第166話 姫騎士の登校【お断りは大成功…?】
『クールに厳しくお断り』
…実はこれ、案外難しいのです。なんせ私、今迄そういった経験なかったし、そういうお断り方法って、ごく自然に生活していって身に着けるものだしね。
って訳で、バッシュ公爵家では連日、女性からお断りを喰らった経験のある召使ズが、徹底的にスパルタ方式で私を鍛えてくれたのだ。
「お嬢様!眉を下げないで!遠慮・容赦・憐れみ等、一切不要!!生ゴミを見るようなお気持ちで!!…う~ん…。顔が固い!」
「『この身の程知らずの羽虫が!』というお気持ちを込めて!…駄目だ、声が上ずっている…。あっ、今噛みましたねお嬢様!?」
「腰が引けておられますよ!?両足踏ん張らないで!優雅に楚々と、そして下僕を見下すように!!お嬢様!目だけです!一緒にお顔を下げないで!!」
…等々。日々そりゃあもう、必死に練習しました。…結局最後まで及第点を取れなかったけど。
にしたって、本当にアルバの肉食女子のお断りって凄まじいな!私がこんなお断り方されたりしたら、女性不信になるか引きこもりになるかしちゃいそうだよ。アルバの男性達が、必死に己のDNAを高め進化させている理由が、ここにきて激しく理解出来てしまいました。
ちなみに初めに指導された時、あまりの不憫さに「みんなは十分、カッコいいし素敵だからね!自信持って!」って、激励したんだけど…。
「大丈夫です!お嬢様!」
「誰しもが一度は経験している事ですし、エレノアお嬢様に癒されましたから!」
「それでこちらに就職出来て、結果エレノアお嬢様にお仕えする事が出来たのです!寧ろご褒美です!」
「あの時流した涙は、今の幸せな日々を得る為だったと、そう信じております!」
…等と、非常に前向きな言葉が返ってきた。う…うん…。みんなが幸せそうで何よりです。
ちなみに兄様方やセドリックは、『お断りする』側だった上、男性特有のジェントルで柔らかいお断りしかやった事がなく(クライヴ兄様も、そこら辺は弁えてお断りしていた模様)私達の特訓には参加しなかった。
「…これは…凄まじいねぇ…」
「…話には聞いていたが、マジで容赦ねぇし、えげつねぇ…」
「…エレノアに出来るかな…これ」
等と言いつつ、楽しそうにお茶を飲んで見学していた兄様方とセドリックに対し、「あんたら、見世物じゃありませんからね!?」と、心の中で何度叫んだ事か…!
――…等々。一瞬にして、走馬灯のように脳内を巡った現実逃避、終了。
私は思考を元に戻し、目の前の現実を直視する。
この大多数を相手取り、あの不完全なお断りで、果たして乗り切る事が出来るのだろうか…!?答えは『否』だ。きっと、言葉を噛むかとちるかしてパニック状態となり、しどろもどろの状態になってしまうだろう。
――ならばいっその事、オリヴァー兄様も仰っていた『私らしい』お断りで勝負するしかない!!
私は私を熱烈な視線で見つめるクラスメイト達を前に姿勢を正すと、腹に力を込めた。…そして。
「ごめんなさいっ!!」
気合一喝、叫ぶ様にそう言うと、深々と頭を下げた。
角度は90度。…そう。前世の日本において、不祥事を起こした政治家や企業のトップがよくやる、己の誠意を最大限に示すアレである。
「皆さんのお気持ちはとてもよく分かりました!ですが私には既に、最愛の婚約者達がいるのです!彼ら以外の夫や恋人を迎える事は、私には考えられません!だから…お申し込みはお断り致します!」
シーン…と静まり返った教室内。
90度のお辞儀という辛い体勢の中、居た堪れない空気感に、恐る恐る顔を上げると…。何故か皆、一様に頬を染めて目を輝かせていた。え?ちょっと待って。私今、お断りしたんだよね?!
「…なんという…。清々しくも潔よいお断り…!」
「他者への誠意が溢れんばかりだ…。流石は姫騎士…!!」
「こ、このような…優しさと思いやりに溢れたお断りが嘗てあっただろうか…いや、ない…!」
「ああ…!エレノア嬢の優しさに包まれ、昇天しそうだ…!」
…等々、何かめっちゃ喜んでいるっぽいご様子。
「分かりましたエレノア嬢!」
「僕達、貴女の誠意あるお断りにお応えすべく、更なる努力を重ね、自身を高めるべく邁進致します!!」
「その時、また貴女に求愛致します!決して諦めません!!」
――いや、諦めて下さい!!
動揺しつつ、クライヴ兄様とセドリックを見ると…あれ?何か喜色満面だよ?リアムも超羨ましそうだ。
後にマテオから、マロウ先生が教室の前で「姫騎士…尊い…!!」と呟きながら身悶えていたと聞かされたんだけど、「いや待って!?おかしいから、あんたら!!」と声を大にして言いたい。何でお断りされて喜ぶんですか!?ドMなんですか!?色々おかしいでしょ!?
「エレノア。何度も言うが、アルバの男はこうと決めた相手には、どれだけ冷たくされようが詰られようが、めげない生き物なんだ。例えお前が冷たくお断り出来てても、きっと一度や二度じゃ諦めなかっただろう」
クライヴ兄様のお言葉に、リアムもうんうんと頷く。
「そうだよな。父上達も、母上に何度拒絶されても諦めなかったし、結局嫁にしちゃったしな。しかも母上の罵詈雑言、かなり凄まじかったっていうから、エレノアのあのお断り方じゃ、寧ろご褒美だろ」
「でもあのお断りの仕方、エレノアらしくて、とても良かったよ!まさか女性が頭を下げるなんて想像も出来なかった分、意表もつけたし、顔が見えないからボロが出にくかったし!…それに僕達の事、最愛の婚約者って言ってくれたし…」
最後らへん、頬を染めてそう語るセドリック。そしてクライヴ兄様も満足気に頷く。
「俺達以外はいらないってあの言葉、胸にきたぞ!オリヴァーもそれを聞いたらさぞや喜ぶ事だろう!今後もあの調子で、バンバンお断りしまくれよ!」
…クライヴ兄様とセドリックが何で喜んでいたのか、理由が分かった。そしてあのお断り、しっかり及第点を頂けたようだ。…でもこう…なんか違う気が…?
それにしても、諦めずに何度も挑戦してくる相手に対し、これからもアレやり続けるんですか。結構腰にくるし、疲れるんですけど…。
「エレノア、今度
妙にワクワクしているリアムを見て、私は激しく脱力してしまったのだった。
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アルバの男性、ドM疑惑浮上!
そしてリアム、そこ違う!わくわくするところじゃありません!
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