第450話 私、ふしだらな女ですか?
私のボケ補正スキルが判明し、複雑気分で一杯な私ですが、ちょっとここにきて気になる事が……。
『あっ!また!!』
またしても目にしてしまったウィン船長の姿に、慌てて目を逸らす。
これ、一体全体、何回目なんだろう……。
最初は「やっぱり船長さんって忙しいんだなぁ」で済んでいたんだけど、広い甲板を歩いたり、風を受けた帆を見たりする度、ウィン船長の……あの見事な胸筋と腹筋が目に飛び込んでくるのだ。
その目撃率の高さたるや、空腹が紛れる程ですよ。
その度、慌てて目が隠れている顔の方へと視線を向けるんだけど、そうすると満面の笑みを浮かべながら手をヒラヒラさせてくれるから、やはり顔が真っ赤になってしまうんです。
ってか、何で目が見えないのに赤面してしまうんだ!?本当にアルバ男ってなんなの!?謎のフェロモン出てるのかな!?
そ、それともこれはひょっとして、私が無意識に、あの見事なシックスパックを目で追っているとでもいうのか!?私はいつからそんな、ふしだらな女になってしまったというのだ!?
「落ち着きなさいエレノア。大丈夫、アレは百パーセント君の所為じゃないから。あの男がわざとチラつかせているだけだからね」
ややっ!オリヴァー兄様。心を読み取るスキルがまた一段と冴え渡っていますね!
「に、兄様!チラつかせているって……。船長がわざと腹筋……いえ、その……己の身体を、えっと……私にみ、見せていると言いたいのですか?」
いやいや、まさかね!……って、オリヴァー兄様が真剣な顔で頷いた!!
「まったまた~!オリヴァー兄様ったら勘ぐり過ぎですよ!あんなに忙しそうに指示を出されている方が、そんな事するわけないじゃないですかー!」
あ、あれ?ちょっ!オリヴァー兄様の額に青筋が!……って、クライヴ兄様とセドリックも!?あっ!よく見たらリアムも青筋立ててる!!
しかもなんでマテオまで!?あっ!クライヴ兄様が、「このチョロ娘が!」って呟いている!酷い!
「エレノア。これ以上、歩く強制
「えっ!?嫌です!」
ってか、歩く強制猥褻って言い方が凄い!
「ひっ!」
オリヴァー兄様の言葉に対し、即座に否定を口にした途端、更に青筋を立てたオリヴァー兄様から威圧が!!
「……君、そんなにあの男の身体が見たいわけ……?」
低く静かな兄様の問い掛けに、私の顏から火が噴いた。
「なっ!ななな、なに言ってんですか、オリヴァー兄様!!」
わ、私を何だと思ってるんです!?痴女じゃないんですよ!!……ん?ああっ!ほ、他の面々の顔も恐い!!
「……そう。そんなに男の身体に飢えているんなら、後で嫌という程見せてあげるけど?なんなら他の皆のも見る?全員喜んで協力してくれるよ?」
いやあぁぁぁ!!兄様が壊れたー!!
そして他の皆さんもいい笑顔で頷かないで!!協力しなくていいですー!!ってか、晴れ渡る爽やかな青空の下で、何言っちゃってんですか貴方はー!!
「飢えてません!大丈夫です!!全然見たいわけではありません!!」
「じゃあ、なんで嫌なの?」
「だ、だって入ったが最後、キーラ様と鉢合わせしちゃうじゃないですかー!」
途端、皆の表情がスンと凪いで、「ああ……」って顔になった。
更には威圧も引っ込んだ為、ホッと息をつく。
そう、串焼きを食い逃した恨みもあるし、またあの嫌味言われたりしたら、絶対言い争いになってしまうに違いない。
他の領地に……しかも疑惑のヴァンドーム公爵領にお邪魔しているってのに、これ以上不毛な諍いを起こしたくないんですってば!
……あ、いかん。串焼きの事考えたら、空腹が復活してきた……。
「……ん?」
あ、あれ?なんだろう。なんか物凄く良い匂いがしてきたんだけど?
『……ま、まさか、これは……!?』
「あっ!エレノアッ!!」
兄様達から小走りで離れ、向かった先にあったもの……。それはなんと、いつの間にか設置されていた、巨大なバーベキューコンロのようなものだった。
しかもその上で焼かれているのは、魅惑の魚介類の数々……!
『ふおぉぉ~!!』
途端、盛大に鳴りそうになったお腹を腹筋で抑えつける。と、そんな私に気が付いた、魅惑の腹筋……いやいや、ウィン船長さんが、白い歯をキラリと光らせた。
「はっ!?」
と、というか船長ー!!、なんで上半身脱いでんですかー!!?し、しかもかなりの数の船員さんまでもが上半身裸になってるじゃありませんかー!!
『うきゃぁぁー!!』
思わず空腹もどこかに吹っ飛び、ボフンと全身真っ赤になってしまった。
し、しかも腹筋だけじゃありませんよ!?小麦色の程よく焼けた上腕二頭筋がっ!!大胸筋がっ!!素晴らしき筋肉の暴力が、私の鼻腔内毛細血管を殺しにかかってくるっ!!
と、ここで素早く追い付いたクライヴ兄様が後方から私を抱き締め、ついでに大きな手で私の目を覆った。
「落ち着け!深呼吸だ!ほれ、吸ってー吐いてー!」
私は言われるがまま、ヒッヒッフーと呼吸を整えた。え?それラマーズ法だって?いいんですよ!落ち着ければなんでも!!
「……ウィン船長。これは一体どういう事ですか……?」
あっ!オリヴァー兄様の地を這うような呪いの声……ならぬ、非難を含んだ声が聞こえてくる。怒ってる……怒っていますね!?
「おや、クロス伯爵令息。どういう事だとは?」
「貴方がたのその恰好です!仮にも公爵令嬢の目の前で何をやっておられるのですか!!純真可憐な淑女の目の前で、そのような肌を晒す格好はお控え願いたい!!」
に、兄様。純真可憐は言い過ぎです。本当に純真な女子は、腹筋だの胸筋だの言いませんから。
「はっはっは!それは大変失礼致しました。今日はかなり暑かったものでして、ついつい!」
えっ!?そ、そんなに暑かったっけ?私、別に汗かいて……ってまさか、クライヴ兄様がずっと冷気を私に……!?天然冷風機再び!?凄いや兄様!
「バッシュ公爵令嬢、お見苦しい様をお見せしてしまいました。なにとぞご容赦を。おーい!お前ら!服着てねぇ奴はちゃんと着ろよー!!」
暫くしてクライヴ兄様が覆っていた手を離す。すると目の前にはウィン船長……ではなく、何故か神妙な顔をしたベネディクト君が立っていた。
「バッシュ公爵令嬢。仮にも淑女の前で、むさ苦しい男の肌などというお見苦しいものを目にし、大変ご不快だったことでしょう。今後は二度とこのような事はさせませんので、数々のご無礼、どうかお許しください」
そう言って、深々と貴族の礼を取るベネディクト君。
いえいえ、見苦しいどころか、大変に眼福で……ゲフンゲフン。
「お、お気になさらないで下さい!お、お仕事をされているのですもの。暑いですから、ふっ、服ぐらい脱ぎますよねっ!」
あっ!私のてんぱったフォローに対し、クライヴ兄様の絶対零度の眼差しが、『お前……これ以上喋るんじゃねぇ!』って言ってるー!!
し、しかも!なんか船長さんや船員さん達も俯いて震えているし!わーん!!
「と、とにかくですね!わ、私は少しも気にしていませんから!!お顔を上げて下さいっ!」
未だに兄様達からは暗黒オーラが噴き上がっているし、私も私で顏を真っ赤にさせ、挙動不審な態度をしておいて、「気にしていません」もなにもないだろうけど、必死に「気にしていません」と連呼する。
そうして神妙な表情を浮かべながら顔を上げたベネディクト君に、精一杯の笑顔を向けると、ほんの少しだけ、ベネディクト君の表情が和らいだ(気がした)。
でもそのすぐ後、「いや~、坊ちゃん、気にされていなくて良かったですねぇ!」って、能天気に声をかけてくるウィン船長を、物凄く怒ったような顔で睨み付けていたけどね。
ちょっと場の空気が緩んだところで、再び漂って来る魅惑の香りを鼻腔がキャッチする。
思わず焼かれている海鮮に目を向けると、海鮮が良い感じにジュウジュウと焼かれていた。
「今朝採れたての海鮮を漁港で貰いましてね。まだ時間がかかりますし、ちょっと早めの昼飯を食うところだったんです。どうです?バッシュ公爵令嬢もご一緒しませんか?」
釘を刺されたからか、シャツのボタンをキッチリ留めたウィン船長さんが、そう言うなりなんと!ホタテのような貝やエビを刺した串を手に取り、こいこいと手招きする。
ゴクリ……と喉が鳴り、思わずフラフラ~と近付こうとした私の身体だったが、当然ながらクライヴ兄様によって捕獲されている為、身動きが取れない。
「クライヴ兄様……」
「もう、空腹が限界なんです!」という思いを込め、ウルウルした目でクライヴ兄様の顔を見上げると、クライヴ兄様の口から「くっ……!」と呻き声が上がった。
「……オリヴァー……」
声をかけられたオリヴァー兄様の方を見ると、複雑そうな表情を浮かべている。
兄様はセドリックやリアムの方に素早く目をやった後、溜息をつくとシャノンを呼んだ。
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魅惑の腹筋よりも先に、海鮮バーベキューに目がいくのが、エレノアクオリティーですv
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