第236話 ヴァイオレット・ローズ再び②

ところで話は変わるが、今日は休日とあって、メイデン母様もオネェ様方も、化粧やドレス無しのラフな服装だ。


「休日ぐらいは気を抜きたいわよねー」って仰ってましたが、つまりは前世で言う所の『おうちジャージ』ですね。分かります。


それにしても…。流石は顔面偏差値が異常に高いアルバ王国の元・男子。それぞれが普段着で寛ぐその姿は、普段の女性としての色気が加わり、どこからどう見ても、そこはかとなく退廃的な雰囲気を纏う美男子軍団です。


メイデン母様なんて、いつもはハーフアップしている髪を無造作に垂らし、胸元を寛げた白いシャツと、ピッタリフィットする黒いズボンを身に着けていて…。化粧もしていないのに、メル父様ばりの滴る色気が、五感を直撃して、いけない世界の扉を開きそうになってしまいますよ。いや本当、皆様どうもご馳走さまです!


え?そう言うお前の本日の装いは何かって?はい。私も今日は普段着です。


最も、普段着って言っても一応公爵令嬢ですから、締め付けがほぼ無い、エンパイアラインのドレスを着用しています。


そしてドレスの色は…当然(?)と言うか、真っ黒です。


ここに同行した特権とばかりに、オリヴァー兄様が嬉々として自分の色を私に纏わせています。ええ、そりゃもう、髪飾りからドレス、そしてアクセサリーに至るまで、ぜーんぶ真っ黒!


ここまでくると、逆に清々しいけど…。私、どこかのお葬式にでも行くんでしょうかね?


クライヴ兄様とセドリック、私の恰好を見て顔を引き攣らせていたけど、多分これ、一緒に来なかったクライヴ兄様とセドリックに対する、オリヴァー兄様のささやか(?)な嫌がらせかもしれない。


ついでに言えばメル父様は「はっはっは、流石だなオリヴァー。心が狭すぎる!」って言いながら笑っていて、オリヴァー兄様の額に青筋作っていたっけ。


そして、私のこの装いを見た時のメイデン母様とオネェ様方のあの目。


あれはもう、生温かいを通り越して、畏怖に近い眼差しだった。「うわぁ…」「どんだけ…」って小さく呟かれた言葉が、真面目にいたたまれませんでしたよ。


「あら?どうしたのエレノアちゃん。顔が赤いわよ?」


そんな事を、つらつらと考えていた私の顔を覗き込むメイデン母様。

その紫の髪が、サラリと絹糸の様に肩から流れ落ちる。そんな何気ない仕草にも、思わずドキリとしてしまう。


「い、いえ…。メイデン母様やオネェ様方の男装・・がカッコ良くて…。ちょっとドキドキしちゃいました!」


特に、いつもは女装が残念なことになってしまっている系なオネェ様方のカッコ良さが半端ない。これも立派なギャップ萌えと言えるだろう。


その途端、メイデン母様やオネェ様方が、ポッと頬を染め、テレテレしだした。


「ち、ちょっと…。本当にどんだけ…!私の娘が可愛過ぎて…辛い…っ!!」


「エ、エレノアちゃんったら、やーね!でもそっか…『男装』かぁ…♡」


「もう!上手い事言っちゃって!私達の妹って、どんだけ可愛ければ気が済むのかしら~♡♡」


「ああっ!もう、最高に愛しい♡♡」


「はぁ?男装?単に男女が男に戻っただけじゃん」


グラント父様が放った、相変わらずのデリカシー皆無な暴言に、きゃいきゃいとはしゃいでいたメイデン母様とオネェ様方の目が、ギラリと光った。と同時に、グラント父様の頬を掠めて、ワインボトルがぶっ飛んだ。


「ちょっ…!おいメイデン!てめぇ、何しやがる!エレノアに当たったりしたら危ねぇだろうが!!」


いえ、グラント父様。どっからどう見ても、危なかったのは貴方です。


「黙れやグラント…。てめぇは何でそう、毎度毎度、こっちの神経逆なでしやがる事をベラベラと…!マジでいっぺん死ぬか?あぁ!?」


メイデン母様の目には、まごう事無き殺意が浮かんでいた。それが退廃的で中性的な美貌に、背筋がゾクリとする程の危険なアクセントを与え、母様の美貌に壮絶な色気を激増させ…って、そうじゃない!黙れ!私の心の実況中継!!


「メイデン。やるんならこの店の修繕費は私が全額負担するから、気にする事無くやりたまえ」


「ちょっ…!メル、てめぇ!!」


ニコニコ楽しそうに、メル父様が合いの手を入れる。ってかメル父様ー!!「やりたまえ」じゃないですよ!面白がって煽らないで下さい!!

しかもその「やる」って、「る」じゃないですよね!!?


「あら、メルヴィル、気が利くじゃない。…って訳でグラント。てめぇは歯ぁ食いしばりやがれ!!」


そう言いながら、メイデン母様がゆらり…と立ち上がった。きゃー!!メイデン母様が元ヤンモード…いや、元・冒険者モードにっ!!


「マダム…。私達も加勢するわ…!」


「グラちゃん…。お仕置きタイムよ!!」


あああっ!オネェ様方の背後からも暗黒オーラがっ!!

何だかんだ言って、女性(?)に手を出せないグラント父様の顔が引き攣っていますよ!!


不味い…!このままでは今度こそ、潰されてしまうかもしれない…!(「何が」とは言わないけど)


「メイデン、それぐらいにしておけ」


一触即発の危機的状況の中、不意に救いの声がかかる。


声のした方を振り向けば、先程投げられたワインボトルを片手に、やはり、めっちゃラフな格好したハリソンさんが、おつまみの乗った大皿を持って現れた。


どうやら今日のこの大量の食糧、ハリソンさんが用意してくれていたようだ。…ハリソンさん、実は料理男子だったんですね!?


「グラントがこんな奴なのは、二十年近く前から知っているだろうが。いちいち相手していたら、疲れるだけだぞ」


ハリソンさん、いつものビシリと決めた黒服を脱ぎ捨て、かっちりオールバックで固めたアッシュグレーの髪もパラリと下ろしていますよ!

し、しかもいつもの営業用の敬語が無くなっていて、ギャップ萌えが半端ない!!ふぉっ!!渋みの効いたイケオジ最高!!ナイスです!!


「んなこたぁ、分かってるわよ!こいつとの付き合い、一番長いの私なんだから!」


ブスッとむくれたような顔で、ドサリと勢いよくソファーに座り直すメイデン母様。


実はグラント父様とメイデン母様、そしてなんとハリソンさんは、グラント父様が冒険者をしていた時、一緒にパーティーを組んでいた仲間なんだそうだ。


…ってかハリソンさん。以前「私はグラント様が好みです」って言っていたけど…。それ、グラント父様知っているのかな?


「グラント。お前、何か相談があるって事で、メルヴィル様とやって来たんじゃないのか?」


「ああっと!そうだった!」


…グラント父様、忘れてたんですか!?


「グラント様…。貴方って人は…!!」


あ、オリヴァー兄様の背後から暗黒オーラが!そ、そりゃそうだよね。用件忘れたら、ただの飲み会だもんね。


「グラント、今回は私が話をしよう。お前だと端的過ぎて要領を得ない恐れがあるからな」


空気を読んだように、メルヴィル父様が口を開いた。その言葉に、メイデン母様も頷く。


「そーね。こいつ、脳筋バカだし」


「お前ら…。息ピッタリに、人を貶めてんじゃねぇよ!」


不満げにブーイングするグラント父様を尻目に、メル父様が話始めた。


「まず初めに。国王陛下及び王弟殿下方と側近一同は、この『紫の薔薇ヴァイオレット・ローズ』を『雀達の餌場』にしたいとお考えだ」


「雀達の…餌場?」


メイデン母様の瞳が、スゥ…と細められた。




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お家ジャージ、楽でいいですよね(^O^)

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