第532話 魅惑の入浴着

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そしてそろそろ、6巻の情報が出てくると思いますので、お楽しみに!



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「エレノア?現実逃避をしているようだけど、さっさと大浴場に行くよ?」


そう言うと、オリヴァー兄様はいまだに若干スライム状態の私を抱き上げ、その場にいた全員と一緒にゾロゾロと大浴場に向かって歩き出す。……くっ!私には現実逃避する時間さえ与えられないのか!?


途中で「オリヴァー兄上!僕達もエレノアを運びたいです!」とのセドリックの要請にオリヴァー兄様が応じ、お風呂に到着するまでの間、バトンリレーのバトンのように、順番に抱っこされていた私です。


……というか、大浴場までの道のり、長くないですか?確か大浴場、私達の滞在する迎賓館の丁度真ん中らへんに……え?それだと誰かがあぶれるから、迎賓館を一周する!?大名行列ですか!止めて―!!


『ううう……。た、多分これも牽制の一つなんだろうけど……。真面目に公開処刑だと思う!』


すれ違うヴァンドーム公爵家の侍従や騎士様方の視線が思い切り痛い。なんの拷問なんですか、これっ!


「……視線が一々ウザいね」


「仕方がねぇ。エレノアのあの舞いを見た後なら、誰だってああなるだろう」


なんて話している兄様方の声に、おずおずと視線の先を見てみると、何故か全員、陶酔の面持ちで両手を組みながら片膝を突いていた。


しかも、「姫騎士が……!」「尊い……!」「ああ……!ご尊顔を拝する事の出来るこの栄誉!!」「女神様、感謝いたします!!」……なんて言葉が聞こえてくるんですが!?ひ、ひょっとして、野花人形にされちゃった時、心理的な悪影響を及ぼしちゃった!?それか、良からぬなにかに罹患した……!?どうしよう!?アシュル様に解毒……いや、浄化してもらうか……!?


「いや、エレノア。アレは僕には浄化出来ないだろう。というか寧ろ、浄化しようとしたら全力で拒まれると思うよ?」


――そ、そんな……!!『光』の魔力で浄化出来ないなんて!!本当になにかに罹患したの!?


「う~ん……。ある意味そうかもしれない」


――なんてこった!!


……ちなみにアシュル様。度々繰り返しますが、私の表情筋にいちいち返事しないでください!そこはスルーするのが優しさです!他の皆も頷いていないで!スルー推奨!!





そうして到着した大浴場ですが、幸いな(不幸な)事に、どこも破壊される事なく無事でした。そして何故か、脱衣所がクッキリと壁で半分に区切られていました。


聞けば私がリアムや兄様達と混浴した事を知ったヴァンドーム公爵家御一行様が、突貫で脱衣所のスペースを区切ったんだとか。


良かったー!正直、布で区切っているの心もとなかったんだよね。嬉しい!どうも有難う御座いました!

……まあ、感動している私とは反対に、兄様達は「なんという陰湿な嫌がらせを……!」って、怒り心頭だったけどね。スペースを分ける事がなぜに陰湿で嫌がらせなのか……いや、深くは考えまい。


というわけで、私は区切られた脱衣所の女性スペースにて、ジョナネェ渾身の作である入浴着に着替えた。


これ、最初は一種類だけだったのが、ジョナネェと何気ない会話を繰り返している間に、バリエーションが物凄く豊富になったんだよね。

しかも「試作品よ~♡」と言って、新しいバージョンが増える度にそれを送りつけてくるので、私の衣裳部屋の中には、入浴着が既に数十点存在しているのである。有難や。


今回、ヴァンドーム公爵家に行く事が決まった際、「ひょっとして必要になるかも?」と、軽いノリで持ってきた入浴着は二着のみ。……しかもその内の一着はよりによって、以前私が考案したスライム素材を使ったリアル乳風パッドを付けたものだったりするのだ。


昨日、リアムと混浴した時に着たのは、至ってシンプルな普通タイプの入浴着(つまりはパッド無し)なので、必然的に残ったのはパッド付のやつ。しかも、胸の膨らみを強調するような肩紐タイプのエンパイアライン仕様!


「わー!シャノン、見てこれ!」「おおっ!素晴らしく欺瞞に満ち溢れてますねー!」……なんて、シャノンとアハハウフフしながら、ノリで持ってきてしまった私。バカじゃないのか本当に!!というかシャノン!なんで着替えの用意をウィルに任せたの!?


不幸中の幸いは、パッドサイズが至高の大きさDカップではなく、Bカップであった事だろう。これならば、「おお!脱ぐまで分からなかったけど、案外成長していたんだな!?」的な感じに終わるに違いない。


そう、羞恥心に蓋をすれば、多分バレる事はないだろう。兄様方やセドリックには、「女子の成長は著しいのです」で誤魔化すとしてって……って、あれ?


『し、しまったー!!私、リアムと昨日一緒に入浴していたじゃないかー!!し、しかも兄様方やセドリックとも入ってたー!!大きさ既に知られてる!!』


どどど、どうしよう!?流石に一日で「成長しました♡」は通じない!確実に『見栄っ張り』の烙印を押され、プークスクスされる!!……どうする?着るのを止めて、バスタオルをグルグル巻くか!?


――いや、そんな事をすれば、確実にあらぬ誤解を受ける。


しかも、それに釣られて兄様達や殿下方が、「よしっ!じゃあ僕(俺)達も!」なんて言って、入浴着を脱ぎ捨て、腰タオルになる未来が視える!しかも鼠径部ギリギリのセクシーショットで!まさしく腹筋祭り!!鼻腔内毛細血管の決壊どころか、間違いなく心臓が止まる!!!


「エレノア?まだ着替え終わらないの?」


「ひ、ひゃぃっ!!」


オリヴァー兄様の声に、思わずその場でピョンと飛び跳ねる。……仕方がない、腹を括ろう。よそ様のお宅をスプラッターの現場にする訳にはいかない。それならばプークスクスされた方がよっぽどマシだ!


「あっ……あの……。お、おっ、お待たせ……しました……」


顔を真っ赤にしながら、なるべく胸の膨らみを見られないよう、胸元で両手を組みながらおずおずと浴室の方に出ていく。……すると一斉に息を呑むような声と共に、視線が集中砲火のように突き刺さってくる。


「か……可愛い……!!」


「最初は『服着てかよ!?』って思ったけど……。うん、これなら全然アリだな!!」


「ああ、エレノア!今からそのドレスが濡れて身体に張り付く様を見るのが待ちきれないよ!」


「フィン兄上!言い方!!うん、昨日のワンピースタイプも可愛かったけど、今日のも大人っぽくて凄くいい!……ん?あれ?でもなんか違和感が……?服が違うからか……?」


さ、流石は選ばれしDNAの頂点!無駄に勘が鋭い!!そしてフィン様!セクハラ発言禁止ー!!


「そそそ、そう!!服が違うからで……ヴッ!!」


思わず顔を上げた私の目に飛び込んで来たのは、いつもの男性用入浴着を身に着けた兄様達とロイヤルズの姿。


私の意見が反映され、肌色を極力排除した、まるで修行僧が滝行で着る行衣ぎょうえのようなストイックな浴衣風の入浴着は、柄が一切ない至ってシンプルな白色で統一されている。……が!鍛え上げられた肉体が纏うソレは、まるで極上のナイトガウンのような、ある種の色気を放っているのである。


見慣れている兄様方やセドリックは、なんとか直視出来る。……が、初入浴着姿のアシュル様とディーさんの大人の色気が半端ない!!まさに兄様方のような、「脱いだら凄いんです」を地でいっている!!

くっ!こ、こんな修行僧がいたとしたら、見た者の煩悩を祓うどころか煩悩の底なし沼に沈めてしまうに違いない!寧ろ仏の世界から欲望溢れる俗世にUターンだ。まさに破戒僧!!


フィン様は他の兄弟達より、明らかに華奢な体躯をされている。下手をすればリアムよりも華奢かもしれない。リアム、ああ見えてセドリックばりに脱ぐと凄いんですな身体しているしね。あ、マッチョって訳ではなくて、年相応のしなやかな筋肉って感じです。


それはともかくフィン様だ!


普段のツンな美貌と相まって、退廃的な色気を醸し出している。それに華奢とは言っても、しっかり年相応の身体つきをされているし、私を軽々お姫様抱っこ出来る程にはしっかり男の子している。先程のセクハラ発言ではないけれど、濡れて貼り付く入浴着が一番眩しいのは、もしかしたらこの人なのかもしれない。


……って、なにを考えているんだ私のバカ!!ああっ!な、なんかフィン様が頬を染めて照れている!?アシュル様やディーさん、リアムも、なんだか生温かい笑みを浮かべて……も、もしかして私の表情筋がまた、いい仕事をしてしまったのか!?あっ!クライヴ兄様が渋い表情で頷いている!やっぱりか!!


「……まあ、このままの状態もなんですし、そろそろ入りましょうか?」


にこやかだけど、背後に暗黒オーラを背負うという器用な事をしているオリヴァー兄様のお言葉を受け、「それもそうだ」と、全員がゾロゾロと広い湯舟の方へと移動する。

私はというと、いち早く湯の中に逃げようとして、オリヴァー兄様にしっかり捕獲されました。その際、私の胸元を見てクスリと笑った兄様。……くうっ!バレてる!!


そうして相変わらず南国の海の色のようにキラキラ光る温泉に入ろうとすると……。


『お帰りなせぇやし!お嬢!!』


とでも言っているかのように、温泉魚達がズラリと隊列を組みながら、口をパクパクさせていたのだった。



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やっぱりいました、テヤンデェ隊!(読者様命名)

そして侵食したのは多分『エレノア菌』かと思われます(副作用:エレノアを見ると幸福になる。拝みたくなる)。

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