第435話 ヴァンドーム公爵家からの親書
※ちょっと体調崩していましたが、本日より更新再開です!長らくお待たせいたしました!
「セドリック、試験はどうだった?」
「う~ん……。僕なりに全力を尽くしたけど、リアムに勝てるかどうかはまだ分からないな。エレノアの方はどうだったの?」
「私はまあ……なんとか。全問正解は狙わないから、せめて半分は合っているといいな」
学院から帰る馬車の中、セドリックと一緒に話す内容は、本日行われた中間試験についてだ。
基本、王立学院では一年間に四回試験があるのだが、本日はその一回目が行われたのである。
王立学院の詳しい試験内容なんだけど、今回を含め、三回目までは『中間試験』で、内容はというと学科の筆記試験のみとなっている。
そして、学期末に行われる最後の四回目が『期末試験』と呼ばれる総合試験だ。この試験は筆記のみならず、実技その他を含めた総合試験となっている。
ちなみに各学年における上位十名は、三回の中間試験の得点プラス、期末試験の結果で決まるので、どの試験であろうと手を抜く事が出来ない。……いや、手を抜けるような
「コヴィー伯爵令嬢やフォスター子爵令嬢達が、試験までをも受けたのには驚いたがな」
感心した様子のクライヴ兄様に、私も深く同意する。
あ、コヴィー伯爵令嬢とは、シャーロット様の事で、フォスター子爵令嬢はエラ様の事。ついでに、ロイグ伯爵令嬢がクロエ様の事である。
シャーロット様、エマ様、クロエ様だが、なんとか授業を受け続けただけでなく、なんと中間試験までも受けてしまわれたのだった。
勿論、物凄くうんうん悩まれていたし、最後には魂魄が口から出ているのが見えるほど、真っ白に燃え尽きていたけど、とにかく彼女らは最後まで試験を受け切ったのである。
この快挙に、試験が終わると同時にクラス中の生徒達が一斉に立ち上がると、彼女らに対して惜しみない賛辞と拍手が送られた。いわゆる、スタンディングオベーションである。その中にはなんとマテオも含まれていて、私にとっては二重に感無量だった。
勿論私も、その輪の中で惜しみない拍手を送った。……まあ、ご本人達はほぼ白目を剥いて無反応だったし、そのまま医務室に運ばれていっちゃったんだけどね。
「でも、これでやっと課題地獄から解放されるね、セドリック!」
「そうだねエレノア!久し振りの連休だから、ちょっとのんびりできたらいいね」
実は中間試験の後は、お疲れ様の意味を込めて、一週間連休になるのである。
勿論、「休みだ!ヒャッハー!」とはしゃいでいれば、生き馬の目を抜く競争社会(王立学院)では即、淘汰されてしまう。ゆえに、浮かれて遊び歩く学生はほんの僅からしい(byオリヴァー兄様)。うん、まあ学生の本分は勉強だしね。
けれどね、勉強ばかりしていても駄目だと思うんですよ。
人間、リフレッシュする事によって別の刺激を受け、気持ちを切り替えて、また勉強を頑張れるんじゃないかな?そうじゃなければ、試験の後に一週間もお休みになんてしないよね?
……なんて事を力説したら、「……甘いな。確かに一年の頃はそうだったかもしれないが、二年目以降からのこの連休の意味はな。お前みたいな奴の油断を誘い、堕落させる為の試金石なんだ!」……という、衝撃的な言葉がマテオの口から飛び出したのだ!!
なんというスパルタ方式!王立学院……まさに魔境!!
そ、そういえば、中間試験の結果が発表されるのは連休明けだけど、あれはひょっとして、学院生達にプレッシャーを与える為……!?な、なんてえげつないんだ!!(いや、違うかもしれないけど)
――だがしかし!私はあくまでリフレッシュ方式を選択させて頂く!そう、勉強ばかりはダメ絶対!
でも私の考えを押し付ける訳にはいかないから、うちに遊びに誘うメンバーから、マテオは除外しておこう。
あ、そうだ!マテオに気を使わせないように、リアムにも「一人でこっそり来てね」って言っておかなくちゃ。……ん?何かクライヴ兄様とセドリックが微妙な表情しながらこっち見てる?
「あの、クライヴ兄様。試験休みはバッシュ公爵領に行けますかね?」
「行ける……って言ってやりたいが、今はちょっとな」
「……そうですよね」
うん、残念だけど、仕方がないよね。今こうして平穏無事に学院生活を送れているけど、帝国の脅威は去った訳じゃない。
寧ろ、いつ何が起こっても不思議では無い状況なのを、私に悟らせないよう、沢山の人達が守ってくれてこその平穏なのだ。
……キーラ様やその取り巻き達も、言葉や態度がたまに不遜だけど、あの『不可解な力』も、ぺんぺん草の栞の効果なのか今のところ落ち着いているし、彼女らが直接的に何かを仕掛けてくる事は、今のところない。
ベネディクト君の方は……う~ん、よく分からん。相変わらず淡々としているけどね。
「ま、出かけられねぇお前の為に、ベン達庭師軍団が張り切ってやがるから、休み中もそこそこ楽しめると思うぞ?」
「うん!僕も色々監修しているから、楽しみにしていてよね!」
ニコニコしているセドリックに、私は引き攣り笑顔を浮かべた。……監修って……いったい何の!?
そういえばベンさん達、ここ数週間裏庭を立ち入り禁止にしていたんだけど、一体何を作っているのかな?
ひょっとして裏庭、某テーマパーク化してきていたのが、更に悪化してしまっているのだろうか?
「エレノア。今回バッシュ公爵家に招待するのはリアム殿下ぐらいになるかもだが、色々と落ち着いたら、お前のクラスメイトのご令嬢方も招待しような?」
「は、はいっ!」
同性の友人を家に招くのって、初めてだ!いつになるか分からないけど、凄く楽しみ!……うん。その時に、裏庭が末期になっていなければいいな。
◇◇◇◇
「え!?ヴァンドーム公爵家から親書が?」
学院から帰宅し、オリヴァー兄様との(濃厚な)ご挨拶を済ませた後、お茶とお菓子を楽しみながら、試験の手応えとか休み中の計画について話していた時、告げられたオリヴァー兄様ぼ言葉に、私を含め皆がビックリ顔になった。
クライヴ兄様とセドリックはすぐに表情を険しいものへと変える。
それはそうだだろう。今現在、ヴァンドーム公爵家に対しては、王家ですら警戒しているのだから。
「……で?オリヴァー。その親書の内容は?」
オリヴァー兄様は固い表情を浮かべながら、話し始めた。
「ああ。……まあ、ありていに言えば、以前僕がヴァンドーム公爵に提示した、『海の白の養殖についての共同事業』を進めたい。ついては、我が領にお越し願えないだろうか……という内容だったよ」
ああ、そういえば以前、公爵様から獣人王女達との戦いで傷付いた私へのお見舞いを頂いた時、その返礼として、事業提携をオリヴァー兄様が提示した事があったっけ。
この世界では、海の白……前世で真珠と呼ばれる宝石は、天然ものしか採れない。
そのうえ、希少な海の白の殆どが形が歪で、まん丸で粒のそろった海の白など希少中の希少。数千個の貝から僅か十数個あるかないか。だからこそ、海の白は宝石の中で最も高価とされているのだ。
前世の世界でも、昔は天然真珠しか採れなかったから、真珠は凄く貴重品だった。
けれども、日本が約百三十年程前に養殖に成功し、それ以降は比較的安価な値段で安定供給できるようになった……と、いつかのテレビの特集でやっていたのだ。
その事を覚えていた私は、クライヴ兄様が持っていた海の白を見て、養殖の仕組みについて何気なく話した事があったのである。
それを覚えていたオリヴァー兄様が、ヴァンドーム公爵から頂いた海の白のアクセサリーへの返礼として、海の白の養殖についての事業提携を持ち出した訳なのだ。
希少な海の白でドレスを作れる程、豊かな漁場を領土に持つヴァンドーム公爵家が、果たして食いつくのかな?と思ったけど、実際のところ物凄く興味を持ってもらえたらしい。
オリヴァー兄様いわく、「それはそうだよ。もし万が一、領土に海辺を持っている他領で海の白が量産されてしまったら、自分の領地の海の白の価格が暴落してしまう。だから養殖が本当に出来るのか懐疑的だったとしても万が一の可能性を考え、話に乗らざるを得ないからね」だそうです。まあ、それはそうだよね。
それにだ。やはり何だかんだ言って、海の白はこの世界で最も希少とされる宝石。それを安定供給する事が出来れば、得られる富は計り知れない。そう、たとえ
だからどちらにしても、ヴァンドーム公爵家が話に乗る価値は十二分にあるのだろう。
「ふ~ん……。つまり、その話を本格的に進めようって事か?まあ、それは前から決まっていた事だし、いいんじゃねぇか?」
何事かと思って身構えていたクライヴ兄様が、肩の力を抜く。けれど、オリヴァー兄様の表情が硬いままなのを見て、再び表情を引き締めた。
「……オリヴァー、あっちが言ってきたのはそれだけじゃねぇのか?」
「……ああ。親書の最後の方にね、『丁度試験休み中なのだから、是非バッシュ公爵令嬢と同伴で来て欲しい』と、そう書かれていたんだよ」
――は!?わ、私も一緒に!?
オリヴァー兄様が口にした内容に私だけでなく、クライヴ兄様とセドリックも驚愕に目を見開いたのだった。
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エレノアよ。全部口に出ているぞ。それと内緒にするもなにも、マテオはリアムの『影』なんだが……?(byクライヴ)
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