第392話 事後処理

その後、イーサンとオリヴァ―兄様、そしてディーさん(というより、ディーさんを通じてアシュル殿下が指示していると思われる)の指示の元、使用人、バッシュ公爵家家門や騎士達、そして招待客の方々は迅速な行動を開始する。

ちなみにですが、クライヴ兄様とセドリックは私の、そしてフィン様とリアムはアリアさんの傍について護衛をしてくれていました。


まず、壊れた屋敷は、夜が明けたら速やかに修繕業者が入るそうで、その間、王族の皆様や私達は別邸に居を移す事となった。


クリス団長やティルといった重傷者は、騎士や召使達が付き添い、救護室へと運ばれていく。


重傷者以外にも、かなりの数の負傷者がいたようだけど、幸い……と言って良いかは分からないが、亡くなってしまったのはクラーク前団長だけだったようだ。

その負傷者達も、アリアさん(と、アシュル殿下)によって、ほぼ完治状態となっているとの事。

しかも殆どの負傷者は、バッシュ公爵家側や『影』の人達だったようで、不幸中の幸いというか貴族の方達は全員、かすり傷程度だったそうだ。


ちなみに、メル父様主導で宮廷魔導師団により、大規模な転移門が構築される事となり、転移門が構築され次第、ご令嬢方やご婦人方と、その婚約者や配偶者達は騎士団や宮廷魔導師団が待機している場所に転移をする事となった。


これはバトゥーラ修道院が襲撃された事を踏まえ、万が一帝国の残党がいた場合を想定しての措置だそうだ。


他の招待客の皆様方は夜明けを待って、それぞれ護衛やバッシュ公爵家の騎士達に守られながら、王都へと帰還する。

当然というか、高位貴族の皆様方もその例に漏れず。


ちなみに高位貴族は、王都で役職を持つ方々が多く、今回の騒動の対策と自領への対応もある為、一刻も早く帰還しなくてはならないそうなのだが、転移門の構築も招待客全員分は作れない為、自分達よりもまず女性優先。


うん、その徹底したレディーファースターっぷり、流石はアルバ男。お見事です!

これが私の前世の世界のお偉いさんだったら、まず間違いなく、自分ファーストだったろうからね。


「でも皆さん、危なくないのかな……」と一瞬思ったのだが、それに対してクライヴ兄様曰く「帝国も、女や王族達を狙うならともかく、野郎どもなんて狙ったってどうしようもないからな」……だそうです。


う~ん……兄様。身も蓋もないお言葉ですね。


ちなみにアリアさんと王族の方々だが、王都での対応と……特にアリアさんは『狙われた張本人』という事もあり、身支度を整えた後、フィン様が王宮に送り届ける事となった。

……というかイーサンの話によれば、国王陛下や王弟方自らが迎えにこちらに来そうな勢いなのを、ワイアット宰相様が部下の方々総出で抑え込んでいるらしく、「大至急……いえ、なるべく早くお帰り願え!!」と、ヒューさんを通じて泣きが入ったとかなんとか。


当然その際、ディーさんとリアムも一緒に帰還するんだけど、その時にアリステアことデヴィンも連れていくんだそうだ。


私はというと、あくまでも『狙われていなかった』体を取らなくてはならない為、このままここで、当主代行として事後処理を行う事となりました。


それに関しては、アイザック父様や、メル父様、グラント父様も全員了承している。ちなみに、「出来るだけ早くこちらの処理を済ませて、そちらに行くからね!」とは、アイザック父様のお言葉です。


ところでアシュル様はというと、この屋敷全体の結界維持及び、アリアさんのサポートを全力で行った結果、魔力切れに近い状態となってしまったそうで、こちらで暫く療養する事となりました。


多分だけど、アリアさんとフィン様がいなくなるので、『魔眼』の天敵たる『光』の魔力保持者であるアシュル様が、万が一の時の為にここに残る判断をしたのだろう。


……でもいいのかな、それ。


つまりは王族を、いざって時は顎でこき使う気満々って事ですよね?アシュル様、王太子だよね?本当に、本当にそれでいいんですかね!?


そてに対して、ディーさん、フィン様、リアムは「兄上(兄貴)だけズルい!!」と、大ブーイングだったそうだが、夜会にも参加せず、ひたすら裏方として頑張ったアシュル様に対して、やはり強くは出られなかったようだ。


しかも、王都の国王陛下方や私の父様、そしてあのオリヴァー兄様でさえ、「少しゆっくりされて下さい」とアシュル様の滞在を後押しした結果、私がこちらで事後処理を行うまでの間、お忍びで滞在する事が決定された。


ちなみに今現在、アシュル様はスイッチが切れた人形のように、ベッドで横になっているとの事。後でフリーズドライの苺を持って、お見舞いに伺おうと思う。




◇◇◇◇




本邸の方は、幸いなことにホール以外は無傷だったので、イーサンの指示の元、王都の貴族やその他の有力者達は出立までの間、自分達の宿泊予定だった居室で休息を取ってもらう事となった。


私達は全員、迎賓館である離れへと移動し、それぞれが自室で湯浴みと着替えを終え、いつものサロンへと集結する。


あ、ジョナネェと美容班ですが、私の姿を見るなり、イーサンばりにダバーッと滂沱の涙を流してました。


私の無事を喜んでなのか、無残に血に染まった姫騎士服を嘆いての事なのか……。いまいち判断出来なかったんだけど、ジョナネェが「あんたって子は~!!」と言いながら、私をギュウギュウ抱き締めてきたから、多分私が無事でホッとしたんだろうな。


あ、でもティルの事は「落ち着いたら〆る」って、青筋立てながら言っていたっけ。


ジョナネェ、止めてあげて!真面目にこれって不可抗力だから。ティルが悪いんじゃなくて、私が抱き着いたのが原因だから!庇ってるんじゃなくて、本当の事だから許してあげて下さい!!


「エレノアお嬢様」


サロンの扉の前で待機していたポールとネッドに深々と頭を下げられた後、開いた扉から、私を護衛しているウィルやシャノン、そしてミアさん達と共に、サロンの中へと入る。


するとどうやら私が最後だったようで、アリアさんやディーさん達、そして兄様方やセドリックは既にソファーに座って寛いでいた。


アリアさん達の後方には、ヒューさんとマテオが控えている。ちなみにイーサンはというと、私の代わりに破壊された本邸で諸々の事後処理をこなしている為、ここにはいない。


「エレノア」


オリヴァー兄様に手招きされ、兄様の腰かけていたソファーの隣にお邪魔……しようとして、しっかり膝の上に乗せられそうになった私は、すかさず後ずさると、駆け付け一発、アリアさん達に深々と頭を下げた。


「アリアさん、そして殿下方、改めて申し訳ありませんでした!!私を庇う為に……本当は私の所為なのに……私……」


アリアさんが私を庇ってくれたお陰で、私やバッシュ公爵家が批判の矢面に立たずに済んだ。その事に対する申し訳なさに、下げた頭が上げられない。


「気にしないでエレノアちゃん。私は私の為に、エレノアちゃんを守ったに過ぎないのだから」


そんな私に、優しい口調で語りかけるアリアさん。その言葉に、おずおずと顔を上げる。


「アリアさんの……為?」


「ええ、そうよ。さ、顔を上げて。ちゃんと座ってお話しましょう?」


すると、そのタイミングを見計らったかのように動いたオリヴァー兄様は、あっという間に私を膝の上へと拉致ってしまった。


オ、オリヴァー兄様……、これって、ちゃんと座っているって事になるのでしょうか!?


「オリヴァー……お前な」


「オリヴァー兄上……」


流石に呆れたようなクライヴ兄様とセドリックの声が、左右同時に上がる。


あ、ディーさん、フィン様、リアムもジト目でこっちを見ている!アリアさんも「本当にブレないわね」って言いながら苦笑していますよ!


皆さん、うちの兄が申し訳ありませんです!




===================



ジョナネェの怒りはティルに向かった模様。


エ「ティル、逃げて―!」


テ「大丈夫っす!返り討ちにしますんで!」


(間)


ジョ「いやぁぁぁー!ケダモノー!!私……私、もうお嫁に行けないーッ!!」


……という一幕があったとかなかったとか……。

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