第560話 マリア母様の離宮にて
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「あー、遂に王家と……オリヴァーの逆鱗に触れたのね、あのしよーもない女!まったく……。既にヴァンドーム公爵家に睨まれているってのに、なにやってんのやら!ってか、学院時代から馬鹿だったけど、大人になるにつれ、馬鹿に磨きがかかってきたって感じね!しかも馬鹿が娘に遺伝しているって、本当にどうしようもない馬鹿だわ!」
――……マリア母様。今、『馬鹿』を四つも言いましたね?
私は、ゆったりとしたAラインのドレスを身に纏い、ソファーに腰かけながら、相変わらずお菓子を爆食いしているマリア母様を、汗を流しながら見つめていた。
因みに、母様の侍女兼乳母予定のリス獣人ノラさんは、そろそろ臨月だという事で、旦那様達との愛の巣にて静養中との事。ベビケモっ子を見るのが今から楽しみです!
「相変わらず、エレノアの母上は楽しい人だな」
「傍から見ていると楽しいかもしれねぇけど、身内となると生気吸い取られますよ?」
「そ、そう……なのか?」
リアムの言葉に対し、クライヴ兄様容赦ない。……まあ、否定はしませんが。
でもマリア母様、身内や信頼している相手にはこういった本性を平気で見せてくれるけど、外向きの顔は、『淑女の中の淑女』と言われているのが伊達ではないらしく、高位貴族の女性としての振る舞いは完璧なのだそうだ(私は見た事ないんだけど)。
バッシュ公爵領でも、家門やお抱え商会の奥方達と共に、定期的にお茶会や夜会を開き、自領の特産品や事業についてのプレゼンを行ったりしているんだとか。
ううむ……。母様、前世で言うところの『職業婦人』だったんですね!
そもそも高位貴族は率先して働いたりしないので、自領の為に様々な取り組みを行っている母様の人気は非常に高いらしい。
更には性格も裏表なくサッパリとしており、下位貴族に対しても偉ぶったりしないところから、敵(女性限定)もそれなりにいるけど、味方……というか信奉者が男女問わず、物凄く多いんだそうだ(byアイザック父様)。
「ん~~!!この新作菓子美味しい~♡♡セドリック、あんた益々腕を上げたんじゃない!?」
リアム経由で、母様とアリアさんに差し入れをしようと持参していた『和菓子』の新作菓子。食べ易いようにと、一口サイズに作られたそれをフォークに刺して口に運びながら、マリア母様が満面の笑みを浮かべる。
にしても、流石は腐っても公爵夫人。こんだけモリモリお菓子を食べまくっているってのに、その姿はあくまでも優雅だ。
「マリア様、有難う御座います。因みにそちら、『ズンダモチ』と『アワダイフク』と申します」
そう、餅ですよ餅!!
以前は小麦で代用していたんだけど、アリアさんと知り合ってからはお米だけでなく、もち米まで貰えるようになったのだ!
結果、餅関連のお菓子が沢山作れるようになって嬉しい限りです!本音を言えば、定期的に購入したいんだけど、今のところはアリアさんの善意という形で不定期に譲ってもらっている状況である。ああ、稲が欲しい!!
「へえ~、相変わらず『ワガシ』って、見た目も名前も変わっているわよね?でも、生クリームもバターも使わない、この優しい甘さが良いのよね!もう本当、いくらでもいけちゃうわ!っていうかセドリック!あんたもいずれ、私の本当の息子になるんだから、名前じゃなくて『母上』と呼びなさいって、いつも言っているでしょ!?」
母様のマシンガントークが炸裂する。それに対し、セドリックは少し引き気味になりながらも、頑張って笑顔を浮かべる。
「あ、有難う御座います。……えっと、マリア義母上。『ワガシ』は基本、野菜と砂糖が中心ですから、確かに身体には優しいです。……でも、『オモチ』はよく噛まないと消化に悪いですし、喉に詰まり易いですから、あまり沢山召し上がらない方が……」
「大丈夫よ!今のところ、喉に詰まらせた事は二回くらいしかないわ!」
「今すぐ食べるのを中止してください!!」
「「「「…………」」」」
二人の愉快(?)なやり取りを、私、クライヴ兄様、リアムで冷や汗を流しながら見守っていると、マテオから「本当に、お前の母親って感じだよな……」なんて、しみじみ言われてしまった。ちょっと、マテオ!いったいどこら辺が!?
「全てだ」
ムキー!!
ところで私達は今現在、王宮のサロン……ではなく、マリア母様が住まう離宮の方にお邪魔しているのである。
それは何故か?……勿論、オリヴァー兄様対策の為です。
この離宮は、オリヴァー兄様が今現在居としている宰相室から遠く離れている。そのうえ、あのグラント父様とメル父様ですら恐れを抱くワイアット宰相様に対してでさえも、ごく自然と不敬を働けるオリヴァー兄様だから、彼がこの世で最も苦手としているマリア母様の傍にいた方が安全だろう……という事になったのである。
確かに以前、オリヴァー兄様と母様とで舌戦になった時があったのだが、理路整然と理詰めで攻めるオリヴァー兄様に対し、マリア母様は直感と本能……そして、女性特有のマシンガントークという奥義を駆使し、兄様を玉砕させていた。
しかも母様には伝家の宝刀『筆頭婚約者変えるわよ?』がある。
マリア母様とオリヴァー兄様。ハブとマングース。ライオンとハイエナ。キノコとタケノコ……。
彼らは永遠のライバルとして、常に雌雄を決す戦いを繰り広げているのである(今のところ、オリヴァー兄様の全敗っぽいけど)。
「ちょっとー、マリア!!あんたいつまで食べてんのよ!?これじゃあ、ちっとも採寸出来ないじゃないの!!」
「しょーがないでしょ!?あんたには分からないだろうけど、妊婦って少し動くだけでお腹すくのよ!」
「だからって、ちょっと採寸しちゃあ食べまくるってどういう事!!あんたの腹の中の子、どんだけ大食漢なのよ!?」
そんなマリア母様の横でイライラしながら小指を立て、紅茶を飲んでいるのは、ご存じバッシュ公爵家専属デザイナーのジョナサンことジョナネェである。
安定期に入った母様のお腹は今、日を追うごとに大きくなってきている。なので、私が発案した『マタニティードレス』を定期的に作るべく、こうしてジョナネェがちょくちょくこの離宮を訪れているんだそうだ。因みにだけど、今母様が着ているドレスもそれである。
「あら~!エレノアちゃん、それだけじゃないのよ?実は私、今回の夜会で殿下方の礼服も作る予定なの~!」
「えっ!?そうなの!?」
遂にジョナネェにまで心の声を読まれたショックよりも、彼女(?)の言った言葉にビックリして声を上げた私に、ジョナネェは満面の笑みを浮かべた。
「そうなのよ~♡流石は王家!私のこの溢れんばかりの才能にしっかり気が付いたってわけよ!お陰で莫大な予算は付くわ、殿下方の採寸し放題だわで、もうウハウハよ!!」
「…………」
オーッホッホッホ!と高笑いをするジョナネェを半目で見つめる。いやそれ、ウハウハなのはどちらかというと、殿下方の採寸し放題に関してだよね?ジョナネェがお金よりも、好みの男の身体を触りまくる方が重要って事、私は知っているんだからね!?
チラリとリアムの方を見て見ると、能面のような顔をしていた。若干顔色も悪いし、マテオも射殺しそうな眼差しをジョナネェに向けている。……どうやら既に
あっ!セドリックが達観したような笑顔でリアムに肩ポムしている!そういえばセドリックも最近、ジョナネェの採寸後に兄様達みたくぐったりしていたっけ。
「ジョナネェ!私の大切な、こ……こ、こん……やく者達に、セクハラは止めてね!?これ以上皆の嫌がる事したら、もう口きかないし、絶交しちゃうからね!?」
皆の精神衛生を守る為、精一杯キリッとした表情でジョナネェを睨み付けながら言い放つ。……が、クライヴ兄様、セドリック、リアムが「エレノア……!」「僕達の為に……!!」「ヤバイ……好きだ!!」と、頬を染めながら感じ入っている。
特に先のハイエッタ侯爵家とのやり取りで、私に対して気まずそうだったリアムの感動具合が半端なく、私をギュムギュム抱き締めながら感極まってキスしてきた事で、頭の活火山がドカンと噴火した。そしてクライヴ兄様とセドリックが、「抜け駆けすんな!」とばかりに、リアムから私を引き剥がす。
因みにだが、「やっだ~!『せくはら』って、なんの事言ってんのか分からないけど、好きな男の子の為に頑張るおませなエレノアちゃん、か~わいい~♡♡」と、ジョナネェまでもが頬を染めながら身体くねらせて喜んでいた。……解せぬ!
ちなみに、小麦で代用した餅もどきで『ずんだ餅』を作る→アリア「これは是非!本当のお餅で食べてみたい!」→もち米贈呈。の流れです。
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