第335話 爽やかじゃない朝の目覚め

『ふぉっ!!?』


レースのカーテン越しに差し込む柔らかな朝の陽ざし。

それに触発されて意識が緩やかに覚醒する。


そんな平和で心地良い目覚めは、ぼんやりと瞼を開けた目に飛び込んで来た、超絶麗しい寝顔によって、ものの見事に吹っ飛んだ。

そして上記の令嬢らしからぬ叫びは、なんとか心の中で叫ぶにとどめる事に成功した。自分、グッジョブ!


『じ、じゃなくて~~!!なななな、なんでオリヴァー兄様が私の横で寝てるの~!!?』


真っ赤になって、あわあわする。が、そこで脳裏に昨日のやり取りが唐突に蘇ってきた。


『そ、そういえば……。馬車の中でオリヴァー兄様が「今夜は一緒に寝るよ」って言っていた……よね』


それに付随し、昨夜の怒涛のアレコレが蘇ってくる。


……そうだった。昨夜はアリアさんの話を聞いて、怒ったり泣いたりしていたんだ。


そうして、前世の大切な人達への気持ちに一旦区切りがついて……。そうしていつの間にか眠ってしまっていたんだな。


意識が落ちる数秒前……。明日の朝、皆と顔を合わせるのが気まずいなと思っていたんだけど、まさかこうしてベッドの中で早々にご対面する事になるとは……。いやまあ、寝顔でだけどね。


それにしてもオリヴァー兄様。あんな事があったというのに、有言実行で添い寝を強行するとは……。流石は万年番狂いの二つ名を持つ男、その名に恥じぬ、まさに鋼のメンタルだ。


「……ん……」


オリヴァー兄様の口から、吐息の様な声が漏れ出た瞬間、ボフンと全身が真っ赤に染まってしまう。


『兄様ー!!なんなんですか、その色気!!寝顔と相まって破壊力半端ありません!!』


くっ……!ま、まさかオリヴァー兄様。そのけしからん色気を武器に、弱った(?)妹に止めを刺そうと同衾されたのですか!?

だとしたらその目論見は大成功ですよ!朝からHPが大量に削られましたよ!しかもこのままいったら、鼻腔内毛細血管も決壊ですよ!


あああっ!に、兄様!私、逝く時は前世の家族に、「幸せな人生だった」って笑って報告したいんです!決して「兄のご尊顔にやられて失血死しました♡」なんて報告したくないんですー!!


そんな妹のささやかな望みすら叶えようとしないなんて、貴方は鬼ですか!?大天使の皮を被った悪魔ですかね!?そ、そういえば地獄の王様って、元は大天使長だった筈。まさか兄様、元大天使!?


――……ハッ!……ち、違う!落ち着け。落ち着くんだ私……!!


泣き疲れて寝落ちして、更に寝起きだから、脳内がごちゃ混ぜのごった煮状態に……!!いかん……!いかんぞ節子!(←誰?)


私はス―ハ―と深呼吸を繰り返しながら、冷静になるように努めた。


……そうだ。今私がすべき事は、無様に狼狽えた挙句、アホな思考に残ったHPを割く事ではない。

眠れる獅子を起こさず、速やかに戦線離脱する……これだよ!


『寝顔だけで、ここまで私の思考回路をアホにして下さったのだ。寝起きの蕩け顔なんて拝んでしまったら……確実に終わる!踏ん張るんだ私!!』


そうと決まれば……と、極力振動を立てずに、後方に身体をずらそうとする。……ん?あれ?何かがつっかえて……。


首だけで後方を振り返った私の目に、あどけない寝顔が飛び込んできた。


『ふぉおっ!!』


ムンクの叫び再び。


『なななな、なんでセドリックがー!!?』


思わず後ろを振り向いたままの状態でカチンと固まってしまう。


少し癖のある髪が、あどけなくも凛々しさが加わった端正な寝顔にパラリとかかっていて……。オリヴァー兄様同様、けしからん破壊力として私の視覚を襲ってくるではないか!!


ま、まさに、前門の虎後門の狼!!兄弟で殺しに来るとは……。おのれ、卑怯なり!!


わたわたとパニック状態になった私の目に、今度は朝日を受けてキラキラ輝く青銀が飛び込んで来た。


『うきゃーっ!!リリリ、リアムー!!?』


セドリックの後ろに、まるで天使のような透き通った美貌が……っ!!し、しかも無防備な寝顔があどけなくも可愛くて、まさに天使……!!天使だよ!!召される……!このままでは召されてしまう……!!


心臓がドコドコと忙しない。左も右もダメとなったら……はっ、そうだ……!こ、このまま足元に下がって……!


『んん?!』


……あれ?目の錯覚かな?なんか足元のシーツ、盛り上がってませんかね?……って、なんかキラキラ光っているあれは……えええっ!?クライヴ兄様の髪の毛ー!?な、なんでクライヴ兄様、私の足元で寝てるんですか!?ってか全方位完璧じゃないか!!流石は兄様達だよ、死角がない!!


『……ま、まてよ……!?リアムがいるって事は……まさか、ディーさんもどこかに……!?』


身体を動かせない為、目だけキョロキョロさせて周囲を伺う。

だが視界の届く範囲内で、あの燃えるように鮮やかな赤毛はどこにも見つけられなかった。


でもこんな状況なのだから、絶対どこかにディーさんが潜んでいる筈。……はっ!ま、まさか!クライヴ兄様同様、既にベッドの中に潜伏しているとでも言うのか!?


……まあそれなら、クライヴ兄様は髪の毛しか見えないからセーフだし、ベッドの中なら視覚への暴力は無い。……いや待て。そういう問題ではないような……。



『う~ん……』


盛大な脳内パニックの後、思考がちょっとだけ落ち着いてきた。(燃え尽きたとも言う)


八方塞がりになって、身動き一つ取れない状況で考える。


多分だが、彼等は私を心配するあまり、こうして私のベッドに集まって寝ているのだろう。アルバの男なら、それぐらいする。というか、このメンバーなら確実にする。


……うん。心配してくれるのは有難い。有難いんだけど……。帝国に手を出される前に彼らによって息の根を止められそうになっているこの状況は、私的に大いに複雑である。


そんな事をつらつらと考えていたら、不意に凄い勢いで左方向に引っ張られたかと思うと、何かにすっぽりと包まれた。


『ひょえぇっ!!』


包まれたのはオリヴァー兄様の身体で、今現在私は兄様に絶賛抱き締められ中です。


真っ赤になって硬直する中、鼻腔をくすぐる良い匂いが……!兄様ってば、匂いもイケメン!……じゃない!落ち着け!……ん?抱き締められて顔が見えないけど、スヤスヤと寝息が聞こえてくるぞ?


……ひょっとして兄様、無意識……?


ホッとしたのも束の間。私は重要なある事に気が付いた。


『ち、ちょっと待って!……って事は私、兄様が起きるまでこのまま!?』


つまりは、起き抜けの蕩ける甘い笑顔で「おはよう」ってやられちゃうって訳だ。しかも絶対、目覚めのキス付きで!


し、しかも。そんな事になったら私、絶対奇声を発する。下手すれば鼻腔内毛細血管が決壊する!……いや、もし決壊しなくても、それで起きてしまった他の人達の尊い寝起き顔をバッチリ拝んだ挙句、おはようのキスをされまくって、あえなく鼻腔内毛細血管は決壊。最終的には尊死……いや、失血死という最悪のパターンに……!!


『だ、だれか……!誰か助けてー!!』


自分が憤死する予感に、思わず心の中でヘルプを叫んだ次の瞬間、寝室のドアがバーンと勢いよく開け放たれた。



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エ 「ひょっとしてオリヴァー兄様、寝ぼけている?」

影 (ヾノ・∀・`)ナイナイ


影達は、今もひっそりお仕事継続中w


そして本日、電子書店(ブックウォーカー、シーモア、ピッコマ)にて、先行配信が始まります!

そして2巻の内容ですが、Web小説と書籍とで、一部内容が変わっている部分があります。

なので、タイトルに【web版】と明記させて頂きました。

勿論、お話の流れ自体は基本的に変わりませんので、そこはご安心くださいませ(^O^)/

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