第449話 自動翻訳スキル?

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実は私、船に酔った経験があったんです。


だから多少の体調不良は仕方がないかな……と、覚悟を決めていたんだけど、この世界で初の航海は、思った以上に快適でした。


まず揺れが全くない!なんなら馬車の方が揺れる。これが本当の『氷の上を滑るような走り』というヤツなのだろう。なんとも凄い事だ!


割と真面目に、「これが海洋領地の底力というものなのか……!」と、拍手喝采を送りたい!(誰に!?)


「快適だね~!ウィル」


「本当ですねぇ……あっ!お嬢様、ご覧ください!!あそこに大きな魚が!!」


「えっ!?どこどこ……って、わぁっ!イルカだ~!!」


なんと、水族館のイルカショーでしか見た事のないイルカの群れが、船と並走して泳いでいる。それを見た私のテンションはマックスになった。


「『イルカ』……?あの魚の名前ですか?」


「ううん、魚じゃなくて哺乳る……いやいや」


思わずキョロキョロ周囲を伺う。あっ!ウィン船長の腹筋発見!慌てて目を逸らす。

それ以外の人達は、あちこちで仕事していてこっち見てない。ふぅ……。良かった。


「クライヴ兄様、クライヴ兄様!」


私は私達の少し後ろで、周囲をさり気なく警戒しているクライヴ兄様を呼んだ。


「ん?なんだエレノア」


「あの魚っぽい生き物の名前はなんですか?」


そう言いながら、船と並走しているイルカを指さすと、クライヴ兄様は首を傾げた。


「ん?……え~と……なんだったっけか?おい、オリヴァー!お前、この下で泳いでいる、でけぇ魚の名前知ってるか?」


すると、少し離れた所で揃って海を眺めていたオリヴァー兄様達が、ワラワラとこちらにやって来た。


「う~ん、残念ながらうちの領地は内陸部だったからな……。セドリックはあの魚の名前知らない?」


「済みません、僕もちょっと勉強不足で……。リアム、知ってる?」


「あー、あれ?母上が言ってたけど、魚じゃなくて『イルカ』っていう動物らしいぞ」


「へぇ~!!魚じゃなかったんだ!」


――良かった!こっちでもイルカはイルカって言うんだ!


リアムの言葉にホッと安堵の溜息をつきつつ、未だに船と並走しているイルカに目をやる。あっ!何匹か飛び上がった!ブラボー!!


「うん。それにアレだけじゃなくて、他にも何種類か、魚っぽい動物がいるんだってさ。ちなみに、あの『イルカ』ってやつはあんまり美味しくなくて、『クジラ』ってのが美味いんだって!」


さ、流石はアリアさん!美味しい美味しくないが重要なんだ。

それにしても、イルカってあんまり美味しくないんだね。成程、一つ賢くなった。でも食べませんけどね!


「リアム殿下、ちなみにですが、アレの名前は、こちら・・・のものでしょうか?」


オリヴァー兄様が声を潜めて確認をとる。って、『こちらのもの』ってどういう意味だろう?


「ん?ああ、母上の国・・・・での名称な。大丈夫だ。そこら辺はちゃんと確認しているから。ちゃんとこっち・・・の名前だよ」


え?『こっちの名前にしている』って、つまりこの世界でイルカは『イルカ』って名前じゃないの?

でもリアム、今ちゃんと『イルカ』って言ったよね?


「ね、リアム。リアムはあっち・・・の言葉で『イルカ』の名前を言える?」


「え?え~っと……確か『イルカ』だったな」


「じゃあ、こっちの名前は?」


「?イルカだろ?」


え?なんで?どっちも『イルカ』なんだけど!?


「エレノア?どうしたの?」


戸惑った様子の私にオリヴァー兄様が気が付く。


「オリヴァー兄様。いえ、あの……。『イルカ』が、あっち・・・とこっちと、同じ名前に聞こえるんですけど……」


私の言葉に、その場の全員が目を見開いた。


「エレノア、なに言ってるんだ?『イルカ』はあっち・・・と全然名前が違うだろう?お前だって今、こっちの名前で呼んでいたぞ」


今度はリアムが戸惑ったような様子で私を見ている。


え~っと、待って。な、なんか頭がこんがらがってきたぞ。

リアムや他の皆も頭の上に「?」が沢山浮かんでいるような顔している。


「……エレノア。ちなみにだけど、あちら君の前世こちらこっちの世界で、同じ名前のものってある?」


「え?あ、はい。イチゴとか薔薇とかぺんぺん草とか……少なくとも私の知っているものはだいたい同じ名前です」


そう。前世でよく見たラノベやコミックでは、見た目は同じでも大抵名前は違っていた。でもこの世界では不思議な事に、ほとんどのものが同じ名前なんだよね。


そこで、兄様方やセドリック、そしてリアムが揃って顔を見合わせた。


そういえば、皆にはそれ言った事なかったから、だから驚いているんだろう。……なんて、呑気に考えていた私だったが、リアムが真剣な顔で首を横に振った。


「……エレノア。多分それ、違うと思う」


「え?違うって、何が?」


「だから、名称の事。母上、最初は色々なものの名前の違いに戸惑っていたって言っていたんだ。だから自分の出自がバレない為に、名前を口にする時は必ず、父上達に確認していたんだって」


「ええっ!?そ、そうなの!?」


リアムが声を潜めながら教えてくれた衝撃の事実に驚愕してしまう。


じゃあ、私が今までごく自然に口にしてた花や果物や野菜なんかの名前は、本当は全然違っていたってこと!?

でも、私が耳にするのも口にするのも、なんなら書いたり読んだりしていたものは全部前世での名前だったし、誰もそれに対して指摘しなかったし……。


「……ひょっとしたら、それがエレノアの『スキル』なのかもしれないね」


「え!?わ、私の『スキル』?」


「そう。例えばあの『イルカ』だけど、本当は違う名前を僕らが口にしているとする。それをエレノアのスキルが自動で翻訳して、『イルカ』って聞こえるようにしているんじゃないのかな?」


「じ、自動翻訳……!?」


オリヴァー兄様の信じられない推測に、私は愕然としてしまった。


そういえば、前世で見た事のなかった果物や野菜なんかは、聞き慣れない初めて聞くような名前だった。

という事は魚なんかも、私が知っているものは自動変換されるけど、知らない魚の名前はそのままなのかな?


ちなみに、私が口にする『ギャップ萌え』だの『DV』だのの言葉なんかは、そもそもこの世界にない言葉だから、全員「なにそれ?」状態だったとか?

そう考えるとそのスキル、固有名詞にのみ適用されるって事なのかもしれない。


しかし、なんなんだろう。知っている固有名詞が自動変換されるだけというこのスキル。あまりにもしょぼくないですかね?


それに、『海の白』が『真珠』って変換されなかったのは一体?……ひょっとしなくても、「ここら辺は大丈夫」って、スキルが手を抜いている……とか?なんという中途半端スキルなんだ!

それに折角スキルを授けて下さるんなら、もうちょっとこう……。華やかで凄いのを頂けたらと思うんですが。


「いや。これ以上ない程、君にピッタリのスキルだと思うよ?」


「そうだよな。それが無かったらお前の事だ、すぐに身バレしちまっていただろうからな」


「エレノアって、うっかりさんだからねぇ……。それ見越した女神様が危機感持って、わざわざ授けて下さったのかもしれないね」


「有り得る……いや、まさにそれだろう!う~ん、流石は女神様だ!エレノア、ご温情に深く感謝しなくちゃいけないぞ?」


えええっ!?これって、ボケた私を見た女神様が「この子、補正してあげないと危険だわ」って、授けてくれたスキルなの!?って事は私、女神様にもディスられていたって事なんですか!?


「うん、まさにお前にピッタリのスキルだな!素晴らしい!」


って、マテオまでー!!酷いっ!!


余談ですがこのスキルの名前、『自動翻訳』ってのはアレだからって事で、『女神様の祝福』って名前になりました。……なんか、カッコ良過ぎてかなり引く。


それに祝福というより、『おボケ補正』だと思うんだけど……まあいっか。




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別名『身バレ防止スキル』が判明しました!ええ、これエレノアには必須のスキルです!

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