第324話 迎賓館にて感動(?)の再会

「エレノア!!」


イーサンに案内され、ゾラ男爵との会談を一方的に中止する形で再びやって来た離れ迎賓館へと足を踏み入れた途端、待ち構えていたセドリックに抱き締められ……というより、羽交い絞めにされ、お約束のごとくに「ふぐっ!」と、ご令嬢らしくない声が上がってしまう。


「エレノア!エレノア!!まさか……魔獣達に襲われるなんて!!しかも九頭大蛇ヒュドラに……!!そんな時にこんな所でのうのうと寝ていただなんて……!僕は自分自身が情けないよ!!」


「セ、セドリック……」


後悔と悔しさに身を震わせながら、私をガッチリホールドしている腕を何とか緩めてほしくて、手の平で背中をポンポンと叩く。

いやいや君、何時間も暴れ馬が爆走する馬車に揺られ、それこそ死ぬような目に遭ったんだから、気を失うのも当然ですから!


「エレノア!!良かった、無事だった……!!」


ギュウギュウとサバ折り状態の私をセドリックからひったくり、更に力任せにギュウギュウ抱き締めるリアムに、再び「ふぐっ!」と呻いてしまった私……。

「きゃっ」とか言えたら可愛いんだろうけどね。生憎とそんな可愛気なんぞ持ち合わせておりませんので、あしからず。


「意識を取り戻した時、お前が九頭大蛇ヒュドラに襲われたって聞いた時には、目の前が真っ暗になったぞ!!……よく……無事でいてくれた!」


「リ……リアム……」


リアムの声もセドリック同様震えている。そりゃそうだ。超災害級の魔獣に(仮)婚約者が襲われたと言われてしまえば、大抵の人間はこうなるだろう。


しかし……それにしてもだ。ひょっとして普通のご令嬢も、こんなに力任せに抱き締められていたりするものなのだろうか?だとしたら何気にアルバ女子って、身体能力高くない?


「ちょっと、リアム!!なに婚約者の僕からエレノア奪ってるんだよ!?」


すかさずセドリックがリアムから私をひったくる。


「うっせーな!俺だって婚約者なんだから、権利あるだろーが!!」


「君、まだ(仮)なんだって事、忘れたの!?(仮)婚約者!いい加減覚えなよ!!」


「カリカリうっせーわ!!(仮)だろーがなんだろうが、婚約者は婚約者だ!!」


青筋立てたリアムが、セドリックから私を奪おうとするのを、セドリックが威嚇しながら阻止する。……ええぃ!!あんたらちょっと落ち着けぃ!!


「セドリック様。そしてリアム殿下。お二人ともお目覚めになったばかりなのですから、興奮されるとお身体に触りますよ。それに、心身共に疲弊されているエレノアお嬢様を、あまり振り回されませんように」


そう言いながら、イーサンは迅速かつスマートに、セドリックとリアムの間で取り合いになっていた私を救出する。


「――ッ!ご、ごめん……エレノア」


「あ、ああ。……悪い。つい、頭に血が昇って……」


セドリックとリアムが、イーサンの言葉に我に返ったのか、途端シュンとしてしまった。


――……ダブルわんこ……。


イーサンの腕の中で二人の様子を見ながら、ちょっとほっこりしてしまった。


そんな私をオリヴァー兄様に手渡しながら、イーサンは後方で「え……?殿下、今なんつった?」「カリ……婚約者?」などと呟きながら、呆然とそのやり取りを見つめていたクリス団長達に視線を向けた。


「お前達。今から目にした事や、耳にした言葉は全て、他言無用です。……分かりましたか?」


イーサンの言葉に、クリス団長達は慌てて騎士の礼を持って応えた。


……うん。いきなり王家直系であるリアムが、セドリックと私の奪い合いした挙句、婚約者だなんだと喚いていれば、ビックリするよね。しかもリアムとの(仮)婚約、まだ内緒なんだったんだっけ。


ちなみにだ。


どうでもいい情報なんだけど、頭がおもしろ……ゲフンゲフン。アフロもどきになったティルですが、セドリックとリアムを見ても「ほーん」といった感じだった。

どうやらワンコ系には食指が湧かないらしい。オリヴァー兄様見た時は瞬時に反応していたのに……。これがいわゆる、沼の違いってやつですね。


『あれ?そういえば……』


私は私を腕に抱いているオリヴァー兄様をチラリと見つめる。


普段だったら、セドリックとリアムの争いを、いの一番で諫めるか奪い取るかする筈なのに、なんで今回イーサンに任せて何もしなかったんだろう。


「クライヴ兄上。……そしてオリヴァー兄上。ご無事のお戻り、心よりお喜び申し上げます」


「ああ。お前も元気そうでなによりだ!」


「う、うん。有難うセドリック。……その……御免ね?」


「いえ。こうなった結果を見るに、兄上のご判断は正しかったと今なら思えます。……ええ、今なら・・・


「……」


アルカイックスマイル全開のセドリックに対し、引き攣り笑いを浮かべるオリヴァー兄様という、なんとも珍しい絵面に、私は目を丸くした。


「相変わらず、セドリックは器がデカいな。どっかの誰かさんみたいに、すぐ頭に血が昇らねぇし。俺だったらもっと悪し様に罵ってるトコだ」


「……クライヴ。僕が悪かったって十二分に理解しているから、傷口に塩を塗らないでくれる?」


あ、そうか!そういえばセドリック、オリヴァー兄様の暴走に巻き込まれる形でここ来たんだもんね。

そりゃあ恨み節の一つや二つ、言いたくもなるよね。オリヴァー兄様もそれ分かっているから、強く出られなかったんだ。


……ん?そういえば。こういう時、いの一番に参戦してきそうなあの人がいない?


「リアム。ディーさ……ディラン殿下は?」


するとディーさんの名前を出した途端、リアムの顔がスン……と無表情になった。ありゃー、やっぱりこっちも怒ってるわ!


「さあ?こっち来てからずっと、鍛錬場借り切ってヒューバードとやり合っているらしいぞ。取り敢えず訃報はきてないから、生きてはいるんじゃないかな?」


ふ、訃報って……!リアム、めっちゃ怒ってたー!!


「母上も、今回は流石に本気でブチ切れてるから、怪我しても当分治して下さらないんじゃないかな?ま、自業自得だけど!」


ああ、そういえば聖女様……アリアさんも巻き添えで犠牲になっていたんだっけ。うん、大好きな母親をえらい目に遭わせたんだから、そりゃー怒髪天突くよね。ディーさん、自業自得とはいえ、ご愁傷さまです。


「聖女様も目を覚まされたんだ!良かったー!」


「ああ。セドリックも俺も、母上に癒してもらったからな!ちなみに聖女である母は、自己回復力が凄く高いんだよ。だからここの治癒師ヒーラーに少し治療してもらったら、すぐ復活出来たんだ」


「そうなんだ!」


流石は聖女様。自己回復能力が物凄いとは!


「あの……で、マテオは?」


「ああ。あいつな。俺を庇ってあちこち怪我していたから、いの一番で母上が治したんだけど、精神的な疲労が取れなくてな。それでも俺の警護をしようとしたから、母上に叱られちゃって。今は大人しくベッドで休んでるよ」


そ、そうだったんだ……。そんな状態でもリアムの傍を離れたくなかったんだね。流石はマテオ。後で美味しい果物持って、お見舞いにいかなくちゃ。


というか、そんな中で一人だけ無傷なうえ、ディーさんをぶちのめす程に元気なヒューさん、何気に凄い!あ、セドリック庇いながらもピンシャンしているオリヴァー兄様も十分凄いけどね。


「そういえばさっき、母上が珍しいキノコがゴロゴロ入ったスープ食べて、やたらと感激していたな」


――えっ!?珍しいキノコがゴロゴロ?


……ひょっとして、私が先日食べた雑穀とキノコのスープリゾットをお出ししたのかな?そして聖女様、それ食べて感激してくれたんだ……ほうほう、成程。


「エレノア?ニヤニヤしてどうしたの?」


オリヴァー兄様が、不思議そうな顔をしながら私の顔を覗き込んでくる。あ、無意識に笑ってしまってましたか。いかんいかん、気を引き締めなくては。


「エレノア。お前、笑顔がキモい」


うっさいですよクライヴ兄様!私の教えた言葉で貶めんのやめて下さい!



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ゾラ男爵のシリアスな展開から一転、いつものパターンです。

セドリックとリアムの恨み節が炸裂(?)しております。

そしてキノコに反応してほくそ笑むエレノアでした(^O^)

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