第456話 アタックシュート
お待たせしました!
エレノア、飛んでます。
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――結界にぶつかる!!
と思ったら、何の抵抗もなく、身体が結界の外へと放られてしまった。
どうやら緊急事態だったせいで、幸か不幸かいつものあのえげつない仕様の結界は張られておらず、外部の攻撃に反応するタイプの防御結界だったようだ。
一瞬、ぴぃちゃんの鳴き声が聞こえた気がしたのは、私の幻聴?それとも走馬灯?
「きゃああああっ!!」
「「「「エレノアー!!」」」」
「「「「バッシュ公爵令嬢!!」」」」
「「お嬢様ー!!」」
すると、結界から私の身体が出た瞬間、遠くに逃げていた為、まだ駆逐されていなかったクラーケンの伸ばした足が、ものの見事に私の身体をキャッチし、そのまま引っ張り上げた。
後にクライヴ兄様が語った話によれば、それはまるで魚が……いや、真っ白いてるてる坊主が、天高く一本釣りされたように見えたのだという。
◇◇◇◇
一本釣りされ、宙を舞う私……。
船がどんどん小さくなっていく……恐い!!
『オ、オリヴァー兄様!!オリ……』
あ、オリヴァー兄様がクライヴ兄様に羽交い絞めにされている。多分このクラーケンを燃やそうとして止められているんだろう。……危うく一緒に丸焼きになるところだった……危なかった。
ところでだ。
こんな緊迫している時になんですが、クラーケンの足が巻き付いている部分って、よりによって頭なんだよね……。
全身パーフェクトケープに覆われているから、多分掴みやすかったんだろうけど、本当にてるてる坊主になったみたいで嫌だ!!いや、本当に今それどころじゃないんだけど!!でも……でもこうして現実逃避していないと、恐いんだよー!!
ってか、巻き付いたクラーケンの足!何気にギリギリと力が入ってきて、けっこう痛いんですけど!?
……あ、でもクライヴ兄様の頭部鷲掴みよりはマシだな。うん。
というかクライヴ兄様。魔物の足より兄様の手の方が痛いって、どんだけ全力で私の頭掴んでいるんだろうか!?
「エレノアー!!」
リアムの叫び声と同時に、シュパッと私の頭部に巻き付いていた足が切り落とされる。
「きゃー!」
力を失ったタコの足……いや、クラーケンの足ごと、そのまま落下する。そしてそんな私をキャッチしようとしたリアムの手が、スカッと宙を切った。
何故なら、クラーケンの切り落とされなかった別の足が、私をキャッチしたからである。
……うん、タコの足って八本あるもんね……。
だがなんと!ここにきて、淡く光る透明の膜が私の周囲を丸く包み込んだのだ。
多分これ、アシュル様が私にかけた『光の加護』だ!!凄い!!
でも欲を言えば、もうちょっと早く発動して欲しかったな!……あ、ひょっとして私がバカな事ばかり考えていたから、加護もあんまり危機感感じなくて発動遅れた……とか?
加護って……空気読むのか!
でも、でもね、加護!アホな子発言していた私がバカだったけど、本当は絶体絶命だったし恐かったんだからね!?だから今度はすぐに発動して下さい!お願いします!!
……ん?あれっ!?
クラーケンの足が、膜ごと私を絞め殺さんと力を込めるが、膜のお陰で私の身体はノーダメージ。
凄いぞ加護!さっきは文句言ってごめん!そしてアシュル様、有難う御座いました!!
「うわっ!?」
突然、私の身体が物凄く揺れた。
見れば、私を捕まえているクラーケンの身体に、オリヴァー兄様とクライヴ兄様が放ったのであろう、火の球やらツララやらが連続して撃ち込まれ、穴が空きまくっている。
す、凄い……!まるで機関銃で乱れ打ちされているみたいだ!!多分だけど兄様方、アシュル様の加護に護られている私を見て、遠慮なくぶっ放しているんだろうな。
「てんめぇー!!この魔物野郎が!!エレノアを離しやがれ!!」
ブチ切れたリアムが怒りのまま、『風』の魔力で、私に巻き付いていた足を細切れにした。
「きゃー!!」
再び落下する私。そんな中、雷鳴と共にドーンと物凄い衝撃音が炸裂した。
あ、私に足を巻き付けていたクラーケンが、黒焦げになって沈んでいく……。
ついでに近くにいたクラーケンも、あちらこちらがブスブス煙をあげ、しかもまるで感電したように硬直している。
『……え~と……』
……うん。バッシュ公爵家本邸から来たっていう
そんな事を考えながら、ひゅるりら~と落下していく私を、今度はマテオがキャッチしようとする。
だが間髪入れず、他のクラーケン達の足が、私や二人を目掛けて四方八方から伸ばされた。
「きゃー!うわっ!ち、ちょっ!!うきゃー!!」
「わーっ!!エレノアッ!!」
「こ、このウネウネが……邪魔過ぎる!!」
マテオもリアムも、縦横無尽に伸びる腕を避けたり切り落としたりで精一杯で、私を捕獲するどころではない。
そして私の方はというと、アシュル様の加護により、丸い球体の中で護られている為、クラーケン達の足が私を掴もうとしても、ツルツルと滑るから上手く掴めずにいる。
その結果、まるでボール遊びをするように、私の身体はポーンポーンとあっちにこっちに飛ばされてしまう事となった。
高速回転でクルクル回りながら悲鳴を上げる私。それを必死に追うリアムとマテオ。
……なんなの、このコント感。
いや、私もリアムもマテオも、なんならクラーケン達も真剣そのものなんだけどね。
そもそも私の恰好が
しかも、船に残っている面々も、リアムとマテオが飛び回っている為、万が一当たってはいけないと攻撃魔法を行使できないでいる。
「キラキラ殿下ー!!それと殿下の金魚のフンー!!攻撃出来ねぇじゃないっすか!!ちょっとそこどけー!!」
あ、なんか聞き慣れた声が聞こえてきた。うん、やっぱりティルだったか。
「誰がキラキラだー!!」
「金魚のフンだとー!?貴様ー!!」
……二人とも、うちの『
それにしても……。
ティルってば多分、手っ取り早く『雷』の魔力で一気にクラーケンを始末しようとしているんだろうな。
でも私にかけられた加護、どれくらいの強度があるのか分からないから、それは是非とも止めて欲しい。
ただでさえ、今の私はてるノアなんだし、このうえカーリーヘアになったら笑えない。……いや、思い切り笑われてしまう。
なんて事を、未だにポーンポーンとビーチボール状態になりながら考えていると、思い切りブチ切れ発言が聞こえてきた。
「ちっくしょう!てめぇら!!さっさとエレノア返しやがれー!!」
「リアム殿下!!こうなったら一気にこいつら細切れにしましょう!!」
マテオの言葉通り、クラーケンの足が次々と細切断され、雨あられと落ちていくのが見えた。勿論、私は加護に守られてるから無傷のままひゅるりら~と落下していく。……なんかもう、落ちるの慣れちゃったなぁ……。
「あっ!!こいつ……まだっ!!」
「エレノアッ!!危ないっ!!」
「……へ?」
リアムとマテオの焦り声と同時に、全部切り落としたと思われていたクラーケンの足が一本、海から出てきた。
その光景をスローモーションを見ているかのように呆然と眺めていると、その足はまるでアタックシュートをキメるかのように、私を思い切り海へと叩き落としたのだった。
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ホッとしたので、安心して加護に逆切れするてるノア。(加護:『解せぬ!』)
そして、バッシュ公爵家本邸の応援要員は、ご存じティルでした。相変わらず忍んでおりませんw
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