第419話 クラス替え……だと!?

さて、入学式が終わったら私たちは新学期だ。


実はこの王立学院。新入生以外の学年は、初日からしっかり授業がある。


前世で言うところの「初日だから半日だけ授業ね」も当然なく、一日ビッシリ授業で埋まっている。流石は選ばれしDNA育成機関。スパルタである。


各々のクラスに向かうべく席を立ち、大聖堂から出ていこうとした私達だったが、何故か壇上にマロウ先生が颯爽と登場すると、咳ばらいを一つし、何やら手にしたものを口元へと持っていく。


「あー、あー、二年生諸君~!教室に行く前に、大聖堂入口横に設置された掲示板を見てから向かうように~!」


どうやら口元に持っていったのは、魔道具の拡声器だったようだ。うん、凄いボリューム。


「え?掲示板?」


「なんだろうね?」


私とセドリック、クライヴ兄様、そしてリアムとマテオも首を傾げるが、そんな反応をしたのは私達だけだったようで、同級生達や他のクラスの生徒達はというと、その言葉を待っていたかのように、一斉に物凄い真剣な表情を張り付かせながら、入口めがけて駆け出した。


「え?え?」


大聖堂に取り残され、呆然としている私達。そして聞こえてくる、歓喜と落胆の声。


「本当に、なんなんだろうね?」


不思議に思いながら近づいて行った先にあったもの……それは、『クラス替え』なる言葉がデカデカと天辺に書かれた掲示板。私達の目が思わず点になる。


「エレノア嬢!今学期も貴女と同じクラスで光栄です!今年一年、宜しくお願い致します!!そして来年も絶対この権利をもぎ取ります!!」


そんな中、喜色満面で声をかけてきたのは、第一騎士団長を父に持つオーウェン・グレイソン君だ。


「は……はあ……?……えっと、こちらこそ宜しくお願い致します?」


そう言いながら、「一体、何事!?」と、セドリックやクライヴ兄様と共に、リアムとマテオの方を振り向くが、二人とも困惑しながら顔を横に振っている。


その後も続々と「バッシュ公爵令嬢!今学期も宜しくお願い致します!」やら、「やった!嬉しい!死に物狂いで色々頑張った甲斐があった!!」という、感涙に咽びながらの喜びの声が続々と上がる。


一方では、「うう……っ!外れた……!!」「この世の終わりだ……!」「俺は今学期、何を心の支えに生きていけばいいんだ……!」等という、涙ながらに吐き出される悲愴な声も、あちらこちらで上がっている。


「え、えっと……こ、これって一体?」


「やぁ、バッシュ君!暫くぶりだね、会いたかったよー!」


そんな騒ぎの中、マロウ先生がニコニコしながら、私達の元へとやってきた。


……ってかマロウ先生。貴方とは確か、長期連休中の宿題と称して渡されたプリント(半分しか終わらなかった)を提出する為に、昨日お会いしましたよね?言うなれば「昨日ぶり」ですよね?(その時、「あんな大変な事があったというのに、半分も終わらせるなんて!!流石は姫騎士!尊い!!」って、めっちゃ感激していた)


「あ、あの先生……。この『クラス替え』って……」


「あ、それ?いや~実はさぁ、バッシュ君と違うクラスの生徒達から連名で、『是非、クラス替えを!!』って嘆願書が学院長に届いたわけよ。で、学院長がおもしろが……いや、『これが彼らにとっての新たなる刺激となるのなら』と仰って、学院初のクラス替えが実行されたって訳!あ、ちなみに僕は今回も君の担任だから♡」


えええっ!?な、なんですと!?嘆願書!?学院初のクラス替え!?……ってかマロウ先生、貴方「面白がって」って言い掛けませんでしたか!?


それを聞いたセドリック、リアム、マテオは顔色を変え、慌てて掲示板に駆け寄ると、自分の名前を探しだす。


「あった!エレノアと同じクラスだ!!」


「俺もだ!」


「私もです!ああっ!リアム殿下と同じクラスになれるなどと……!まるで夢のようです!」


三人とも、自分の名前と、ついでに私の名前を見つけて安堵と喜色の表情を浮かべた。


「……あの、マロウ先生。ちなみにですが、クラス替えの基準は……?」


「んー?バッシュ君のクラスは、単純に上位成績者と~、一芸に秀でている連中をぶち込んどいたよ!」


私の問いかけに、笑顔でサムズアップするマロウ先生の言葉に、顔が引き攣る。


『じ、上位成績者が軒並み、私のいるクラスー!?』


つまり、肉食女子ハンター達の獲物が、全員私のクラスにいるという事ではないですか!?


ああっ!早速、同学年の女子生徒達が、恨めしそうに私の方を見ている!ってか、一芸ってなに!?


……ん?あれ?な、なんか憎々し気な視線を向ける女子達に混ざって、頬を染めながらチラチラとこっちを見ている女子達がいるんですけど?


「ああ、彼女らは同好の士……じゃなくて、バッシュ君のクラスに振り分けられた女子達だね」


あ、女子生徒は私だけじゃなかったんだ。良かったー!……ってか、なんかマロウ先生が変な言葉を口にしたような気が……?同好とかなんとか……。


あれ?なんかクライヴ兄様もセドリックも、ついでにリアムもジト目でマロウ先生の事睨んでいるんですが?


「……あいつ、またろくでもねぇ同好会作りやがったのか……!ったく、潰しても潰しても復活してきやがる!」


「というか、女性徒達まで会員だなんて……!」


「くそっ、考えやがったなあいつ!流石に女生徒が参加しているのに、問答無用でぶっ潰す訳にはいかない!」


「ご安心を、リアム殿下。後で私からヒュー兄様に告げ口しておきますから!」


なにやら集まってヒソヒソやっていたクライヴ兄様、セドリック、リアムにマテオ。

そんな彼らに、マロウ先生が朗らかに声をかける。


「おやおや、マテオ~?いいのかな?今日までだったら、クラス替えの見直し可なんだけど~?」


「畜生、誰だよ!こいつにクラス分けの権限与えたヤツ!!」


「学院長様だけど、それが何か~?」


激高しているマテオに対し、ヘラヘラした態度を崩さないマロウ先生。そして「大叔父上……。全くあの人はっ!!」と、恨めし気に吐き捨てているリアムに対し、クライヴ兄様が胡乱な眼差しを向けながら疑問を口にした。


「おい、マロウ。何でエレノアや俺達だけ、クラス替えの事を知らなかったんだ?」


あ、それ私も気になります!ってか、王族であるリアムすら知らなかったって一体!?


「んん~?そりゃあ、変な横やり入れられたくなかったからだけど?特に、卒業しちゃった元生徒会長とか、王族のだれか様とか~?」


あっ!それを聞いたクライヴ兄様が、「ああ……」って納得の表情浮かべている!ついでにリアムも!

ってか王族の誰か様って、まさかフィ……。


「……帝国がこれから何か仕掛けてくるのであれば、その場の守りは少しでも強固な方が良い。今回のクラス分けの嘆願は、我々の思惑と丁度合致したんだ。クラス替えはその結果に過ぎない」


マロウ先生の纏う空気と口調がガラリと変わった。

そして『帝国』という言葉を耳にした瞬間、兄様達の表情も変わる。


「それに、バッシュ君と同じクラスになれなかった連中は、『次こそは!』って、必死になるだろう?そうしたら、生徒自らが勝手に才能を爆発的に伸ばしてくれる。良い事づくめだ。実際、在院生達の殆どが『姫騎士と楽しい学院生活を!』ってのを合言葉に努力している。その結果、今学期は退学する生徒が一人も出なかったんだよ~!凄いでしょ!?」


えっ!?そ、それは確かに凄い!


例年一割から二割が脱落していくって聞いてたんだけど、一人の脱落者も出なかったなんて!……『姫騎士』の名も、何だかんだで役に立ってるんだなぁ。


「あ、でも弊害もあってさー。『卒業したら、もう二度と姫騎士を近くで見る事が出来ない!』とか『留年すれば同じ学年になれる!』とか言って、わざと留年しようとした愚か者が何人も出ちゃってねぇ。ま、ガッツリ根性叩き直して、卒業&進級させたけどね~!」


「「「…………」」」


私とクライヴ兄様、そしてセドリックは、面白そうにそう言って笑うマロウ先生から、そっと視線を逸らした。


……言えない。その愚か者の中に、うっかりオリヴァー兄様が混ざりかけていただなんて……。


「さーて、じゃあそろそろ教室に行こうかー!」


ワクテカ顔でマロウ先生が私に差し出した手を、黒い笑顔を浮かべたクライヴ兄様が思い切り叩き落とした。




===================



エレノアも守れて、生徒達のやる気も上げられる……まさにWIN-WINですね!

そして実は、オリヴァー兄様以外にも留年狙い組がいた事も判明!にしてもエレノアではありませんが、一芸が気になりますね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る