第394話 無実です!!

……皆様、今日は。エレノアです。


一体誰に挨拶をしているのだ?と言われそうですが、特に誰に話している訳ではありません。

これは私の現実逃避の一環ですので、あしからず。


あのフィンレー殿下の爆弾発言により、サロン内は当然のことくカオスと化した。


「エレノアーッ!!フ、フィンレー殿下と一つに……って!!一体何が!?……ま、まさか……!!あの短時間で、口には出せないおぞましい事を……!?そんな……そんな事、絶対に許せない!!それが事実であったとしたら……フィンレー殿下と刺し違えて僕も死ぬっ!!」


ひぃぃー!!王族殺害計画!!しかも「お前を殺して僕も死ぬ!!」発言キター!!


「お、お、おち、落ち着いて下さい!オ……リヴァー兄様!!私は潔、白、です!!無 実 です!!し、信じて……くだ……さいっ!!」


絶世の美貌に怒りと絶望に塗れた表情を張り付け、鮮血のように真っ赤に染まった瞳を血走らせながら、両手で私の肩を掴んでガクガクと揺さぶる兄様に、私は途中途中で舌を噛みそうになりながら、必死に無実を訴えた。


「オリヴァー!!」


ク、クライヴ兄様!!


助かったー!お願いです、クライヴ兄様!オリヴァー兄様を止めて下さい!!


「王族に一人で立ち向かうなど、無謀の極みだ!るなら俺も共に……!!」


ああっ!と、止めるどころか、介添え役(?)に立候補ー!?


「兄上方!」


セ、セドリック!?


「勿論、僕もお供いたします!!」


せんでいいー!!ってかあんたら、頼むから私の話を聞いて!?


「フィン!!お、お前……お前という奴は!!い、いつの間に、そんな美味しい事をエルと!?……いや、ってかお前、裏切り者と対決していたんだよな!?エルと一つになって、なおかつ気持ち良くなる時間なんてあったか!?」


デ、ディーさんっ!?兄様達よりも、割と的確に検証しているのは意外!

……でも貴方って人はっ!!なんでそんな卑猥に聞こえるワードをズバッと直球で口にしてるんですか?!デリカシーってもんが無いんですか!?……うん、無いんだろうな!


じゃなくて!!


それ誤解だから!!魔力注いだだけですから!!フィン様ー!は、早く訂正してー!!


「ディラン兄上。僕は敵と戦う為に、エレノア(の魔力)と一つになったんだよ。相性良かったのか、僕とエレノア(の魔力)はすぐに混じり合えた。あんなにも蕩けそうに甘美な感覚は初めてだったな……。やっぱり愛する人(の魔力)と一つになるって、違うんだね……。エレノア、またお願いね」


フィン様ー!!貴方って人はっ!!訂正するどころか、更に火に油を注ぐような事をペラペラとっ!!

ってか、「の魔力」って付け足さないの、わざとなの!?ねえ、わざとなんですか!?


「エ……エレノア……!!そんな……本当にフィン兄上と……!?オ、オリヴァー・クロスに奪われるならともかく、まさかフィン兄上に先越されるなんて……!!」


こらー!リアム!!馬鹿正直に信じた挙句、絶望すんなー!!


そしてヒューさんにマテオ!貴方がた、殺害予告をぶちかましたオリヴァー兄様やクライヴ兄様にじゃなくて、なんでフィン様に殺気向けてんですか!?一応お仕えする主人なんじゃないんですか!?


「フィンッレーッ!!」


ああっ!アリアさんが鬼の形相でフィン様に近付くなり、フィン様の頬っぺたを左右にみょーんって伸ばしたー!!


「あんたって子はー!!この口っ!?この口がやんちゃしているのね!?このお馬鹿ー!!ってか、あんたの言う通りだとしたら、未成年淫行罪だからね!?私を犯罪者の母にするつもりかっ!この馬鹿息子ー!!」


「いひゃぃ!いひゃいってば!ははうへ!」


フ、フィン様のお顔が、凄く残念な事に……!でも残念ながら笑える状況じゃない!!


「聖女様!」「お気を確かに!!」って、呆然自失になっていた近衛騎士様方やミアさん達が我に返り、必死に止めて……あああ、もうっ!!


「皆さん、落ち着いて下さいー!!フ、フィン様と一つになったのって、私の『魔力』ですから!!」


まさに混沌としてしまったカオスな現状を打開すべく、私は真っ赤になりながら、精一杯頑張って声を張り上げた。


そしてその甲斐あってか、オリヴァー兄様やクライヴ兄様、セドリックは元より、ディーさん、リアム、ヒューさんにマテオの目が「へっ?」とばかりに点になった。


私はそこから更に詳しく、あの時何があったか説明をした。

すると皆、安心したのか脱力したのか、そのまま次々とソファーに撃沈していった。


「……良かった……。エレノアの純潔が無事で……!」


オリヴァー兄様が、ガックリと脱力しながらも安堵の溜息を漏らし、クライヴ兄様とセドリックもそれに同意するように頷く。


いや、ちょっと待って下さい貴方がた!


いくらフィン様の言い方がアレだったとは言っても、なんで純潔散らしたってトコまで飛躍しちゃってんですか!!

特にオリヴァー兄様!普段あんだけいがみ合ってるってのに、フィン様のお言葉信じ過ぎ!!


「悪かったわね、エレノアちゃん。このバカ息子は王都に戻ったら、そりゃあもう厳しく躾けるから安心して!」


ニッコリ笑顔に青筋を立てたアリアさんに、フィン様が耳を摘ままれながら小さく「いてててっ!」と言っている。頬っぺたはさっき引っ張られた影響で真っ赤です。


「だって、そりゃあ短縮しちゃったけど、先に不敬発言しまくっていたのはあっちなんだし、少しぐらい慌てさせてもいいと思うんだけど?」


「お黙んなさい!!言っていい冗談と悪い冗談ってのが、この世にはあるのよ!!」


うん、アリアさんの言葉に全面的に同意します。ってか、貴方の爆弾発言、敵味方構わず被弾させてましたよね?


「母上、冗談じゃなくて、僕は真実を……」


「黙れ、バカ息子!いーからさっさと転移門作んなさい!!」


「いたーっ!!ちょっ、母上!爪!爪食い込んでる!!」


悲鳴を上げながら、フィン様が、今迄で一番大きな転移門を構築する。


今回、アリアさんやディーさん、リアムと一緒に、ヒューさんやマテオ、そして獣人メイドさんや近衛騎士様方も帰るからだろうけど、あのメル父様ですら、一瞬では構築出来ない転移門を、こうもアッサリ構築するとは……。フィン様の持つ『闇』の魔力がどれだけ強大なのかがよく分かる。


……ってかフィン様。オリヴァー兄様達に殺されそうになっても、転移門で逃げられるから、煽るだけ煽った……なんて言いませんよね!?





「エレノアちゃん、そして皆さん。これ以上ここにいたら、このバカ息子が何を言い出すか分からないし、夫達も待ちくたびれているだろうから、さっさと帰るわね!こんなお別れになってしまって、本当に御免なさい」


そう言って、青筋を立てたままニッコリと聖母の微笑を浮かべるアリアさんに対し、私、オリヴァー兄様、クライヴ兄様、そしてセドリックは乾いた笑顔を浮かべながら、それぞれカーテシーや貴族の礼を取った。


ちなみにだけど、お見送りに駆け付けたイーサンの態度は通常運転として、その背後に控えているバッシュ公爵家の家臣達はと言うと……。

王宮で私の世話をしてくれていたウィルやミアさん以外は先程の騒動を受け、顔を引き攣らせていた。……うん、このカオスは見慣れないよね。特にアリアさんの肝っ玉母さんっぷりがね……。


「エル!またすぐ王宮で会おうな!」


「エレノア、ちゃんと無事に帰って来いよ!?」


口々にそう言いながら、ディーさんとリアムが私を抱き締め、別れを惜しむ。フィン様はというと……。ヒューさんに拘束されて小脇に抱えられていました。その口にはしっかりと猿ぐつわが!……あの……。いいんですか?それ……。


デヴィンはというと、厳重に拘束され、ヒューさんの部下であろう人に担がれている。

彼はこのまま王都に連れていかれ、改めてフィン様や宮廷魔導師団の手により、情報を根こそぎ搾り取られるのだそうだ。


「エレノアちゃん、それじゃあまた。アシュルの事、宜しくね」


そう言うと、アリアさんは私を優しく抱き締めた。私もそれに応える。


「はい!アリアさん。バッシュ公爵領に来て下さって、本当に有難う御座いました!心から感謝します!……あの……アリア母様、またね?」


こっそりと、最後の言葉をアリアさんにだけ聞こえるように、小さな声で囁く。するとアリアさんは、物凄く嬉しそうに、とびっきりの笑顔を浮かべた。




……そうしてアリアさん達が帰ってしまった後。


「君との一番を奪われた!」と拗ねるオリヴァー兄様を宥める為、フィン様にやったのと同じ事を、今度は口移し(…)でする羽目になったりとか。

それを見て羨ましがったクライヴ兄様やセドリックとも、同じ事をする羽目になって、意識が朦朧としてしまったりとか……まあ、色々ありました。


んで、朧げになった意識の中で、「確かにこれは……ハマる……!」っていう呟きを聞いた様な聞かないような……?


まあお陰様で、色々考えこんで眠れないかも……と思っていたけど、気が付けばベッドの中で朝を迎えていました。……しかも何故かまた、オリヴァー兄様の腕の中で。


言うまでもなく、私の大絶叫が皆の目覚まし代わりとなったのでした。



===================



幸か不幸か、溺愛の荒波にもまれ、落ち込む暇もないエレノアでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る