第395話 婚約者達のはっちゃけとお見舞い

私のデビュタント……という名の、帝国襲撃聖女誘拐未遂事件が起こった翌日。


一番鳥ならぬ、朝一で発した私の絶叫で飛び起きた皆が、「何事!?」と駆け付け……私がオリヴァー兄様と同衾している姿を、バッチリ発見されました。


「……オ……オリヴァー様……?」


「お……お嬢様のお部屋で……何を……!?」


ひぃぃー!!目!皆の目が恐いっ!!ってか、ミアさんのナイトウェア、ネグリジェタイプで可愛い!しかもナイトキャップ、しっかり耳穴が開いてるー!


……なんて現実逃避をしていた私を腕の中にすっぽり収めたオリヴァー兄様が、満面の笑みで一言。


「婚約者同士なんだから、同衾ぐらいするよね?」


……わぁ……兄様。

今日も朝から暗黒オーラが噴き上がっていて心臓に悪いです。


「……はい」


「……失礼致しました」


「……お休みなさいませ」


兄様の圧に敗北した皆が、ゾロゾロと部屋から出て行き、残ったのはクライヴ兄様とセドリックだけだった。

動揺も非難もない凪いだ表情から、この二人だけはオリヴァー兄様の行動を把握していた模様。


「あれ?イーサンは!?」


ハッと、私命の家令を思い出す。


こういう時、真っ先に駆け付けて来そうなのに、どうしちゃったのかな?


『イーサン様は、王都に帰る方々の護衛の手配と、お見送りをなさっておられます』


ああ、成程。そうかー。私の代わりに寝ずに事後処理を行ってくれているんだね。有難う御座います。


――……ってー!!い、今!天井から声が聞こえてきたんですけど!!?


慌てて天井を見上げると、「あっ!ヤバッ!」って感じに、分かり易く動揺した気配が!な、なにヤツ!?


「ああ。聞き慣れない声だったから、多分本邸ここの『影』だろうね」


「そーだな。王宮の『影』は、アシュル付きの奴ら以外、殆どが王都に帰還するって、クライン総帥が言っていたからな」


「でも気配的に、クロス伯爵家の『影』と、王都邸の『影』もいるっぽいですよね」


へぇ~……って!な、なんだってー!?何で『影』の人達が、そんなにわんさか天井裏に潜んでいるんですか!?……え?見張り?誰の?……ああ、オリヴァー兄様の……。成程。


いやいやいや!!って事は、私の寝姿沢山の人達に見られていたって事ですよね!?なんてこったい!プライバシーの侵害ですよ!?というより、しっかり覗きです!!お巡りさーん!!


「だって、仕方がないんだよ。彼等を潜ませているのが、君と同衾する条件なんだから」


誰ですか!そんな条件出した人は!?……イーサン……?それと、王都の父様方?未成年の女子と同衾する際には、間違いが起こらないように、天井裏に影が潜んでいるのは常識?


なんちゅう常識だ!!そもそも未成年者と同衾しなけりゃいいじゃないか!!


「いいや、これも婚約者教育の一環だから」


オリヴァー兄様が、サラリとそんな言葉をのたまう。いやいやいや!!


「そ、そう言えば、何もかも許されると思っていますね!?も、もうその手には乗りませんよ!?」


オリヴァー兄様の腕の中に抱き締められたままの締らない状況で、精一杯キリッとした顔で抗議する。


私がこの世界の男女のアレコレに疎いからって、いつまでも騙せると思わないで下さい!私だって、日々成長しているんです。


「いえ、お嬢様。オリヴァー様の仰る通りですよ?」


「えっ!?」


ふと見れば、先程寝間着で駆け付けて来たウィルが、バッチリ召使いの恰好に着替えて立っていた。


「ウ、ウィルはオリヴァー兄様達の味方だから、信じないもん!」


「でもお嬢様。オリヴァー様やウィルさんの仰る通りみたいですよ?」


「ミ、ミアさん!?」


やはり、メイド服に着替えてやって来たミアさんによれば、王宮で働いている仲間達も、同じような事を言っていたのだそうだ。

ちなみに、彼女らにこの世界の……いや、アルバ王国の男女間のアレコレを教えてくれたのは、彼女達の恋人、もしくは婚約者の方々だそうです。


「あ、ちなみにだけど、クライヴは明日、セドリックは明後日に同衾する予定だから」


ちょっとー!!何を勝手に決めてんですか、あんたらは!!


「だって、言う前にエレノア寝ちゃったし」


「色々あったんだ、疲れたんだよな」


「じゃあ、エレノア。まだ早いから、このまま二度寝しようか?」


――しません!!


しかも昨夜は疲れて寝ちゃったんじゃなくて、貴方がたに、半ば強制的に口移しで魔力譲渡させられたから、(精神的に)ヘロヘロになっちゃっただけです!!


そう文句を言うと、「あはは、そうだったね!」「でも、よく眠れただろ?」「あれ、凄く気持ち良かったから、またお願いね?」……と口々に言いながら、流れるような連携プレーで朝のご挨拶(キス攻め)に遭ってしまった私です。


その後、羞恥とテクで、再びヘロヘロになった所を、ミアさんとウィルにポイッとバトンタッチ。そのまま身繕い開始。


……おかしい!これで良いのか私の人生!?


「オリヴァー様も、クライヴ様も、セドリック様も、ようやっとエレノアお嬢様と婚約者同士水入らずですから、嬉しくてたまらないのですよ」


……とは、ウィルの言葉。


ミアさんも笑顔で同意するように頷いていたけど、あの流れるようなファインプレーは、婚約者を独占出来る喜びからきていたのか……。アルバ男の原動力って、本当に『愛』なんだなぁ……。





◇◇◇◇





「ふふ……成程。バッシュ公爵領には、君の修行が目的で来た訳なんだけど、本来であれば『直系の姫の婚約者』として、ディラン達抜きで合い間に視察をしたり観光したり、君を独占出来た筈だったからね」


「は、はぁ……」


「けれど、帝国が絡んできてこの騒ぎ……だったからね。弟達も帰った今、改めて仕切り直しと、オリヴァー達が浮かれてタガが外れるのも無理はない」


ナイトウェアを着た状態で、ベッドの中、身体を起こしながら楽しそうに笑っているアシュル様に対し、私は引き攣り笑いを浮かべた。


だって、彼等は朝食の席でも、スープとパンの時はオリヴァー兄様、メインのフレンチトーストはクライヴ兄様、デザートはセドリック……と、代わる代わる私を膝の上に乗せて餌付けしてくれたのだ。

召使いや給仕の皆さんは動じていなかったけど、私の羞恥心はMAXで、味なんてしませんでした!


「全く、彼等も愛が重いねぇ……。まあ現状、君といちゃついて浮かれているから、こうしてお供も無しに、君を僕のお見舞いに送り出したんだろうけど」


「そんな事!兄様方もセドリックも、アシュル様にはとても感謝しているんです。勿論、私も……」


そんな私を、いつもの甘やかな笑顔で優しく見つめるアシュル様。


朝日が黄金の髪をキラキラと照らしだして、物理的に物凄く眩しい。そしてその輝きが目にブッ刺さって、正直辛い。


「じゃあ、ご褒美貰える?」


「ご褒美……ですか?」


「うん。今君が持って来てくれた、例の『フリーズドライ』の苺。食べさせてくれる?」


なんとも(兄様達に比べて)可愛らしい要求をしてきたアシュル様が唇を開いた。


――ッくぅ……ッ!!開いた唇からチラリと見える舌が……エロイ!!


ドコドコと激しい動悸息切れを悟らせないよう、震える指先を叱咤し、苺をアシュル様の口元に持って行くと、シャクっと小気味いい音が響いた。


「……うん、美味しい!初めて食べたけど、凄くイケるね!これは……癖になりそうだな!」


「――ッ!」


アシュル様の『癖になりそう』発言に、兄様達の言葉を思い出して、思わず赤面してしまう。


「そ、そう言えば私、アシュル様の所に行く前に、ティルのお見舞いに行ったんですけどっ!」


誤魔化すように話題を変えると、アシュル様も「ああ、彼か」と口端を上げた。


実はティル、会場に帰還した後で意識不明になってしまい、クリス団長と一緒に、アシュル様に癒してもらったのである。

そんで傷は全快したんだけど、失った血は元に戻らないという事で、今現在絶対安静しているという訳なんです。


ちなみに、なんで王族のアシュル様より先にティルのお見舞いに行ったのかというと、アシュル様、その時はぐっすりお休みだったって、天井裏の『影』さんが教えてくれたからです。

……プライバシー云々はともかくとして、何気に便利だな。


「ティル、アシュル殿下に治してもらったって知って、凄く悔しがっていました」


「え?そこ、僕に感謝するところじゃ?」


戸惑うアシュル様にかぶりを振る。


「いえいえ、そうじゃなくて、『なんで、俺が意識不明の時に来るんすか!意識があったら、感謝が極まったフリして、手ぇ握ったり腰触ったりできたかもしれなかったのに!!』……だそうです」


うん、アレは本気で悔しがっていた。……やっぱりティルはティルだったなぁ……。なんか凄くホッとしたよ。


「……そっか。じゃあやっぱり、あの時治しておいてあげて良かったね。じゃなかったら折角治療したのに、うっかり半殺しにする所だったよ」


笑顔でしみじみとそう仰るアシュル様。どことなく目が虚ろです。

御免なさい。うちって本当、主従揃って不敬の極みなんです。




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兄様方とセドリック、愛がスパークしておりますv

そして遂に、天井裏の秘密が暴かれてしまいました!!Σ(゜Д゜)

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