第506話 野花人形?

本日、『この世界の顔面偏差値が高すぎて目が痛い』5巻の情報が解禁となりました!詳しい情報方は、近況ノートをご覧ください!

今回もいつもと趣向が違った、まるでグリム童話のような表紙が素敵ですv



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――斬られる……!!


硬直してしまった身体を必死に動かし、せめて奥方様だけでも……!と、ウミガメの身体をギュッと胸に抱え込んだ。


「させるか!!」


「――!!」


すると、一瞬姿を見失っていたベネディクト君が私と奥方様を庇うように前に立ち、『水』のシールドを張って、マロウ先生の斬撃を防いだ。


「うわっ!!」


だが、やはり実戦経験の差か、膨大な魔力で練り上げられたベネディクト君のシールドが、マロウ先生の攻撃魔法によって弾かれてしまう。


「ぐはっ!!」


しかも、直後にマロウ先生から鋭い蹴りを受け、吹き飛ばされてしまった。


「ベネディクト君!!」


「ベティ!!」


床に身体を打ち付け、何度かバウンドしたベネディクト君だったが、流石の身体能力でなんとか受け身を取ったようだ。

それに、伸縮自在な防御結界がクッションになったのか、それ程のダメージは負っていないっぽい。


「エレノアー!!」


「エレノア嬢!!」


「ベティ!!リュエンヌ!!」


兄様達のいる結界からも、次々とマロウ先生に向けて攻撃魔法が放たれる。


流石のマロウ先生も、その全てをかわし切る事は出来なかったようで、身体のあちらこちらから鮮血が噴き出している。……が、先生はまるで気にする事無く、攻撃による致命傷を巧みに避けながら、再び私に向かって襲い掛かった。


「――ッ!!……えっ!?」


だが、先生の刀は何故か私の身体ではなく、奥方様に振り下ろされる。


「きゃあっ!!」


魔力と魔力のぶつかり合いによる衝撃で火花が散り、悲鳴を上げた奥方様が、私の腕の中でぐったりとしてしまった。


「――ッ!?お、奥方様!?しっかりしてくださいっ!!」


どうやら防御結界のおかげで、奥方様ウミガメの身体に傷はつかなかったものの、もろに衝撃の余波を食らってしまったようだ。

私はと言えば、僅かに衝撃を感じたものの、ぺんぺんの代わりに、アシュル様の『加護』が発動したのか、全くの無傷である。


「マロウ先生!!なんて事を……!!」


奥方様を傷付けられ、瞬時に怒りの感情が湧き上がる。……すると、その怒りに呼応したのか、マロウ先生の身体の至る所から、ぺんぺんとタンポポが次々と咲きだした。


「――ッ!?っっ!!?」


先生は驚愕に目を見開き、花を毟り取っていく。だがぺんぺんとタンポポは、そんな先生を嘲笑うかのように、毟り取られた跡から次々と生えてくる。

その怒涛の勢いはとどまるところを知らず、遂にマロウ先生の全身は、白と黄色のモコモコだらけとなってしまったのだった。


私はその驚きの光景を目にし、思わずポカンとしてしまう。しかも、今のマロウ先生の姿……。


『な、なんかこれ、前にテレビで見た事があるような……?』


ポーズもまんま、刀振りかざした状態で固まっているし……。って、あ、そうだ!これってアレだ!菊人形だよ!!


汗を流しながら、菊人形……いや、ぺんぺん&タンポポ人形と化したマロウ先生を見つめていると、身動きがとれずにいるマロウ先生が必死の形相で私を見つめながら、はくはくと唇を動かしているのに気が付いた。


「……く……な……!……れ、を……ころ……!!」


「え……?」


途切れ途切れに聞こえてくる、マロウ先生の言葉をよく聞こうと耳を澄ませた直後、私の身体が突然フワリと宙に浮いた。


「えっ!?わっ!!」


「エレノア嬢、走ります!!俺にしっかり掴まっていてください!!」


気が付けば、私は奥方様ごとベネディクト君にお姫様抱っこされていた。


そしてそのまま素早く走り出した彼は、瞬く間に会場を抜けると、『扉』があるであろう場所へと駆けていったのだった。




◇◇◇◇




「……どうやら、この場の危機は回避出来たようだな……」


エレノア達が立ち去ったのを確認し、アルロは安堵の言葉を吐息と共についた。

結界内にいる全ての者達も、次々と詰めていた息を吐き出し、ホッとした様子を見せる。


「にしてもマロウの奴、流石は王家の『影』を取り仕切る副総帥と言ったところか……。まさか、これ程の人数を相手に、互角以上の戦いをするとは……。普段がアレなだけに、正直驚いた」


しみじみ言い放たれたリアムの言葉に、オリヴァー達も同意とばかりに深く頷く。と同時に、クライヴが悔しそうな表情を浮かべた。


「あいつ、学院ではなんだかんだいって、俺達相手に手加減していたって事か……!」


クライヴの言葉に、オリヴァーもセドリックも悔しそうな表情を浮かべた。


『反転』の力を警戒せねばならず、自分たちにとって絶対的に不利な条件下での戦いだった。だがそれを差し引いても、まともに戦って簡単に倒せるような相手ではない事が、今回嫌でも分かってしまった。


オリヴァー達とて、マロウの普段が普段なだけに、実力を侮った……訳では決してない。在学中のセドリックはもとより、在学していたオリヴァーもクライヴも、マロウの底知れぬ強さはしっかり感じていた。


だが、ここまで魔力操作に長けているうえに、あれ程までに完璧な認識阻害インビジブルを展開出来るなどと、想定外にも程がある。

あれならば、例え魔力量が圧倒的に多い相手であったとしても、遜色なく互角に戦う事が出来るに違いない。どうりで、あれ程までに突き抜けた人格異常者であっても、王家が『影』として使い続けている訳だ。……いや。だからこそ、放逐出来ないのかもしれないが……。


「まあともかく、アレをどうするか……だな」


アルロの言葉に、全員が野花人形と化したマロウを無言で見つめる。


僅かに動いている事から、死んではいない事が分かる。多分だが、ウミガメ……いや、ヴァンドーム公爵夫人を傷付けられた事により、エレノアの持つ『大地』の魔力が具現化し、動きを封じているのだろう。


それにしても、何故今回は樹木化した蔦での拘束ではなく、花まみれになっているであろうか。


『まあ、無意識とはいえエレノアのやる事だから……』と、バッシュ公爵勢や王家勢は深く追求せず、そう結論付けた。


「……そうですね……。出来れば、ウェリントン侯爵令嬢とその従者の所在を一刻も早く掴む為に、彼に事情を聴きたいところなのですが……。エレノアと公爵夫人達が海底神殿に到着するまではひとまず、あの状態で放置せざるを得ないですね」


なにせ今現在、自分達の周囲に張られた結界の破壊は免れたものの、キーラとヘイスティングの所在が掴めない今、『反転』されるのを防ぐ為に、この結界から外に出る訳にはいかないのだ。

気は急くが、ヴァンドーム公爵夫人によってこの精霊島全体に張られた結界が強化され、彼等の所在の確認と能力の封印が成されるまでは、下手に動かない方がいいに違いない。


「そうだな。それにベティからは、無事に『扉』の間まで間も無く到達すると連絡が入った。いたずらに我らが動くよりも、君の言う通り、ここで待っている方がいいかもしれん」


「――ッ!そう……ですか。エレノア達は無事に『扉』に……」


アルロの言葉に、オリヴァー達が安堵の吐息をついた直後、アーウィンが何かに気が付いた。


「……おい。なんかあの男の身体……煙出てないか?」


アーウィンの言葉を受け、よく見て見ると、確かにマロウの身体からは煙らしきものが出ている。しかもなんか、生えている花のボリュームが減っていっているような……?


「……多分ですが、エレノアの咲かせる花は『聖魔力』の塊なので、邪悪な魔力を浄化しているのではな……」


そこでオリヴァーはハッとした。


エレノアの『聖魔力野花』に満たされたこの空間が、『反転』の力を弾く事は、公爵夫人であるウミガメ……いや、リュエンヌが太鼓判を押している。

ならば今、エレノアの咲かせた花まみれになっているマロウの元に行き、結界で閉じ込めてしまえば、強力な『反転』除け結界が出来るに違いない。


オリヴァーは即座にその可能性を皆に伝えた後、「いや、しかし奴はまだ危険では……」と言いかけたアルロを無視し、「善は急げ」と、床に咲いたぺんぺん草を保険代わりにガバリと摘み取った。


「では、リアム殿下!行きますよ!?」


「へっ?」


「マロウの元に行ったら、速攻で結界を張って下さい!奴が攻撃してきたら、僕がぶっ殺……いえ、全力で止めます!!」


「お、おい!?……って、うわぁっ!!」


言いたい事を一方的に告げた後、「問答無用」とばかりにリアムを担ぎ上げたオリヴァーは、呆気にとられているクライヴ達や、「てめー!ふざけんな!!」「わーっ!!殿下ッ!!」と喚き散らすマテオ達を結界内に置き去りにし、マロウの元へと全速力で向かったのだった。



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万年番狂い様、安定の暴走です。

そして巻き込まれる、不憫属性のリアムなのでありますw


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