第258話 この世界の閨事情
「ふっふっふ……。お嬢様。驚かれましたか?」
召使達が、めっちゃドヤ顔をしている。ええ、そりゃもう驚きましたとも!!ってか、何でここにいるの!?いつの間に!?
咄嗟にクライヴ兄様の方を振り向くと、クライヴ兄様は神妙な顔でコクリと頷いた。
「エレノア。王都のバッシュ公爵邸で働いている連中は、元々ほぼ全員騎士なんだ。勿論、あそこにいる美容班の連中もそうだぞ」
召使達が一斉にコクコクと頷く。えええっ!!す、済みません!知らなかったです!
そういえばバッシュ公爵邸って、護衛騎士が見当たらないなーとは思っていたんだよ。今回近衛騎士様方と一緒に、バッシュ公爵家の騎士も護衛として同行するって言っていたから、てっきり本邸から派遣された人達だとばかり……。あっ!兄様。「お前、やっぱり気付いてなかったんだな……」って言いたげな、その憐れむような眼差し、止めて下さい!
それにしても……。いつも見慣れている筈の皆に気が付かなかったって、どういう事!?私の目って節穴!?というかバカ!?うん、バカだな。謝ります。本当に御免なさい!
「お嬢様、お気になされる必要は御座いません。召使には
「
「はい、そうです」
ウィルが説明してくれた所によれば、貴族の屋敷に勤める召使に求められるものとは、『屋敷の調度品』としての気品と、個を滅し、周囲に溶け込む同調力……なのだそうだ。
だが今回、彼らに与えられた任務は、主家の姫を守る『護衛騎士』
なので主家の姫を彩るべく、各々めっちゃ気合を入れたのだそうだ。しかも護衛騎士の中には美容班も含まれていたことから、「王宮の近衛騎士達に負けてたまるか!」とばかりに、物凄く盛ったんだって。
……成程。そりゃー皆だと分からない訳ですよ。というか、パッと見初見のイケメンだったから、遠目で鑑賞していたのも、分からなかった原因なんだろうな。
「そうだったんだ!皆、もの凄くカッコ良かったから、うっかり別人かと思っちゃった!」
流石はDNAを進化させ、顔面偏差値をも高めた男達……!その本気、しかと見させて頂きました!!
私の言葉に、皆の顔がパァッと輝いた。
「お……お嬢様っ!!」
「お嬢様が俺達の事、カッコイイって……!!」
「あああ……っ!!い、生きてて良かったっ!!」
召使の皆が、涙を流さんばかりにジーンと感じ入っているのを見て、ふと当初の疑問が頭をもたげる。
「でも皆、なんで使用人服になっているの?」
そんな私の問い掛けに、皆の目がギラリと光った。えっ!?ど、どうしたの!?
「エレノアお嬢様を離れに追いやる無能共に、お嬢様のお世話をさせる訳にはまいりません!!」
「そもそも、エレノアお嬢様のお世話をするのは、我々王都邸でお仕えする者の務め!!」
「王都邸にお戻りする迄の間、我々がお嬢様に尽くし、お守り致します!!」
「え!?は、はぁ……」
聞けば、万が一の為にと持参していた使用人服をウィルに命じ、荷馬車から人数分持って来させ、その間に離れで待機していた本邸の召使達を全員叩き出し……いや、追い出し……いやいや。
まあとにかく、「エレノアお嬢様のお世話は我々がします!」と宣言し、離れを乗っ取っ……いや、待機していたのだそうだ。
で、ウィルが抱えて持って来た使用人服を、ミアさんに手伝ってもらいながら急いで装着し、私達を待っていたと……。
成程。道理で皆、肩が微妙に上下していると思ったんだよね。しかもよく見てみれば、ウィルなんて汗びっしょりだし。
でもミアさんだけは涼し気な顔で耳をピルピルさせている。そういえばウサギ獣人って、まだ実際に見た事は無いんだけど、足が凄く速かったんだっけ。きっと余裕で一番乗りを決めたに違いない。
「ミアも、立派なバッシュ公爵家使用人になってきたな!」
クライヴ兄様の賛辞に、ミアさんが嬉しそうに頬を染めた。あっ!耳が高速でピルピルしている。うん、本当だよミアさん!成長したね!
……でも待って欲しい。皆、万が一って、何があると思っていたんですか?(いや、あったけど)
ひょっとして、今回の事が無くても私のお世話をする気満々だったから、使用人服を持参したとかじゃないよね?……あっ!何故全員、目を逸らすのだ!?ちょっと皆!やましい事がないのなら、こっち見なさい!
「……そうですか。では、お嬢様のお世話は彼等にお任せしましょう。ですが、シェフはこちらで手配させて頂きます」
「は、はい!お願いします」
あれ?イーサン。うちの使用人達の暴挙に怒るかと思ったけど、拍子抜けするぐらいアッサリ認めたな。クライヴ兄様やウィル達も意外そうな顔をしている。
ひょっとしてイーサン、私をこっちに泊まらせる事、実はもの凄く気にしていたのかな?私は全然構わないんだけど。
「ではまずは、お嬢様とご婚約者様のクライヴ様のお部屋へご案内いたします」
――……うん?私と兄様のお部屋……とな?
セットで告げられた内容に首を傾げながら、どこもかしこも磨き上げられた迎賓館の中をイーサンに連れられ、私達は縦にも横にも広い廊下を歩いていった。
それにしてもこの館。外見同様明るくて、なお且つ重厚な木材をそこかしこに使用していて、それがまるで豪華な日本家屋の様な落ち着きと、血の通った温かい雰囲気を醸し出している。分かり易く言えば、和モダンな寝殿造り。しかも所々に美しい花々が飾られ、溜息が出る程美しい。
まさに、自然豊かな一大穀物産出地であるバッシュ公爵領を体現したような館だ。うん、凄く気に入りました。
「こちらがお嬢様のお部屋で御座います」
そうして通されたのは、やはり木目が美しい、落ち着いた雰囲気と品のある調度品を配された豪華な部屋だった。
「こちらのお部屋は、主寝室が隣となっております。そしてクライヴ様のお部屋は、主寝室を間にしての続き部屋となっております」
「……はぇ?」
続き部屋……ですと?
「ああ、ご安心下さい。主寝室は他にも複数のお部屋と続き部屋になっておりますので、万が一、他のご婚約者様がこちらにご滞在されても、対応可能で御座います。それゆえに、お嬢様のお隣の部屋を巡り、ご婚約者様方同士がもめる心配は御座いません」
「は!?え……ち、ちよっ!?……えっ!?」
イーサンの言いたい事と、この部屋の正しい使用方法……というより仕様を知り、私の顔は真っ赤なユデダコ状態になってしまった。
「ちちち……ちょっと待ってー!!」
な、何だって、寝るところがクライヴ兄様のお部屋と続き部屋なんだ!?しかも他の婚約者にも対応可能って……え!?どういう事!?いや、多分そういう事なんだろうけど!!
「ちなみに、他のお部屋とは魔法空間で繋がっております」
あっ……!そうかー、魔法で繋がっているのかー!凄いな、魔法!
――じゃない!!凄くない!!何だその破廉恥設定!!うぉぉぉ……!!こ、この世界の閨事情に、羞恥心が止まらない!!
「ふ~ん……。随分粋な造りだな」
あっ!クライヴ兄様の機嫌、めっちゃ上向いている!無関心を装っていても、妹である私にはバレバレですからね!?
「あっ、あのっ!イ、イーサン!か、鍵は……!?」
「鍵ですか。それでしたら、お嬢様の主寝室からしかかけられません。お嬢様がその気になられなかった場合、ご使用くださいませ」
――そ、その気って……やっぱりそういう事ですかー!!?
つまり、例えば「今夜はクライヴ兄様とは気が乗らないわ」って場合は、クライヴ兄様のお部屋に続く扉に施錠しろって事ですよね!?夜の一妻多夫仕様って事ですよね!?ま、まさに男大奥!!ええ、そりゃもう言われずとも鍵をかけさせて頂きますとも!
あ、クライヴ兄様が小さく舌打ちした。兄様、なに期待してたんですか!オリヴァー兄様とセドリックに言い付けますよ!?
だいたい私、未成年なんですからね!?……え?添い寝だけでも?……う~~ん……。
「……オリヴァー兄様にバレたら、どうなるんでしょうね?」
「……やっぱ、止めとくわ」
クライヴ兄様、ヘタレだった。
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この世界の閨の深淵(?)に触れたエレノアでした(^^)
ここでもし、オリヴァー兄様がいらっしゃったらと思うと恐ろしいですねv
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