第562話 飛んで火に入るなんとやら
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そんな私達にアシュル様は苦笑しつつ、「楽にしてくれ」と言いながらヒラリと手を振る。
アシュル様には「公式の場ではともかく、私的な場所では堅苦しい挨拶は不要だよ」って常々言われているんだけれど、離宮とは言えここも立派に王宮。王族に仕える貴族としては、やはり礼を失してはいけないと思うのです。
「アシュル兄上……あの……」
正門でのハイエッタ侯爵夫人達とのやり取りを思い出したのだろう。アシュル様に対し、バツが悪そうな顔で俯くリアムに対し、アシュル様は静かに。そして諭すようにゆっくりと話し始めた。
「リアム。エレノアは
リアムがハッとした表情を浮かべながら顔を上げ、アシュル様を見つめる。そんなリアムに対し、アシュル様は更に淡々と言葉を紡いでいく。
「『聖女』であると公表すれば、彼女の過去から現在に至る迄の全てに注目が集まり、おのずと『転生者』である事までもが明らかになってしまうだろう。……転生者を『こぼれ種』などと言って憚らないあの外道共に、奴らが利する情報を与えるわけにはいかないんだよ」
うう……そ、そこら辺は済みません。思えば私、バッシュ公爵領では考え無しに、前世の知識を大盤振る舞いしちゃっていたからなぁ……。
それにしても確かに……。あの国ならば私が転生者だと確定した瞬間、「『こぼれ種』は元々うちのなんだから寄越せ!」と言い出しかねないもんね。というか、確定していない今の段階でも誘拐したり殺そうとしたりしているし!
「……アシュル兄上……。俺……」
まるで叱られたワンコのように、しおしおと項垂れてしまったリアムの頭を、アシュル様はノックをするかのように、コツンと軽く叩いた。
「反省したね?」
「……はい。ごめんなさい……」
「ああ、それと王族たるもの、たとえどんな不快な相手であっても、容易く己の感情を吐露してはいけないよ?」
「うう……。は、はい……」
益々項垂れ、ペタリと寝てしまった犬耳が見えそうなリアムの頭を、アシュル様は今度は優しく撫でた。
「でもまあ、お前の気持ちは痛い程よく分かる。寧ろ最初の方はしっかり己を律して対応出来た方だと思うよ?ディランやフィンでは、ああはいかなかっただろう。頑張ったね」
「アシュル兄上……!」
あっ!寝ていた犬耳がピンと張った!(幻覚)
「リアム、オリヴァーを見ていて分かったと思うけど、彼は実に優秀なお手本だ。これからも良く見て学ぶようにね?」
「は、はいっ!」
『…………』
確かにオリヴァー兄様、苛烈なアルバ女子の代表みたいだったハイエッタ侯爵夫人と令嬢を見事、掌で転がしていたもんね。その様子はまるで、熟練の猛獣使いのようだった。
……でも、最後の威圧弾発射で気絶までの流れは、絶対真似しちゃダメなやつだと思う。
「さて……。バッシュ公爵夫人。先触れもなく突然訪れた非礼、どうぞお許しください」
そう言いながら、淑女に対する礼を執る最高権力者の優雅な所作に、マリア母様が頬を染めつつ、首を横に振った。
「あら!そのようなお詫びなど、なさらないでくださいませ!この離宮も王宮の一角。いわばここも殿下のお住まいで御座います。対する私は
マリア母様の言葉に追従するように、パト姉様もアシュル様に向け、再度恭しく礼を執った。
ちなみに母様は身重なので、こういった時の臣下の礼は免除されているのである。
「有難う御座います。未来の義母上にそう言っていただけるとは、望外の喜びです」
「まぁ~!!義母上だなんて!アシュル殿下ったら!!」
おおっ!流石はアシュル様!
クライヴ兄様のジト目もなんのその。母様のウキウキ笑顔が弾けていますよ!
ひとしきりマリア母様とお話したアシュル様は、突如として視線を私の方へと向ける。
……途端、アシュル様の表情がパアッと輝きを増した。うっ!しまった!遮光眼鏡を用意しておくんだった!
「ああ、僕のエレノア!会いたかったよ!」
台詞と共に、満面の笑みを浮かべたアシュル様は、「瞬間移動か!?」と思う程素早く目の前までくると、私をギュッと抱き締めた。
「アアア、アシュルさまっ!!」
「……はぁ……癒される!ずっとこのままこうしていたい……!!」
『ひぇぇぇぇっ!!』
ぎゅむぎゅむと抱き締められ、顔が瞬時に真っ赤になってしまう。
普段だったらされるがまま、湯気をシュンシュン出しているところだけど、アシュル様は(非公式とはいえ)大切な婚約者の一人。
……というわけで、根性出して自分からも抱き着いてみる。すると更に抱き締める腕の力が強くなり、頭に何度も柔らかいキスの感触が……!!ああああっ!!!
――ヤバい!このままではアシュル様の純白のお召し物が紅に染まってしまう……かも!?
なんて危機感を覚えた矢先、唐突にアシュル様は私を腕の中から解放した。……あれ?
そして、今まで(マリア母様の無言の圧を受け)渋面だけれど、大人しく成り行きを見守っていたクライヴ兄様とセドリックへと向き直った。
「クライヴ、そしてセドリック。王宮にようこそ!……ああ、なんてタイミングバッチリに来てくれたんだ!いやね?オリヴァーから連絡を受けて、ハイエッタ侯爵に魔導通信を入れて確認したら、腹立たしい事に、あの母娘の言う通りだったんだよね。いや、参ったよ!あちらも妻と娘の暴走を聞いて失神寸前になっていたけど、思わず『色々終わった暁には……覚えていろよ?』って、とどめ刺しちゃった」
ははは……と、思いきり良い笑顔を浮かべながら、息継ぎもせず一気にまくし立てるアシュル様。
クライヴ兄様とセドリックも、そんなアシュル様に呆気にとられていたが、突如として彼の背後から噴き上がった暗黒オーラに、ビクリと身体を跳ねさせる。ついでに、リアムとマテオの顔色もやや悪い。
「ア、アシュル……さま?」
恐る恐るアシュル様の顔を見てみると、こめかみに青筋が立っている。そのうえ、目の下には薄っすらとクマが!
お、お疲れだ!!そして、滅茶苦茶怒っている!!
そんな私達を置き去りに、なおもアシュル様の弾丸トークは続く。
「しかもふざけた事に、あちらの教皇や神官達も『聖女様をお守りする為』に、一緒にこっち来るんだって。おかげで、警備体制の見直しや情報収集に人員を割かざるを得ない状況になっちゃって、折角オリヴァーが血反吐を吐いて短縮させた夜会の準備期間が、あっさり元に戻っちゃったよ。いやもう、本当にどうしたものか……と思っていた矢先に、君達の来訪だよ!これぞまさに、女神様のお導き!まさに百人力だ!本当に有難う!!」
「ア……アシュル?」
「え?あ、あの……?」
ここにきて、クライヴ兄様とセドリックは顔を青褪めさせた。どうやらアシュル様、例の『聖女様』のアレコレで、増えた激務と足りなくなった人員の不足を埋める為の
嬉々とした笑顔で二人を見つめるアシュル様の瞳……。あれは獲物を見つめる捕食者のソレだ!
「い、いや俺達はエレノアを守らなくちゃならねぇし……」
煮え切らない態度でお断りしようとするクライヴ兄様。
だが無情にも、最後まで言わせる事なく、アシュル様が一刀両断する。
「ああ、それも心配いらないよ。エレノアはこのまま、こちらの離宮に泊って行けばいい。幸いな事に、明日からは週末で学院も休みだ。週明けまで
「ええっ!?……あ、いえ……はい……」
「……御意」
リアムとマテオが観念した様子で頷く。それに満足そうに頷いた後、アシュル様はクライヴ兄様とセドリックの肩を、左右の手でガッシリ掴んだ。
「お、おいっ!?」
「ア、アシュル殿下!?」
焦る二人を有無を言わさずそのまま連行していくアシュル様だったが、ドアの手前で足を止めると、私の方を振り返った。
「エレノア、おもてなしも碌にしないで御免ね?穴埋めは今度必ずするから。……それと、スワルチ王国の『聖女』の事は、一切心配しなくていい。僕達は全員、君以外の女性を娶る気はないからね」
「アシュル様……!は、はいっ!」
私の心の奥底にある不安を見透かしたかのようなアシュル様の言葉。思わず嬉しさが湧き上がってしまい、元気に頷いてしまう。
そんな私に目を細めていたアシュル様は、ふと思い出したように「あ、そうだ!」と声を上げた。
「エレノア、済まないけど、ちょっと協力してもらえるかな?」
「?はい、私に出来る事でしたら」
「うん、大丈夫。とても簡単な事だよ。……流石にここでガス抜きしとかないと、少々危険かなぁってね」
「??」
そう言って、意味深に微笑むアシュル様を見ながら、私は首を傾げたのだった。
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クラ・セド・リ:「ハイエッタ侯爵家、ぶっ潰してきてもいいかな?」
ア:「仕事が増えるから、今は止めてね」
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