第561話 聖女の認定基準

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「ふふ……。取り敢えず採寸や『せくはら』の事は置いておいて、まずは例の『聖女』様について、分かっている事をまとめましょうか。ねえ?リアム殿下」


美しい容姿に微笑を浮かべながら、さり気なく会話の軌道修正を図ったのは誰あろう、麗しき我らが長姉パト姉様である。


途端、わちゃわちゃしていた空気がピンと引き締まった。流石はパト姉様。出来る長女は違う。……んん?なんか、パト姉様の肩に……。


「見慣れたミノムシが……」


『ミノムシ言うなー!!』


言葉と同時に、飛んでくるなり、頭にペチペチ体当たりしてきたのは、どう見てもミノムシにしか見えないダンジョン妖精ワーズだった。ってかワーズ、あんたまだこっちにいたの!?


『ふん!ここには、私をこき使ったり虫扱いする嫌な奴がいないし、果物も食べ放題だからな!高貴な私の別宅として、利用してやっているんだ!』


そんな事を言って、再びパト姉様の肩にとまってふんぞり返っているけど……ワーズ。うちの庭の隅に作った祠のお供え物も、毎日しっかり完食しているよね?別宅っていうより、既にこっち王都の方がホームグランドになっているような気がするのは私の気の所為なのかな?


「ふふ……。高位妖精が守護してくれるのは、大変心強いですね」


そう言って微笑むパト姉様の肩で、ミノムシ……ならぬワーズが、益々得意気にふんぞり返った。


『うむ!私に任せておけ!!果物が貰えるうちはしっかり守ってやろう!それになんと言っても、お前達はエレノアの身内だからな!』


「頼もしい限りです。これからも宜しくお願いいたします」


『うむ!全て私に任せるがいい!!』


聖母の微笑を浮かべながら、肩に乗っているワーズを優しく指で撫でるパト姉様と、撫でられてご満悦そうなワーズ。


確かに今現在、マリア母様のお腹で成長している子の事を考えたら、守護者は多ければ多いほどいいだろう。……そう。たとえ果物に釣られる、自称『いと高き至高の存在』であったとしても。


というかワーズ。この王宮ってば、強力な結界に満ち満ちているから、本来の姿になれないし力も使えないから、攻撃って言っても、私の頭に体当たりするぐらいしか出来ないよね?……なんて事は野暮だから言わないけどね。うん、パト姉様の癒しのペットになっているっぽいし、これはこれでありかな?


「流石はパトリック姉上。妖精までをも誑し込むとは!」


クライヴ兄様、言い方!!


……うん。まあでも確かに、本当に色々とチョロい高位妖精だよね。





◇◇◇◇





「……まず、例の『聖女』の名は、セレスティア。スワルチ王国の第一側妃の姫であり、ハイエッタ侯爵令嬢の婚約者となったセラフィヌ第二王子と同腹の姫だ。現在十六歳。父である国王から掌中の珠のように大切にされているらしい。また魔力量も、他国の基準としては稀に見る程多く、『癒し』の力も使えるそうだ。そして、『聖女』として教会から認められたのは、今からちょうど三年前だな」


リアムから語られる聖女様情報に「ふむふむ」と頷く。

成程。という事は、今の私と同じ十三歳で『聖女』認定されたのか。


「更には容姿も、金髪碧眼に抜けるような白い肌。そして大人びた肢体を持っており、『傾国』と称えられる第一側妃と瓜二つの、大変美しい姫なのだそうだ。それが更に『聖女』という絶対的な肩書を持ったんだ。スワルチ王国ではまさに、女神様ばりに信仰の対象になっているらしい。……ただ、王宮から滅多に出てこないらしく、彼女の人となり等は未だ不明だそうだ」


「……ほう?『王宮から滅多に出てこない』ですか。では、その『癒し』の力はどこに振舞われたのでしょう?そしてスワルチ王国の教会は、なにをもってその王女を『聖女』認定したのでしょうかねぇ?」


パト姉様の言葉に、リアムが難しい顔をしながら首を傾げた。


「なんでも、父である王の病を治したのを切っ掛けに、貴族達の怪我や病を癒していったとかなんとか。……まあ、教会のトップである教皇の病を癒したのが決定打だったらしいがな」


「権力者限定の『癒しの聖女』って訳か。……まあ、『聖女』の名を授ける決定権は、各国に委ねられているから、別にその点についてとやかく言うつもりはないが……。他国に絡むとしたら話は別だな」


そう言いながら、クライヴ兄様もリアム同様、複雑そうな表情を浮かべながら眉を顰める。


因みに、普段は専従執事として私の背後に立っている事の多い兄様だが、この離宮はマリア母様の仮住まいだという事で、今現在はマリア母様の『息子』として、私達同様ソファーに腰かけている。


「そうよねぇ。うちの聖女様であるアリア様もそうだけど、『聖女』の認定基準って確か、国難レベルの災害を鎮めたり、魔獣や流行病により傷付いた多くの民を救ったりした実績だものね。それか、圧倒的な『聖魔力』を顕現させるとか。そう考えると、一握りの権力者癒しただけで『聖女』って、眉唾っぽさ満載ね!」


「……確かに。病や怪我を癒すだけなら、治癒師ヒーラーでも事足りますよね」


マリア母様とセドリックの言葉に、その場の全員が頷いた。


実はアリアさん、その両方の基準を満たしているから、他国では『大聖女』と言われているんだそうな。


そんなアリアさん曰く、『別に聖女になりたかったわけじゃないし、元の世界に帰る為に頑張った結果だから、「大聖女」なんて言われるのは複雑なのよね……』だそうです。


でも、この世界に留まる決意をしてから今現在に至る迄、しっかり『聖女』として弱者や傷付いた人達の為に奔走しているアリアさんは、やはり『大聖女』なんだと思う。


因みに、王家が私を『大地の聖女』として認定しようとした証はというと、獣人王女を退け、国の窮地を救った功績と、マリア母様が仰っていた『聖魔力の顕現』によってである。


……まあ、その肝心な『聖魔力の顕現』が、ぺんぺん草とタンポポではあまりにしまらないだろうって事で、修行する羽目になったんですけどね。あ、でも今は色々あって、新たにスミレも咲かせる事が出来るようになりました!頑張ればシロツメクサだって安定して咲かせられるし(以前は油断するとペンポポに侵食されて消えてしまっていた)、メドウガーデンに何歩も近づけたよね?


「うん、そうだな。偉いぞ?」


……クライヴ兄様。私の頭を撫でながら、憐れむような慈愛に満ちた微笑を向けるのやめてください。


「……つくづく、おまえエレノアが聖女だって言えない今の状況が辛い。俺達には他の誰よりも大切なお前がいるのに……。しかも、お前以上に聖女らしい聖女なんていないってのに……!」


前髪をクシャリとかき上げながら、苦悩の表情を浮かべるリアム。その表情がやけに大人びていて……ちゃんと『男』の顔をしている事に、不覚にもドキリと心臓が跳ねる。そして物凄く目に眩しい……!


「ってか、その聖女!『友好の懸け橋』として『王室に嫁ぐ気持ちがある』って、なに様だよ!?いや、聖女様だけどさ!ああ、ちくしょう!!その押しつけがましい上から目線、真面目にムカつく!!『間に合ってます』って、ガチで面と向かって言ってやりたい!!ってか、そもそもこっち来んな!!」


「リ、リアム……」


どうしよう、リアムの鬱屈とした愚痴が止まらない。それどころか、ヒートアップしていっている。


クライヴ兄様とセドリックも困ったような表情を浮かべながらも、リアムの気持ちが分かるのか、止めるのを躊躇しているようだ。


「あああ!もうさぁ、いっそ夜会でエレノアが『聖女』だってこと、発表しちまわないか!?帝国だって、もうほぼ確信持っているっぽいんだからさぁ!そうすりゃあ、『他国の聖女を嫁に』ってゴリ押しされないから、万々歳じゃん!!」


「『普通』の聖女ならば……な」


突然、テノールに近いバリトンボイスが会話に割って入った。


「ア、アシュル兄上!?」


「あら~!アシュル殿下!?」


リアムとマリア母様の言葉に振り向くと、そこには輝くような金髪とアクアマリン・ブルーの瞳を持つ美貌の王太子、アシュル様が、甘やかな微笑みを浮かべながら立っていたのだった。



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エレ:「因みに、ワーズをこき使ったり虫扱いする嫌な人って……」

ワーズ:「黒い悪魔だ!」

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