第434話 初めての女子会(?)

「さて、話を元に戻すけど……。なんで今日のエレノアの課題はいつもよりも多いんだい?」


あ、そうだった!


ついつい、栞やタンポポの行く末に気を取られてしまって本題を忘れてしまっていました。


――って、あれ?オリヴァー兄様、確か『影』を使って、私の学院生活を逐一報告させていた筈では?


「うん。最初はそうしていたんだけど、直接君の口から一日の出来事を聞く方が楽しいし、それを励みに仕事も頑張れると気が付いたんだよ」


成程。お仕事頑張ったご褒美的なアレですね?


「勿論、君に危険が迫ったりとか、不穏な出来事が起こったとか、実際起こりそうだとか、そういう時は即座に連絡が来るようにしているけどね。まあ、今のところはたいしたこともないし、クライヴやセドリックもいるし、あまり心配はしていないよ」


「いやお前、無茶苦茶心配してるじゃねぇか。メル父さんに頼み込んで、学院への転移門無理矢理作らせてるし……」という、クライヴ兄様の呟きを、オリヴァー兄様は華麗にスルーした。


ってか兄様!転移門って、国の重要施設にはおいそれと繋げられない筈では!?……え?国王陛下があっさり許可してくれた?えええっ!?

ひ、ひょっとしてアイザック父様が、また国王陛下に喧嘩吹っ掛けて承諾させたのでは……?


おっと、オリヴァー兄様が「そろそろ本題に入りなさい」って顔して私を見ている。はい、すぐにご説明致します!


「あの、実は私、遂にご令嬢方とお茶会をしたんです!」


「お茶会?ひょっとして、君のご学友であるご令嬢方とかな?」


「はいっ!」


途端、オリヴァー兄様はとても嬉しそうに顔を綻ばせた。


兄様達は昔から、自分達の所為で私に同性の友達がいないのではないか……と気にしていた。しかもそれに反比例して、第三勢力の友人知人が増えていくことを憂い、「このままではエレノアの何かが危ない!」と、謎の危機感を募らせていたのだとか。


……オリヴァー兄様。私の何が危なくて、どう危機感を持っていたのでしょうか?妹は非常に気になっております。


おっと!また話が逸れた。軌道修正せねば!


「えっと、事の発端ですが、お昼休み直前。シャーロット様、エマ様、クロエ様から、クラスメイトとして親睦を深める為に、お茶を一緒にどうかと誘われたんです」


その時の彼女らの誘い文句はというと……。


『きっ、気乗りがされなくとも、こうして積極的に友好を深めるのも、貴族としての務めでしてよっ!』


『そっ、そうですわ!貴女様はそこの所が甘いのですっ!』


『おっ、同じ貴族家の令嬢として、僭越ながら、お付き合いして差し上げてもよろしくてよっ!』


うん、シャーロット様方、今日もブレないツンデレっぷりだったな。


『いえ、嬉しいです!是非お茶をご一緒に……というか、いっそお食事もご一緒しませんか?』


『『『か、かまいませんことよ!!』』』


そう言って、自分の婚約者達と手を取り合ってピョンピョンはしゃいでいる彼女達はとても可愛かった。


他のクラスメイト達も、凄く微笑ましそうに彼女達を見つめていたし、クライヴ兄様やセドリック、リアムも……いや、彼等は微笑ましいというより、生温かく見守っているって感じだったな。


そんな訳で、私とシャーロット様、エマ様、クロエ様、彼女達のクラスにいる婚約者達、そして私の婚約者であるセドリックと……非公式の婚約者であるリアムも、「面白そうだから、自分も参加して良いか?」と、笑顔で同席する権利をもぎ取った。


ついでに、「リアム殿下の護衛である私も、当然参加させて頂きます!!」と言って、マテオも参加する事になりました。


そのマテオだけど、困った事に「お前達、新参者の分際でいい気になるなよ!?エレノアの親友の座は、永久欠番で私だけのものだ!」なんて言って、シャーロット様達に喧嘩吹っ掛けまくっていた。


シャーロット様方も、しっかりその喧嘩を買って、ギャーギャー罵り合っていたけど……。でも、シャーロット様方の口からは、ご令嬢方がいつも第三勢力者に向ける、人格否定バリバリな罵り言葉は全く出てこなくて、なんだか普通の女子同士の喧嘩っぽくって微笑ましかった。


ちなみにクライヴ兄様はというと、私の専従執事として傍にいる為、給仕として参加するとの事。


「でもクライヴ兄様も婚約者だし……」と言ったら、「お前が膝抱っこで「あーんして♡」って言うんなら、同席出来るが?」との返事に、全力でお断りしました。


なので結局、クライヴ兄様は給仕として参加する事になってしまった。次があったら是非とも、婚約者として参加して欲しいところです。


「あ、でもちょっと問題があって……」


「問題?何があったの?」


「実は……」


従僕の皆さんが設置してくれた大きなテーブルに着席した直後、上級生のご令嬢方と、その婚約者達であろう取り巻きの先輩方が、颯爽と私達の前に現れたのだった。


もしや何か言い掛かりを……!?と身構えた途端、シャーロット様方が、無言で席を立ち、先輩令嬢方の元へと向かって行ったのである。


まさに一触即発な状況。


何かあったら加勢しようと、固唾を飲んで見守っていると、驚くべき事に彼女らはスクラムを組むように身を寄せ合い、何やらヒソヒソと話し合いを始めてしまったのだ。


時々紛糾しつつ、何やら話がまとまったのか、シャーロット様方と、先輩令嬢方は笑顔で席へと戻って来る。


「リアム殿下、バッシュ公爵令嬢、お待たせいたしましたわ」


そう言うとシャーロット様方は、先輩令嬢方が食事会に参加したいので、同席していいかどうかお伺いをたててきたのである。


成程。ご令嬢方、リアム狙いだったか。……と思いきや、何故か先輩令嬢方は一様にモジモジしながら、リアムにではなく私に向かって自己紹介を始めてきた。


「……ひょっとしてそのご令嬢方、デビュタントで君に挨拶しに来たご令嬢方じゃない?」


オリヴァー兄様、鋭い!実はその通りなんです。


どうやら彼女らは姫騎士同好会(…)のメンバーで、「先にお約束したわたくし達を差し置いて、後輩がお茶会をするなんて許さなくてよ!」と、文句を言いにやって来たんだそうだ。


勿論、私は女子会のメンバーが増えるのは大歓迎だったし、自分目当てでないのならばよし!と、リアムもあっさりご令嬢方の同席を認めた。


でもその後、「お姉様方!そちらは私達の席でしてよ!」「貴女達、先輩に譲るという事を知りませんの!?」「お誘いしたのは私達!当然の権利です!」と、座る席順で揉めまくった結果、無情にもお昼時間が終了してしまった。

当然の事ながら、セドリック、リアム、マテオ、ご令嬢方の婚約者といった男性達は、哀れにも空腹のまま、午後の授業を受ける羽目になってしまったのである。


で、血の涙を流しながら無念そうに去っていった彼等と違い、私達女性陣はそのままお食事会を続行する事となった。

まあ、元々女性が学院に通っていても授業は自由参加だったしね。


「成程……。で、その結果、エレノアとその同級生のご令嬢方に、出席しなかった授業の代わりに課題が出たと……」


実に楽しそうなオリヴァー兄様に、コクリと頷く。


そう、今迄は自由参加だったのに、私だけでなく何故かシャーロット様達にも容赦なく課題がふられたらしい。


「何故ですの!?」「横暴ですわ!!」と、マロウ先生に食って掛かったご令嬢方だが、小声で何か言われた途端、「ぐぬぬ!」といった感じに口をつぐんでしまっていた。一体何を言われていたのか、凄く気になる。


ちなみにご令嬢方との女子会……いや、食事会ですが。


「こっ、こちらもお食べになって!」


「こちらも!……ソースが絶妙ですのよ!!」


「デ、デザート、ご馳走しますので、よろしければ!」


そう言って、あれやこれやと、食事やデザートを次々と貢がれ……いえ、分けて頂き、それを一生懸命もっきゅもっきゅと食べていたら、「まあっ!素晴らしい食べっぷりですわ!」「本当!子リスのごとき頬っぺたですわ!」「頑張って下さいまし!こちらのお料理、もう少しで完食ですわ!」と、何故かとっても喜ばれ、応援までされてしまいました。……ええ、そりゃあお応えすべく、頑張って食べまくりましたとも。


クライヴ兄様いわく、「あれは食事会という名の集団餌付け大会だった」……だそうです。酷いや兄様!大切な妹を、野生の動物かなにかのように!!


ちなみに、事の顛末を聞いたセドリック、リアム、マテオの反応だけど、


「新しいイジメの形……?」


「いや、純粋に好意からだろう」


「バカなのか?お前」……です。


……まあね、確かにバカでしたよ。だって結局、食べ過ぎで医務室送りになって、午後がまるまる潰れてしまった結果がこの課題の多さなんだから。


「あ、そう言えば、キーラ様がまた何か言いに来ました」


そう、キーラ様は口一杯食事を頬張る私を見ながら、「まるで飢えた貧民のようね」と嘲笑ってきたのだ。まあ、言われても仕方がない姿ではあったと、自分でも思う。


「……へえ?それで?」


「その場のご令嬢方に、二の句が継げない程言い返されて、すぐ撤退しました」


あれは今思い出しても、思わず背筋が震える程凄まじい口撃だった。


皆さん、相手が歴史ある侯爵家のご令嬢であっても容赦なし。まさにアルバ女の面目躍如とばかりのフルボッコっぷりだった。


「ふふ……。ひょっとして、エレノアの護衛として一番強いのは、ご令嬢方なのかもしれないね」


そう言って笑うオリヴァー兄様に同調するように、クライヴ兄様も笑っていた。

た、確かにそう……なのかも?





ウィルとミアに用意された紅茶とお茶菓子を堪能した後、せっせと課題に取り組んでいるエレノアを見つめながら、オリヴァーは黒曜石のような瞳をスッと細めた。


実は、キーラに心酔する者達が、新入生達を中心に少しずつ増えていると報告があった。

そして彼等の殆どが、エレノアの栞を持っていないという事も判明している。


これらの事から、エレノアの栞はキーラのなんらかの『力』を打ち消す効果がある事が完全に証明されたが、依然、キーラの『力』とその目的は不明のままだ。


『……いや。もし、予想が当たっていれば、それは……』


――嫌な予感がする。


本当ならば、本人なりウェリントン侯爵家なりを徹底的に調べたいところだが、流石にあのヴァンドーム公爵家の派閥に対し、正面切って喧嘩を売るような真似は出来ない。

それに、もしヴァンドーム公爵家がこちら側・・・・でなかったとしたら……。


『確かめるすべが、何かあれば良いんだが……』


そんな事を、胸中で呟いたオリヴァーの願いが通じたのかどうか……。

数日後、ヴァンドーム公爵家から当主の親書を携えた使者が、バッシュ公爵家を訪れる事となるのである。



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先輩令嬢方の中に、例の心が千々に乱れる伯爵令嬢がちゃっかり混ざっておりましたv

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