第452話 進撃のてるノア
題名、某作品のパロですv
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「さ、お嬢様。まずはホタテからいきましょうねー」
「わーい♡」
船員さん達がそこかしこに転がっている中、シャノンの介助でアツアツ美味しい海鮮を頂く。勿論、先にシャノンが一通り毒見を済ませてからの提供だ。
「はい、お嬢様。あーん♡」
「あーん♡」
シャノンがふうふうと息を吹きかけ、程よく食べ頃になったホタテをパクリと頂く。……うん。
「美味しいぃ~♡♡」
なんなんだ、この肉厚でプリっとした身の美味さは!
味はシンプルかつ豪快に塩のみだけど、それがホタテ本来の旨味を存分に引き立てている。これはもう、いくらでも食べられちゃいそうだ!
「シャノン!あれっ!今度はアレ食べたい!!」
海鮮の美味しさに我を忘れた私は、パーフェクトケープの中から、目当ての海鮮を一生懸命指差す。
でもこのパーフェクトケープ、袖口がないから、指差す動作がクリオネが腕を動かしているようになっている気がするなぁ……。
――だが、今の私にそれを気にするだけの理性はない。
いつもは私の暴走を真っ先に止める筈のクライヴ兄様が撃沈している今、私の進撃を止める者は、この甲板には誰一人存在しない。そう、今の私は自由だ(某、孤独に一人でグルメするおじさん風に)。
この先、兄様方の誰かが復活してしまえば、速攻で食べるのを止められるに違いない。その前に、少しでも多くの海鮮を食べておかなくては!
「お嬢様。あちらの魚とこちらの貝も、程よく焼けて食べごろです!はい、あーん♡♡」
「あーん♡……んん~!美味しい♡♡というか、レモンとバターの味がする!?」
「はい、こちらの台に、様々な薬味や調味料が置かれておりました。なので、少し味を変えてみたのですが、いかがでしたでしょうか?」
「凄い!シャノンってば天才!!あ、今度はそっちの黒い調味料使ってみて!」
ピコッと指差した先には、黒い液体が綺麗なガラスの瓶に入っていた。
「お任せ下さい!……ああ、これは魚醤ですね」
魚醤!?そ、そんなものがここに!?……いーじゃないか魚醤!早速レモンと合わせて食べてみよう。
「シャノン!レモンと魚醤合わせてハマグリにかけてみてー!」
「こうですか?……んんっ!?お嬢様、これ凄く美味しいです!」
「あっ、待ってシャノン!全部食べちゃダメ!!」
「大丈夫ですよ、お嬢様。まだまだたんとありますから。さ、まずはお味見を……はい、あ~ん♡♡♡」
「あ~ん♡♡」
腹筋崩壊しながら、静かに笑い死んでいる自分の婚約者達や船員達を尻目に、てるノアとシャノンは二人だけの宴を心の底から満喫していたのだった。
◇◇◇◇
《オリヴァー視点》
不覚にも腹筋崩壊し、蹲り動けない身体を必死に叱咤しながら、僕はなんとか顔を上げる。
すると、僕がいる位置から少し離れた先に、焼き物台の前に座る白い謎の物体(エレノア)と、シャノンの後ろ姿が見えた。
あの白い布……。ナプキンか何かかと思っていたら、まさかあんな被り物だったなんて!……シャノン。本当に、なんてものを作ってくれたんだ君は!!
エレノアは元々、自分が笑われたり侮られたりする事に対して鈍感だった。……だが、あの恰好はないだろう!普通のご令嬢だったら、怒るか怒鳴るか……いや、普通のご令嬢じゃなくてエレノアだからな。でも何度だって言うけど、あの恰好はない!!
今現在、もはや自分の恰好など二の次三の次で、欲望の赴くままに海鮮を頬張り、ニコニコ笑顔なんだろうエレノアと、ドレスを汚す事無く、なおかつエレノアが幸せそうな様子にご満悦のシャノン。
『まさか……こんな事態に陥ってしまうとは……!完全に人選ミスだった……っ!!』
あまりに衝撃的な姿(白い布に覆われたエレノア)を目にしてしまった結果、僕の腹筋は完全に崩壊してしまい、今現在は全く身体に力が入らない状況だ。
『というかシャノン!汚れや臭いからエレノアを守る為って言っていたけど、貴族令嬢としての矜持という、一番大切なものを守れてないから!!』
……いや、待てよ。
そもそも、公爵令嬢としての矜持に、いい意味で全く拘らないエレノアと、エレノアをいかに美しく装わせ、かつそれを維持する事にしか妥協を許さない
少しでもエレノアが海鮮を食べられるようにとシャノンに相談したのだが、よくよく考えてみればこの二人の組み合わせ、最悪以外のなにものでもなかった。
『どう考えても、エレノアが言うところの「混ぜるな危険」じゃないか!――ッ……!僕とした事が。まったくもって一生の不覚!!』
返す返すも、あの通りで串焼きを買ってあげられなかったことが悔やまれる。
少しでも海鮮を食べられていれば、あんな風にエレノアが理性を無くして海鮮を食べまくる事もなかっただろうに……。
後悔の溜息をつきながら周囲を見回してみれば、笑い上戸のリアム殿下はもとより、普段はこういう時こそ頼りになるセドリックすらも、リアム殿下共々腹を抱えて倒れ果てている。……あれ?マテオはどこに行ったんだ?
チラリと船内に通じる扉の方を見てみると、その前で撃沈していた。……ああ。万が一ウェリントン侯爵令嬢が出て来た時の為の見張りか。
確かに今、あのご令嬢に、エレノアの姿を見せる訳にはいかないからな。流石は三大公爵家直系であり、王家直轄の『影』。的確で素晴らしい判断だ。
ウィルは……ああ。やっぱりというか、倒れ伏して痙攣している。しかも酸欠状態で、今にも死にそうになっているな。
うん、そうだね分かっていた。多分真っ先に撃沈したんだろう。まったく……。専従従者のくせに、こういう時は真っ先に役に立たなくなるんだから、困ったものだ。
クライヴは……うん、案の定撃沈している。
今回ばかりは、怒りとか焦りとかより笑いが先に立ってしまったようだな。……実はクライヴ、笑い上戸なんだよね……。
ああ、でも根性で這いずって、少しずつエレノアに近付いていってはいるようだな。あ、立ち上がろうとしたけど、また撃沈した。
エレノアの方に目をやると……なんか布越しに指をピコピコ突き出している。あれって指差しているのかな?頭のリボンも楽しそうに揺れてる……くっ!駄目だ……!僕の方もまた力が抜けた。僕の妹、おもしろ……いや、可愛すぎる……!!
こんな感じに、復活しかけるとまた何かやらかしてくれるので撃沈する……この繰り返しだ。まさに悪夢の無限ループ。
ところで、ヴァンドーム公爵令息と船長はどうしているんだろうか……。ああ、船長の方は辛うじて立っているけど、腹を抱えて震えている。あれは当分復活出来ないだろう。
ふっ……ざまあないな。エレノアを甘く見るからだ。
令息の方は……ああ、ホストとしての矜持だろうか。片膝を突いて震えているものの、他の船員達みたく蹲ったり転げて倒れ伏したりしていない。こちらも流石は三大公爵家の直系。見事だ。
ふと気が付くと、エレノアの頭のリボンがピコピコと喜びに踊る中、シャノンの嬉しそうにデレデレしている横顔が目に入る。
それを見た瞬間、スン……と心が凪いだ。
「……シャノン。君には失望したよ……」
エレノアに「あーん」をする権利を有しているのは婚約者だけ。
だというのに、幸せ絶頂な顔でそれを行使するとは……。第三勢力者という事を差し引いても、決して許される事ではない。
……あれ?ちょっと待て。
だとしたら筆頭婚約者として、この機を逃す手はない!
――そうと決まれば、根性入れて復活しなくては!!
力の入らない四肢に気合を入れ、その場から立ち上がりかけたその時、船の周囲に派手な水しぶきが上がった。
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いや、オリヴァー兄様。そこは「あーん」の為に復活するのではなく、てるノアをエレノアに戻す為に復活すべきでは?
オリヴァー兄様も、どこか回線がショートしてしまった模様ですww
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