第500話 転じる力の変質
遂に500話になりました!今後も頑張ります!
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「クロス伯爵令息。さっきから君達が言っている『お守り』とはなんだ?」
「……公爵閣下……」
やっぱりだけど、兄様達が口にした『お守り』に公爵様が反応する。
張られた結界が見えない攻撃で軋む中、オリヴァー兄様が手短に、私が出したぺんぺん草で作った『栞』の事を説明した。
「……そうか、成程……。ベティから報告があった、白鳥に奪われたというあの花、やはりそのような効果があったのか……」
あ、そういえばあの時ベネディクト君、ぺんぺんをはーちゃんに奪い取られていたんだったね。
「あの花には『聖魔力』のような清浄な力が宿っていたと、ベティから聞いていたが……。しかしまさか、あの花を咲かせていたのがエレノア嬢だったとは……。成程、リュエンヌが君のことを『女神の愛し子』と言うわけだな」
――『聖魔力』!?そんなもんがぺんぺんに!?
私の中に在る『大地の魔力』が、私の想像ミスでぺんぺん(たまにタンポポ)として具現化しているだけだって思っていたけど……。確かに、女神様に対して救いを求めたり、危機的状況になるとポンポン咲いていたな。って事は、本当にぺんぺんは女神様の慈悲だったのか!?
「ベティは、私の血を一番濃く受け継いでいるから、すぐに気が付いたんでしょうね。聖女アリアもそうなんだけど、『女神様の愛し子』には必ず『聖魔力』が備わっているのよ。貴女、動物に異様に好かれるでしょ?それも愛し子の特徴の一つよ」
公爵様の背中から、ニュッと首を伸ばしていた奥方様曰く、微生物を駆逐する手助けをしてくれた温泉魚達の身体から、その『聖魔力』の残滓を感じたんだそうだ。で、本邸に来てみたら、島のあちこちから『聖魔力』を感じた事で、私が愛し子であると確信したんだとか。
……ちょっと待って。島のあちこちから感じる『聖魔力』って……。まさかと思うけど、ぺんぺんが増殖中なのでは……?
でも、そうだとしたら、なんでマロウ先生の洗脳が解けなかったんだろう?萎びたぺんぺんの栞でも、あれだけ効果があったっていうのに……。
「エレノアの『
兄様!私の心の声に答えて下さって、有難う御座いました!
「……それは間違いなく、あの娘の専従執事だろう。あの娘の能力は厄介だが、それ程強いものではなかった。それをここまで底上げしたのがあの男なのだろうよ。だがしかし、エレノア嬢の『聖魔力』を打ち破り、王家の『影』を……。ましてや、これ程までの力を有する副総帥を洗脳するとは……!」
公爵様は、そこで一旦言葉を切ると、忌々し気に舌打ちをした。
「リュエンヌの結界を通り抜けた時点で、帝国人ではないと安直に判断してしまったが、まさか精霊の結界を欺く程の強大な力を隠匿していたとは……!くそっ!私とした事が、なんてザマだ!!疑いを持った時点で、速攻粛清していれば……!!」
「アルロ……!」
「父上……!」
叫ぶように言い放った公爵様を筆頭に、アーウィン達方の顔色は一様に悪い。
それもその筈。大精霊とは、女神の意向を感じる事が出来る程、人間より卓越した『力』を有する存在。
その守護を受け、またその血を継ぐ者達の力が張り巡らされているこの城は、このアルバ王国で一、二を争う最強の要塞。女神の代理人たる『聖女』の結界に護られている王宮に匹敵する程の清浄さと強度を誇っているに違いない。
ましてや、帝国との関連を疑われている彼女を隔離していたのだから、当然離れには帝国に対抗すべく、『魔眼』に対抗出来るほど強力な結界を張っていた筈。
私のちゃちぃ『
「父上、仕方がありません。俺もベティも、あの男と直接接しましたが、そもそも魔力自体、そこまで感じられませんでしたから」
苦悶の表情を浮かべた公爵様に、アーウィン様が宥めるように声をかけた。ベネディクト君やクリフォード様方も、気遣わし気に公爵様を見つめている。
「にしても、エレノアちゃんの婚約者君達ってば、私がエレノアちゃんの事を『女神様の愛し子』って言った時、全く動揺していなかったわね?」
大精霊らしい、空気を読まぬ発言をしながら奥方様が首を傾げる。するとオリヴァー兄様達は「なに言ってんだ?」とでも言いそうな顔で、次々と口を開いた。
「エレノアが天使だという事は、出逢った瞬間から分かっていましたから」
「そうだな。今ここで『女神様の生まれ変わり』と言われても納得するよな」
「ええ、寧ろ今更ですよね。僕はずっとエレノアの事を、女神様の御使いだと信じていましたし」
「そうそう!そもそも『聖女』の別名が『女神様の愛し子』だしな!俺も兄上達も、実はずっとそう思ってた!」
ボフン!と、顔から火が噴いた。
に、兄様方にセドリックにリアム!!この緊迫した状況下でなに真顔で言い切ってるんですか!!あっ!ウィルやシャノン、護衛騎士達や、影達までもが一斉にコクコク頷いてる!!
ほらー!奥方様が「……重症ね……」って呟いてるじゃないですか!公爵様やアーウィン様方もジト目になってるし!!
「それにしても……。何故あのマロウが洗脳なんてされてしまったんだ!?」
ナチュラルに話を元に戻したリアムの言葉に、オリヴァー兄様が同意とばかりに頷いた。
「ええ。しかも、公爵夫人が仰った『
すると、今だ止まぬ結界への攻撃を厳しい表情で見据えていた公爵様が、再び唇を開いた。
「……我々は彼女の行動を観察した結果、彼女の持つ能力は『反転』であろうと結論付けた」
「『反転』!?」
反転……。つまりそれは相手の気持ちを真逆にする力って事……?
「ベティが婚約者としてあの娘の傍にいたのは、不審な動きをしていたウェリントン侯爵家の動向を見張る為だ。まあ、奴らにとって私の息子達は、『平民の穢れた血』を継ぐ不良品だからな。だからこそ、『高貴な血』の自分達が必要なのだろうと、ウェリントンは疑いもなく、ベティとあの娘との婚約を認めた」
ああ。だから
「あの娘が己への悪感情を煽った相手が、一転してあの娘に心酔するさまを、ベティは何度も目撃している。ウェリントン侯爵領に放った密偵からも、同様の報告を受けているしな」
「そういえば……。以前、一時的に
「成程。だからこそ、わざとエレノアを分かり易く攻撃して、自分に向けられた『負』の感情を逆にしていたって訳か。尤も、あの栞を持つようになってからは、ご自慢の能力が効かなくなっていたからな。あの女もさぞ苛立っていただろうよ」
公爵様の説明を受け、オリヴァー兄様とクライヴ兄様が納得したとばかりに頷き合う。……つまり彼女は、相手に自分への悪感情を抱かせた上で、その気持ちを『反転』させ、自分の信奉者にしていたというわけなのか。
「……だとすれば、マロウがああなったのも分かる。……だが、まてよ?仮にあいつが感情を転ぜられ、あの女に好意を抱いたとして、エレノアを殺そうとまでするか?これがもし、あいつがエレノアへ向ける狂信的な崇拝を反転させられたのならともかく……」
そこで、リアムがハッとした表情を浮かべた。
「……いや……。まさかそんな……!」
リアムは口元に手を当て、顔色を悪くする。そんな彼の様子を見ながら、オリヴァー兄様が苦渋に満ちた表情を浮かべた。
「……殿下。考えたくはありませんが……。もしやあの娘、自分に向けられる感情だけではなく、
その場にいた全員が、オリヴァー兄様の言葉に驚愕の表情を浮かべ、目を大きく見開いた。
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いついかなる時でもブレない。それがエレノア廃。
なんて言っている場合ではない程、事態は危機的状況化に!?
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