第559話 おとといきやがれ?
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『――なっ!?オリヴァー・クロス、おまえ……!』
オリヴァー兄様の台詞を聞いたリアムが一瞬固まった後、今度はハイエッタ侯爵令嬢達に向けていた怒りをそのままオリヴァー兄様に向けた。
――オリヴァー兄様!?
そして私も、今の兄様の発言に頭の中が真っ白になってしまった。
だって今の言葉……まるで聖女様とリアム達の婚約を喜んでいるみたいで……。
『え、ええ!そうでしょう!?クロス伯爵令息なら、そう言ってくださると思っておりましたわ!ご自分の婚約者が王族を誑かしているなど、いくら王家が静観しているとはいえ、筆頭婚約者として歯がゆい思いをされていた事でしょう?』
ハイエッタ侯爵夫人も、へっぴり腰になりながらも我が意を得たりといった様子で嬉しそうに話し始めている。
それらをどこか遠くに感じながら、私は彼らの姿を見つめ続けた。
『……リアム……』
確かに『聖女』は、滅多に現れない稀有なる存在だ。
私もまだ候補とは言え、『聖女』であると、大精霊である奥方様から認められている。けれども帝国との関係上、それを公表する事は出来ない。
そうなるとハイエッタ侯爵夫人達の言う通り、事情を知っている人達はともかく、知らない人達にとって私はまさに、『公妃』になる資格もないのに王家直系達の恋心を弄ぶ、とんでもない悪女なのだろう。
――……でも……!!
『俺は、お前が好きだ!王家直系とか、聖女とかってどうでもいい!お前がお前であるからこそ、俺はお前と結婚したいんだ!!』
以前、リアムに真剣な顔で言われた言葉が脳裏に蘇る。……そして……。
『エレノア、僕は君がオリヴァー達を心の底から愛している事を知っている。そして、僕らが決して彼らの代わりになれない事も。……でも、僕はそんな君だからこそ、とても愛しい。それは地位も名誉もなにもない、「僕」そのものを見てくれているなによりの証なのだから。……彼らと同等の愛を返されなくてもいい。その分僕が君をめいっぱい愛するからね』
――アシュル様……。
『エル、俺は難しい事とかあんまり考えられねぇけど、とにかくお前が好きで仕方がねぇんだよ。独占出来ないのは……まあ、面白くないところもあるけど、それはあいつらも同じだし。それに俺、お前の婚約者達の事も気に入っているからさ!』
――ディーさん……。
『ねえ、知ってる?本来「闇」属性を持つ者って、あまり物事に執着しないらしいんだけど、「これ」って決めたものにはとことん執着するんだって。……僕にとっての唯一の執着は君だ。君の為ならなんだってするし、君の全てが欲しい。独占出来るものなら独占したい。……けれど、そんな事をしても、僕以外誰も幸せになれない事も分かっている。だから、オリヴァー・クロスが君の筆頭婚約者ってのは、ちょうど良いのかもしれないね。彼なら僕の執着を抑える事が出来る。……というか彼、絶対隠れ『闇』属性だよね?』
――フィン様……。
最初は好意から始まった仮の婚約者。でも彼等の近くにいて、彼等と接し続けて……。その好意はどんどん形を変えていって……。彼らが他国の聖女様を『公妃』として受け入れるかもしれない。そう考えただけで、今はこんなにも胸が苦しい。
私は無意識に、制服のスカートをギュッと握りしめた。
「……クライヴ兄様、セドリック。私……私、リアム達が聖女様と結婚するの……凄く……嫌なの!」
話しているうちに、目が熱っぽくなってだんだんと潤んでいく。そして声もみっともなく掠れ、最後らへんはか細くなって消えていってしまう。
私の気持ちを最優先にしてくれて、時には命がけで私を守る為に戦ってくれる。そんな彼らが、愚か者と世界中から嘲笑され、私自身も悪女と誹られるかもしれない。……けれど、私はどうしてもリアムを……アシュル様達の手を離す事が出来ない。
「エレノア……」
そんな私を、クライヴ兄様が優しく抱きしめる。セドリックも先程までの険しい表情を引っ込め、慈愛に満ちた眼差しを向けながら、私の頭を優しく撫でてくれた。
「それでいいんだ、エレノア。たとえ非公式だったとはいえ、アシュル達は共にお前を守り愛する、俺達の大切な婚約者仲間なんだから」
「クライヴ兄様……」
「そうだよエレノア。……今の言葉、リアム達に聞かせたらきっと大喜びするだろうね。それに、なんだかんだ言って、オリヴァー兄上も僕達と同じ気持ちだと思うよ?」
「セドリック……。え?でも、さっき……」
「確かにオリヴァー兄上は、『万年番狂い』を地でいく狭量っぷりだけど、リアムや他の殿下方をこんな形で排除しようなんて、絶対考えない。あれは手っ取り早く、リアムの怒りをあの二人から自分に向けさせる為に、敢えてそう言ったんだよ」
「えっ!?そうなの!?」
「ふふ……まあ、見ていれば分かるよ」
セドリックに自信満々に断言され、私はクライヴ兄様に抱きしめられた状態で、再びオリヴァー兄様の方へと目をやった。
『……確かに。僕の命とも言える大切な婚約者が、他の男に目移りするのはたいへん業腹ですね』
『そうでしょうとも!ならば是非、このお話を貴方からワイアット宰相様に……』
『ですが、それはあくまで『エレノアの方から殿下方に言い寄った』という前提によるものです。生憎ですが、僕の最愛の天使であるエレノアは、僕達以外の誰にも媚びたり言い寄ったりした事がありません』
『え!?』
『それに、貴女方はご存じないのかもしれませんが、彼女は私達との婚約解消の話が出た時、自ら廃嫡を望んでまで抵抗したような子なのですよ?そんな彼女の監督不行き届きを責められましても……ねぇ?正直、貴女方の正気と脳内の御病気を疑ってしまいますよ』
『――ッ、なっ!?』
『そ、そんな!!』
侯爵夫人達が顔を赤くさせ、絶句する。そんな彼女らに対し、オリヴァー兄様の言葉の刃による追撃は続く。
『そして、ここが一番重要な点ですが……。恐れ多くも我らアルバ王国の頂。誉れ高き王家直系ともあろう方々が、「悪女」の小娘一人に篭絡されたと……貴女方はそう仰りたいのですか?』
『『――ッ!?』』
『ああ、そうですか!だからこそ貴女方は、そのような「頼りなく情けない王家直系達」になんとか箔を付けようと、交流もない小国の聖女様を引っ張り出し、宛がおうと画策された。……つまりはそういう事なのですね?』
『……あ……あの……!』
『……ふふ……なんという忠義心。感服致しましたよ。……まあ感服したのは、そのとんでもなく無礼で不敬極まる忠義心に対してですけれどもね。ええ、これは是非とも宰相閣下にお伝えし、陛下に奏上して頂かなければなりませんね』
『――ッ!!』
ハイエッタ親子の身体が再び震えだす。ここにきて彼女らはようやく、オリヴァー兄様の怒りを察したのだろう。
オリヴァー兄様は、自分を戸惑うような表情で見つめていたリアムと一瞬視線を合わせ、微笑んだ……ような気がした。
『オリヴァー兄様……!』
普段は不敬や憎まれ口ばっかりだけど……。オリヴァー兄様もクライヴ兄様達同様、リアム達をちゃんと認めてくれているんだ。
私はほわりと温かくなった胸元に、そっと手を当てた。
オリヴァー兄様は、後方に控えていた騎士様方に対し目配せを行う。すると心得たとばかりに、騎士様方が侯爵夫人と侯爵令嬢を取り囲み、丁寧に……そして有無を言わせぬように彼女らを馬車へと誘導していく。
『大人しくご自宅で王家からの「感謝の書」をお待ちください。…ああそれと、「侯爵家の御令嬢」が「公爵家の御令嬢」を貶める発言をしていたと、バッシュ公爵様にも伝えておきますよ』
『オ、オリヴァー様!!誤解です!!わたくし達はそのような意図をもっていたわけではありません!!』
『……貴女の頭はお飾りですか?私の名前を呼ぶのは止めて頂きたいと、何度も申し上げておりますでしょう?』
騎士達に誘導(連行)されながら、ハイエッタ侯爵令嬢がオリヴァー兄様に向かって必死に言いつのる。けれども、オリヴァー兄様はあくまで穏やかに微笑みながら、彼女らを見送っている。
『――ッ!セレスティア様とお会いすれば、きっと分かりますわ!貴方様のバッシュ公爵令嬢への盲愛も消え、きっと目が覚めるはずです!!』
『……は?』
捨て台詞のような言葉を喚いていたハイエッタ侯爵令嬢の身体が、いきなりカクンと木偶のように崩れ落ちる。
幸い、周りにいた騎士様方が咄嗟に支えたので床に倒れる事はなかったが……。あれ、絶対オリヴァー兄様がピンポイントで威圧をぶつけたんだよね!?
『僕のエレノアへの愛を貶めるとは……。身の程知らずの馬鹿共が』
底冷えするようなオリヴァー兄様の小さな呟き声。その身の毛もよだつような冷たい響きに、思わず私だけでなく、クライヴ兄様とセドリックまでもがブルリと身体を震わせる。あ、『こ、こわっ!』というマテオの呟きが聞こえてきた。うん、その言葉、激しく同意します!
「――ッ!?」
不意に強い視線を感じた……気がしてオリヴァー兄様の方に目を向ける。すると何故か兄様は、ジーーッとこちらを見つめていた。そしてその一秒後、クワッと目を見開く。
「ヤバい!!感づかれたか!?」
焦ったようなクライヴ兄様の言葉と同時に、オリヴァー兄様がこちらに一歩踏みだそうとした。……その時。
『オリヴァー・クロス、ご苦労だった。さあ、仕事に戻るぞ!』
何故かいきなり姿を現したワイアット宰相様が、オリヴァー兄様の肩をガッシリと掴んで動きを封じた。
そして、そのままオリヴァー兄様の襟首を掴んでズルズル引きずっていく。……ん?ワイアット宰相様、なんか髪が乱れておりますが、ひょっとして全速力で駆け付けたんですか!?
『チッ……。結局こっちに来るんだったなら、最初から貴方が対応すればよかったものを……』
『やかましい!口を閉じてろ青二才!!』
仲良く軽口(?)を叩きながら、その場から離れていくオリヴァー兄様を、私は冷や汗を流しながら見送った。そしてその背後では、クライヴ兄様とセドリックが安堵の溜息をついていたのだった。
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オリヴァー兄様の『エレノア探知センサー』発動!
影:「リアム殿下の馬車に、バッシュ公爵令嬢がいらっしゃいます!!」
ワ:「なんだとーー!?」
パパ:「わぁ!じーさまが一瞬で消えた!!」
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