第411話 「選ばれる側」から「選ぶ側」に
今年、王立学院卒業を迎える先輩方や、それを見送る在院生達が一堂に介した大聖堂の中、卒業式は厳かに進んでいった。
そして舞台……いや、壇上には、上位十名として、歴史ある王立学院にその名を連ねる誇りと覚悟を胸に、凛々しく羽ばたかんとする青年達の、目も眩まんばかりの眩しさに満ちていた。
ちなみにだが、そんな荘厳に満ち溢れた壇上と反比例するように、舞台下は、最前列に座する上位十名達の身内(何故か女性限定!)や、その婚約者達。そして後方には、在院生達の列の前方に(何故か)座している、おひねりマダムやおひねり
この熱気、日本の首都に在る、世界的に有名な某卸売市場にて、熱く繰り広げられる競り市と、ちよっと似ている。
……まてよ?そうすると、彼等は今朝水揚げされたばかりの高級魚(本マグロ?)で、おひねりマダムとその予備軍達は、競り主……?
やばい。アホな例えをしていたら、彼女らに勝てるかどうか不安になってきた。
そしてなんとなくだけど、クライヴ兄様から注がれる視線が冷たい……気がする。
うん、気のせいだと思いたい。
そんな私のアホな想像を他所に、式は粛々と進んでいき、上位十名が学院長様に次々と名を呼ばれていく。
彼等は学院長様の前に立つと、普段であれば王族に対してのみ行われる貴族の礼を取った後、学院長様お手ずから、勲章を胸に付けられていく。
勲章を胸に、沢山の拍手を受けながら壇上から下りてくる彼らの表情は、皆とても誇らしげだった。
そして、彼等が壇上から下り切ると同時に、婚約者であろうご令嬢方が、次々と彼らの元へと群がっていく。
多分だけど、豪華な花束を手に持っているのが婚約者で、その他はおひねり
厳粛なのは壇上だけで、
凄いな……。これが頂点を極めた上位十名を巡る戦い……。完全に甘く考えていた。
それにしても、上位十名になると、『選ばれる側』から『選ぶ側』になれるって本当なんだなぁ……。
うん、これぞ上位十名になった者だけが得られる特権!彼らもさぞかし誇らしそうな顔を……って、え?あれ?な、なんか、皆さんげんなりというか、うんざりしたような顔をしているんですが?しかもご令嬢方の相手をしながら、何人かがチラチラと、こちらを羨ましそうに見ているんだけど……?
「ね、ねえ、セドリック。先輩方ってば、やっぱり授章で緊張していた所に、あんなに大勢のご令嬢達に囲まれちゃったから、疲れちゃってるのかな?」
「……いや。そうじゃなくて、覚醒しちゃったから、あの状態が苦痛に感じるようになってしまっただけじゃないかな?」
はい?覚醒って一体?
「主席卒業生、オリヴァー・クロス君」
「はい」
うわぁ!キター!オリヴァー兄様だっ!!
大トリは当然、主席であるオリヴァー兄様!競りで言えば、本日の超目玉商品。特大天然本マグロあたりであろう。
一般庶民では、一切れも口に入れる事が出来ない、まさに至高の一品。それが我が兄であり、婚約者であるだなんて、私はなんて果報者なのであろうか!
オリヴァー兄様は学院長様の前で、一分の隙も無い完璧な貴族の礼を行った。
途端、会場のあちらこちらから、一斉に熱い溜息が漏れる。
今迄、他の上位十名達に群がっていたご令嬢方やご婦人方も同様に、ポーッとした顔で、熱い眼差しをオリヴァー兄様に対し向けている。(そして他の上位十名達は、ここぞとばかりに、そそくさと自分の席に戻ってしまった)
「君のこれからの活躍を、心から楽しみにしている。主席卒業、おめでとう」
「有難う御座います。今後も我がアルバ王国の更なる発展と平和に向け、貴族として……また、伝統あるこの王立学院生としての誇りを胸に、誠心誠意
「ああ。心の底から楽しみにしていますよ」
オリヴァー兄様のお言葉に目を細めながら、学院長様が兄様の胸元に勲章を付ける。そのすぐ後、オリヴァー兄様に向けて、万雷の拍手が鳴り響いた。
そんなオリヴァー兄様を見ていた私の胸に、とてつもない誇らしさと喜びが湧き上がってくる。横にいるセドリックも、私達から離れて立っているクライヴ兄様も、私と気持ちは同じなのか、とても嬉しそうな笑顔を浮かべていた。
オリヴァー兄様は再び学院長様に一礼をすると、「これぞ、貴族の中の貴族!」的な素晴らしい微笑を浮かべ、壇上から一歩一歩、優雅に下りてくる。
「エレノア、そろそろ……」
「は、はいっ!クライヴ兄様」
私は、いつの間にか傍に来ていたクライヴ兄様から花束を受け取り、立ち上がった。そして、クライヴ兄様とセドリックの温かい視線を受けながら、オリヴァー兄様の元へと、淑女らしく微笑みを浮かべながら、ゆっくりと向かう。
そんな私に気が付いたオリヴァー兄様は、今日一番と言える程に光り輝く、満面の笑みを浮かべながら、最後の一歩を下りる。……くっ!今の攻撃で、私の視力は確実に落ちた!!
私は顔を赤くしながら、よろめきそうになった足に心の中で喝を入れると、目をしばたたきながら、兄様に近付こうとした。その時だった。
「きゃっ!」
左横に誰かの肘がぶつかった?と感じた次の瞬間、今度は右横から誰かに思い切り突き飛ばされてしまう。
大きな花束を抱えていたせいで、バランスを崩してよろめいてしまった私だったが、待ち構えるように立っていたクライヴ兄様にすかさずキャッチされ、難を逃れる。
――え?な、何が起きたのだろう!?
動揺する私の耳に、甲高く甘ったるい声が聞こえてきた。
「オリヴァー・クロス様ぁ!首席でご卒業、おめでとう御座います!!」
「わたくしが厳選しましたお花をどうぞ、お受け取り下さいませ!!」
「わたくしの花束の方が相応しいですわ!!」
「ちょっと!どいて下さる!?この中で一番高貴な身分なのはわたくしよ!?」
「……おひねりマダム予備軍共が……!!」
チッと忌々し気に舌打ちしたクライヴ兄様の視線の先には、我先にとオリヴァー兄様に群がろうとする、ご令嬢方の姿があった。
くっ……!あれ程、おひねりマダムには負けないと誓っていたのに、あろうことか予備軍に出し抜かれて、後れをとってしまうとは……!!
私が、湧き上がる敗北感を覚えていたその時だった。
オリヴァー兄様が歩みをピタリと止めた。と同時に、ご令嬢方の持っていた花束が一瞬で炭化した。
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やはりというか、何気に「おひねりマダム」が気に入っている様子のクライヴ兄様です。
そして、オリヴァー兄様や上位十名者を高級魚に例えるエレノアの、食いしん坊万歳も健在です。
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