第151話 華麗なる一族との朝餉

案内された食堂は…。

はい、以前修学旅行先で行った、ヨーロッパの古城を思い出しました。


これぞ、『ザ☆王宮!』って感じに、品良く華美な室内に、何十人座れるんですか!?って感じの長椅子が中央にドドンと置かれている。

そしてそして…。


『何でロイヤルファミリーが大集合しているのー!!?』


…ええ、うっかり心の中で叫んでしまいましたよ。


ゴッド・ファーザー席(上座)には、国王陛下と聖女様がお内裏様とお雛様のように仲良く座っており、国王陛下側の席には王弟方が、そして聖女様側の席には殿下方が、それぞれ並んで座っており、入室して来た私達を目にするなり、一斉ににこやかな笑顔を浮かべる。


その爽やかな朝日に照らされ、より一層輝くキラキラしい美しさたるや…!世界最終戦争アルマゲドンにて使用されるであろう、究極の顔面兵器…とでも言おうか…。後光と共に、天使が舞い降りそうな勢いだ。


とにかく眩しい!直視できない!したら死ぬ!!…うん、本当に間違いなく心臓止まるわ!!


数の破壊力も合わさり、これはロイヤルファミリーが確実に私にとどめを刺しに来ている…と言っても過言ではない、凶悪な美しさである。


――しまった…。不敬と言われようが、朝食お断りしておくべきだった…!!


「おはよう。急な誘いで悪かったね。今日、エレノア嬢がバッシュ公爵家に戻ると聞いて、最後に是非、一緒に食事を…と思ってね。快く招きに応じてくれて嬉しいよ」


スッと通る、バリトンボイスの美声が…!こ、国王陛下、おはよう御座います!


ってか、えっ!?私、今日家に帰れるの!?え?い、いつの間にそうなった?!


「…昨夜のうちに、オリヴァーが国王陛下に話をつけたんだ。『肉まで食べられるようになったから完全復活です。今迄有難う御座いました』って言ってな」


クライヴ兄様に小声で教えてもらう。…オリヴァー兄様、やる事早いな!あ、ひょっとしてそれがあったから、殿下方が私に一斉にプロポーズしてきたのかな…?


「おはよう御座います。国王陛下、聖女様、王弟殿下方、殿下方。お招き、大変光栄に御座います。」


「…オ…オハヨウゴザイマス…」


オリヴァー兄様に倣い、深々お辞儀しながら挨拶するが、カタコトになってしまったのは見逃して欲しい。


「おはよう、オリヴァー、クライヴ、セドリック。そしてエレノア・・・・。良い朝だね」


――ウッ!!


まずは国王陛下が。そして殿下方を代表してか、アシュル殿下が極上の微笑を浮かべながら挨拶をしてくる。しかもしっかり、名前呼びでの先制攻撃だ。これだけでも軽く二回は死ねる…。


「おはよう、エレノア!」


おお!アシュル殿下に負け劣らぬキラキラしさだよリアム!


「おう、エル!良かった無事だったか!?いやぁ~、昨晩はマジで心配だったわ!」


あっ!ディーさんの言葉に、オリヴァー兄様の眉がピクリと跳ねた。兄様、ディーさんの事だから、多分なんの悪気も含みもありませんよ?


「エレノアどうしたの?早くこっちにおいでよ。ひょっとしてまだ寝ぼけてるの?」


フィンレー殿下、朝から辛口な一言、有難う御座います。


ってかフィンレー殿下!貴方も当然のように名前呼びですか!し、しかも、いつもは黒いローブ一択だってのに…。爽やかな朝に相応しい、白い開襟シャツに黒いズボン…だと…!?


くぅっ…!あ、朝からギャップ萌えまで仕掛けてくるなんて…!なんて卑怯な…!!

どうする…!?ここは臣下の意地を見せ、玉砕覚悟で特攻を仕掛ける近くに行くべきか否か…。


私は微妙に直視するのを避けていた、キラキラしい華麗なる一族に視線を合わせると…目を閉じ、俯いた。


――敵前逃亡決定。


そう心の中で白旗をあげながら、私はロイヤルファミリーから一番遠い、端っこの席に着席した。


「え?エレノア?」


「エレノア嬢?何故そんな端の方に?」


私の行動に対し、戸惑いの声が上がる。済みません…。私の視力と気力と鼻腔内毛細血管を守る為には、この場所にいるしかないんです。


「エレノア嬢?何を遠慮しているのか分からないが、そんな隅にいては、可愛い君の顔がよく見えないだろう?さあ、こっちに早くおいで」


国王陛下がおいでおいでと手招きしているけど…。済みません、そんな甘いイケボで言われてしまったら、猶更行けません。


「いえ…。私なんぞ、こちらの席で十分です」


俯きながら、か細い声でそう言う私に、リアムが立ち上がる。


「エレノア!ここはあくまでプライベートな場所なんだから、そんな遠慮必要ないんだぞ!?」


い、いや…。遠慮なんかじゃなくて…その…。――ってか、こんなに距離があるのに、私の声聞こえたの?!流石は選ばれしDNA!


「………眩しくて…ムリ」


ボソリと呟いた私の言葉がかろうじて届いたのであろう。途端、「……あ~……」的な、なんとも言えない微妙な空気が流れる。


「そうだね、エレノア。無理をする事は無い。僕達も君と一緒に、こちらに座ってあげるからね?」


「オリヴァー兄様!…え…でも、兄様方やセドリックはあちらにいかれた方が…」


「何を言ってる!大切な婚約者を放って別の所に座れるか!それにリアム殿下も仰っていただろう?あくまでプライベートな場所だってな。だからお前は遠慮なく、自分が寛げる場所に座るといい」


「クライヴ兄様…」


「そうだよエレノア。大丈夫、僕達がちゃんと日除け・・・になってあげるからね?」


「う、うん。ありがとう…?」


そう言うと、オリヴァー、クライヴ、セドリックも満面の笑顔で、次々とエレノアを囲むように着座してしまう。


対してアシュル、ディラン、フィンレー、リアムは彼らをジト目で睨み付ける。特に言葉尻を上手く取られてしまったリアムは、憤懣やるかたないと言った様子だ。


「…エレノアが普通のご令嬢じゃないんだって、うっかり失念していたよ…」


「不味ったな。あっち側の椅子、全部撤去しとくんだったぜ」


「チッ。父上に似さえしなければ…。あれ?でも母上に似てもアウトか」


そこでふと、アシュル達が視線を感じて振り向くと、自分の父親や叔父達が一様に生温かい視線を向けていた。


その目がまるで『自分達の気持ちが分かったか?』と言っているようで、思わずジト目になってしまう。そんな気持ち…一生分かりたくなかった。


「ってか、オリヴァー・クロスやクライヴ・オルセンとずっと一緒に居たんだから、美形に弱いって言ったって、少しは慣れてんだろ!?」


「…リアム殿下。この子、今でも我々が本気出す度、目を回しているんですよ」


「――ッ!…マジか…!?」


「ええ、マジです」


「一緒に風呂入っても、羞恥のあまり、逆上せて湯に浮かぶしな」


「「「「一緒に風呂!?」」」」


「お互い服着てますから!!」


クライヴ兄様、朝っぱらから何言ってんだ!?と、真っ赤になって否定した私の言葉に、殿下方が目を丸くした(気がした)


「は?…お互い…服…?」


「…ええ。エレノアが考案した、男性用の入浴着を着ています。しかも、水に濡れても全く透けない素材使用です」


「エレノア、それでも真っ赤になって逆上せてるよね…」


「そ…それは…」


「マジか…!」


…なんか、兄様方やセドリックが死んだ魚のような目になっているのは、気の所為だろうか?


ってか、そうじゃない!!一体いつまでお風呂を話題にしてんですか、あんたら!?


…ん?あれ?な、なんか兄様達や殿下方の間で、謎の連帯感が生まれている…?ってか、殿下方の兄様方やセドリックを見る目、なんか憐れみが込められているような…?国王陛下や王弟殿下方も、なんか目を丸くしちゃってる(気がする)


「さあさ!エレノアちゃんがあちらに座りたいって言うのなら、それでいいじゃない。そして、折角の爽やかな朝食の席に相応しくない会話も、もうお終い!食事は美味しく食べるのが一番よ!」


パンパン、と手を叩き、その場をまとめる聖母の微笑に、その場の空気がリセットされる。流石は聖女様。この国の頂点に君臨すると言っても過言ではないお方!お風呂ネタをぶった切って下さって有難う御座いました!


「エレノアちゃん、今朝は特別に、私の生まれた国の料理をお出しするわね」


――んん?聖女様の『私の生まれた国の料理』…?


って、聖女様!この国出身ではなかったんだ!あ、兄様方やセドリックも驚いた表情を浮かべている。でもこういう内輪ネタ、私達が居る席で話してしまっていいのだろうか?


「…多分だけど、君の事はもう、暗に身内・・として扱っているのではないのかな?」


ボソリと呟いたオリヴァー兄様の言葉に、汗を流しながら『成程…』と納得する。それってつまり、息子達の将来の嫁的な意味で…?あ、クライヴ兄様とセドリックが能面のような顔して頷いている。つまりはそういう事ですか。


「あ、有難う御座います。喜んで頂きます」


「ふふ…。私の夫達もこの子達も大好きなの。きっと貴女も気に入ってくれる筈よ?」


へぇ…。王族をも虜にする異国の料理ですか…。食の探究者と世界に名だたる元・日本人としては興味深々です!さてさて、どんな料理なんだろう。


そうして、ワクワクしながら目の前に出された料理を目にした瞬間、私は思いっきり固まってしまったのだった。



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エレノアの予想を超えたキラキラしさが炸裂しております。

そしてクライヴ兄様、親密さを強調しようとして墓穴を掘った模様です(笑)

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