第420話 席順がおかしい?

「何なんだこの席は!!どうにかならないのか!?」


「そうだよね!僕なんて婚約者なのに、これは酷くない!?」


「私はリアム殿下の隣ですので、現状不満はありません」


「マテオ!お前には聞いてない!!」


「う……う~ん……」


ブツブツとリアムとセドリックが文句を言っているのは、今現在私達が座らされている席順についてだ。


今まで私は、クライヴ兄様が警護しやすいという事で、教室の一番後ろ側に座っていたし、セドリックは婚約者として。そしてリアムは仲の良い友達というスタンスで、共に私の横の席をキープし続けて来たのである。……けれど。


「帝国が行動を起こしている今、我々は一丸となって大切な女性達を守らなくてはならない。……という訳で今学期は君達全員、僕の指示した席に座る事!」


そう言ってマロウ先生は、私を含めた数名の女生徒を教室のど真ん中の席に集めてしまったのだ。そして男子生徒達が文字通り、私達を守るようにグルリと取り囲んで座る。


当然というか、セドリックもリアムも女子の集団を守る輪の中に組み込まれている。……というか、ぶっちゃけ私の前方と後方の席に配置されてしまったのだ。


当然(?)天井には『影』の皆さんが控えているようなので、確かに布陣は完璧だ。……だけど、王家直系であるリアムまでをも防波堤の一つに組み入れるって、ある意味凄い。全くもってブレないうえに容赦がない。流石だ、アルバ王国!


「バ、バッシュ公爵令嬢!!」


「はい?」


私の左隣の席に座った女子生徒が、物凄い形相で私に声をかけてくる。


――……ひょっとしてこの子、「なんで私が、貴女なんかと一緒に座らなきゃならないの!?」……って文句を言うつもりなのかな?


確かにこの席順は、厳密にいえば私の所為なので、申し訳ないとしか言えないんだけど……ん?プルプル震えながら無言でいる。一体、どうしたというのか?


「あの……?何か?」


「……お、お隣ですわねっ!ど、どうも!」


――はい!?


いきなりのご挨拶に戸惑っていると、今度は右隣りのご令嬢が口を開いた。


「わっ、私も……こっ、これから宜しく……して差し上げてもよろしくてよっ!」


目元や耳を赤くし、ツンとそっぽを向きながら挨拶される。……って、ええっ!?


「ご、ごきげんよう!……おっ、お近付きのしるし……ですわっ!お、美味しいんですのよっ!!」


更には、私の前方に座っていたご令嬢が、綺麗にラッピングされた高級スイーツ詰め合わせを、ソッと差し出してくる。

あまりの衝撃に、思わず無意識的に差し出された箱を受け取ってしまう。途端、令嬢がツンとそっぽを向くが、その口角はちょっぴり上がっている。


……うん。どうやら今学期、私と一緒のクラスになったご令嬢方は、全員心優しいツンデレさんだったようだ。


今迄、敵意を向けられたり嫌味を言われたりしかされて来なかったので、仲良くしてくれそうな態度がとても嬉しい。


「有難う御座います!皆様、これから一年、どうぞ宜しくお願い致します!」


感激した私は頬を染め、満面の笑みで彼女達に挨拶を返した。……すると……。


「はぅっ!!」


「くぅっ!」


「あああ……!と、尊……ッッ!!」


と言いながら、ご令嬢方がバタバタと机に突っ伏し、激しく震え出してしまったのだった(ついでに、その周囲にいた男子生徒やマロウ先生も机に突っ伏していた)。


「え?えっ!?」と、オロオロする私を尻目に、クラスメイトの男子生徒達が颯爽と彼女らの元へとやって来る。


「シャーロット!」


「アダム様!わ、私……!」


「ええ、見ておりました!練習した甲斐がありましたね。とても立派です!」


「エラ!気をしっかり持って!」


「バートン……私……私、このようなことで……これからやっていけるのでしょうか?」


「何を言うんだ!共に頑張っていこうと誓い合ったじゃないか!大丈夫、君には僕が付いている!」


「バートン!!」


「カルロス!私、やりましたわ!笑顔で受け取って頂けました!!」


「ええ、クロエ。これは小さいようで、実に大きな一歩です!このまま力強く歩んでいけば、『ご一緒にお茶をする』という野望が叶う日も、きっとやって来ます!……同じクラスになれなかった同志達の為にも、これからも精進してまいりましょう!!」


「ええ!」


「……えーっと……?」


――何なんだろう。この目の前で繰り広げられている光景は。


多分彼らは婚約者同士なんだろうけど、女子達は「やり切った」感満載だし、男子達は、そんな彼女らを潤んだ眼差しで称え、励ましている。


……よく分からないが、互いに固い絆で結ばれているのであろう事だけは分かる。だが、それ以外が何一つ分からない。


前と後ろの席に座っている、リアムとセドリックを、「ヘルプ」の意味合いでチラリと見るが、二人とも生温かい笑顔を浮かべながら頷くのみ。

仕方がないので、教室の隅に控えているクライヴ兄様に視線をやると、何やら感心したような呆れたような表情を浮かべながら、やはりこちらも生温かく微笑んでいた。……理解不能。


「さーて!それじゃあ授業始めるぞー!」


マロウ先生の一声で、皆が一斉に教科書とノートを取り出す。当然私も……って、なんと!ご令嬢方も教科書とノートを取り出している!


ひ、ひょっとして授業受けるんですか!?しかもマロウ先生は攻撃魔法の教師だから、座学も『より効率的な攻撃魔法の構築について』なんですけど!?私が言うのもなんですが、ご令嬢が習うようなものではないんじゃなかなっ!?


すると左隣に座っているご令嬢が、「ま、守るべきお方の為……ですわ!」と言いながら、赤い顔でキッと私を睨みつける。いけない!うっかり心の声が口から飛び出ていたようだ。


『守るべき人……あ!ひょっとしたら、自分の婚約者や恋人にちょっかいかけてくるライバル対策の為に、攻撃魔法を……!?』


流石はアルバ女子。より肉食女子道を極めんとするとは……!


「えっと……が、頑張って下さい!でもあの……。あまりやり過ぎないようにして下さいね?」


肉食女子が、文字通りの肉食獣になりませんように……という意味を込めながらそう言うと、ご令嬢は一瞬嬉しそうな顔をした後、ツンとそっぽを向いた。


「……エレノア……。違うからね、それ」


そんな私達を見ながら、溜息交じりに呟いたセドリックの言葉は、残念ながら私の耳には届かなかったのだった。




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諸々の用事の為、更新が止まってしまっておりまして、申し訳ありませんでした!

そして暫くぶりの更新で、どこからスタートしていいか迷いましたが、王道の教室からスタートです!

状況的に、エレノア&女子チームは、ドーナツの真ん中にいると思って頂ければ。

そして、エレノアよ。彼らのそれは『同担』です(*´艸`)

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