第307話 君って子は!
兄達が帝国の脅威を話し合い、後にクリスと共に新たなる誓いを胸に刻むちょっと前。
当のエレノアはというと、最初はオリヴァーやクライヴ達をハラハラしながら見ていたのだが、彼等と長年共に過ごした勘が、『あ、兄様方大丈夫そうだ』と告げた為、安心しておやつ代わりのフルーツサンドをモグモグ食べながら、騎士ウォッチングに勤しんでいた。
何をそんなに熱心に見ているのかというと、茶色い垂れ耳を持ったウサギ獣人の少年と、楽しそうに談笑しながら牧草の刈り取りを手伝っているアリステアの姿だ。
ちなみにネッドとポールはエレノアの周辺警護をしている為、手伝いには参加していない。
『うむむ……。どちらかというと、寡黙そうで表情があまり崩れないアリステアのあの満面の笑み……。こ、これは……。こちらもひょっとして、恋の予感……!?』
「おーじょう様っ!なーに真剣に見てるんっすか?」
「ぴゃっ!」
気配も無く、いきなり声をかけられたエレノアは、思わずその場でぴょんと飛び跳ねてしまった。
「テ、ティル!?ビックリしたー!」
そんなエレノアを面白そうに見下ろすティルは、次いでエレノアの膝の上のサンドイッチに視線を移した。
なんか物欲しそうにしている様子を見るに、どうやらお腹が空いているようだ。
「えっと……フルーツサンド食べる?」
「あざっす!」
嬉しそうにお礼を言いながらフルーツサンドを受け取ったティルは、何故かそのままストンと真横に座りこんだ。あれ?ティル護衛だよね?
「あ、俺今休憩なんで!」
そんな風に超良い笑顔でそう言い切られた。……えっと……。本当かな?
チラリと、遠巻きにこちらを見ているネッドとポールに視線を向けてみると、ネッドはしかめっ面で首を横に振り、ポールは「ないない」と言ったように、呆れ顔で手を左右に振った。そうかー。つまりはサボりですか。
「で?何を見てたんっすか?」
同じ質問を繰り返される。あ、そこまだ聞くんだ。
「う、うん。アリステアが獣人の男の子と仲良くしてるなぁって」
「あー、アリステアね!あいつ可愛い系が好みなんすよ!ウサギの耳持った可愛い男の子なんて、そりゃー好みどストライクっしょ!」
ふぉぉぉっ!!や、やっぱりそうだったんだ!ってかアリステアさん、リバ改めタチ決定!!
「……お嬢様。ひょっとしてそういう話にご興味が……?」
思わずギクリと肩が跳ねてしまった。
流石はティル。直球で言い当てられるとは。
こ……ここは、「そんな訳ないじゃないですかー!」とでも言って誤魔化すか?!
……うん。無理だな。この全てを確信したような曇りなき
だったらここは、いい機会だと開き直って、前々から気になっていた事を聞くしかないだろう。
「……あの……。ティルってさ、クリス団長の事好き……だよね?」
するとティルは思いっきり目を丸くしてきょとんとしながら首を傾げた。
「え?なんすかそれ?」
「え?違うの!?……あ!じ、じゃあオリヴァー兄様の事も気に入っていたみたいだし(組み敷いてなんとか~って言っていたような気がしたし)ひょっとして、キレイ系な人だったら誰でもタイプとか?!あ、で、でもオリヴァー兄様は駄目だからね!?兄様に手を出したら、いくらティルでも怒るからね!?」
するとティルが口の端を吊り上げ、ニヤリと笑った。おおっ!ちょいワル顔!
「ふっ……。お嬢様、浅いっすね。俺の性癖はもっとこう……深いんっすよ」
「ええっ!?」
――そ、そこのトコ、もっと詳しく!!
私にキラキラしい眼差しを向けられ、ティルも何気にノリノリになったようだ。
「ふっふっふ……。お嬢様もスキっすねぇ。それじゃあちょーっと詳しく話しちゃおっかな~?」
「ど、どうぞ!!」
ヤバイ!こんな所でマジもんの腐トークが出来るとは思わなかった!
あああ……!沼が……沼が滾る!!
「まず第一に、俺の好みは確かに綺麗系ですが、ただ綺麗なだけじゃ燃えないんっすよ」
「つ、つまり!?」
ゴクリ……と喉が鳴る。
「絶対的強者を組み敷かせて鳴かせる事こそ至高!クリス団長なんか、その点で言えば
「うわぁ!不毛♡」
おおっ!た、確かに深い!そして歪んでいる!!
ヤバイ!こんなBとLの生の声が聞ける日が来るなんて!か、顔のにやけが止まらない!前世のお腐れ仲間達よ!私は沼の
「ふっ……。山は高ければ高い程、登り切った時の達成感は堪えられないものが……」
ドガッ!!
……あれ?ティルがいきなり目の前から消えた……?
ゴンッ!!
「うきゃっ!!」
突然脳天に衝撃が走った。あまりの痛さに目の前に星が見える。
「……エレノア……」
頭を押さえ、蹲っていた私の耳に、地を這うような声が……。
恐る恐る顔を上げてみると、そこには顔半分に影を落としたアルカイックスマイルのオリヴァー兄様が!
ええっ!?オリヴァー兄様がまさかの鉄拳制裁!?ああっ!クライヴ兄様の表情も氷点下です!氷結です!!
しかもその横には、クリス団長が悪鬼のような顔で肩を怒らせている。……って、50M程先に倒れ伏しているティルの姿が!!ひょっとしなくても、クリス団長にぶっ飛ばされましたね!?
「……オリヴァー様。暫しお嬢様の御前でお見苦しいものをお見せする事となりそうです……」
「うん、大丈夫。僕もエレノアとみっちり話し合いたい事が出来たから。気にしないで遠慮なくやっておいで」
「感謝いたします」
オ。オリヴァー兄様!?その「やっておいで」って、まさか「
「貴様という奴はー!!あんのクソヤバイ性癖を、よりにもよってお嬢様に晒すとはっ!!貴様なんぞの命の嘆願をした僕が馬鹿だった!!よってお前はここで滅しろ!!僕が止めを刺してやる!!今すぐ滅べー!!」
あっ!ティルの身体がサッカーボールのように宙に跳んだ!!
「それとネッドにポール!!貴様らも傍に居て何故こいつがお嬢様に接触するのを止めなかった!?こいつを始末した後はお前らだ!覚悟しとけ!!」
「なっ!クリス団長!?」
「何故私達まで!?理不尽です!!下手にこいつ止めたら面倒くさい事になるって、団長だって知ってるでしょう!?」
「ちょっ!まっ!あたたっ!!団長!タンマ!!あっ!剣まで使うって反則!!うぎゃー!!マジで死ぬっ!!」
ティル、生きて―!!
「エレノア……。何あっちの方見てるの?君も、人の事心配している場合じゃないよね……?」
いやあぁぁぁー!!
エレノアの脳内に、悲鳴が響き渡った。
――その後。
「そんな笑顔を守りたい訳じゃない!!」
「あん時の気持ちを返せ!このバカ娘!!」
エレノアが実は、お腐れトークでティルとキャッキャウフフしていた事を知ったオリヴァーとクライヴ。
色々と(気持ち的に)裏切られた二人は湧き上がる怒りのまま、エレノアをその場に正座させ、足の感覚が無くなるまでこってりお説教し続けたのだった。
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安定のティル&エレノアでした(^^)
ちなみにティルは自分が愉しんでいる時に横やりを入れられると、めっちゃ不機嫌になって、邪魔した相手にめっちゃ絡みます。
なので「楽しそうなティルには触るな危険」がバッシュ公爵家の騎士の共通認識です。
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