第473話 【クリスマス企画】とあるモミの木のひとり言
メリークリスマス!ということで、今回は季節の特別企画をお届けしますv
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私は由緒正しきバッシュ公爵家の敷地にある、湖畔に生を受け、すくすくと成長していったモミの木。名を『モミ』と申します。
この名は、バッシュ公爵家の天使であり、女神様のみ使いでもある私の愛するご主人、エレノアお嬢様が名付けて下さいました。
私がこのように自我を持つに至ったのは、年越しも間近に迫った季節……にしては、まるで春のように温かい陽気だったある日。お嬢様が湖へとお散歩がてら、やって来た時のことで御座います。
日々、まどろむように生きてきた私は、その時初めてハッキリとした意志を持ち、私が生きている世界と……天使のような愛らしいお嬢様のお姿を認識したのです。
お嬢様は私に視線を向けるなり、ジッとなにかを思案されておりました。
そして目を見開き、「そうだ!」と一言叫ばれると、なにかを決意されたのであります。
◇◇◇◇
後日、私の元にバッシュ公爵家の庭師達がゾロゾロと集まって来ました。
「おーい!もう土、柔らかくしたかー!!」
「おう!表面はバッチリ!後はもうちょっと、地中の根に保護魔法をかければ完璧だなー!」
「よし!皆、よく聞け!万が一この木が枯れたりでもしたら、お嬢様が悲しまれる!僅かでも傷をつけぬよう、細心の注意を払ってことにあたれ!」
「「「「「「はっ!!」」」」」」
そして私の周囲の土を柔らかくしたかと思うと、私を地面から掘り出し、持ち込まれた巨大な植木鉢へと私を移し替えたのです。
って、ええっ!?ち、ちょっ、止めて下さい!!私が一体なにをしたというのですか!?
お嬢様がどうのとか口にされておりましたが、私はこのままどこかに売られてしまうのですか!?それとも廃棄処分でしょうか!?
私はただこの地に生を受け、精一杯生きてきただけなのです!
誰か……!誰か助けてーー!!
……私の祈りもむなしく、私の身体(幹)は庭師の一人に風魔法で浮かされ、植木の苗や花が沢山置かれている、ガラス張りの温かい場所へと運ばれてしまったのです。
周囲に咲いている草木に聞いた話によれば、ここは『温室』という場所で、弱った樹木や季節外れの花々を栽培する場所だとのことです。
え?私、病気だったのでしょうか!?だから、ここには治療の為に移された……?
「皆、お疲れ様ー!!」
「「「「「「「お嬢様!!」」」」」」」
するとそこに、バッシュ公爵家(その時は侯爵家でしたが)のご令嬢であるエレノアお嬢様がやって参りました。
そしてお嬢様は、私の身体(幹)にそっと手を添えると、優しく撫でられながらお声をかけられたのです。
「いきなり、鉢植えに移しちゃってごめんね?女神様へ感謝を捧げる新年のお祭りが終わったら、ちゃんと元の場所に戻してあげる。だから暫く我慢してね?」
眉を八の字にされながら、本当に申し訳なさそうに話されるお嬢様。
その労わりと謝罪の気持ちのこもった声音。そしてその御手から、じんわりと……こう、優しくも温かいなにかが、私の身体(幹)に注がれるのを感じました。
なんでしょう……この多幸感は。
まるでこの世の創生主であらせられる、女神様に優しく抱擁されているような……。
「じゃあ、早速飾りつけしていこうか!」
「「「「「「「はいっ!!」」」」」」」
そう言うと、お嬢様は庭師達と共に、花やら松ぼっくりやらガラス玉やらを、私の枝や葉に引っ掛けていきます。……あの……。一体これは?
「お嬢様、これは一体なんなんですか?」
庭師の一人が、私の疑問をそのままお嬢様へと伝えます。
それに対してお嬢様は「これはね、私が考えた、女神様への感謝の気持ちを形にしたものなの!」と言って、花のような笑顔を浮かべました。
女神様への感謝の気持ちを、私を使って表現されるなんて……。それでは私は、選ばれしモミの木なのですね!?大変に光栄です!
そうして私を飾り立てたお嬢様は、「うん!凄くカッコいいし綺麗に出来た!!」と、満足そうに頷かれ、私はお嬢様の手放しの賛辞を受け、湧き上がる喜びのあまり……ちょっぴり枝が伸びました。
その後、私の世話をしている庭師達の話によれば、どうやらお嬢様は新年のお祭りの際、美しく飾りつけた私をお披露目して、他の皆様を驚かせるおつもりのようです。……ですが……。
「へぇ……。これがエレノアの作ったオブジェか……」
「凄ぇな。あいつ、真面目に発想ぶっ飛んでるだろ!ってか、なんでわざわざ木を使うんだ?」
「なんでも、女神様のご光来により、草木が一斉に芽吹く様子を表現したんだって」
「……俺達の妹、天才かよ!?」
感動の面持ちで私を見上げているのは、エレノアお嬢様のご婚約者様である、お兄様方のようです。
いつもお嬢様に貼り付いている召使が、「オリヴァー様、クライヴ様、どうかお嬢様にはくれぐれも、これを見た事はご内密に!!」と、念を押している様子。……どうやらあの男、私のことについて、あの方々に無理矢理口を割らされたようですね。
他にも、「なんて立派なものを……!僕の天使って凄い!まさに天才!!」と、ハンカチ片手に号泣されているご当主様がいらっしゃったり、ご婚約者様方のお父上様方がいらっしゃったりと、まさに千客万来です。
「グラント、私達の義娘は凄いねぇ……!」
「本当だよなー!あ、そういやメル。ウィルから聞いたんだけどエレノアさぁ、なんか光るオーナメントを欲しがってるらしいぞ?」
「おやおや。じゃあ私が……と言いたいところだけど、私達に内緒という体を取っているから、下手に介入できないねぇ。残念!」
……お嬢様。大変申し上げにくいのですが、多分この家で、お嬢様の計画を知らない人、一人もいないと思いますよ?
それを知らず、奮闘していらっしゃるお嬢様のお姿が涙を誘います。ああ……なんてお可愛らし……いえ、お可哀想なお嬢様!
そんなこんなをしているうちに新年となり、女神様へ感謝を捧げるお祭りの当日となりました。
私は薄闇の中、何色もの眩い輝きを放つ聖なる木へとなり、ドレスアップされたお嬢様が皆様から温かい賛辞を受け、はにかみ笑う尊いお姿を、微笑ましい気持ちで見守っております。
更には皆様、お嬢様からプレゼントを渡され、大変に感激されておりました。
「有難う、エレノア。愛しい僕の天使……」
……などと、物凄く甘ったるい極上の笑みを浮かべたオリヴァー様が、素早く他の皆様から死角になる場所に移動し、エレノアお嬢様を抱き締めながら、顔中に口付けをされております。おやおやお嬢様、お顔が真っ赤に熟れたトマトのようになっておりますね。
「ああ……可愛い。このまま食べちゃいたい!」などと、不埒な発言が聞こえた気がしますが、多分気の所為でしょう。
あっ!そこにすかさず、クライヴ様が乱入されました!
なにやらオリヴァー様と小声で言い合いながら、真っ赤になって目を回しておられるエレノアお嬢様の頬に口付けを……あっ!エレノアお嬢様が吐血を……いえ、鼻血を噴かれております!お兄様方、大慌てですね。ふふふ……。
ともかく、お嬢様の計画は和やかな(?)雰囲気の中、大成功のうちに幕を下ろしたのです。
「ご苦労様!とっても素敵なクリスマスパーティーだったよ!これも、貴方が協力してくれたおかげ!本当に有難う!!」
そう言って、再び元の場所に植え替えられた私に抱き着き、満面の笑みを浮かべながらお礼を言うお嬢様。
いえいえ、お嬢様のお役に立てたばかりか、聖樹という尊いお役を頂き、こちらがお礼を申し上げたい気分です。
ちなみにですが、お優しいお嬢様は私にも特別配合された肥料をプレゼントして下さいました。
ですが、そんな肥料よりもなによりも、このお嬢様の笑顔と、抱き着かれた身体(幹)から流れ込んでくる温かい魔力の方が、何倍も私の心と身体を満たしてくれます。
「モミちゃん、また来年もよろしくね!」
モミ……。それはお嬢様が私に付けて下さった名前です。
ご婚約者様のお一人であるクライヴ様が、「お前……本当にセンスねぇな」と呆れられておりましたが、そのようなことは決して御座いません。ようはお嬢様のお気持ちが大切なのです。
ええ、例え学術名そのままの名前になろうとも、お嬢様が付けて下さったこの名は私の誇りであり、お嬢様との絆そのものなのですから。
お嬢様、お任せ下さいませ!次の祭りが来るまでの間、私は自身をより一層磨き、聖樹の名に恥じぬ美しさを維持しつつ、お嬢様の訪れをお待ちしております!
余談ですが、私が聖樹である証『クリスマスツリー』になって二年後。庭師の一人に、「これ以上でかくなったらエントランスに入らないなー。ってことは、お前もようやくお役御免だな!」と言われ、私はその年より成長するのを止めました。
庭師達もお嬢様も、一向に成長しない私を見て首を傾げておられましたが、この誉れ高きお役目、他のどの木にも譲るつもりはありません。生涯かけて、私はお嬢様だけの『クリスマスツリー』として生きていく所存です。
ある年、鉢植えから元の場所に戻される時、あまり周囲の手を煩わせるのもなんだと思い、自分で鉢植えから元の場所に移動しました。
翌日、庭師達が元の定位置に収まっている私を発見すると、バッシュ公爵家は大騒ぎとなりました。
どうやら私はいつの間にか、『
これも私が聖樹たり得るよう、日々精進し続けた結果でありましょう。
という訳で、真実聖樹となった私は、新年以外でもお嬢様をお傍近くでお守りすべく、お屋敷近くに引っ越すことを決意しました。
ですが引っ越すその度、庭師達によって強制的に湖のほとりに戻される日々を送っております。
いっそエントランスホールに通年常駐すべきだろうか……。そんな計画を立てつつ、今日も私は庭師達に追いかけられるのであります。
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エレノアからの(無意識な)魔力供給を受け続けた結果、進化してしまったモミちゃんです。
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