第507話 海底神殿に到着
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晩餐会の会場を駆け抜け、回廊に出たベネディクト君は、私と奥方様を腕に抱いたままの状態で、右に左にと、迷いなく走り続ける。
『す、凄いな……ベネディクト君!』
見た目はセドリック達に近いぐらい発達しているとはいえ、彼は私より一つ年下。なのに、女子(+カメ)を抱えて爆走出来るなんて……!流石は選ばれしDNAの一角だ!アーウィン様のような、魅惑の腹筋を持つ日も近いに違いない!
「――ッ!?」
少し周りを見渡す余裕が出てきた私の目に、回廊の端々で倒れている騎士達の姿が飛び込んでくる。
「……ベネディクト様。……彼らは大丈夫でしょうか……?」
一瞬目にしただけだけど、どの騎士達も、怪我を負っている訳ではなく、ただ意識を失っているように見える。……多分だけど、護衛騎士達が増援として駆け付けてこないよう、マロウ先生が『
『死んでは……いないよね?』
「……彼らの事で、貴女が気に病む事はありません。『扉』にたどり着くまでの間、目を閉じていて下さい」
私の焦燥が分かったのだろう。ベネディクト君が私に声をかけてくる。……けれどその声は、無理矢理感情を押し殺したような固いものだった。
「……分かりました」
一瞬だけ逡巡した後、私は言われたとおりにギュッと目をつぶった。
『そう……。
このヴァンドーム公爵領は、今まで見てきたどこよりも、主従の関係が気さくで大らかで、仲間意識が非常に強い。
ましてや、身近に接している騎士達が生死不明の状態でいるのだ。辛いに決まっている。
『それに奥方様……』
さっきのマロウ先生の攻撃で意識を失って以降、呼びかけに全く反応がない。
私もさっきから治癒魔法をかけているんだけれど、奥方様が気が付く気配はない。という事は多分、精神にダメージを負ってしまったんだろう。そうなってくると、普通の治癒魔法では回復する事は難しい。
だからこそ今は一刻も早く、奥方様の本体に辿り着かなくてはならないのだ。
――……そうだ!!
「……ベネディクト様。奥方様がこんな状態では、本体に私の魔力を注いでも意味がないのではないでしょうか?」
「――ッ!……それは……」
「あの……。もし可能であれば、フィンレー殿下をお呼びした方が……」
そう、もし精神にダメージを負っているのならば、『沈静』と『精神干渉』を司る『闇』の魔力保持者、フィン様に見てもらった方がいい。幸いフィン様は今、このヴァンドーム公爵領に滞在しているのだから。
それに、もしフィン様の手に負えなくても、彼ならばアリアさん……は無理として、アシュル様をここに呼ぶ事が出来る。
『光』の加護や癒し魔法は、あらゆる傷や病を癒す事が出来るし、『闇』と同様、帝国人が使う『魔眼』系の魔力の天敵属性だ。彼等ならば、キーラ様の『反転』にかかる事は絶対ないに違いない。
だが、ベネディクト君は厳しい表情を浮かべながら、かぶりを振った。
「いいえ、駄目です!」
「えっ!?で、でも……!」
「フィンレー殿下をお呼びするには、母上や兄上方が張っている精霊結界を外さなくてはならないんです」
「で、でも、殿下を呼んでからすぐに結界を張り直せば……」
「敵はキーラだけじゃない!あの専従執事だっているんだ!!奴の力が未知数な今、結界を解除するなんて無謀な賭けは出来ない!!」
激情のまま、ベネディクト君は叫ぶようにそう言い放った後、唇を嚙み締めた。
「ベネディクト……君……」
思わず、敬称を取ってしまった私の言葉に、ベネディクト君は目を見開いた。
「……怒鳴ってしまって、申し訳ありません。……リアム殿下を巻き込んでしまいましたが、本来であれば王家直系を……ましてや王太子を一貴族の都合で呼びつけるなど、あってはならない事です」
ベネディクト君の言葉を聞き、私はハッとする。そうだ、アルバ王国で最も高貴な王家直系を、私は何を当然のように……!
ボスワース元辺境伯の時もバッシュ公爵領の時も、殿下方を私の所為で危険に巻き込んでしまった。
その事を後悔していた筈なのに、いつの間にかその好意に甘えるのを当然としてしまっていたんだ。なんて浅ましい……!
それに、帝国の悪意が蔓延しているこの状況下で王家直系を呼びつけ、危険に晒したとあっては、下手をすれば、ヴァンドーム公爵家の咎になってしまう。
「……済みません。軽率でした」
ベネディクト君の腕の中、恥ずかしさに縮こまってしまった私を見て、少しだけ冷静になったのだろう。ベネディクト君は、荒々しかった声のトーンを落とした。
「エレノア嬢。母上は貴女の『聖魔力』を本体に注げば力が戻ると言っていた。……だから、今は一刻も早く、母上の許に……。お願いです……!」
「……はい!」
その声音には、懇願の色が滲み出ていて、私の心に後悔の気持ちが次々と湧き上がってくる。
――そうだ。もし私の力が及ばなくても、その時どうするかを考えればいい。
安易に殿下方の力を借りようとするのではなく、ベネディクト君の言った通り、今はまず奥方様の許に辿り着き、全力でなんとかするのが先決だ!
その時、ベネディクト君の足がピタリと止まる。
「?」
見るとそこは、ドアがない部屋の入口だった。
まるで、真っ暗な空間がぽっかり空いているようで、明らかに雰囲気が違う。でもベネディクト君は私を抱いたまま、まっすぐ部屋の中へと入っていった。
『え!?』
部屋に入った瞬間、私は目を大きく見開く。
何故なら部屋の中……と思ったその場所は、そのまま海へと繋がっていたからだった。
しかもその海上には、幻想的に蒼く輝く巨大な『扉』が浮かんでいたのだった。
ベネディクト君は、迷わず海の上に足を乗せる。……が、その足は予想に反して沈む事なく、そのまま『扉』に向かって歩いていく。
「この空間に入れるのも、『扉』を通り抜けられるのも、大精霊である母の血を継ぐ者か、その血を持つ者に許された者だけです。貴女は母が認めた『女神様の愛し子』。だから自動的に、あの『扉』を通り抜ける資格を有しているのですよ」
そう言いながら、ベネディクト君が進んでいくと、それに合わせて徐々に『扉』が開いていく。まるで自動扉のようだ
「入ります。少しだけ違和感があるかもしれませんから、気を付けて下さいね」
「は、はいっ!」
そうして私達は、完全に開いた『扉』の中へと入っていった。
◇◇◇◇
『――ッ!?空気……が……!?』
突然、南国の温かい空気がヒヤリとしたものへと変わった。そして、今まで海だった景色も一変する。
『う……わぁっ!!』
そこはまさに、『海底神殿』の名付けられたそのままの場所だった。
まるでギリシャ神話に出てくる、
どこもかしこも真っ白な大理石で出来たその神殿を、波の揺らぎのような青白い光が幻想的に降り注いでいる。
「……『海底神殿』なのに、水の中ではないのですね?」
「はい。初代大精霊様が、守護する人間達がここを詣でられるように、特殊な結界を張ったのだそうです」
「さ、流石は大精霊様!凄いですね……!」
ベネディクト君は感動している私を見て、ほんの少しだけ口角を上げる。
それから、キョロキョロしている私を床に下すと、先導するように歩き出した。
すると人気のない廊下の少し先を行ったところに、ぽっかりとした空間が広がった。
荘厳な白い大理石の柱がぐるりと円形に立ち並ぶその空間の中心には、色とりどりの珊瑚が群生していて、まるで海中の花畑のようにも見える。
そして、その花畑のような珊瑚礁の上には、白いドレスを身にまとった女性が一人、眠るように横たわっていた。
あれは……ひょっとして……。
「奥方様……?」
私は、その女性のあまりの美しさに息を呑んだ。
華奢で、少女のようにほっそりとした体躯。でも出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。……控えめに言って、絶世の美女……いや、美少女である。とても五人も子供がいるように見えない。下手をすれば、アーウィン様よりも若く見える。流石は大精霊様だ。
白磁の肌。けぶるような白金のまつ毛。閉じられている瞼の下には、多分ウミガメの瞳と同じ、輝くようなサファイアの瞳が隠れているのだろう。
そして、海の白のような不思議な光沢を放つまつ毛と同じ白金の髪は、まるでその身を覆うベールのように、珊瑚の上に広がっている。
色味は全く違うけど、やはりシーヴァー様に似ている。……いや、シーヴァー様が奥方様に似ているのか。
「エレノア嬢、そのウミガメを母上の傍に置いて下さい」
「あ、はいっ!」
私はずっと腕の中に抱いていた奥方様……いや、ウミガメの身体を、そっと奥方様の傍に置く。だが、奥方様もウミガメも、ピクリとも動かない。
「母上……!」
ベネディクト君が、奥方様の本体の傍にひざまずき、囁くように声をかける。と、そのほっそりとした手を取り、自分の額に充てた。
奥方様の真っ白な頬に、うっすらと赤みが帯びる。
公爵様やアーウィン様の話を聞くに、ベネディクト君は一番奥方様の血を濃く受け継いでいるらしい。……だからひょっとしたら、魔力譲渡を行っているのかもしれない。
「なんて、呑気に見ている場合じゃない!!私も奥方様が力を取り戻せるように、頑張らなくちゃ!!」
私は気合一発、ストンとその場に膝を突くと、胸の前で両手を組み、目を閉じた。
そして、『奥方様が元気になりますように……。満開になぁれ!!』と、心の底から女神様に祈りを捧げる。
途端、ポンポンポポポポ……と、軽快なポップ音が周囲に鳴り響く。……うん、見なくても分かる。きっと今目の前には、ぺんぺんとタンポポが大量に爆誕しているに違いない。
「母上!?……母上!!」
ベネディクト君の声に、パッチリと目を開ける。
すると想像通り、目の前にはサンゴ礁を取り囲むように、黄色と白が入り乱れたお花畑が広がっており、その中心で眠っていた奥方様が、その身をゆっくり起こすのが見えた。
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遂に海底神殿にやって来ました!
そして真の奥方様登場!やはりというか、シーヴァー様は母親似だったようです(*´艸`)
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