第352話 溺愛の海と木っ端
「エレノア!僕の愛しい人!」
「アシュ……んんっ!」
アシュル様はサロンに入るや、先程までの完璧な王太子の皮を瞬時に脱ぎ捨て、激情のままに私を抱き締め、激しく口付けてきた。
「ああ、やっと君にこうして触れる事が出来る……!エレノア、君が僕を受け入れてくれたなんて、本当に夢のようだ。愛しい人、これが夢ではないって事を、僕に確かめさせておくれ」
脳と耳にブッ刺さりまくる、超絶色気満載な愛の囁きに、アワアワと真っ赤になって翻弄されまくっている私に対し、熱に浮かされるような表情で口付けを繰り返すアシュル様。
その激情に、私は正しく大海に浮かぶ木っ端のごとく、翻弄されまくるしかない。
し、しかも……!こんだけ激しく口付けていても、絶妙なタイミングで息継ぎさせてくれるこのテクニック!こ、これが選ばれしDNAの放つ、男子の嗜みってやつなんですか!?うう……!さ、酸欠ではないのに、頭の奥が甘く痺れてボーっとしてきてしまう……!!誰か……誰か、ヘルプ!!
「……アシュル殿下……。もうそろそろ落ち着かれませんか……?」
そんなアシュル様に対し、地を這うような声音でオリヴァー兄様がストップをかけた。
……うん。見なくても分かる。今絶対、兄様の背後からは暗黒オーラが噴き上がっているに違いない。
すると、流石は選ばれしDNAの頂点。ぐったりとした私をガッチリホールド……いや、抱擁する腕は緩めずとも、オリヴァー兄様の制止を受け、渋々キスは止めてくれました。た……助かった……!
「
「度が過ぎた愛情の押し売りは如何なものかと忠告しただけです。
「やれやれ。筆頭婚約者の強権を笠に着て、愛する者同士の語らいを邪魔しようだなんて……。そういうの、いけないと思うよ?オリヴァー」
「余計なお世話です!それに、エレノアが困っているのが分からないんですか!?……だいたい、愛する者同士とは言っていても、失礼ながら愛の比率が偏りまくっておられますよね?やはり積み重ねて来た年数の差というものは、口にせずとも顕著に現れるものなのですね……」
オ、オリヴァー兄様。なんか副音声で「新参の分際で愛する者同士だと?片腹痛いわ!僕らがエレノアと育んできた愛の年数舐めんなよ!?」って聞こえてくるのですが!?
「……ふふ……オリヴァー。君とは一度、とことん話し合わなくてはいけないかなって、常々思っていたんだよ……」
ひぃっ!!オリヴァー兄様のお言葉を聞いたアシュル様の背後から、暗黒オーラが噴き上がったー!!ああっ!し、しかも顔半分に影が!こめかみに青筋がっ!!
「……奇遇ですね……。僕もアシュル殿下とは常々、話し合いの場を持ちたいと思っていたところですよ……」
いやーっ!!オ、オリヴァー兄様の背後からも、安定の暗黒オーラがー!!ああっ!目!目の色も紅くなっちゃってるー!!
白と赤のプラズマが飛び交う、激しくも静かなる戦いに気を取られていたら、いきなり身体が浮遊感に包まれた。
「――ッ?」
何事!?……って、あ!フィン様の闇の触手だ。
う~ん……。こうも毎度、グルグル巻きにされてると、「きゃー」も「わー」も出てこなくなるなぁ。……あ、ウィルやミアさんは物凄く慌てている。近衛騎士の皆さんは……うん。動揺している様子はない。そりゃそうか。王宮で浮いてる姿、何度も見た事ありますもんね。慣れますよね普通。
そのままふよふよと闇の触手に運ばれ、ポフンとフィン様の胸に抱き締められる。と同時に、顎をクイッと掬われる。
「――ッ!」
先程見せていた無表情から一転。熱のこもった表情と瞳が、私を絡め取るように見つめてくる。
思わず息が詰まり、全身が熱を帯びてくるのが分かった。
「フィンさ……」
「エレノア……!」
胸の鼓動がドコドコとうるさい。
多分、顔と言わず、全身真っ赤になってしまっているだろう私を見て目を細めたフィン様は、そのまま顔を近付け、唇を重ねた。
「んっ!」
先程の、アシュル様との甘い口付けの余韻も醒めぬまま、息継ぎもままならない程ゆったりと、深い口付けを繰り返される。
というか、フィン様の闇の魔力ゆえか、蕩けるような安心感が私を包み込んでくる。
本人は至って病み属性でヤンデレだというのに……。こ、この包容力は……ズルい!
……ん?首筋になにやら温かいものが……?
「フィン!そこまでだ!!」
「フィンレー殿下!僕とアシュル殿下が話し合いをしているどさくさに紛れて、何やってるんですか!?しかも貴方今、ご自身の魔力使いましたね!?」
ほぼシンクロで、青筋立てながら制止の言葉を投げつけるアシュル様とオリヴァー兄様。ってか話し合い?罵り合いの間違いじゃ……。
「……はぁ……。やれやれ、折角いいとこだったのに……!」
そんな二人に対し、舌打ちしながら顔を上げたフィン様。……って、わ、私、何をボーっとしてたんだ!?普通だったら今頃、鼻腔内毛細血管が決壊している筈……。
はっ!ひ、ひょっとしてこれが、闇魔力の持つ鎮静作用!?あ、危なかった……!恐るべし、
「そーだぞフィン!!俺だって、唇へのキスまでしかしてねぇんだからな!?抜け駆けすんな!」
「フィン兄上って、そういうトコちゃっかりしてるよな!」
ディーさんとリアムのブーイングに対し、フィン様はフンと鼻を鳴らした。
「言っとくけど、僕は自分の気持ちに正直に行動しているだけだから。それに、さっきアシュル兄上も言ってたけど、僕とエレノアは正式に婚約者になったんだから、エレノアが嫌がらなければ何やってもセーフでしょ?と言う訳でこれから、どんどん攻めてくつもりだから。よろしくね、エレノア」
フ、フィン様!「よろしくね」じゃありません!そんな邪気の無い、曇りなき眼で嬉しそうに
あっ、ロイヤルズの皆さん!「そ、そうか。そうだよな!」「うん、一理ある!」って、なに納得顔して頷いてんですか!?
「フィンレー殿下!貴方に先を越されるつもりはありませんよ!?」
ああっ!暗黒オーラがマックスに!やめてー!オリヴァー兄様!!お願いだから、張り合わないで!!
「オリヴァー、そしてセドリック。どうやら俺達も、新たなる連携が必要なようだな!!」
「その通りです!ここは古参の婚約者として、新参に後れを取る訳にはまいりません!!」
だーかーらー!!クライヴ兄様とセドリックも張り合わないで!!
わーん!これじゃあ本当に、男大奥だよー!!
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でもこの木っ端、何気に逞しかったりします。
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