第32話 ある少年の奮闘

「セドリック!脇が甘い!実戦では直ぐにそこを突かれるぞ!」


「はいっ!」


「そうだ!その勢いを持続させろ!俺を殺す勢いでかかってこい!」


「は、はいっ!」


あれから数日が経過した。


私は至れり尽くせりの食っちゃ寝生活と、ついでにセドリックが連日私の為にとセッセと作ってくれたスイーツを存分に満喫し、見事復活を果たした。

そして今現在、セドリックとの約束通り、騎士達に混じって一緒にクライヴ兄様から剣の特訓を受けている真っ最中である。


え?私のストライキ?…まあ、その食っちゃ寝生活の間に何となく終了しました。


だってさ、この世界の男性達って、あの肉食系女子達と渡り合って選んでもらって、尚且つ自分の子供を作ってもらわなければいけないんだよ?セドリックの言うところの『男子の嗜み』を習得し、万全の体勢で立ち向かわなくては、到底太刀打ち出来ないだろう。


そういう事を色々と考えた結果、こっちの男性がふしだらって訳では決してない…という結論に達した訳なのだ。しいていえば、パプワニューギニアの極彩色な鳥達が織りなす、歌やらダンスやらナイスな巣作りやらと一緒だろう。己を高め、芸を極めなければ、雌には選んでもらえないのだ。


それに、私の世界の常識とこちらの常識は全く違うんだから。いちいち目くじら立てていたら、それこそやっていけないよね。

兄様達が私ぐらいの年で、既に大人の階段を登っていたってのは、ちょっと…いや、だいぶショックだけどさ。


そう結論付けて皆に出禁解除を告げた途端、飛び込んで来た兄様達や父様方に、私はぎゅうぎゅうと抱き潰されました。

おいこら、あんたら!いくら出禁解除っても、男女間の裏事情にへこんでいた娘に対して、いきなりのスキンシップはどうかと思うぞ!?


「良かった…。もう、君に嫌われたかと思った…!」


でも、そんな風にオリヴァー兄様から言われてしまえば、うだうだ拘っていた自分が馬鹿みたいに思えてくるのだから、私もたいがい重度のブラコンだよね。


まあ、そんなこんなで冒頭に戻る。


基礎訓練を一通り終わらせた私とセドリックは、まず互いに打ち合いを行った。結果は、やや私が優勢って所。セドリック、ちょっと悔しそうだったな。


でも私、ほぼ毎日クライヴ兄様からしごかれているし、たまにグラント父様にも指導を受けているから。それを考えたら、普通に訓練しているセドリックが私と接戦って、かなり良い線いっていると言えるのではないだろうか?


まあそうは言っても、単純に女の子に負けているなんて悔しいだろうから、慰めにはならないだろうな。

でも多分だが、暫くクライヴ兄様に鍛えられれば、私なんてあっという間に追い抜かれてしまうんじゃないかなって思う。


聞けば、私がベッドでうだうだしている間に、もう何回もクライヴ兄様の指導を受けているらしいし。やる気があるならその悔しさをバネに、きっと奮起するだろう。


そんな私達を、クロス家の騎士の皆さんは微笑ましそうに見つめている。特にセドリックが必死にクライヴ兄様と訓練をしているのを見て、とても嬉しそうだ。


うん、オリヴァー兄様はバッシュ侯爵家に婿養子に入る訳だから、このクロス子爵家を継ぐのはセドリックだもんね。将来自分達を率いる跡取りが、一生懸命頑張っている姿を見て嬉しくない訳がない。


「いやあ、先程の打ち合いを拝見させて頂きましたが、姫の剣筋は素晴らしいですな!まだ甘い所はありますが、これからも鍛えられれば、きっと素晴らしい剣士におなりになるでしょう」


素振りをしていた私の傍にルーベンがやって来て、私の剣筋を褒めてくれる。私はそれに対して礼を言いつつ、ダンジョンでディーさんに同じ様な事を言われたのを思い出していた。


『ディーさんもヒューさんも、今どうしているのかな?またいつか、会えるのかな?』


「それにしても、セドリック様があんなにも真剣にクライヴ様の訓練に参加されるなんて…。本当に、姫様には感謝しかありません」


しみじみとそう言われ、私は首を傾げた。


「セドリック、あんまり訓練は好きじゃなかったんですか?」


「いえ。ちゃんと定期的に訓練はされていました。ですが、どこか諦めてしまっているような…。自分の限界を定めてしまわれているような、そんな様子が見受けられまして…。剣技自体はお好きなようでしたが、なにせ一番身近な兄上方が、あのように天賦の才をお持ちの方達でしたから」


ああ。やはり、優秀な兄達を前に委縮してしまっていたのか。


「セドリック様は筋はよろしいのですが、元来の気性のお優しさが剣筋にも出てしまうのが難点でした。クライヴ様もそこを気にされ、セドリック様の指南役を申し出られたのですが、「自分なんかがクライヴ兄上の鍛錬の邪魔をしたくない」と頑なに拒まれて…」


「…そうなんですか…」


「ですが今回、自らクライヴ様に頭を下げられて訓練を請われました。これはとても大きな一歩です。なんでも、オリヴァー様にも魔術の指南を請われたとか。お二人とも、それは喜んでおられましたよ」


そうか。セドリック、自分の前にある大きな壁に立ち向かう事を決意したんだね。

きっと、私を一生懸命助けようとしてくれて、それを尊敬している親兄弟に褒めてもらえたのが嬉しくてやる気になったんだな。


「いえいえ、姫様。男がやる気になる切っ掛けなんて、しごく単純なものですよ」


「え?じゃあ、その切っ掛けって何なんですか?」


「ははは!姫様はまだまだ、お子様でいらっしゃるのですね!」


首を傾げる私に向かって、ルーベンが面白そうに笑いながらウィンクした。


何だとルーベン!失敬だな!確かに私の見かけはお子ちゃまだけどさ、前世では二十歳超えてる、立派な大人の女なんだぞ!?


「さて、それでは私はこれで。これ以上サボっていると、若様にどやされてしまいそうですからね」


ムッとしてしまった私を見て、触らぬ神に祟りなしとばかりに、ルーベンはそそくさと自分の部下達の方へと戻って行ってしまった。おい、ルーベン!せめて答えを言ってから逃げろや!


「うーん。それにしても、皆大変そうだなー」


私は周囲をぐるりと見回した。


今回クライヴ兄様は、剣に魔力を込めて戦う方法をクロス子爵領の騎士達に指南するつもりだったらしく、あちらこちらで騎士達が、自分の剣に魔力を込めようと必死になっている。


うん、分かる。あれって本当に大変なんだよね。下手すると魔力切れを起こすし…って、それは私だけか。


…そういえば、あのダンジョンで初めて私、完璧に刀に魔力を込められたんだよね…。


「魔力操作が安定するまで、絶対に魔力を剣に込めるな!」と、きつく言い渡されているんだけど…ちょっとぐらい…いいんじゃないかな?幸い、今誰も私の傍にいないし…。


そう思い、借りた訓練用の剣に、こっそり手をかける。


自分の刀はどうしたのかと言うと、あのダンジョンの地面に刺したまんま兄様達の所に戻ってしまったので、今現行方不明なのである。

兄様達は、また別の刀をプレゼントしてくれるって言っていたけど、あれはクライヴ兄様から貰った初めての刀で凄く思い入れがあったものだから、地味にショックが続いている。


思い続けていれば再会出来るって聞いた事があるし、いつか手元に戻ってくるといいな…。


「よう、エレノア。元気そうだな?」


「ひゃあ!」


剣に魔力を込めようとした絶妙のタイミングで突然背後から声をかけられ、思わず飛び跳ねる。

そんな私の身体を、誰かが軽々と抱き上げた。


「グラント父様!」


爽やかかつ、精悍な容姿が非常に眩い眉目秀麗な義父の登場に、エレノアは顔を赤くしながらも嬉しそうにグラントに抱き着いた。


そんな愛娘に相好を崩しながら、グラントもエレノアの柔らかな頬に挨拶とばかりにキスをする。

その瞬間、エレノアの顔が真っ赤に沸騰するのを笑いながら見ていたグラントの元に、多くの騎士達が嬉しそうに集まって来た。


「閣下!」


「グラント様!お久し振りです!」


「おう、お前ら!訓練サボってねーだろうな?後できっちり俺がチェックしてやるから、覚悟しとけよ?」


途端、「ヤバイ…」「俺、殺されるかも…」と、あちらこちらから声が上がるが、表情は皆とても嬉し気だった。


それもその筈。『アルバ王国の英雄』と謳われるグラント手ずから鍛え上げられたという事実は、クロス家騎士達全員の誇りであるのだ。その上、グラントはこの国における軍事の最高責任者に抜擢された。

つまり、剣を持つ者にとって、グラントはまさに尊敬と崇拝の対象な訳で、そんな彼にまた指導を受けられるとあれば、騎士達が喜びに沸き立つのも至極当然の事なのである。


「…おい、クソ親父。いつまでエレノア抱き締めてんだよ!さっさと離しやがれ!」


そんな中、絶好調に不機嫌顔のクライヴが、セドリックを引き連れやって来る。


「おう、クライヴ!何だお前、やけに男ぶりが上がってんじゃねぇか?魔獣ごときに手こずりやがった挙句、女に助けられやがって!やーっぱまだ全然、修行が足んねーな!」


グラントのからかい口調にムッとしたクライヴが、グラントの腕からエレノアを強引に奪い取るなり、頬にキスをする。


「うひゃあっ!」


ボンッと、音を立てるようにエレノアの顔が先程以上に真っ赤に染まった。


「ク、ク、…クライヴ兄様!い、いきなり何なんですかっ!?」


「消毒だ!エレノア、お前も大人しくクソ親父なんかにキスさせてんじゃねぇ!」


「そ、そんな事言われても…ふ、不可抗力ですっ!」


「やかましい!…そういや、あん時無茶したお仕置きがまだだったな…。地獄の特訓、いってみるか…?」


「わ、私まだ病み上がりなんですよ!?横暴です!酷いです!兄様のバカ!」


「婚約者に対してバカとはどういう了見だ!」


「やれやれ。ったく、修行が足んねーうえに狭量ときたか。困ったもんだぜ、なぁ?てめぇら」


呆れ顔で笑いながら騎士達の方を振り向いたグラントだったが、騎士達はいちゃついて(?)いるクライヴとエレノアを、羨望の眼差しで食い入るように見つめていて…というか、どちらかというとエレノアをうっとりと見つめていて、グラントの話しを聞いちゃいなかった。


「ああ…なんて愛らしいんだ…!」


「恥じらうお姿の、なんと尊い事か…!」


「若…ッ!羨ましい…!」


「いいなぁ…」


このクロス子爵領の騎士達も、ルーベン同様、あまりエレノアに対して良い感情を持っていなかったのだが、ルーベンからダンジョンでの顛末を聞かされ、その認識は大いに変わった。更に、実際のエレノアの可愛らしさと人柄に一瞬で心臓を鷲掴みにされてしまい、今ではエレノアを天使か女神のごとくに崇め奉っている。


「………」


悲しき独り身な野郎共を憐れみの眼差しで見つめていたグラントだったが、ふと、複雑そうな顔でクライヴ達を見つめるセドリックに気が付き、声をかける。


「おう、セドリック。珍しいな、お前も訓練か?」


そこでセドリックは我に返った様子で、慌ててグラントにお辞儀をする。


「そうだ!折角だから、これから俺と手合わせでもするか?剣に魔力を込めるやり方、俺が直々に教えてやるよ」


「…いえ。僕、これから学問の家庭教師が来ますので。…失礼します」


そう言うと、セドリックはもう一度クライヴとエレノアの方を見た後グラントにお辞儀をし、走り去ってしまった。


「…ふ~ん…?」


そんなセドリックの後姿を、グラントは興味深そうに見つめていたのだった。







◇◇◇◇





「ディラン殿下と一緒にいた男?あー、そりゃー“ヒューバード・クライン”だな」


「ヒューバード・クライン?」


グラントの口から出た人物名に、アイザックが首を傾げる。


今現在、アイザック達は報告会も兼ねた酒宴の真っ最中だった。グラントは手にしたワインを一息に飲み干した後、頷く。


「滅多に表に姿を現さないが、王家を守護する最強の剣と言われている奴だ。確か、王子達の剣の指南役もしていて、更に王家直轄『影』の総統…って噂もある。ま、今回の件で、噂ではなく真実だって事が分かったがな。確かにかなり腕は立つようだ」


「へぇ…。君がそう言うなんて、相当だね」


アイザックがグラントのグラスに新たなワインを注いでやるのを見ながら、メルヴィルは静かに口を開いた。


「グラント。貴族達の捕縛は終わったのかい?」


「ああ。ほぼ終了だ。今回、そのヒューバードと、第二王子のディラン殿下が先頭切って動いているから、高位貴族でも言い逃れや抵抗が出来なかったみてぇだな。なんせ、当事者本人が指揮を執ってるんだから最強だよ。捕虜達も、一刻もかからず組織の全容から協力者から、全て吐いたって話しだからな。一体全体、どんなえげつねぇ拷問したのやら」


そこまで言って、グラントは思い出したようにニヤリと口角を上げた。


「…にしても、あのディラン殿下。以前会った時はまだ青臭いガキだったが、中々どうして一皮剥けた感じになってたな。やっぱ惚れた女が出来ると、男は成長するもんだな」


「グラント…やはりディラン殿下は…」


「ああ、間違いなくエレノアに惚れたな。知ってるか?今、掃討作戦と並行して『影』が総動員で人探ししてるって話し」


「ふむ。エレノアを探しているのか」


「まあ、間違いねぇだろ。しっかし、エレノアも大した奴だな。クライヴ達を救う為に単身敵地に乗り込んだ挙句、敵ともしっかり戦って、しまいにゃクリスタルドラゴンと自分達、両方を無傷で守り切るとは…。そりゃあ、ディラン殿下じゃなくても惚れるだろ。我が義娘ながら誇らしいぜ!ところでメル、お前の所に王家から連絡が来たか?」


「ああ。ダンジョン視察を行ったかどうかってね。隠し立てをすれば痛い腹を探られる可能性があるから、正直に『是』と答えたよ。もっとも、エレノアを連れて行った事は内緒にしたけどね」


「だが、調査は入ると思うぞ?」


「問題ない。そもそも魔物は外に一匹も出さず、全てダンジョン内で始末している。それに、オリヴァーの指示で、外にいた者達に事態を悟られないよう徹底させたからね。だからダンジョンの周囲にいた者達は、普通の視察だったと誰一人疑っていない筈だ」


グラントがヒュゥと口笛を吹く。


「流石はオリヴァーだな。あの危機的状況で、大した判断力だ。ま、俺の知る限り、他にもダンジョンの視察をしていた貴族や地方領主達はかなりの数いたようだから、大丈夫だろ。なんせ丁度、王立学園が長期休暇だからな。自分の子供達に領地経営の一環として、視察をさせる親が多かったようだからな」


「そうか。それは好都合だったな」


「運が良いのはそれだけじゃねぇぞ?例の、オリヴァーを狙った元使用人。あいつが誰か知っていた奴らはごく少数だったようで、その上全員、ディラン殿下に始末されちまってたらしくてな、捕縛者のリストに名前が上がってなかった。ま、裏を返せば、まだ関与していた貴族を取りこぼしているって可能性があるが…」


「問題ない。あの男の生家は、僕が徹底的に潰す事にしたから。その際、関与が疑われる者達の事も、独自に色々調べてみるさ」


温厚で、常に笑顔を絶やさない親友の冷たい表情に、グラントは心の中で男の一族に「ご愁傷様」と哀悼を捧げた。


この人畜無害そうな男がひとたび切れると、メルヴィル並みに情け容赦が無くなる事を知る者は少ない。自分もその内の一人だが、普段が普段なだけに、そのギャップに肝が冷えた事も一度や二度ではない。


…まあ、そういう所も込みで、この男を気に入っているのだけれども。


「それじゃあ話を元に戻して、最大の懸念はエレノアの事だね。これで増々、エレノアを表に出す事が難しくなってしまった」


「まあなぁ…。まさかダンジョンに行って王子様と遭遇するなんて、誰も想像しなかったからな」


「想像出来る者がいたとしたら、奇跡だろう」


三人が三人とも、深い溜息をつく。


男装していたとはいえ、エレノアはばっちり素顔をディランに晒してしまっている。しかもしっかり女の子だと見破られてしまっているのだから、今後は素顔を晒して行動する事は難しい。


しかも、王家直轄の『影』達が総動員で探しまくっている上、それを統括するヒューバード本人までもがエレノアの素顔を知っているのだ。いつどこに彼らの目があるか分からない以上、エレノアを外に出すのは自殺行為に他ならない。


「う~ん…でもまぁ、エレノアのような型破りなご令嬢は、そうそういない…というか絶対いないからな。見つけようとしたって、見付からないだろ」


「まあねぇ。…はぁ…。エレノアには本当に可愛そうだけど、結婚する迄は今まで以上に行動を制限させざるを得ないね。メルには負担をかけるけど、ここの騎士達や召使達にも、情報の漏洩防止を徹底させてもらって…勿論、我がバッシュ侯爵家の面々にも同様に徹底させるけど。う~ん…。オリヴァーとクライヴにも、負担をかけさせてしまうなぁ…」


「いや、あの二人だったら苦労と思わず、寧ろ喜ぶんじゃないかな?まあ、でも婚約者が二人だけだと、いざという時何かしら不便だね。バッシュ侯爵家レベルだったら、せめてもう何人か、婚約者なり恋人なりがいた方が良いんだろうけど」


そこでふと、グラントが思い出したように口を開いた。


「そういやセドリックの奴だが、あいつも何か変わったな。前は年齢の割に達観したような枯れた雰囲気持っていたが、今は年相応のガキの顔になっていたぞ。あんなに敬遠していたクライヴとの稽古にも参加していやがったし」


「ふふ…。私も驚いているよ。実はね、あの子、エレノアに友達になって欲しいって言われたんだそうだよ。だから自分でも、今のままじゃ駄目だと思ったんじゃないかな?」


「へぇ~、やっぱりか!男は惚れた女が出来ると、変わるもんだからな」


メルヴィルが『父親』の顔をして笑うのを見て、グラントも目を細めた。


実力はあるのに母親のせいで自己評価が低く、何事においても一歩引いていた息子の事を、メルヴィルは常に気にかけていた。


「お前はそのままで、十分素晴らしい子なんだよ」


そう諭しても、コンプレックスの原因であるメルヴィルとオリヴァーの言葉は、決してセドリックの心に届かない。どうしたものかと思案していた所に、エレノアがあっさりとセドリックの殻を破ってくれたのだ。本当に、エレノアには感謝しかない。


「あの子はエレノアを望むのかな?それともいつも通り、兄達に遠慮して引くのかな?…ねぇ、アイザック。もしセドリックがエレノアを望んだら…」


「メル。何度も言うけど、僕にとって一番大切なのはエレノアの気持ちなんだ。彼が望み、エレノアがそれを受け入れれば、僕はその事について何も言う気は無いよ。それに、セドリックはとても良い子だからね」


「そうか。では、私もあの子の頑張りに期待する事にしよう」


そう言うと、メルヴィルは含み笑いを浮かべながら手にしたグラスをアイザックへと向け、アイザックもそれに応える。


チン…と、グラスとグラスが重なり、その場に涼やかな音が響き渡った。

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