第558話 怒りと困惑

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――ワイアット宰相様……貴方という方は、なんという事を……!!


思いがけず、目の前に現れたオリヴァー兄様怒れる大魔王を見ながら、私はワイアット宰相様に向け、心の中で抗議の言葉を叫んだ。


いや、確かに兄様新人ですよ!?立場的には一番下っ端ですから、そりゃあ「お前、ちゃっちゃと始末してこい」って命令するのも分かります。分かりますけど、これはいささか過剰戦力ではないでしょうか!?


ほら、リアムもマテオも騎士様方も、全員ドン引きしているじゃないですか!というか、リアムが小さな声で『ワ、ワイアット……!!なんて事を……!!』って呟いているし、マテオも『おじいさま……!!馬鹿ッ!!』って呟いています!


しかし、男性陣の恐慌っぷりに対し、当のハイエッタ夫人とご令嬢はというと……流石はアルバ女子。『貴族の中の貴族』と謳われる、麗しき貴公子の登場に頬を染め、ウットリとした様子で兄様に見入っています。


あの、見とれているところ申し訳ありませんが、オリヴァー兄様、背後に暗黒オーラをこれでもかと背負っているんですが!?その目は飾りですか!?お願い、気が付いて!!


「……すげぇな。あの女共……」


ええ、クライヴ兄様!まったくもって私も同感です!!


『……歴史あるアルバ王国の象徴である王宮の正門前で、不埒者が騒いでいると報告があり、急ぎ駆け付けましたが……。ハイエッタ侯爵夫人、そしてハイエッタ侯爵令嬢。貴方がたでしたか……』


兄様!口調は丁寧だけど、しっかり侯爵家の人間を不埒者呼ばわりしている!!


『ま、まあっ!クロス伯爵令息!このような所でお会いできるなんて……!貴方の方こそ、何故こちらにいらっしゃいますの!?』


侯爵夫人が喜んでいる!!貴女、不埒者呼ばわりされたっていうのに、そこらへんはスルーですか!?


『……宰相閣下が「将来の糧に」と仰り、私を鍛える為、恐れ多くも王宮にお招きくださったのです。若輩者ではありますが、宰相室の見習いとして、閣下のご恩情に報いるべく日夜励んでおります』


……うん。でもそこ、本当は『将来の糧』ではなく、『激務を乗り越える為の贄』なんですよね。アイザック父様も『良い時にお仕置きが重なって良かった!』って喜んでいたし。

あっ!?な、なんか兄様の背後の暗黒オーラが『怨』の字になっている!!(幻覚?)


『まぁっ!ワイアット宰相様ご自身が直接貴方を!?ひょっとしたら、貴方をご自身の後継者にしようと思われているのかしら?はぁ……。流石はかの名高きメルヴィル様のご子息!優秀でいらっしゃるのねぇ……』


「「「…………」」」


どうやらハイエッタ侯爵夫人、メル父様のファンらしい。あっ!オリヴァー兄様が小さく舌打ちしている!


それにしても、先程まで「王宮に入れろ!」って大騒ぎしていたというのに、オリヴァー兄様が登場した途端、ハイエッタ侯爵夫人もハイエッタ侯爵令嬢も遠目からでも分かるぐらいに頬を染め、ハートを飛び散らせながら身体をくねらせている。リアム達や騎士様方も、そんな彼女らに対して半目になっていますよ。


……というか、ハイエッタ侯爵令嬢。貴女、卒院式であれだけオリヴァー兄様にコテンパンにされたというのに、なんでそんなにメンタルが強いんですか!?


「あー……。自分で自分の事を『王族』なんて言っちまうぐらいだからな。多分だが、同盟国でもない小国の王子とはいえ、王族と婚約を結んだ事で、無駄に高い自尊心が復活しちまったんじゃねぇのか?」


「あり得ますね。というか、『王族の婚約者』という付加価値が付いた事により、自分がオリヴァー兄上を選んであげる側・・・・・・・だと勘違いしていそうですよね」


えっ!?ま、まさかそんな……。って、クライヴ兄様とセドリックの表情が凪いでいる!……マジですか!?


「しかし、あの二人、アルバの女性の中でも最悪に悪質な部類だったな」


「ええ。高位貴族ならば、普通は夫なり親なりがちゃんと御している筈ですしね。しかもあの行動力。完全に制御不能に陥っているでしょう。ハイエッタ侯爵の程度が知れますね」


なんでも、アルバの女性は甘やかされて我儘だけど、普通は周囲がそれなりに道を踏み外さないよう、上手く誘導するものなんだそうだ。それにちゃんとした方向に誘導すれば、劇的に変わる人達も多いんだとか。


「尤も、それが分かったのが、お前のあの・・伝記のおかげだけどな」


「え?私の……って、それって『アレ』の事ですか?」


「ああ。『現代に蘇った姫騎士~守るべきものの為に~』だ」


「……兄様。題名、わざわざ言わなくていいです」


クライヴ兄様曰く、あれを読んで姫騎士信者(!?)になったご令嬢方が、「姫騎士に少しでも近づきたい」と頑張った結果、ツンデレ風味で可愛いらしくなったご令嬢が続々と誕生しているのだそうだ。例をあげるとシャーロット様、エマ様、クロエ様がその典型なのだとか。ひえぇ!し、知らなかった!!


「あの……。それって、彼女らが姫騎士信者のオタクになったって事!?」


なんてこった!恥ずかしい!!そして私の所為ではなくとも、彼女らを沼に突き落としてしまったというのか……!!


「エレノア、確かに彼女らは『オタク』という業を背負った。でも、それでもいいじゃないか。だって皆、とても良い方向に変わっているんだから!」


「――ッ!セドリック。そ……そうかな?」


「うん、そうだよ!君は自分が彼女らの『推し』になった事を誇りに思うべきだ!」


た、確かに。推しは人生に彩りを与え、萌えというパワーを与えてくれる。更には人種の垣根も性別すらも超える力を秘めているのだ。うん、そう考えると悪くはない気がしてきた。たとえ、私自身が推しの対象であろうとも。そう、推し活は尊い!


けれども当然というか、あの母娘のように矯正不可能なタイプも一定数いるらしい。クライヴ兄様曰く、「ありゃぁ、元々の性格だろうな」との事です。成程。


『……私の事はどうでも良いのです。あいにく宰相閣下はお忙しい身。とてもではありませんが、予定にない方と会談する程の余裕はありますまい。ですので、正式に会談の申し込みをした後、ご自宅にて静かにお返事をお待ちくださいませ(意訳:「くだらない事を色々ぺらぺらと……やかましい!閣下も僕も暇ではないんだ!絶対こないだろう返事を、家で大人しく待ってろ!!」)』


……オリヴァー兄様。一応女性相手だからと、なけなしの礼儀を払っていらっしゃいますが、貴族言葉に隠された意訳が非常に荒んでおられます。


『オリヴァー様!では、オリヴァー様がわたくしたちの言葉を宰相様にお伝えくださいませ!』


あっ!海の白レディー……じゃなくて、ハイエッタ侯爵令嬢!オリヴァー兄様から「名前を呼ぶな」と言われていましたよね!?ああっ!オリヴァー兄様の背後霊ならぬ暗黒オーラが、フィン様の闇の触手ばりにとぐろを巻きだした!!けれども、怒りを向けられている当の本人は、まったく気が付いていないようだ!!


『わたくしの義理の妹となるお方……。第一王女であるセレスティア様が、聖女様である事はご存じでしょう?』


『……ええ。それがなにか?』


『この度、わたくしの婚約者であり、セレスティア様の兄であるセラフィヌ様からお手紙がまいりましたの。そこには、セレスティア様がこのアルバ王国と自国との友好の懸け橋として、王室に嫁ぐお気持ちがあると書かれておりましたのよ!』


――……え!?聖女様が王家に……リアム達の元に嫁ぐ……?


青天の霹靂とも言える爆弾発言を受け、思考が停止してしまう。クライヴ兄様とセドリックの表情も、一瞬で険しくなった。


「聖女様の血を継ぐ殿下方の伴侶が聖女様だなんて、なんと素晴らしいのでしょう!二代続けて、聖女様を『公妃』に頂くなど、この国の未来は安泰ですわね!』


『ええ、聖女様から伴侶に望まれるなど、栄誉以外のなにものでもありませんわ!わたくし達、この良き知らせを一刻も早くお耳に入れようと、こうして参りましたの!』


はしゃぐハイエッタ侯爵夫人とハイエッタ侯爵令嬢。私は思わず、リアムの方へと目をやる。すると一見冷静沈着そうなリアムだが、その背に青い魔力がゆらりと立ち昇っているのが見えた。


『……それは確かに光栄な話だが、この国には既に、大聖女たる母がいる。わざわざ我が国との懸け橋にならずとも、その慈悲の心は真にその力を必要としている国や国民に注がれるべきであろう。それに俺も兄上達も、既に心に決めた女性がいる。いくら聖女であろうとも、伴侶は不要だ』


その瞬間、ハイエッタ親子の口からギリ……と、歯軋りの音が聞こえてくる。そういえば、王家の直系が私に恋情を抱いているのは、隠しようのない事実となっているけど、リアムの口から直接言い切る言葉が出たのは初めてではないだろうか。


『……まあ、リアム殿下。ご安心なさって?セレスティア様とお会いすれば、その想いが幻想であったときっと気が付きますわよ。なにせあのお方は、教会が認めた真なる聖女様。その聖なる力で、きっと殿下方の目を覚ましてくださいますわ!』


『ええ、お母様の仰る通りですわ!人には分相応というものが御座います。自分好みな見目の良い殿方を、騎士の真似事をして次々と篭絡しているような、そんなご令嬢が『公妃』になどなれば、栄光ある我がアルバ王国は世界中の笑いものになりましょう!』


興に乗ったような、彼女達の悦に浸った言葉を黙って聞いていたクライヴ兄様とセドリックの顔がどんどん険しさを増していく。それは彼女らと直接対峙しているリアム達も同様だった。


『リアム殿下!尊い血統を汚さぬ為にも、是非セレスティア様を……ヒッ!?』


遂に、リアムの身体から膨大な魔力が一気に噴き上がった。その表情は遠目からでも分かるように憤怒に満ちている。

その凄まじい怒りを向けられたハイエッタ侯爵夫人は、怯える娘を庇うように胸に抱き締めるが、その当人も、王族の本気の怒りをその身に受け、傍目で見ても分かるぐらいに怯えている。


『貴様ら……くだらない戯言を、よくもベラベラと……!!』


『……ほう……。殿下方と他国の聖女様とのご婚姻ですが。それは中々に魅力的な案ですね』


その時。リアムの言葉を遮るように、ゆったりとしたオリヴァー兄様の声がその場に響き渡った。



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シ・エ・ク「バレましたわー!!」(*ノωノ)(*ノωノ)(*ノωノ)

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