第369話 婚約者達とのダンス②
セドリックとのダンスが終わり、三度目の万雷の拍手に包まれながら、私は兄様方や王家の皆さんの待つ場所へと戻った。
ううう……。つ、疲れた……。主に足が。もうパンパン。
「お嬢様、お疲れ様で御座います。大変に素晴らしいダンスで御座いました」
そう言いながら、恭しく一礼をしたイーサン。
……何気に胸元に飾られているパリッとしていた白いハンカチがくったりとしてしまっているのは、彼が感涙に咽いだ結果だろう。
「お嬢様、どうぞ喉をお潤し下さいませ」
そう言って、果実水のグラスを差し出してくれたのはウィルだった。
「有難う、ウィル!」
ウィルは笑顔でお礼を言う私に恭しく一礼した後、何気にドヤ顔をイーサンに向ける。
対するイーサンは、あくまで無表情……なんだけど、眉間に縦皺が一本増えたのを、私は見逃しませんでしたよ。
……うん。後でイーサンにウィルを苛めないよう、しっかり言っておかなくては。
「エレノアちゃん、とても素敵だったわ!」
満面の笑みを浮かべながら、アリアさんが私の手をギュッと強く握ってくれる。その賛辞を、私は満面の笑みで受け止めた。
「有難う御座います、聖女様!」
……ん?あれ?
な、なんか身体がほわッと温かくなって、疲れが嘘のように無くなっていくんですけど……?
「あ……!」
察した私に、アリアさんが微笑みながら頷き、そっと小さく声をかけた。
「御免なさいね。申し訳ないけど、うちのバカ息子達の事も宜しくお願いします」
ああ。成程。
このデビュタントでのダンスは、当事者の御令嬢だけではなく、その婚約者達のお披露目も兼ねているんだった。
いくら(仮)が取れ、殿下方が正式な婚約者になったとは言っても、それはあくまで非公式。それゆえ、兄様方やセドリックみたいにお披露目のダンスは出来ない。
ならば、婚約者達と踊り終え、フリータイムになった今、ダンスを申し込む形で私と踊ろうって事なんだろう。
あ、ちなみにこのフリータイムの時、御令嬢方はダンスを申し込んで来た男性達の中から、新たな婚約者や恋人をゲットするのが通例なのだそうだ。
というか、婚約者達のお披露目も兼ねているってのに、その目の前でハンティング……。
う~ん、アルバ女子。どんだけ肉食なんだ!?
そんな事を考えていたら、スッとアリアさんが離れた絶妙なタイミングで、ディーさんが私の目の前に立った。
そしてその場で片膝を突いた騎士の礼でもって、私の手を恭しく取る。
「エレノア・バッシュ公爵令嬢。どうか貴女と踊る栄誉を私にお与え下さい」
『ふぉっ!?ディ、ディーさん!?』
まさに、『ザ・王族』といった、畏怖堂々とした凛々しい口調とその姿に、いつもの脳筋おちゃらけキャラは欠片も見当たらない。
巷では、『紅の貴公子』と言われているらしいんだけど、その名に相応しい王族っぷりである。
思わず真っ赤になって、コクコクと頷くという無様を晒してしまった私に対し、ディーさんは物凄く嬉しそうに破顔すると、流れるような動作で私をホールの中央までエスコートしていく。
途端、突き刺さらんばかりに鋭い視線が四方八方から……!
ひょっとして、王族狙いのご令嬢方かな?と思ってチラリと周囲を見てみる。が、こちらを睨み付けるように視線を投げ掛けていたのは、ほぼ全員が若い男性だった。
そして集中する視線の先は、私ではなくディーさんで……。え?あれ?
しかも、その中にオリヴァー兄様とクライヴ兄様の視線も混ざっております。というより、一番圧が強いです。
セドリックはというと……うん、リアムと何か話している……というより、良い笑顔でお互い牽制し合っているな。
そんなこんなで、私達がダンスホールに立つと、再び曲が変わった。そして当然、私達以外に誰もホールにはいない。
流れ出した曲は……。ええ、分かっていましたよ。十二舞踏ですよね。
ん?ちょっと待って!こ、この曲、『
『光焔』とは、クライヴ兄様と踊った『白銀の風』と同じくらいハードなステップで、夏の光り輝く太陽をイメージしている力強い踊りだ。
うん、ディーさんにピッタリだよ。ピッタリだけど……ディーさん、貴方って人は……!!
思わずディーさんを睨みつけると、ディーさんはほんのり頬を染め、嬉しそうに破顔した。って、何を喜んでいるんですか!?私は怒っているんですよ!!
「これが踊れる女と結婚するのが夢だったんだ」
その言葉に目を丸くする私に、ディーさんは流れるように私をサポートしつつ、コマのようにクルクルと私を回しながら、楽しそうに言葉を続ける。
「それだけじゃない。俺の隣に立って、共に国の為に戦ってくれる女と添い遂げたかった。それは多分、アシュル兄貴も一緒だろう」
「ディーさん……」
「エル。お前と出逢った瞬間から、俺の心はお前だけのものだ。お前と出逢わせてくれた女神様に、心の底から感謝する。これから先、俺は帝国からも他の何者からも、お前を守り抜く事を誓う!当然、俺同様、お前を心から愛する他の奴らと一緒にな!」
そう宣言し、ニッカリと笑うディーさんの裏表の無い笑顔に、思わず私の顔にも笑顔が浮かんでしまう。
というか、「自分が」じゃなく、当然のように「他の奴らと」って言ってしまえるディーさん。
まるで今躍っている『光焔』そのものな、晴れ渡る空に燦然と輝く太陽のような、凄く眩しい人。……そういうところ、本当に好きだなって思う。
「はい!ずっと頼りにしています!」
そう言った後、追加で「またダンジョンに行きましょうね」と言うと、ディーさんはとび切りの笑顔を浮かべながら、周囲に分からぬよう、小さく親指を立てた。
「エレノア嬢。今度は僕と踊って頂けるかな?」
貴族の礼と共に、手を差し出してきたのは、目にも眩しい王族の正装を身にまとったフィン様だ。
私は先ほどのディーさんへの失態を払拭すべく、フィン様に対し、優雅にカーテシーをキメた。
そして差し出された掌に自分の手を乗せる。
「よろこ……」
んで……と続けようとした言葉は、そのまま手の甲に口付けたフィン様の所為で止まってしまい、またしてもボンッと顔から火が噴いた。
そして先程よりも更に強く鋭い視線が四方八方からビシバシ突き刺さるのを感じてしまう。……どうでもいいですが皆さん、先ほどから王族に対して不敬じゃないですかね?
フィン様は真っ赤になった私をニヤリと見上げ(多分本人は優しく微笑んだつもり?)私の腰に手を添えると、ホールの中央へと優雅にエスコートしていく。ここら辺の所作は、流石に王族ですね。
まあ、でもその際、「オリヴァー・クロスの視線、ウザッ!」と呟いていましたが。
「いつも通りのフィン様だなー」と思いながらも、私はその視線というか、暗黒オーラの気配が真面目に怖くて、オリヴァー兄様の方を振り向けませんでした。
ちなみにだけど、その視線を例えるならば、ディーさんの時は吹き矢で、フィン様のは連射式弓矢とでも言いましょうか……。
しかもその矢、絶対に火矢。刺さったら絶対いかんヤツ!
オリヴァー兄様、一応同じ婚約者なんですから、仲良く……しろとは口が裂けても言いませんが、殺気を飛ばすのだけはやめましょうよ。
そして流れる曲は……ええ、全くもってぶれない十二舞踏。
今度の曲は……『
よ、よかったー!この曲、十二舞踏の中で一番スローテンポなんだよね。
……うん。当然、十二舞踏だから難しいけど。
でもって、スローテンポゆえに誤魔化しが効かず、粗が目立つという欠点もあるんだけど。
フィン様、フォローお願いしますよ!?
間違ったステップ踏んでも、ついでに足踏み付けても、放置はなしですからね!?
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済みません、もう一回続きます。
やはり、一回につき二人が限界ですかね(今回は1・5人?)
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