第445話 【閑話】ある串焼き屋のひとり言 前編
※続けて明日も更新します。
そして明日は、『この世界の顔面偏差値が高すぎて目が痛い』3巻の発売です!
今回は、いつもの書き下ろしSSに加え、応援書店様限定での書き下ろしSSも作成しております。
興味がおありの方は、是非手に取ってみてくださいね(^O^)
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私の名は……いえ、ここでは名乗らないでおきましょう。
今の私は、しがない串焼きの屋台の店主。それ以外の何者でもないのですから。
さて、私が屋台の店主に身をやつし、働いている場所は、ヴァンドーム公爵領の中で最も大きな漁港を有する港町の大通り……通称『焼き物通り』です。
私はここで日々水揚げされる、取れたて新鮮な海産物……特に貝やエビなどを串に刺し、秘伝のタレを塗って炭火焼きしたものを、地元民や観光客に売っております。
この仕事をするにあたり、修行先だった店の師匠からレシピを半ば強奪……いえ、快く伝授させて頂き、私自身でも独自のアレンジを効かせ、完成した秘伝のタレ。
それを使って焼いた海鮮の串焼きは、「絶品!」「また食べたい!」と絶賛され、有難いことに観光客の方々が、わざわざ他領から足を運んで頂く程に好評を博しております。
屋台の店主は仮の姿。ですがそのように喜んで頂けると、やはり気合が入ります。
たまに気合が入り過ぎて、仲間内から「お前、たまに本業忘れてねぇ?」と呆れ口調で言われてしまう事もあります。ですが、そのような事は決してありません。
人気店になればなるほど、沢山の人がここを訪れます。さすればおのずと、怪しい人物やよからぬ『臭い』をまとった者達を見つける機会が増えるのです。
奴らにとっては露店の店主など、そこらに転がる石ころも同然。
美味い串焼きを食べながら、緩んだ思考と口で交わした雑談から、間者や闇業者を摘発した事も、一度や二度ではありません。ご当主様からもお褒めのお言葉を頂いております。
しかも素晴らしい事に、この串焼き屋の儲けは、そのまま臨時収入として懐に入れて良いことになっているのですから、気合も入ろうというものです。
今では屋台で稼いだ儲けがお給料と同等となっております。むしろ臨時収入の枠を超え、本給と言ってもよい額となっております。これも私の努力と領地への郷土愛の賜物でありましょう。
ちなみに私に「本業忘れるな!」と苦言を呈していた同僚ですが、いつの間にやら臨時店員として私の店で働くようになりました。
最近では、私よりも熱心に串焼きを売っているような気がします。……え?お子様が食べられるよう、もうちょっとスパイスを甘めにした方がいい?……成程。考えておきましょう。
ところで本日ですが、なんと!王家直系であらせられる、第四王子リアム殿下と、『姫騎士』と名高いエレノア・バッシュ公爵令嬢が、この港町を観光されます!
なんという事でしょう!このような奇跡が我が身に起こるとは思っていませんでした!!横で同僚が「いや、お前個人に会いにくるわけじゃねーから落ち着け」と、余計な事をほざいております。後でまかないに激辛の串を混ぜておきましょう。
話を元に戻します。
当然と言うか、前日に領民達には、「かしこまったり平伏したりすることはせず、普段通りにしている事」とのお達しがあり、我々には、「不測の事態にそなえ、町の隅々まで警戒を怠らぬように」との指示が下りました。責任重大です。いつもの倍、気合が入ります。
余談ですが、ご一行様を案内するのは、ご当主様のご子息であるベネディクト様との事。
おお、ベネディクト坊ちゃんですか!王立学院に通われるようになってから、久しくお目にかかっておりませんでした。お元気にしていらっしゃるでしょうか。
昔はよくお兄様方に連れられ、屋台をひやかしたり買い食いをされていたものです。私の串焼きも、大層気に入っておられました。
若様方はご当主様の気質を受け継がれ、どの方々も陽気で気さくな方々ばかりです。そんなご当主様方を、我々家臣を含めた領民達は皆、心からお慕いしております。
今回のバッシュ公爵令嬢のご訪問は、お坊ちゃまの公爵令息としての初仕事。これは万が一にでも、間違いがあってはいけませんね。心の底から気合が入ります。
それにしても、かの御高名な『姫騎士』様がいらしゃるとは……。え?王家直系もいらっしゃる?ああ、そうでした。ついうっかり失念しておりました。
ですが、今現在の私の愛読書……いえ、もはや『
……え?「そんなのお前だけだ、このバカ者!」ですか?
そういう貴方だって、読む用・布教用・貯蔵用に『
そんな訳で、私は興奮のあまり一睡もする事が出来ず、夜も明けきらぬ頃から屋台をスタンバイして姫騎士様を……いえいえ、リアム殿下ご一行様をお待ちしておりました。
気が付けば、他の屋台や買い物客達も私同様、薄暗がりの中ウロウロとアンデッドのごとくに彷徨っております。気が急くのは分かりますが、少し落ち着いた方がよろしいのではないでしょうか?
え?「お前が言うな」ですか?……同じようにウロウロしている
ですが姫騎士様は公爵家のご令嬢。いくら港町を観光されるとはいえ、このような庶民の台所場にまで、果たして足を運ばれるでしょうか?不安が過ります。
万が一のことを考え、同僚には「もし、ここにご一行様がいらっしゃらなかった場合は、店番よろしく!」とお願いしたらぶん殴られました。いきなり仲間に対し、暴力に訴えるなど如何なものかと思われます。ええ、勿論倍返しで報復させて頂きました。
……同僚の事などより、今は姫騎士様です。とりあえず、女神様に祈っておくとしましょう。
女神様、どうか私に姫騎士様を拝する栄誉をお与え下さい。ひらに、ひらに、心の底から宜しくお願い致します!!
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久々の閑話は、とある串焼き屋さん視点です(*´艸`)
どこにでも、会員は存在しているもよう。というか、私利私欲で女神様に祈らないように!
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