第446話 【閑話】ある串焼き屋のひとり言 後編
遂に、『この世界の顔面偏差値が高すぎて目が痛い』3巻の発売です!
今回は、いつもの書き下ろしSSに加え、応援書店様限定での書き下ろしSSも作成しております。
興味がおありの方は、是非手に取ってみてくださいね(^O^)
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結論から言うと、姫騎士様はいらっしゃいました。女神様、心の底から感謝いたします!
ところで姫騎士様……いえ、バッシュ公爵令嬢は、「本当にあの獣人達と戦ったのか!?」と疑問に思う程、小柄で華奢な御令嬢でした。
豊かに波打つヘーゼルブロンド、薔薇色の頬。まるで宝石のように輝く瞳は、好奇心でキラキラ輝いております。ああ……。なんと愛らしい。挿絵の数十倍愛らしいです!まさに眼福!
私は買い物客に紛れ、ひたすらバッシュ公爵令嬢の観察……いえ、護衛に徹しておりました。
遠くで私の代わりに串焼きを売っている同僚が、無言のゼスチャーで怒りを訴えております。ですが、重要任務を(勝手に)遂行している私は無視を決め込みます。
ああ、そろそろバッシュ公爵令嬢が私の屋台の前を通過しそうですね。戻るとしましょうか。
ところで、そんなバッシュ公爵令嬢が通り過ぎた通りでは、至る所に顔を赤らめ、胸を押さえて蹲る領民達が続出しております……。
分かりますよ、貴方がたの気持ち。私も叫び出したい気持ちをグッと堪えているのです。
ところで貝焼き屋台の主人、蹲っていないで、そろそろ起きた方がいいですよ。ほら、炭化した貝が火を噴いていますから。
同僚の無言の非難を受け、串焼きを焼きながらバッシュ公爵令嬢が私の屋台の前を通過する時を待ちます。
どうやらベネディクト坊ちゃまも他の方々も、バッシュ公爵令嬢がゆっくりと周囲を見学出来るように、さり気なくゆっくりと歩を進めているようです。
そのお陰で私達も領民達も、バッシュ公爵令嬢をじっくり堪能する事が出来るのです。心の中で拍手喝采です。皆様、どうも有難う御座います。
バッシュ公爵令嬢、夏の装いが最高によくお似合いです。特に隠しているようで隠れていない白い腕が……ゲフンゲフン。いけませんね。姫騎士様をこのようないかがわしい目で見るなど、アルバ男として失格です。
あ、横にいる同僚もだらしない顔で見とれています。仕方のない男ですね。足を思い切り踏んでおきましょう。
さて、姫騎士……いえ、バッシュ公爵令嬢ですが、ベネディクト坊ちゃんだけでなく、沢山の美形集団に守られております。多分ですが、あの中の何人かはご婚約者様方なのでしょう。
……まあ、見つめる眼差しの熱量で、おのずと誰がご婚約者様なのかは分か……えっと、全員凄まじい熱量です。まさかと思いますが、全員がご婚約者……?いや、まさかね。
それにしても、黒髪のお貴族様と銀髪の執事の美形っぷりが凄まじいです。王家直系であるリアム殿下に勝るとも劣りません。
はぁ~……。流石は姫騎士様です。侍る男性陣も想像を絶するレベルの高さですね。
「全くもう!何でこんな魚臭くて煙い所を歩かなくちゃいけないのよ!?ドレスに臭いが付いちゃうじゃない!」
何やら、大変に不快かつけたたましい声が聞こえてきます。
あれは……一年前にベネディクト坊ちゃんの婚約者になられた、ウェリントン侯爵家のご令嬢ですね。姫騎士様に気を取られて、目に入っておりませんでした。迂闊です。
見た目は大変愛らしい方ですが……やはり貴族令嬢ですので、我が儘全開ですね。
それにしても、磯臭さに文句を言うとは……。海洋を領地に持つヴァンドーム公爵家と縁を結ぶ自覚を持っておられないのでしょうか?
しかもリアム殿下の目の前で喚かれるなど、流石に不敬です。ベネディクト坊ちゃんのお立場を考えておられないとしか思えません。
私はさり気なく、ウェリントン侯爵令嬢に煙が向くように串焼きを厚紙であおぎます。すると更に喚き声が酷くなりました。……ふふ。効いてる効いてる。
おや?他の焼き物の店も一斉に私の真似をし出しましたね。
どうやらこの場にいる屋台の店主達の気持ちが一つになったようです。流石はヴァンドーム公爵領の領民。あっぱれです。
……え?あれ?
な、なんと!バッシュ公爵令嬢が私の屋台にススス……と近付いてきます。え?ちょっ!し、しかも頬を染め、美しい瞳をキラキラさせております。かっ……かわ……っ!!
あっ!隣の貝焼き店主のあおぎが激しくなって、姫騎士様がそちらに方向転換しだした!くっ!ま、負けませんよ!
なんて事をしていたら、銀髪の執事がさり気なく姫騎士様の進路を軌道修正し、本隊に戻します。おのれ、余計な事を!!
見れば、姫騎士様が屋台の匂いに釣られ、近寄っていくたび、近くにいる方々が軌道修正を行っております。なんという連携!
屋台の店主達が、商品をひたすらあおぎます。ウェリントン侯爵令嬢の金切り声が酷くなりましたが、あれは嫌がらせなのではなく、純粋に姫騎士様へのアピールなのでしょう。当の姫騎士様はというと匂いに誘われないよう、周囲をガッチリ固められ、直進するしかなくなっていらっしゃいます。
そのお姿を見て、お付きの騎士や従者達だけでなく、ベネディクト坊ちゃまのお付きの者達までもが肩を震わせています。ええ、その気持ち、痛い程分かりますとも。
そして遂に、焼き物通りを抜けた姫騎士様。何度も何度もこちらを振り返るそのお顔には、無念と切なさが滲み出ております。姫騎士様。もしかしなくても、海鮮お好きですね?
高貴な出自である姫騎士様が、まさかこのような庶民の味に興味を示して下さるとは思いませんでした。流石は虐げられていた草食獣人達の為に身を挺して戦われた女神のみ使い様です。あまりの感動に目が涙で霞みます。
「誰か一本でも買って差し上げれば良かったのに……」と呟く同僚の言葉に、全身全霊で同意せざるを得ません。
串焼きを頬張る姫騎士様……。きっと花が咲き誇る様な愛らしい笑顔を浮かべられたでしょうに……。――ッ!み、見たかった……ッ!!
ああ……姫騎士様のお姿が小さくなっていきます。名残惜しい。
その時、仲間がボソリと呟きました。
「ご一行様、帰りもここ通るんじゃね?」
私は速攻で、今現在手元にある串焼きの具を確認いたします。……不味い。このままではネタが売り切れてしまいます。姫騎士様がお通りになる前に完売御礼になってしまうなどと、そのような事態、断じて許されません。
私はエプロンを脱ぎ捨て、駆け出しました。行き先は勿論漁港です。背後で同僚の罵声が聞こえてきましたが無視です。
あっ!他の店の店主達も次々と駆け出しましたね。ですが負けません。
最高級の海鮮を手に入れ、至高の一串を姫騎士にお捧げする為。姫騎士の尊い笑顔を手に入れる為に……!
……顛末を申し上げますと、姫騎士様は戻ってこられませんでした。
聞いた話によれば、煙くさい通りに戻るのを盛大にごねたベネディクト坊ちゃまのご婚約者様の為に、馬車にて別ルートをとったとか……。
――くっ!おのれ……あのオレンジ髪娘めが!!
それを聞いた私と他店主は、大量の食材を抱えて膝から崩れ落ちました。
しかも最悪な事に、一瞬で姿が見えなくなった私を多くの領民達が目撃してしまった為、「あの動き……あいつ、一般人じゃなくね?」と、身バレしてしまい、ご当主様に「お前、屋台たため」と無情なお達しを受けてしまったのです。……無念!
こうして私の姿は焼き物通りから消えました。……が、半年後。私は姿かたちとタレの味を変え、再び焼き物通りで串焼き屋を営んでおります。
ヴァンドーム公爵領の平和維持の為。そして姫騎士様に串焼きを召し上がって頂くその日まで。
「お前、絶対姫騎士様のが本音だろ」
うるさい同僚の指摘を無視しながら、私は今日も串焼きを焼き続けるのです。
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姫騎士への愛が暴走し、身を持ち崩した(?)串焼き屋さんでした(*´艸`)
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