア、セドリック、お茶するかー!」


「ええ、そうですね!エレノア、君の為に新作の『ワガシ』も作っておいたから、楽しみにしてて!」


「う、うん」


クライヴ兄様とセドリックが嬉しさを隠しきれない様子で、私を代わる代わる抱き締めキスをする。


二人とも、これから王城で監禁生活ならぬ仕事漬けの毎日を送るオリヴァー兄様への手向けとして、昨日一日オリヴァー兄様が私を独占するのを黙認していたからなぁ……(流石に同衾する時は言い争いしていたけど)。二人とも、実は凄く鬱憤溜まっていたんだね。





◇◇◇◇





「そういえば、二ヵ月後ぐらいに王家主催の夜会が開催されるそうだぞ?」


クライヴ兄様にお膝抱っこされ、セドリックの新作菓子である『粟大福』を給餌され、ヤムヤムと食べていた時。ふいにクライヴ兄様が口にしたお言葉に、『えっ!?そうなの!?』と心の中で声を上げる。

すると、ジョゼフが淹れてくれた緑茶(聖女様からのお裾分け)を飲んでいたセドリックがソーサーにカップを置いた。


「では、その場でリュエンヌ様のお披露目と、裏切り者達の断罪を?」


「そうなるだろうな。まあ、情報の精査と捕縛の進捗状況によるから、まだ正式な日取りは決まっていないみたいだがな」


「開催日は多分、もう少し早くなると思いますよ?なので早急に、エレノアのドレスと我々の礼服の注文をジョナサンにしておきましょう」


「は?なんでそう思うんだ?」


「だって、あのオリヴァー兄上ですよ?仕事が終わらなければエレノアに会えないのですから、一分一秒でも早く終わらせようと、死ぬ気で頑張る筈です」


含み笑いで話すセドリックの言葉に、クライヴ兄様も私も「「成程……」」と納得した。


つまり、『出仕中は私に会えない』っていうのは、ペナルティであると同時に、オリヴァー兄様に対する発破だったというわけですか。さしずめ私は、馬の前にぶら下げられた人参ってトコですね?


「でも兄様……。一か月間もなんて、大丈夫でしょうか?」


『万年番狂い』と称される程、私を溺愛しているオリヴァー兄様である。いくら罰とはいえ、こんなにも長い間離れ離れになってしまうのだ。真面目に兄様の精神状態が心配だ。


それに私の方も、この世界に『エレノア』として覚醒して以降、こんなにも長い間オリヴァー兄様と離れ離れになるなんて事なかったから、どうしても落ち着かないし寂しい。


「せめて週に一回だけでもお会いするというのは……」


「駄目だ。それじゃあ罰にならないだろう?オリヴァーを徹底的に反省させる為には、心を鬼にする事が大切なんだ」


「そうだよ、エレノア。それに君と暫く会えないのって、オリヴァー兄上だけじゃなくフィンレー殿下もなんだよ」


「えっ!?そ、そうなの!?」


なんでもフィン様が「鬼の居ぬ間に!」と私に会いに行っていたら、兄様の精神衛生上不味いという事で、なんとフィン様、騎士団の訓練所に放り込まれたんだそうだ。


名目は「王族として魔法だけじゃなく、もうちょっと身体鍛えろ!」だそうなんだけど、どうやら私に水着を着させ、恋敵であるヴァンドーム兄弟の目に晒させた……というのが主な理由らしい。つまりはオリヴァー兄様と同じく罰って事ですね。


そういう意味ではディーさんも、ヴァンドーム公爵家に自分達も私の婚約者だって事をうっかりばらしたとして、フィン様が『闇』の魔力で得た情報により発覚した、トカゲの尻尾ならぬ、トカゲの胴体を片っ端から捕縛する為、連日飛び回っているそうだ。ご苦労様です。


因みにだけど、今回の捕縛&断罪は、アシュル様方が主体となり事に当たるよう国王陛下より下知があったらしく、学生であるリアム以外、全員私と会う暇もないぐらい忙しいとの事です。


「俺はお前の婚約者であり、護衛兼専従執事だ。オリヴァーやアシュル達には悪いが、公爵様から『君はエレノアから離れないでくれ』って言われてんだよ。ふ……。なんだかんだいって役得だな」


そう言いながら、蕩けそうな笑顔を浮かべながら私の唇にキスをした後、バトンタッチとばかりに、真っ赤になった私をセドリックに渡すクライヴ兄様。セドリックも嬉しそうに、私を膝抱っこしながら唇にキスをする。


「僕もクライヴ兄上同様、君の婚約者だからね。それに、学院ではリアムと一緒に君を全力で守る為に、ずっと君から離れないから。……ああ、なんかこうして君をゆっくり堪能出来るの、凄く久し振りな気がする……」


「今まで、なんだかんだとこうしてゆっくりエレノアと過ごす時間が減っていたからな……」


「ですね。今すごく、幸せを実感しています……」


「クライヴ兄様……。セドリック……」


確かに。こうして二人とまったりのんびりって凄く久し振りだ。しかも二人が凄く幸せそうなので、私にもその幸せオーラが伝わってくる。


物凄く照れくさいけど、気分がほわほわ浮き立ってしまう。今現在大変なアシュル様方や、これから父様達に容赦なくこき使われてしまうオリヴァー兄様には申し訳ないんだけど……。うん、たまにはこういう時間もいいなぁ……。



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オリヴァー兄様がドナドナされました( ;∀;)

そして、久し振りのバッシュ勢婚約者達による蜜月ですv

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