第138話 王宮での日々とリハビリ
皆様こんにちは、エレノアです。
今日も今日とて、私は王宮にある離宮内にて、静養を送っている日々…。はい、正直飽きました。
そして何より辛いのは、固形物をまだ食べられていない事!(病人食美味しいけど)
やはり人間、『噛む』という行為は大事だと、ここで静養するようになって初めて気が付いた次第です。
噛む行為を無くすと、物忘れが激しくなる…と聞いた事があるし、最後まで自歯が残った人は長生きするそうだ。皆、嫌がらずに歯医者に行きましょう。
…現実逃避はここまでにしといて…。
とにかく、噛まなくてもいい食事って、例え美味くて、満腹感があっても満足感が無いのだ。それに何より気力が無くなる。
…そう、クライヴ兄様と行っているリハビリ。あれが全てを物語っていると言っても過言ではないのだ!
実は私、一昨日からクライヴ兄様と離宮の中庭で、身体をまともに動かす為のリハビリをしているのである。
離宮の中庭は、流石は王宮!って感じに色とりどりの花々が咲き乱れる素晴らしい場所でした。
そこで私は生まれたての小鹿のごとく、プルプル震えながら「あんよは上手」的にクライヴ兄様に手を引かれながら、必死に歩行訓練を行っているのだ。
いやまさか、この年で歩くのに不自由する事になるなんて思わなかったな。
ちなみにリハビリ用として着ているのは、前世言う所の山ガール風運動着です。
可愛いフリルがあちこち施されていて、しかもちょっと見、膝上スカート履いているみたいに見えるお洒落な一品だ。またしてもバッシュ公爵家の整容班達が頑張ってくれたみたい。ありがたや。
うう…。それにしてもリハビリ辛い…!
ってか、いくらベッドに寝っぱなしだったからって、ここまで筋力落ちる!?いや、有り得ないでしょ?!
きっとこれは固形物を食べていない所為で、力が出ないからに違いない!
…そう力説して、何とか普通の食事に戻して貰えるよう…というか、ついでに回復魔法でしゃっきり治して頂けないかと訴えても、聖女様にニッコリ笑って首を横に振られて終了。
「確かに魔力や薬で完治させれば、あっという間に治るわ。だけど常にそうしていると、本来の自己治癒能力が怠けてしまうってデメリットがあるのよ。いざって時に、治せる人が傍にいなかったら、困るのはエレノアちゃんでしょう?だから出来るだけゆっくり、エレノアちゃん自身の力で治していきましょうね?」
そう言われてしまえば、私に否や等と言える筈もなく、病人食も継続するしかなく…。…うう…。辛い…!
…でもそれ以上に何が辛いって、私を見守っている(見守ってくれなくてもいいのに)騎士さん達に、そんな無様な私の姿の一挙一動を見られてしまっていると言う事なんですよ。
しかも、しかもだ!!
何故かリハビリの都度、どこかしらか、ディーさんやフィンレー殿下がやって来ては、私の必死の奮闘を楽しそうに見学していらっしゃるのである。
何で!?あんたらロイヤルのくせに暇なんかい!?と、口に出して叫びたい!
あ、ディーさん呼びは「あの時のお礼をってんなら、是非その呼び方継続で!!」とディラン殿下に強く切望されたので、公式にディーさん呼びしています(ついでにヒューさんも)
愛称呼びって、夫や婚約者の特権…って聞いた事があるから、オリヴァー兄様が大激怒するかと思ったけど、「チッ…」と舌打ちして終了。
…兄様方、何気にディラン殿下にはめっちゃ恩義を感じているからなぁ…。これが他の殿下方だったら、きっと絶対、愛称呼びなんて使わせないし言わせないだろう。
ちなみにそのディーさんですが、私が一人でヨロヨロ歩いていると「ほーらエル、こっちこっち!」と、まるで赤子を呼ぶかのようにパンパン手を叩いたり、進行方向でニコニコしながら手を広げていたりと、かなり私を揶揄って(?)楽しんでいる。そしてその度、クライヴ兄様に叱られ、邪険に追い払われている。
そんでもって、クライヴ兄様がディーさんとやり合っていると、その代わりのように、すかさずフィンレー殿下が進行方向で両手広げて待ち構えているのだ。
避ける訳にもいかないから、必然的にそのままポフリとフィンレー殿下の胸に収まってしまい、「よく頑張ったねー」と、抱き締められながら頭をよしよし撫でられる。そして、クライヴ兄様がすっ飛んで来る。たまに相手が交換する。…ここ数日はその繰り返しである。
…ディーさんとフィンレー殿下…。兄弟そろって、完全に私で遊んでいる。
そんなこんなで、リハビリが終わる頃には肉体的、精神的に疲弊しきって、汗びっしょりになって荒い息をついている訳なのだが、私達を見守っている騎士さん達とたまに目が合うと、どの騎士さんも真っ赤な顔して、慌てて私から目を逸らすのである。
きっと私のへっぴり腰を見て笑うのを耐えているのだと思うと、非常にいたたまれない。ああ…。早くまともに歩けるようにならなくては!
そんなこんなで、本日のリハビリ終了後の休憩タイム。
殿下方は臨時に設置された休憩スペースで、私は花壇に座ったクライヴ兄様に膝抱っこされながらお茶している。
いや勿論、殿下方の休憩スペースには、私達の席もしっかり用意されているんだけれども、用意された色とりどりのお菓子を私が食べられなくて可哀想だ…という理由で、兄様があえて距離を取っているのだそうだ。
勿論、それもあるのだろうけど…兄様、単純に殿下方と一緒のスペースに私を居させたくなかっただけなんじゃないだろうか。
いやその…。私も揶揄われるだけならいいんだけど、こないだのアシュル殿下みたいに迫られたら困るし…。顔面破壊力×2でそれやられたら、確実に鼻腔内毛細血管崩壊するだろうし。こんな大勢の人達がいる前で鼻血噴くなんて、絶対嫌だ!
「クライヴ兄様。私、もう外でリハビリ嫌です。明日からお部屋でしたいです」
クライヴ兄様に横抱きにされ、フルーツジュースを飲みながら、そう愚痴った私に対し、ここ数日間の攻防でやさぐれてしまったクライヴ兄様は冷たく言い放った。
「ずっと部屋の中にいるのは気が滅入るから、外でリハビリしたいと言ったのはお前だろうが!」
…はい、その通りです。ぐうの音も出ません。
「うう…。そりゃそうなんですけど…。あっ、じゃあ誰も居ない廊下の片隅でひっそりとリハビリすると言うのは?」
「…どこに居ても殿下方はやって来るだろうし、寧ろ逃げ場が制限されるぞ?そもそも王宮には、どこかしらに誰かしらがいるから、結局同じだ。諦めろ」
一刀両断されて終了。…兄様!私にプライバシーは無いんですか!?
「…まあ確かに。十分義理は果たしたから、明日から室内でリハビリでもいいか」
――はい?義理とは?
「王宮の騎士達がな、俺が訓練に行くたび大挙として押し寄せてきやがった挙句、お前の容体やら何やら聞き出そうとしてきて煩くてな。丁度いいから「リハビリするから、実際その目で見てみろ!」って見学許可出しといたんだ」
「えっ!?」
――なんですと!?
そ、そう言えば、やけに護衛騎士さんの数が多いと思っていたんだよ!
王族がいるから仕方がないかと思っていたんだけど、あれって私を見学しに来ていたって事なのか!?
あ…あんな無様な状態の私を衆目に晒すなんて…!酷い!クライヴ兄様、あんたは鬼畜か?!
「クライ…んっ!」
文句を言おうと口を開いた瞬間、私の唇にクライヴ兄様がすかさず吸い付いた。
…ってにいさまー!!こ、ここまだ野外!!殿下方もそうだけど、あちらこちらにまだ人が沢山いらっしゃるからー!!
案の定、四方八方から視線がビシバシ突き刺さってきて痛い。
…ううう…。か、仮にも王宮内で、こ、こんな破廉恥な…!!し、しかもキスが深い!深いですよ兄様!!うわぁぁぁ!は、早く終わってー!!
そうして長い口付けが終わっても、私はキスの余韻といたたまれなさのあまり、目を瞑ったままの状態で兄様の胸に真っ赤になった顔を埋めた。
「に、にいさま…。もう、お部屋に帰りましょう…?」
「ああ、そうだな」
…兄様の、さっきのやさぐれっぷりが嘘の様な、めっちゃ機嫌良さそうな声が腹立たしい。おのれクライヴ兄様、私に何の恨みが…!
「…オリヴァー兄様に言い付けますからね…?!」
「ん?構わねぇぞ?そもそも、あいつが「せいぜい見せ付けておけ」って俺に念押ししてきたんだからな」
――見せ付けろ?何をだ、何を!?…あぁっ!髪に口付けないで!顔埋めない!わーん!羞恥プレイだぁぁ!!
「…ちっ!クライヴめ。俺らに対する意趣返しか…。どさくさ紛れにキスしときゃよかった!」
「あの余裕な顔…めっちゃムカつくね…!もういっその事、王家特権使って…」
「やめろフィン!気持ちは痛い程分かるが、それは流石に国が揺らぐ!」
挑発的にこちらを見ながら、不敵に微笑むクライヴを、ディランとフィンレーは殺意のこもったジト目で睨み付ける。そしてその光景を一部始終見守っていた近衛や騎士達はと言えば…。
「か…っ、可愛い…!まさに天使!!」
「あの時の凛としたお姿と違い、なんて儚げで愛らしいんだ…!」
「ほ、本気で恥じらわれているぞ…!?ああっ、尊過ぎる…!!」
「うあぁ…っ!い…今すぐあいつと代わりたい…っ!!」
…等々、頬を染め、恥ずかしそうにクライヴに抱き着いているエレノアの姿に、腰砕け、足砕けになりそうなのを必死に耐え、萌え死に寸前になっていたのだった。
ついでに言うと、上気した頬で荒い息をつきながら、必死にリハビリをしているエレノアの姿に見惚れ、鼻の下を伸ばしたり、うっかり下半身が不埒な状態になってしまった騎士達は、後にディランによってしごきと言う名の制裁を加えられたそうである。
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王宮での日々は継続中です(^^)
ちなみに作中では書かれておりませんが、学院から帰って来たリアムとセドリックがリハビリに参加する事もあります。
セドリックも割とスパルタなので、良い笑顔で容赦なくしごきます。それをリアムが手助けして怒られております。
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